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文明の濫觴  作者: 烏木
第4章 冬篭り
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第12話 色々見つける

文昭と話して俺の船舶用エンジンの認識が正しくなかったのが分かった。


モデルにしたのが出力が二馬力で重量は四十キログラムぐらいの耕耘機のエンジン。これは合っていた。

重量だけなら軽自動車のエンジンと似たような物だが軽自動車の出力は下手すると五十馬力以上あるからパワーウェイトレシオは段違いだがそれは言わないのがお約束というもの。


しかし、高出力化高トルク化するには排気量を桁違いに大きくせざるを得ず、排水量が数十トンある焼玉船で使われていた百数十馬力の焼玉エンジンの重量はトン単位に及ぶらしく鉄資源的に無理がある。何とか掻き集めたとしても何トンもの鉄を使って「動きませんでした」はさすがに許されないので、耕耘機サイズで実績を積む必要がある。


それに三十馬力ぐらいになると始動に圧縮空気でも使わないと回らないという話もあるのでそういう意味でも無理がある。


そもそも船舶用ぐらい大きくなると手動や電動セルで始動する事が難しくなるので圧縮空気のボンベが積んであってそれで始動するのは特殊な事ではなく、電池は海水に浸かると爆発性のある水素や毒性や腐食性の強い塩素が発生するので圧縮空気の方がまだ安全という考え方もあるのだそうだ。船舶用エンジン恐るべし。

船外機(モーターボートとかのエンジンとプロペラと舵が一体になって船尾にあるアレ)とか小型船とかに多いらしいが、手動や電動セルで始動できる物ももちろんある。


焼玉エンジンでも十数馬力ぐらいまでなら人力で始動できるし、雪風サイズの木造船に三.五馬力の焼玉エンジンを載せて五ノット出る船は実在するそうなので試作エンジンで船を動かすのは決して荒唐無稽という訳でもないらしい。


仮に船が動かなくても、作ったエンジンは耕耘機にしても良いし、塩田のポンプの動力にしても良いから無駄にもならない。

これらを説明されたら「もっとパワフルなエンジンにしろや」とは言えない。


それと船に積むとなるとエンジン操作や重量などの関係で船外機という訳にはいかないのでプロペラシャフトを船尾に通すシャフト船になるだろうから水密のノウハウも必要になってくる。

模型とかラジコンだとマーガリンやグリスなんかを詰めているが、実際の船舶でも基本原理は似たようなものなのだそうだ。それと染み出てくる水を汲み上げるポンプも必要だとか……海水ポンプ……

最悪は柄杓で掬ってという手もあるらしい。


匠とは新造船の大きさについて相談をしたが、雪風より一回り大きいタイプを一押しにする事になった。

全長十メートル、全幅二.五メートル、排水量は計算上は八トン……ディーゼルエンジンとか積めたらそれぐらいはいける筈だが推進力次第……積載量は二トン行きたいなって感じの奴。


案としては雪風と同等の七メートル級、一回り大きい十メートル級、二回り大きい十四メートル級の三パターンあった。ただし相似形で大きくするのではなく全幅は十メートル級は二.五メートル、十四メートル級は三メートルとした。


雪風は荷役の利便性と安定性に重きを置いた結果全幅を二メートルにしたため、全長を全幅で割った細長比が三.五と若干太めな形をしている。小型の実用船だと細長比が四前後の物も多いので雪風が取り立てて太い訳ではないが多少は細長比を高めた。


十メートルにしたのは色々事情はあるが、エンジンマウントが全幅二メートルだとちょっとキツイ感じがしたのと、造ったりメンテする場所と保管する場所が十メートルでギリって感じだったのと、もしエンジンが使い物にならなかった時に持て余さない大きさというのが主な理由。これを超える船はもう少し港湾設備を整えてからの方が良いだろうという事に。


■■■

新造船(仮称:春風)と雪風の帆船への改修の設計をしたら施工図などは匠に丸投げした。好きで丸投げした訳でも勝手に丸投げした訳でもなく、横井戸の施工方法を取りまとめるのと留山備蓄基地の用地選定も放ったらかしにできないので相談の上でそうした。そういう訳で最近は留山詣での日々をおくっている。


伊達くんをバディにして留山の山頂近辺をオリジナル・セブンで試掘しているが一筋縄ではいかない。当り前の話だが、山頂に他所から土壌はやってこないから直ぐに岩盤にぶち当たる。山頂付近で地下室作って貯蔵庫をと思っていたんだけどあまりに掘れない場合は岩盤を削るかそれとも半地下や高床の貯蔵庫にするとかも視野に入れねば……


「ここらの岩って何岩(なにがん)になるんですかねぇ」

「日本の山は火山以外なら花崗岩の可能性が高いんだけど、留山はろう石があったから流紋岩やデイサイトの可能性もあるし……正直に言うと見てみないと分かんない。まぁ一つ二つ見たって山体全体がどうなっているかは分からんけどね……けど何で?石に目覚めたとか?」

「石に目覚めるって何ですか……ただ、岩に当たったときの手ごたえが所々違うっていうか……」

「んじゃあちょっと掘ってみるか?岩が違うのか形状が違うのか。何で手ごたえが違うのかはっきりさせたら?それに目視したらある程度は岩の種類も分かると思うけど」

「いやそこまで知りたいわけじゃ」

「何か疑問があったら解消するってのは大事だよ。比較的浅い所で当たった所を何箇所か掘ってみなよ」


伊達くんが穴掘りをしている間に海を観察する。

風景の中から何かを探すときは視線を流すのではなく細かいエリアに分けて各エリアごとに視線を止めて確認し、視線移動は水平方向に動かしていき端までいったらエリアを一つ上げて九十九折(つづらおり)のように走査する。

これが見落としが少なく結果として効率が良い方法だと先達と文昭の親父さんの双方から教えてもらったやり方。獲物と敵兵という違いはあるが、風景の中から何かを見つけるという目的に対して最適化された方法は似たようなものに落ち着くようだ。


ん?あれは潮流に逆らってないか?

双眼鏡を取り出して覗く。六×三〇なのでさほど大きくは見えないが肉眼よりはマシというもの。

あれかな?……ん?……跳ねた!?

うん。船は飛び跳ねたりしない。ありゃイルカだわ。


「何かありました?」

「おう。イルカ発見……見るかい?」

「んじゃちょっとだけ」


双眼鏡をバトンタッチして今度は伊達くんが掘った穴の底の岩を調べる。

こいつはちょっと硬いが泥岩っぽいな……剥離性があったら頁岩(けつがん)だけど。どれだけ埋まってるかは分からないけど、利用できるかもしれないからサンプルは採っておきたいな。


「居た居たタリホー!……あっ!ジャンプしてる。野生でもジャンプするんすね」

「何だと思って……まぁ宙返りとかの芸は仕込んだり水族館生まれとかじゃないとしないだろうけど、ジャンプぐらいなら元々もってる生態の範囲だよ」

「うーん……一応分かるけど小さいっすね。もうちょっとズームできないんすか」

「デジカムなら二百倍ぐらいあるけどそこまで上げると三脚が要るよ。手持ちの双眼鏡だと汎用の六倍派と限界に挑む八倍派、粒子が粗くてもデジタルズームは軽いから良いじゃん派と軽いし嵩張らないから単眼鏡で充分派といった具合に俺らはバラバラでね。俺は汎用六倍派」

「……何でみんな持ってるんです?」

「猟師の標準装備って言われたから持ってる。獲物と間違って禁猟のを撃ったりしたら拙いからとか色々理由はあるんだよ」

「そうなんすか」


イルカの群れはもういいのか、あっちこっちに視線を向けだしたので、西斜面に向かって泥岩の露頭が無いか探す。見つけられたら厚みが分かるかもしれないしサンプルも取りやすい。

頁岩になっていたら屋根葺きや舗装に使えるし、泥岩なら石材としてや砥石に使えるかもしれない。もし砥石として使えるなら大変ありがたい。

現代の砥石は極一部の例外を除いて人造砥石になっている。アルミナなどの硬い粉末を研磨剤として、陶器のような焼き物やコンクリのような結着物の形で研磨剤を固めて作っている。

人造砥石が天然に取って替わったのは天然の砥石資源が枯渇したからというのが大きな理由の一つ。人類は古代から砥石を使ってきたのでさすがに無くなったといったところか。

貴重品過ぎて天然の砥石は下手すると一丁が数百万とかの値が付くこともあって、俺は人造砥石しか使った事はない。匠のお祖父さん(勝爺)は持っていたけど怖くて触れなかった。「昔はそんな高価な物じゃなかったんだがな」とは勝爺の言だが、品薄になるとプレミア価格になるのは止むを得ない事。


「ノリさん!ノリさん!何か変な物が……」

「どうした?」

「千尋浜の沖に……」


鮫か鯨でも出たのか?


「何か船っぽい物が流れてる」


な、なんだってー!


「人は見えるか!?」

「いえ……船っぽい形の流木かも」

「ちょっと見せて」


…………っ!あった。

確かに人影は見当たらないけどあれは人工物だと思う。

両端が船首や船尾のように切り上がった造形といい、舷側のように平らになっていることといい、岸本さんが「流木とかじゃないって雰囲気があった」と言ったのがよく分かる形状をしている。

しまった。こんな事ならデジカム持って来るんだった。


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