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文明の濫觴  作者: 烏木
第3章 難儀な人たち
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第11話 移動

今晩までにまとめないといけないのが牧場の配置と必要資材の算出……とは言ってもキャンプ場に向かう前に粗方作っていたので確定情報に基づいて必要な調整を加えるって事。


ただ、誤算だったのが品種の多さとオスの数。

仕入れ担当が何を考えていたのか知らないが、普通はこんなにオスは必要無いというかメスが少な過ぎるというか……畜産と見世物の違いかも知れないけど。

オス同士を一緒にしておくとケンカして怪我をしたりする危険があり、隔離などの予防策を実施しておかないと面倒な事になる可能性もあるのでこの部分の改定が主な調整点。


オスの隔離って凄く重要なのよ。

オス同士もだけどメスとも隔離しないと発情期が怖い。

水族館で飼育されていたオスのジュゴンがメスのいるプールに向かって陸を這って行っては動けなくなり、飼育員にスケベだの何だの言われながら何度も元のプールに戻されたなんて話もあって、発情期のオスは少々の障害を物ともせず生存本能を上回り文字通り命懸けで突き進ませる衝動があるのだから生半可な事をすると手痛いしっぺ返しを喰らう。


修正案を美野里と匠に見てもらっていたら奈緒美がやたらと建築資材の残量を聞いてくる。しかし匠に「杉の甲付(こうづき)板目(いため)はちゃんと確保してある」と言われたら去っていった。杉の甲付の板目ってのは発酵桶に向く木材なので匠の発言は発酵桶の材料は取り置きしてあるから心配するなって事。

そう言われて安心して去っていく奈緒美も奈緒美だけどね。


その後も幾つか詰めの話をして牧場の緑(まきばのみどり)計画の暫定案については匠と美野里からOKを貰った。有機の力が使える有畜農業にできるのは心強い。

これを将司に投げとけば、どれ位のボールが投げ返されてくるかは知らないけど何とかなるだろう。


後は鳥篭と飼料と食糧の積み込みと燃料の確認をしたら出発の準備は整う。

百食以上積み込まないといけないので準備含めて結構大変。キャンプ場に残っている非常食はあるだろうけど、無い物として準備しておかないと怖いのよ。


■■■

今回は家畜家禽の移動を伴うので雪月花に換わって美野里が参加する。

道中では念の為休憩所に十食分の食糧を詰めた箱を木の枝に吊って置いていく。

四十分ぐらいで休憩所に着くので吊るす作業を行う。帰路だともっと頻繁に目印を作っていたのでそれに比べれば時間は掛からないが面倒ではある。だが保険として打てる手は打っておきたい。

ニワトリの状況次第ではモグちゃん号を先行させる必要がでるかも知れないし、ヤギを連れてだと歩きにならざるを得ないので荷物は少ない方が良い。


キャンプ場までの道で分かり難い箇所は辰口近辺の裾野から峠の尾崎台を越えて辰口追分までの山道ぐらいで、後は山沿い川沿いなので道に迷うリスクは少ない。

天気も良く道に迷う事もなく、昼過ぎにはキャンプ場に到着した。


今回の往復で恐らく燃料が無くなるので、次に行くとしたらFAMEの再生産ができるまでは歩きしかない。FAME生産のボトルネックはメタノール。現代だと化学合成できるので安価に大量に得られるけど、ここでは少ししか取れない木酢液からの蒸留なんで貴重品といえば貴重品。

できるだけ今回で済ませたいものだ。無理だろうけど……


■■■

「ヤギは私とナオでやっとくからノリさんは白レグとコーニッシュをお願い。ロードとニューハンプシャーは美結っちが、コーチンは春っちがやってね」

美野里さん。指示を出すのは良いけどいきなり美結っち春っち呼ばわりですか?美野里と奈緒美は直ぐにあだ名っぽい呼び方をするけど距離無しにも程がありませんか?これまで特に問題にはなっていないけどさぁ……

そう言えば俺との初顔合わせの時に義くんとかヨッシーとか色々挙げやがったな。「家族にはノリと呼ばれている」って佐智恵が言ってからノリさんになったんだっけ。義は東雲家の通字(とおりじ)っぽくて親父も兄貴も義がついているから親族内で義に絡めた呼ばれ方はしないしされない。


さて取り留めの無い話は置いといて、鶏小屋に入ってニワトリちゃんを鳥篭に入れていきましょう。


といってもニワトリを捕まえるのって結構コツがいるんだ。

闇雲に追って行ってもチョコマカと逃げられるし、恐竜の子孫なだけあって飛び掛ってきて(くちばし)や爪で攻撃もしてくる。特に注意しないといけないのが蹴爪(けづめ)とか距爪(きょそう)と呼ばれるオスの足の後ろ側にはえている爪で、うっかりするとこいつでざっくりやられる事がある。


学校などでニワトリやウサギを飼う事もあるけど、そのニワトリは矮鶏(チャボ)という小型の観賞用品種で養鶏場などで飼っているニワトリとは大きさも気性も異なるものが多い。理由は普通のニワトリだと小学生ぐらいの子供だと飛び掛って大怪我をさせてしまう事があるから。


養鶏場などでは蹴爪を切ったり、デビークといってヒヨコの内に嘴の先端を切ったりする事がある。

デビークは他のニワトリを傷付けないとか餌を散らかさないとかの利点もあって日本だと実施する所が圧倒的に多いけど動物愛護団体()の強いところだとデビークが禁止だったりする。ここらはどこまでが通常でどこからが動物虐待になるのかの線引きの話になる。


ここのニワトリはデビークもされていなけりゃ蹴爪も切られていない。

蹴爪が伸び過ぎるとニワトリ自身が歩いたり座ったりがし難くなるので美浦に着いたら蹴爪は切ってやらないとね。


フッフッフ……勝負だヒ○ちゃん

格闘する事三十分。俺のノルマの十六羽全てを捕まえた。ゼイゼイ……

最後は三人がかりで追い込んで春馬くんがラストの名古屋種を捕まえてミッションコンプリート。


晩御飯までの間に山道具が欲しいと言っていた 長岡さんを訪ねて二柄の鉈を贈呈して使い方のレクチャーをしてきた。下手な使い方をして怪我されると寝覚めが悪いし、突貫で造ってくれた佐智恵にも悪い。

それと秋川さんが耕作していた畑も頼んでおいた。

後は、来年以降に稲作をする気があるかどうか。


■■■

翌朝、半年間サバイバルしてきたキャンプ場を後にする七人。

どんな感慨があるかは分からないが、できれば今後に希望を見出して欲しい。


ニワトリに餌と水をあげてからブルーシートを敷いた荷台に載せる。

ヤギは適当に道草食っていれば大丈夫だが、ニワトリはそうはいかないので朝晩に餌と水をあげないといけない。

ニワトリを積んだモグちゃん号が先導でその後をヤギを引いた面々が続き、最後は秋川さんのワンボックスが勤める。


日が傾く前に野営地に入って、杭を打ってヤギを繋ぎ、ニワトリに餌と水をあげ、テントを張って、食事をし、周りに篝火を焚いて就寝。

不寝番は文昭と俺が二交代制で担う。


徒歩でヤギを連れているので足が遅いのと、宿営の用意と片付けがあるので一日で二十キロメートルのペースで進んでいく。


上の口、下の口、辰口追分、裾野と野営して五日かけて全員無事美浦に到着した。

ワンボックスで里川の渡河は難しかったので仮復旧した橋の留山側に留め置いてもらったけど、ヤギとニワトリは仮設牧場に放牧して一安心といったところ。

これで肉食獣からある程度護れる。


■■■

美浦の人口はこれで四十二人になる。

台風から始まった一連の騒動に幕となって欲しいものだ。


窯場との交通もできる様になったので剛史さんが窯の点検をしていて概ね問題はなさそうという朗報もあった。

収穫祭での悪戯に使う予定の陶器が焼きあがったら、歓迎会と復旧祭を兼ねて収穫祭を実施する方向で調整している。

元々は台風が来た日の数日後に行う予定だったので一ヶ月近く遅くなってしまうけど、数少ない娯楽だから節目節目に企画しないとね。


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