おひさしぶりです。
覚えていますか?
今回は短めです。
丁度キリ良かったし。
マコトは広く長い廊下で茫然としていた。
まだ実感が湧かないのだ。解体者を殺したことに。
マコトはゆっくりと目線を下におろす。
肉塊から溢れだした赤黒い液体に、自分の顔が映っていた。
自分が作り出した肉塊よりも、自分の顔が全くの無表情だったことにマコトは驚いた。
前みたいに取り乱したりするわけでもない。逆に酷く冷静だった。
理由は何となく分かっていた。
今回は自分の明確なる意志で行ったからだ。確率が絡む場合を除いて、自分でやったことを直後に悔いるはずがない。
マコトは自分が明らかに変わったことを感じた。それがいいことなのか悪いことなのかは分からなかったが。
気持ちの整理を手早く済ませたマコトは、目の前に広がる凄惨な光景を放置しておくことがはばかられ、肉塊に火を放った。
肉塊は、牛肉と違った、生臭い嫌な臭いの煙を発した後、あっという間に消失した。
解体者は最後に、第二位を呼んだ、と言った。本当かどうかは分からない。しかし、任務を達成した今、この場にいる意味は失われた。
マコトはもと来た道を引き返しながら携帯を取り出し電話をかける。
コール音は二回程で途切れた。
・・・
「ああ、分かった分かった、うっせぇんだよお前は……」
とあるホテルの一室で垣根帝督は携帯から聞こえる必死な声に、長い茶色の前髪を撫で付けながら適当に返した。
level 5第二位という、学園都市では非常に特別な存在である彼にとって、優秀ながらもたかが一介の研究員である解体者は、取るに足りない存在だった。だいたい彼と関わったのも、利害が一致したから仕方なくのことだ。
電話越しに解体者が、自分を呼んだことを自慢気に話しているのが聞こえる。しかし、その直後、大きなノイズが走り、通話は途切れた。
垣根は特に驚いた様子もなく、乱れた制服に携帯を突っ込んだ。
「何て言ってたの?」
垣根は声のした方へ顔を向ける。派手な赤いドレスを纏った少女が、大して興味もなさそうに雑誌をめくっていた。
「助けてくれとさ。でもまあ、もうやられてるだろうよ」
「永久火炎に?」
「そう、永久火炎に」
少女は、ふーん、と適当に返すと、それで?と前置きして
「どうするの?」
少女は知っていた。永久火炎が事件を起こしたとき、垣根が彼をこの‘スクール’に入れようとしていたことに。
垣根の目的は学園都市理事長アレイスター・クロウリーとの直接交渉権を得ること。そのためには彼の弱みを握り、脅迫するのが適当だ。
しかし仮にも相手は学園都市を生み出した男。そうそう隙を見せるとは思えない。達成するには垣根だけでは無理だろう。
スクールにおいて、高位能力者と戦えるのは実質垣根のみだ。ドレスの少女も一応はlevel 4なのだが、精神系の、相手を選ぶ能力なだけにあてにはできない。
そういうわけで、永久火炎は、垣根の目標達成の確率を引き上げる、大事なピースだったのだ。
しかし、周知の通り、永久火炎はアイテムにとられてしまった。
アイテムと敵対する垣根達スクールにとって、これはかなり痛い。味方にしたかった人物が敵に回るのだから。
もっとも、永久火炎が仮にアイテムに入らなかったとして、彼が垣根の説得に応じたかは何とも言えないが。
垣根はテーブルに置いてあったグラスに氷を入れながら答えた。
「ちょっと迷っちまってんだなー。俺としたことが」
ドレスの少女は思わず雑誌から顔を上げた。あまりにも彼らしくない発言だったからだ。
少女の反応も知らず、垣根はグラスを赤紫色の液体で満たしていく。氷がずれてカラカラと音をたてている。
「永久火炎にそこまでこだわるわけじゃねぇんだが、殺すのは惜しい気もする。かと言ってアイテム潰した後に仲間になってくれるとは限らねぇし」
垣根はグラスを傾けると、液体を一気に喉へ流し込んだ。
「ま、いずれにしろ一回会ってみるかね」
・・・
『もしもし』
「麦野?元気?」
『はいはい、元気でちゅよー、何の用かにゃーマコト君?』
マコトが電話したのは麦野沈利。ご存知アイテムのリーダーである。
いつものイライラしたような雰囲気はなく、心なしか声は明るい。
「……なんか機嫌いいね、麦野」
『別に。とっとと用件言えっつーの』
「はいはい。とりあえず任務は終わりました」
『そう……お疲れ』
「俺の麦野がこんなに可愛いわけがない」
『あんたのものになった覚えがない』
「え!?」
『びっくりすんな!まあとっとと帰ってきなさい』
「はいは……」
マコトはそこで言葉を止めた。一方通行と初めて相対したときのような寒気を感じた。
『黒神?』
麦野がいぶかしげな声をあげる。マコトはしばらく反応できなかった。
『おーい』
「ああ、ごめん。俺……死ぬかも……」
『は?』
「……第二位」
『……マジ?』
「マジ」
『私達が行くまで何とか耐えなさい』
麦野の声に重みが増した。色んな感情がこもった声。しかし
「……来るな」
マコトはそれを拒絶した。
『は?格好つけてんじゃ……』
そして最後まで聞く事もなく、電話を切り、目の前の恐怖と真っ向から対峙した。
(ほんとに来ちゃったよオイ)
学園都市第二位、垣根帝督は、ゆったりとマコトに向かっており、1メートルという近距離まで近づいて足を止めた。
お互い、一瞬で勝負を決められる距離。心臓をわしづかみにされるような緊張がマコトを襲った。
膠着。
一秒だったかもしれないし、一分だったかもしれない。
垣根は穏やかな表情で口を開いた。
「初めまして。黒神マコト君」
「初めまして。垣根帝督君」
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