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文明の濫觴  作者: 烏木
第3章 難儀な人たち
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第10話 集団意思の決め方

住環境の現状と青写真について時々質問を交えつつ聴いていた白石さんが難しい顔をして考え込んだ後に意を決したように質問してきた。


「色々と見せてもらい聞かせてもらってですが、早々に生活基盤を作られた事に驚愕しています。仰られた計画も絵に描いた餅ではなく実現性が十分にある物だという事も理解できます。ここに住めるのでしたら大変ありがたいお話だと思います。ですが二つ質問させてください。初めにですが、私達に何を求めておられますか?私達がここで暮らす事によるあなた達のメリットは何でしょうか?……正直なところあなた達だけで十二分に暮らしていける様に思えてなりません」


おぉ……どこかの誰かさん達とは大違いだ。

二つと言いつつここで切るという事は回答次第では二つ目の質問内容が変わるのかな?


「そうですね……幾つかありますが、一つ目は労働力という点です。現状だと幼稚園児にも手伝ってもらっているぐらい人手が足りていない状態です。それと子供を除いて二十人で十五町歩の田畑をまわすのはかなりギリギリだと考えています。田畑が見れる人は希少です。二つ目としては家畜家禽です。ここなら飼料も十分手配できると思っていますが、世話ができる人という点も捨てがたい魅力があります」


それと、口には出せないけどお嬢様方を何とかしてくれる事も少し期待している。


「……手が足りないというのは手を広げすぎなだけで、ここだけで考えれば十二ヘクタールも田んぼは要らないのでは?自分達が食べるだけなら三分の一でも十分に思えてなりません」


「一反で一人が食べていけるとすれば十二町歩で百二十人、要は全員が食べられる分というのが当初計画の基調でして……状況は変わりましたが色々不安材料もありますから年単位での備蓄ができるようにとそのままにしています。それと……これは自分達の精神安定上の話や自己満足のたぐいなのですが……無条件ではありませんが手を携え合えるならそれに越したことは無いと思っています」


「ほう……無条件ではないとするとその条件というのは?」


「端的に言えば自分達に害をもたらさないといったところです。例え目に見えるメリットが無くてもデメリットが無いなら十分です」


「私達は合格という事でいいのかな?ワンゲル部さん達も?」


「食い扶持分以上の成果を出してくれそうですのでお誘いしました」

後者についてはノーコメント


「……この件はこれで良いです。もう一つの質問ですが、お伺いした計画や役割はどの様にして決めているのでしょうか。皆が力を合わせないとできない事がこれまでもあったでしょうしこれからもありますが、どういう方法で意思一致をはかっていますか」


「緊急事態だと芹沢が指揮をとります。大して影響がない事柄は各自が適当に好き勝手やっていますが、力を合わせる必要があったりみんなへの影響が大きい物については基本的には美浦総会という会合で決めます。会合に参加するしないは自由ですが今のところ子供たちが出たり出なかったりといった感じですね」


「その会合の多数決で決めるのですか」


「いいえ……可能なら全会一致を目指しますが最終的には芹沢の決裁です。そこに人数の多寡は関係ありません。芹沢が良いと判断した方法が採用されます」


「え?それだと会合の意味がないんじゃ」


「いえいえ。議論して知恵や知識を出し合って出てきた様々な案のメリット・デメリットなどを皆で共有し、それらを改善して最適を見つけ出そうとする事自体が大事なんです。基本的には多数意見が採用されますが、必ずしも多数意見が採用される訳ではありませんし、一つに絞らなければならない法もありません」


「うーん……それって非民主的じゃない?」


「え?美浦総会を議会、芹沢を大統領や内閣と考えたら大概の民主国家と構造的にはほとんど変わりませんよ。日本でも法律は立法機関の国会が作りますが実施に当たっては行政府の政省令の方が肝ですし、法令解釈については原則非公開の通達が幅を利かせていますから……それと多数決をするには参加者の全員が等しい知識と覚悟がないと成立しません。多数決の結果に従って起きた事の責任は参加者全員の責任なので、多数決に参加するには責任を取る覚悟を持ってもらう必要があります。第一決裁者が非合理な決裁ばかりしていたら何らかの責任を取ってもらうだけです。決裁者と独裁者は別物です」


「………………」


「まぁ一度参加してもらった方が早いと思います。明日行う予定ですので是非ご参加ください。議題は皆さんが来てくれる場合に必要となる事柄です。雑談交じりの会合ですのでお気軽にどうぞ」


『十月十七日十時 受け入れで必要となる事柄 芹』

そう書かれた広間の掲示板を指し示す。


■■■

美浦の開拓者二十五名に白石さんと秋川さん、ワンゲル部から三名とワンゲル部と行動を共にしていたバイトスタッフ二名の総勢三十二名が広間に集っている。

五名の出席は白石さんが出るように調整した結果のようだ。


「それでは美浦総会をはじめます。今回のお題は『白石さん本田さん黒岩さん秋川さん一家が来てくれるとした場合に美浦で準備しておく事』です。先ずは状況説明からはじめます。雪月花」


将司に指名された雪月花が移住予定者の構成や状況などの客観的事実を述べて、白石さん秋川さんそれと斥候三人衆が必要に応じて補足をする事で前提となる背景の情報共有をしていく。


「それじゃ気になる事や思い付いた事がある人」


「水回りとかの生活施設の数は足りる?」

「寝具や食器はどうする?」

「要るようになる建物はあるんか……ん?鶏小屋とヤギ小屋?なら木工所(竹木屋)の再建を急がんとあかんか」

「アレルギーがあるか分かりますか?」

でてくる意見質問に答えられる者が答え、課題は課題で整理していくと大所の課題が二つ上がってくる。一つは鶏小屋とヤギ小屋というか牧場関係で、もう一つは移動方法と日程。


予め振っていたので牧場関係は美野里に叩き台を出してもらう。

「ノリさん。ニワトリの品種と羽数を再確認」


「品種は秋川美結さんの見立てでは、卵用の白色レグホーン、卵肉兼用のロードアイランドレッド、ニューハンプシャー、名古屋種、肉用の白色コーニッシュの五品種で、羽数は品種毎にオスメスが四羽なので四十羽」


「どの程度まで殖やすかに因るけど、肉と卵を継続的に順調に採ろうとすると常時二百羽程度になるかな……飼料が年間七トン半ぐらい要るからどこまで増やすかは農地と要相談ってところかな?二百羽だったら単純に考えれば十メートル四方だけど五品種だからもうチョイ要るって辺りで収まるには収まるので土地的には特に問題は無いと思う……ナオ、デントコーンの反収ってどれぐらいだっけ」


「今年の成績は二トンぐらい。子実はだいたい三割だから六百キログラムかな」


「本当は飼料の半分はデントにしたいけど……四分の一程度は欲しいんだよね……三反の作付ってできる?」


「美野里さん。先走らない。先ずは基本条件の確認から」

話が広がり過ぎない様に雪月花が軌道修正を入れる。


「はーい……品種とオスメスは分けないと面倒だから最低でも十区画必要。一区画は十平米ぐらいあったら良いな……もう少し狭くてもなんとかなるけど。それと殖やすなら孵卵器(インキュベーター)が有った方が良い」


鶏小屋の設置場所を振られたので条件や希望を聞いておく。

ゲージ飼育は厳しいので平飼いになるので柵や天井網なども要るか……美野里と匠に相談しながらプランを練る事になるな。


次にヤギだが乳用種の日本ザーネン(シバヤギの血統が入っている可能性あり)と肉と革の兼用のブラック・ベンガルの二品種で、それぞれ子供も含めてオス四頭メス三頭の計十四頭。


「牧草地は一頭あたり十二から十五メートル四方ぐらいが目安だから……五十メートル四方ぐらいかな?それとヤギは芸術的逃亡者と言われる事もあるから小屋とか柵については注文があるよ」


詳細は今聞く話でもないので、鶏小屋と併せて相談の上で改めて総会に諮る旨を伝える。


脱線した話としては、源次郎さんが子供の頃に飼っていたとかあんまり美味しくは無かったという昔話をして、美野里が「世界で一番美味いって言う人もいる滋養満点の食材だよ」と反論していた。

どんな食材も調理次第で美味くも不味くもなるし、味覚や好みは食文化の側面もあるからアレだけど、美野里に案内されていったヤギ料理店(多分上級者向けのお店だと思う)のヤギ料理は俺には厳しかった。特にチーイリチーとかいう料理は初めてヤギを食べる(人間)にはハードルが高すぎた。

美野里は「おばちゃん凄く美味しい」ってニコニコ食べてたけど……気を良くした店主がサービスで追加してくれたけど……


最後の課題の移動方法と日程についてゲージなどの準備物や移動中の食糧やらを話し合って今回の美浦総会は閉会になった。


そうそう。美浦総会の中で白石さんと秋川さんは来てくれる旨の意思表明をしてくれた。


■■■

美浦総会の感想を聞いたら半ば呆れ顔の白石さんに「よくあれだけ話を広げてその上ちゃんと畳めるって感心します」と言われた。


「あれだけ上手くまとめられるのは芹沢だけだと思ってます。誰も芹沢が仕切るのに異論を唱えない所以(ゆえん)です」


「異議なしだわ」


「明日の朝に発ちますので何かありましたら声を掛けてください」


さて、アテンドから開放されたら美浦総会で割り振られた諸々に手を付けますか。


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