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文明の濫觴  作者: 烏木
第3章 難儀な人たち
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第14話 労働需給

祭りの後は寂しさもあるけど、日常に戻さないといけない。

これからは冬に備えて防寒具やストーブなどの暖房機器を(こしら)えたり、食糧や薪炭や飼料の備蓄をしたりとやるべき事は色々とある。


今日は、お爺さんは山に柴刈りにではないが恵森に枝打ちに入る。山仕事(恵森は山じゃないけど)は色々危険があり、一人だと怪我一つが命に関わる場合もあるから原則として単独ではやらない。

今日のバディは将司なので、作業は基本的に俺が担当し、将司は不測の事態に備えて周辺監視という布陣。将司は細かい作業は得意なんだけど、土木作業に関しては結構下手なのよ。


来年伐採する予定の第二区画に通路を作っていて、邪魔になる枝を取っ払ってついでに燃料にするという一石二鳥作戦。

低い所にある枝は鉈で叩き切り、高い所の枝は槍の穂先をノコギリに換えた高枝切りでゴリゴリと切り落としていく。

蔓や蔦などのつる性の植物も目に付いた物は切り払い、ついでと言ってはなんだがこちらも持って帰る。結構強度があるから紐代わりにもなる。


「早天のお嬢さん達だがどう扱う?」

枝打ちした枝をソリに括り付けていたら将司が切り出した。珍しく将司から誘ってきたから何かあるんだろうと思っていたがこれだったか。


「『働かざる者食うべからず』これは最初に言ってある筈だ。そろそろ一ヶ月になるんだから試用期間終了って事で引導を渡しても悪かないとは思うけど……でもそうじゃないんだろ」

「まあな」

切り捨てるのは簡単だけど、どちらかと言えば下策だしな。

積極的な害を及ぼすなら排除も止む無しだが、現状では収支が赤字って感じで、その赤字も目くじらを立てる程の赤字でもないってところが面倒っちゃ面倒。


「『働かせなあかん』ってところやね……中三の時に体育祭の準備をサボってる下級生を放置してたら先生に『あいつらを働かせるのがお前の仕事じゃ!お前が働いて取り戻せば良いって話じゃねぇ!』ってどつかれた事があったけどそれと同じ事やな……あんときゃ理不尽なって思ったけど、概ね正しい話だと思うわ」

「どう働かす?」

「していい事といけない事がよく分からないから二の足を踏んでいるって事ならそれを提示すればいいんだろうけど……する事自体が分かってない分かろうともしないって感じだから……個別具体的にクリティカルでない部分の()()指示を出すのが手っ取り早い気がする。一人ずつ指示を出すのが面倒なら班分けでもして班毎に出してもいいかな。彼女らが自主的に()()してくれたり、増してや開拓()()に携わってくれるってのは現状だと望み薄だと思う。無能な働き者じゃないだけマシだと考えよう」

榊原くん達は当初からどうやって貢献するかって視点があって積極的に「やります」「教えてください」って感じだったんだよね。凄く()()()子達だと実感している。


「そんな感じか」

「俺がやるならこうするかなってだけだからな。お前や雪月花の方がもっと良い案を出せるって期待してるぞ……よし。んじゃ戻ろうか」

「おう」


■■■

匠と佐智恵と共に黒浜で鋳物砂と砂鉄の補充をしている。鋳物の鋳型を作るのに珪砂と呼ばれる石英が中心となった砂が向くのだが、これは花崗岩の風化でできる事が多い。そして真砂砂鉄も磁鉄鉱系の花崗岩の風化で生じる。

自然の比重選鉱で真砂砂鉄は大川の河口寄りに多く珪砂は星降湾寄りに多く堆積しているので両方とも得られる。持って帰ってから更に選鉱は必要だけど今の所はかなり純度の高い部分を掘れている。


目的はストーブと柵。

ストーブは人間用と鶏舎用の物を計画している。

ニワトリは出自が東南アジアの熱帯地方なので実は低温には弱い。冬の寒さが分からないので念の為に用意しておきたい。要らなかったらそれはそれだが逆は困る。

ヤギは耐寒耐暑能力が高いので基本的には逃げないように囲うだけですむけど、ニワトリはそうもいかないし肉食獣からの防御もより多く必要。


砂鉄が詰まった土嚢と珪砂が詰まった土嚢を満載にしたリヤカー擬きの荷車を曳いていると、桶に入れた鹹水――塩分濃度を上げた海水――と漁果を運んでいる安藤岸本ペアと出合った。


「お疲れ様……今日の塩梅は?」

「お疲れ様っす……今日は簀立てを回ったので、大物色々とイワシが多数っす」

「別の班」

製塩班と水産加工班は分けた方が良いって提案ね。何故か分かってしまう。

これまでは製塩の片手間だったけど今後はそうはいかないか。


「なるほどね……ポンプの具合はどう?」

「五号は六十点。シール漏れ」

「その他は」

「基本的には良好……まとめる」

岸本さんは研究者向きの性格というか地道なデータ集めや検証が上手で重宝している。今は海水・鹹水用の遠心ポンプの試作機を試してもらっている。


遠心ポンプというのは、遠心力で圧送するポンプの事で、例えば鍋の水をグルグル回すと真ん中が凹んでふちの方が盛り上がるのと同じで、容器内で流体を回転させると遠心力で外縁部の圧力が高くなるのでそれを利用して流体を送り込む仕組み。


原理は分かっていてもそれを実用的な形にするには試行錯誤が付き纏う。

試作機として鉄製の使い捨て(再資源化はするけど)のポンプを何種類も作っている。一つ前の四号機でようやく形が見えてきたので鋭意改良中。

実用に足る物ができたら百円玉や五十円玉を鋳潰して白銅で作る予定。

白銅製にしてからもまだまだ試行錯誤が続くと思うけど……


塩水ポンプを用意するのは流下式枝条架塩田の実用化の為。

流下盤へはともかく枝条架に散布するには六~七メートルは揚げないといけないので桶で持って上がるなんて大変すぎる。二階建ての軒ぐらいの高さだから……三階まで持って上がるって感じなので、これを一日中なんてやってられない。そこで手回しもしくは足漕ぎのポンプで揚げようという考え。

この障壁がなければ最初から流下式枝条架塩田にしていた。


海から流下盤までと循環漕から枝条架の二つは最低限で、できれば鹹水漕から汲み上げる合計三つのポンプが欲しいので、手持ちの硬貨の量と睨めっこしながらポンプ部品の案を色々と練っている。


「また畑広げるんすか?」

畑の向こうで草刈りをしている一団を見て安藤くんが聞いてきた。


「俺は聞いてないけど、冬場の飼料用に刈り込んでるんじゃないかな?広げるのかも知れないけど」

「うげぇ……また地獄の石拾いアーンド根っ子取り?」

「多分モグちゃん号は使えないから潅木の根っ子は掘って吊り三脚だな」

「……勘弁してくださいよ。お腹一杯ですよ」

「別にそうなると決まった訳でもないし、二度目なら少しは上手にできるって」

「やな二度目ですね」


サイズ(大鎌)でテンポ良く刈っているのは悠輝(秋川父)さんで、ちょっとぎこちないのは……奈緒美か?悠輝さんの刈った草は綺麗に並んでいるが奈緒美のはちょっと千鳥っぽいな。悠輝さんに後でやり方を教えてもらおう。


刈り草は八人ぐらいが荷車に積んでいっているが……あれは早天のお嬢さん達じゃないか?


■■■

岸本さんから具申があった水産加工班について将司と雪月花に諮った。

「簀立てで結構な量の漁獲がある。製塩班――安藤岸本ペア――の片手間でできる量を超えているから漁獲はともかくとして加工が間に合わない。人手の手配が必要だと思う」

「何に加工するのが良い」

「保存食としての干物、照明用の油としての魚油と副産物になるのか肥料や飼料としての魚粉が良いかと。冬場の簀立ては危険があるともいうから次か次の次の大潮までにするとして、それまでの時限の労務だけど……どうだろう」

「漁獲と加工のそれぞれ初期指導はやれる?」

「やれるだけやってみる」

「なら打診してみるってのはどう?」

「それがよかろう」


これで半月か一ヶ月程度だけど働き口を作れたかな?

何で?って思わなくも無いけど……

それからこれが終わったらどうするってのもあるけど、何とかするしかない。

第3章は終了です。

例によって幕間(閑話)を挟んで第4章冬篭りになります。

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