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禁書目録編
三位VS四位
「まさかLEVEL5とはねぇ……」
「そりゃああの炎だからねぇ……」
 本人も驚きのLEVEL5、という最高の結果で能力測定は終了した。
 マコトはくだらない理由でこれまで能力測定をサボってきたものの、実際にLEVEL5になってみると、気分が良いものである。地位ステータスが上がるし、待遇も変わるし、何より奨学金の額が半端ない。
 今度からは当麻に少しはおごってやるか、といつも不幸な少年へのささやかな救いを決意する。もっとも、次に会ったときまで覚えていれば、の話だが……
 現在は両手に花状態で、炎天下の街を歩いている。
 夏休みに入ったばかりだからか、学生達がやたらと浮かれている様子が目につく。かくいうマコトもその一人で、常盤台のお嬢様に挟まれてさえいなければ、鼻歌でも歌っているところだ。
「マコトさん、これから暇でして?」
「え? まあ……」
「一緒にお食事でもいかが?」
「うん、喜んで」
 断る理由もなかったのでマコトはすんなり了承した。
 中々の大技を使い、お腹がすいていたし、この二人と親睦を深めておいて損はないだろう。マコトの脳裏には、常盤台のお嬢様が二人かふふふ当麻に負けず俺も素敵なフラグを立ててやるぜ、といった下心が渦巻いていたことは言うまでもない。

・・・

「そういえば俺LEVEL5の中で第何位なのかな?」
「試してみる?」
 ビリビリが電気をビリビリビリビリさせながら言った。
 こいつ、年上に対する態度は何とかならないだろうか、とマコトは思うが口には出さない。OLになって社長のセクハラにビリビリするところが脳裏に浮かぶ。
「まあとりあえずオーダーしようよ」
「流された……」
 流されて落ち込む御坂をよそに、マコトは当麻の時同様、張り切って注文を始める。その大きな目は、少女漫画のキャラのようにキラキラと輝いている。
「すいませ〜ん。カキフライランチ、とババロアパフェとザッハトルテとティラミスと抹茶アイスと……」
「デザートばっかりですの!」
「あんたは女の子か!」
 御坂が当麻同様地雷を踏んだ。
 こうなったらマコトはもう止まらない。
「あとシュークリームとバナナスプリットと……」
「分かったから! 私が悪かったわよ!」
 御坂が必死に止めるので、仕方なくマコトは自重した。
「はあ……私はマカロニグラタンで」
「私はタラコスパゲティで」
 店員は二人に同情するような顔をして、去っていった。
「白井さんはさ……」
「ストップですの!」
 黒子の脈絡のない発言に、マコトは首を傾げる。
 一方、黒子は腕を組んで、やれやれ、といった表情だ。
「あなたは年上なのですからさんはいりませんわよ。どうぞ私のことは黒子、と御呼びください」
「いや、さすがに初対面だし……」
 初対面の女子を名前で呼ぶなんて雛見沢くらいだ。今のご時勢男同士ですら苗字で呼ぶのだから女子の名前呼びはハードルが高い。女たらしならまだしもマコトはそうではないと自負していた。
「嫌ですの?」
 しかし黒子の迫力に押されて結局、
「いえ、うれしいです。よろしく。黒子、ビリビリ」
「だからビリビリ言うな!」
(ビリビリは嫌なのか。的を射た素晴らしいあだ名だと思ったのだけれど)
 新しいあだ名を開発しようとマコトは首をひねっていると、幼稚園児につけそうなかわいい、しかしかなり恥ずかしいあだ名を思い付いた。
「じゃあ、みぃちゃんで」
 一瞬、時が止まった。
 少し経つと、御坂の顔がゆっくりと赤みを増してきた。
「はぁ!?」
「クフフフ」
「黒子!」
 黒子は笑い過ぎて悶えており、その様子に腹を立てた御坂が制裁を加えている。電撃を浴びても恍惚の表情を浮かべているため、マコトも含めた周辺人物はあまりの気味悪さに顔を背けた。
「嫌?」
「嫌!」
(まあそりゃそうか。自分でも笑いたくなるもの)
「ところでこの窓に張り付いてるのは知り合い?」
 先程から気づいているのだが、窓には不審者を見るような目でこちらを見ている女子二人がいた。いや、こちらから見ればお前らが不審者だよ。マコトは心の中で溜息を落とす。
「げ、佐天さんと」
「初春!」
 二人は、御坂達が気づいたのを確認すると、入口に回って慌ただしく店内に入って来た。中学生らしさあふれる光景に、マコトは思わずにやけてしまう。
「こんにちわ〜。そちらの方は御坂さんの彼氏ですか?」
「ち、ち、違うわよ!」
 ものすごい勢いで首を振る御坂に、そんなに否定しなくても……と漏らすが、御坂は華麗にスルーした。
「もしかして黒神マコトさんですか?」
 頭に花を載せた少女はマコトの事を知っているようだ。
 つーかその花は何? お花に包まれて眠りたい的な? 、とマコトが初春の顔より、花を気にしていると
「今ニュースでやってたんですよ〜。学園都市八人目のLEVEL5誕生! 序列は第三位! って」
「はぁ!? 三位!?」
 ギギギギ、と軋む首を回転させ、恐る恐る御坂の方を見てみると案の定、自分の順位が一つ下がってしまったことが納得いかないのだろうか
「あんた、勝負しなさい!」と涙目で言った。
 もうマコトに選択肢はなかった。
「あ〜しょうがない、一回だけ。言っておくが、くれぐれも殺さないように」
「分かってるわよ」
 上機嫌そうにニコニコしている御坂と対照的に、マコトの気持ちは沈んでしまった。マコトは別に戦いが好きではなかったし、女の子と戦う、という経験がなかったのだ。適当に終わらせよう、と戦略を練っていると、
「お待たせしました〜シュークリームとババロアパフェと……」
 心なしかウエイトレスさんがにやけているように見える。あ、今確実に吹きだした。
「あの、マコトさん?」
「ん?」
「もしかして全部食べる気ですか?」
 佐天さんと呼ばれる、歳にしては大人っぽい少女が信じられないとばかりに尋ねる。
「もちろん!」
「女の子みたいですね」
 そう初春が言った途端、ガシッと頭を掴まれる。
「え?」
 今度は初春が地雷を踏んだようだ。御坂と黒子は目を閉じて合掌している。
 マコトは初春の花を掴んだままプルプル震え出した。
「何で男がスイーツ食べちゃダメなんだぁ! 言ってみなさい。さもないと花むしるぞ!」
「ひぃっ」
 マコトは先程から気にしていた初春の花飾りをブチブチと散らし始めた。
「マコトさん落ち着いて!」
「―――ああ、ごめん、もう既に何人にも女の子みたいと言われたからさ」
「そりゃそうですよ」
 マコトは気を取り直してシュークリームにかぶりついた。カリカリの生地から漏れる濃厚なクリームを、マコトはうんうん、と頷きながら堪能する。
「早く食べて勝負しなさいよ!」
「お姉様……空気を読んでくださいませ」
 電撃をビリビリと放つ御坂に三人の冷たい視線が突き刺さる。この御坂美琴、恐ろしいことに自覚なしの空気殺し《エアーブレイカー》らしい。
 マコトは幸せそうにデザートを食べているが、伝票の切れ端にニコニコしながら何かを書いて御坂に渡した。

 邪魔したらおごりな

「っ、分かったわよ! 早くしなさいよね!」
 結局、全部食べ終わるのに三時間かかり、空も茜色に染まっていた。

 5400円になりま〜す

「ファミレスで一人で5000円使う人初めてみた」
「……そうね」
 樋口さんを満足そうな顔で取り出すマコトを見て、御坂はため息を一つ落とした。

・・・

 場所は変わり例の橋の下の河川敷。
 夕日はもう沈みかけ、五人の影が長く伸びている。
「じゃあ始めるわよ!」
 御坂が待ちきれないとばかりに、電撃をビリビリさせる。
(戦闘狂か、こいつは……)
「お二人ともくれぐれも周りの事を考えてくださいね!」
「はいはい」
 LEVEL5同士の戦闘。
 最悪一面焼け野原になる恐れもある。つーかマコトの能力上、絶対なる。緑を愛する皆さん、ごめんなさい。風紀委員である黒子としては止めたいのだが、御坂の強情さを知っている為、しぶしぶ黙認している。
「じゃあこのコインが落ちたら戦闘開始ですわよ」 
 黒子が弾いたコインは茜色の空に舞い上がり、チャリ〜ンという心地よい金属音を立てて落下した。
「行くわよっ!」
 御坂は初っ端から十八番の電撃槍を飛ばす。それは的確にマコトの元へ飛んでいき……
「アルェ〜、みぃちゃんどこ狙ってるの?」
 何故かマコトをすり抜けて、自然破壊よろしく、大木を木っ端微塵に吹き飛ばした。しかし御坂はうろたえることなく後ろを振り返る。
「やっぱり……本体はこっちにいるもの……ね!」
 御坂は意地悪く笑みを浮かべると、何もないはずの空間を蹴り飛ばした。
「いっ」
 小さく悲鳴が聞こえたかと思うと、先程は違う場所にいたはずのマコトが腹を押さえながら現れた。
 何もなかった場所から。
「何で分かったの?」
「私は常に体から無意識のうちに微弱な電磁波を発してるの。それがレーダーみたいな役割を果たしてて、相手の位置を常に把握できちゃうの。動物に嫌われるけどね。あんたこそさっきのどうやったのよ」
「蜃気楼だよ。空気を熱することで膨張させ、光の屈折率を変えたんだ」
「流石はLevel5同士の戦い。使う能力の規模が大きすぎますの」
 黒子は自分が立ち入ることの出来ないLevel5の世界に改めて自分達とは違う“異常”を感じる。低能力者である初春と佐天にとってはなおさらだ。
 戦闘中に自分の能力、手の内をばらすことは通常なら愚かな行為だ。相手に情報を与え、対抗策を考えられてしまう。
 そういうリスクを踏まえた上でばらしてきた二人はやはり余裕があるのだろうか。いや、それとも楽しんでいるのだろうか。
「じゃあ今度はこっちから行くよ。ちょっと熱いけど勘弁してね」
「何を……」
 御坂の答えを聞く前に、マコトは踵で地面を二回叩く。
 すると、地面から炎が発生し、ドーム状に二人を包みこんだ。完全に外界から隔絶された内部の温度は摂氏50度を下らないだろう。長時間いると熱中症の恐れもある。
「熱っ。やばいわね」
「さあさあどうする?」
 御坂が全身から汗を吹き出して、苦しそうにしているのに対して、マコトは汗一滴流さず、涼しい顔をしていた。
 御坂はその様子に苛立ち、
「何であんたは何ともないのよ!」
「俺は熱を吸収できるからね。て〜か服がだんだん燃えてきてるよ? 降参しません?」
「誰が……するかーっ!」
 御坂はコインを取り出し、威勢よく、得意の超電磁砲を放つ。

 しかし、やはり

「無駄だって」
 マコトの手の平から高温の炎が放たれ着弾前にコインが溶けてしまう。
「御坂さんにとって俺は天敵かもね。超電磁砲がきかないんだから」
「くっ」
 自身の切り札を完璧に攻略された御坂はかなり焦っていた。熱さで意識も朦朧としてきている。そのせいか思考は緩慢になり、攻撃も単純になる。 
 完全にマコトのペースにのまれていた。
「降参し……」
「しないわよ!」
 御坂の電撃はマコトがいる場所からわずかにはずれる。能力の精度も僅かながらおちているようだ。
「降参してくれよ。この能力手加減難しいんだから。熱中症の危険もあるし。それにほら色々恥ずかしい物が見えちゃってて、非常に戦いにくい……です」
「……分かったわよ、降参」
 御坂の服は、火の粉で、ボロボロになってしまい、何か色々服の中が……というわけで、御坂は服の点と自分の攻撃が全く通用しない、という点でとうとう降参したのだった。それに熱さでまともに戦える気がしなかった。いくら負けず嫌いの御坂でも、単なる実力試しで命を捨てるようなことはしない。
「ふぅ。これ着ときなさい」
 マコトは自分の上着を御坂に投げた。
「あっ、ありがと」
「じゃあ炎吸収するよ」
 マコトが手をかざしただけで、灼熱の炎は瞬く間に消えていった。
「どうなったんですの!?」
 中の様子が見えなかったからだろうか、黒子は心配そうな表情で聞く。御坂の疲れた表情を見て、結果は予測できていたのだが、本人の口から聞かないと信じられなかったのだ。
「わ、私の負けよ」
「すごい……御坂さんに勝つなんて」
 三人にとって御坂美琴は憧れであり、強さも幾度か目の当たりにしている。その美琴が何があったかは知らないがこの短時間で負けを認めた。
 黒神マコトの実力を認めざるを得なくなり、自分のことのように悔しがっている黒子を除く二人は、羨望の眼差しを向けている。
「はぁ〜、今日は疲れた。俺はもう帰るよ。御坂さんは水分補給しておくように。また会えるといいね」
「ちょっ……」
 御坂の声を聞く前に、マコトは逃げるように去ってしまった。
 結局、一面焼け野原になってしまった河川敷に、少女達は取り残された。
「これ……どうしよう」
 手元にはマコトの上着が残った。
「って、ポケットに携帯入ってんじゃない!」
「フフフ、データー覗いてみましょうよ」
 
データフォルダ

「これはマコトさんのお友達でしょうか」
 携帯には、肩を組んで笑う二人の少年が映っていた。まだあどけなさの残るマコトと肩を組んでいるのは、木刀を持った少年だった。
「なんだかとても楽しそう」
「あれ、このフォルダは何でしょう?」
 当麻不幸フォルダと名付けられたものが、そこにはあった。
 その中の画像は文字通り、上条当麻の不幸を写したものだった。アイスを地面に落としたり、ATMの前でorzしていたり、不良に追い掛けられたり……
「あいつ、本当に不幸なのね……」
「マコトさん、多分この殿方で楽しんでいますわね……」

 四人の間に上条当麻に対する哀れみが生まれた。

 アドレス帳

「みんなのアドレス登録しときましょうよ」
「そうですわね、ほら、お姉様も」
「私は別に……」
「素直じゃありませんわねぇ。ところでこれどうしますの?」
「わ、私が借りたんだし私が返しておくわ!」
 帰り道
 こっそり自分のアドレスを転送する美琴の姿があったのはまた別の話。


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