第4話【運動部】
「杉森さん。分からないんですか?それなら分からないと・・・」
「え?あ、えーと、それは尊敬の助動詞『る』の連用形です」
「はい、良いです」
あてられてたのか、気づかなかった。
古典が得意で良かった。
あたしはまたゆっくりとペンを走らせる。
幸太に顔を見られないようにするために、横側の髪の毛で隠す。
だって今きっと顔赤いもん・・・・
けど、惹かれてるとはいえ好きとまではいかないよね?
だってあたしはずっと先輩のことが好きで・・・今でも好きなはずだもん。
松川くんへの気持ちは恋ではないかもしれない。
面白くて楽しいっていうだけで、好きなのかどうかなんて全然分からない。
・・・でも、思っちゃうんだ。
部活でしか会えなくて、しかも見てるだけで学校で会うのだってなかなかないことなんだ。
だから毎日ある数学でたくさん話ができて、数学のときじゃなくても同じクラスにいるってことだけで気持ちは膨らむ。
先輩の優しさも松川くんの面白さも、あたしにとっては宝物。
先輩の笑顔が忘れられない。
けど、それがどんどん薄れていっていつか松川くんの笑顔で埋め尽くされてしまうのが怖いんだ・・・・。
あたしなんでこんなに優柔不断なんだろう。
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5月に入るとますます部活に精が出る。
どの部活も、5月の初旬・中旬あたりからインターハイが始まるんだ。
あたしたちは2年だからまだだけど、3年の先輩たちはこれで負けたら引退してしまう。
3年は全部で4人。
レフト梓部長、裏レフト千恵副部長、ライト友美先輩、センターゆか先輩。
そこにセンターの彩ちゃん、セッター亜希子、そしてリベロのあたしの7人が正レギュラー。
あたしは小学校からバレーをやってて、梓先輩と千恵先輩は同じジュニアチームだった。
先輩たちがいなくなるのはすごく嫌だ。
そりゃ自分が先輩になったらもうコート整備とかしなくてすむけど、でもやっぱり寂しい。
それに自分の代で勝てるか分からない。
だって、自分の代になったらあたしがエースになる。
リベロの前裏エースやってたことや1年生大会でエースやったことを考えると、あたしになる。
自信がない・・・。
先輩のことも好きだ。
だから、あたしは後ろでリベロとして拾って拾って拾いまくって少しでも亜希子につないで先輩に打たせたいんだ。
あたしはただのレシーバーじゃない。
リベロ。
だから先輩のために相手のエースの球を拾う。
勝つために。
「先輩、コート残しますよね?」
「うん。みんな自主練してくからね」
練習終了後も、さらに練習をする。
残ってるのはほぼレギュラー。
あたしは先輩が打つためにチャンスボールをあげる。
「あっ」
つい力んでカットがネットを越えてしまう。
亜希子がジャンプしても届かなかった。
「すいません・・・」
打つはずだった千恵先輩に謝る。
すると千恵先輩は言った。
「クイックを打つにはトスがしっかりしてなきゃならない。そのトスを上げやすいために綺麗なカットをするのが茜の役目だよ。しっかり頼むね」
「はい!」
先輩に言われ、あたしは返事をする。
もうミスらない。
そう思いながら、綺麗なカットをした。
千恵先輩はあたしにナイスカットと言ってくれた。
先輩たちがスパイクを決めるためにあたしが頑張らなきゃいけない。
そう思うと不安になるけど、でもさらに頑張ろうとも思えるんだ。
8時15分あたりを過ぎた。
梓先輩がそろそろ終わりにしようと言ったので、片付ける。
残ってる1年はあたしと彩ちゃんと亜希子と加絵。
4人でせっせと片付けをする。
ふと隣のコートを見ると、2人まだ練習をしてる人がいる。
香取先輩がいる・・・・。
だんだんとドリブルして、シュートをはなつ。
3ポインター(3Pが得意な人)の先輩のフォームはとても綺麗で、つい目で追ってしまう。
ゴールに入ったときの先輩の嬉しそうな顔が微笑ましい。
「茜ぇ?」
「あ、あーごめん」
加絵に肩をたたかれ、我にかえる。
あたし先輩に見とれてた。
松川くんのこと気になりだしてるくせに、先輩を見かけてはまた惹かれてしまうんだ。
「バスケってうちらより2週間はやくインターハイだって」
「2週間?じゃあ今週じゃん」
「そうっぽい。はやいねー」
亜希子と加絵の会話が耳に入る。
あたしは我が耳を疑いたかった。
今週・・・
今週バスケ部のインターハイがあるの・・・・
うちのバスケ部そんなに強くないから、県大会に行けるか分からない。
もし負けてしまったらそこで3年生は引退だ。
引退したら、もう香取先輩は部活に来なくなってしまう。
あたしたちを唯一つなぐ体育館部活という共通点を失ってしまう・・・
「茜よくあの先輩のこと見てない?」
「えっ?!」
ぼーっとしてるといつの間にか隣に彩ちゃんと加絵がいた。
突然声をかけられて驚いた。
「みんなで言ってたよぉ、たぶんあの先輩のことを茜は好きなんだろうって」
「そうそう」
「それ・・・は、みんなって亜希子とかも?」
「あー亜希子はいなかったかも」
「そ、そう」
ほっとする。
大きなため息をついた。
「亜希子には・・・言わないで」
ポツリと呟いた。
あたしは亜希子にだけは知られたくない。
ただ、それはあたしの悪事がバレるからってわけではない・・・
「そりゃまぁそうだよね。亜希子の元好きな人だしね」
亜希子は先輩を好きじゃなくなってから先輩のことを悪く言うようになった。
はじめは優しすぎるとかそのくらいだったけど、どんどんエスカレートしていって、ついにはナルシストでキモすぎると。
そのくらいの悪口他の女の子も言ってるだろうけど、亜希子が先輩以外の人にたいして言うのなら別になんとも思わないけど、それが先輩だったから。
先輩の悪口だけは言わないでほしかった。
同調も否定もするわけにはいかず、あたしはただ黙って聞いて、時々はぐらかして、たまには「そういうことは言うなよー」と笑った。
そう言うしかできなかった。
だから、亜希子にバレてしまったらあたしの頑張りが塵となって消えてしまう。
別にバレたって良いけど、亜希子には応援されたくない。
散々先輩のことを悪く言っておきながらあたしが先輩を好きだと知ったとたんに調子良く頑張れなんて言うのは、あまりにも都合よすぎる。
そんなの、あたしは許さない。
許せない。
「今はフリーなんでしょ?あの人」
「うん」
「どうするの?告んないの?」
「するわけないっしょ〜」
告白しても実る可能性が低いし、なによりも気持ちを伝える勇気がない。
先輩があたしのこと亜希子のただの友達としてしか考えてなくて、名前すら知らなかったらどうしようって思うと自信がどんどんなくなっていく。
あたしと先輩は1こ差で、インターハイが終わったら先輩は受験期だ。
まだ5月じゃはやいとしても、会えなくなるんだったら変わらない。
夏休み、あたしは部活、先輩は勉強なんだなと思うと悲しくなる。
シュートをする姿もあの笑顔も、もう見ることはなくなってしまうんだろうか。
「でももうすぐ引退じゃん」
分かってるよ、そんなこと。
あたしが一番、嫌っていうほど。
どうしてあと1年はやく生まれてこなかったんだろう。
どうして先輩はあたしよりはやく生まれたんだろう。
そしたらもっと一緒にいれたかもしれない。
友達になれたかもしれない。
いっぱい話ができたかもしれない。
・・・・年の差カップルなんていっぱいいるのに、そうやってちょっと不利な条件をすぐ言い訳にしてしまうんだ。
こんな自分、大っ嫌い。
そして、ついにバスケ部インターハイ予選前日を迎えた。
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