ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
禁書目録編
能力測定
「黒子!」
「なんですのお姉様?」
 目を輝かせて、御坂の顔を覗き込むのは白井黒子。
 LEVEL4のテレポーターで、ジャッジメントに属し、御坂に変態的感情ユリを抱いている女の子だ。
 ポニーテールを肩に垂らし、スカートの下には御坂と違って短パンははいておらず、代わりに戦闘に使う為の金属矢が刺さったバンドが巻かれている。
 御坂はスカートのポケットから折りたたまれた紙を取り出すと白井に突きつけた。
「この二人を調べて欲しいの」
「上条当麻に黒神マコト? 聞かない名前ですわね。さてはお姉様……」
「いいから早く調べなさい!」
 御坂美琴は風紀委員ジャッジメントの支部に来ていた。
 ジャッジメントとは簡単に言うと学園都市内の警察みたいなもので、外とは違って生徒によって構成された組織である。この街では強力な超能力を持っていれば歳など関係なく罪人を取り締まれるのだ。御坂がここへ来たのは自分のかわいい後輩に昨日の意味不明人間達を調べてもらうためだった。
 白井は、カタカタとパソコンを少し叩くと、現れた文字達を不機嫌そうに読み上げた。
 ちなみに、ジャッジメントは書庫バンクという、全生徒の記録が載ったデータを覗く権限があるため全生徒のデータはつつぬけだ。
「黒神マコト……発火能力LEVEL2、上条当麻……LEVEL0」
「はぁ? そんなばかな!」
 御坂は予想外の結果に、慌ててパソコンを覗き込んだ。
「どうしましたの?」
「一人は私の電撃を片手で打ち消して、一人は明らかにLEVEL4以上の炎を出してたわよ!?」
「あ……」
 黒子は詳細ページを開いて手を止める。引っかかったのは、最後に受けた能力検査の日付だ。
「何?」
「黒神マコトの方は二年近く能力測定していませんわ」
「やっぱり……もう一人は?」
「きちんと受けていますわよ?」
「おかしいわね」
 御坂は自分と張り合った人間なのだから最低でもLEVEL4クラスだろうと踏んでいた。あのどこかムカつく炎人間は理由があるとしても、トゲトゲ頭がきちんと測定してLEVEL0なことは疑問だった。
「あら、測定日は今日ですわね」
「よし、ちょっと行ってくる」
「ちょっとお姉様!?」  
御坂は白井の声を無視し、期待に胸を膨らませて、夏の日差しが強い、七月の街に出た。

 そのころ

「嫌だ嫌だ絶対に嫌だ」
「ダメですよ? 受けないと先生困っちゃいます」
 端から見ると小学生が高校生を注意しているシュールな光景に見えるだろう。 しかし、この赤いランドセルとソプラノリコーダーが似合いそうなちびっこ、実は月詠小萌というれっきとした教師である。身長は135cmで、過去には安全上の都合からジェットコースターのご利用をお断りされるという涙ものの悲しい経歴を持つ。
 その異常性は、学園都市の都市伝説になるほどであり、この人がおばあさんになったらどうなるだろう、というのがしばしばマコト達生徒の議論をよんだりする。
「もう二年も受けてないんですよね? これは義務なんですよ? 何がそんなに嫌なんですか?」
 小萌先生が不満そうに頬をむぅ〜っと膨らましながら言う。
 これだけ見たら、完全に子供が駄々をこねているようにしか見えないだろう。マコトは少なからず罪悪感を覚えながらも、
「だって、LEVEL上がって有名になったりしたらなーんにも目立ったことできないじゃないですか」
「ひくっ、黒神ちゃんが測定受けてくれないと先生……」
 涙目……
 教室内からの視線がマコトを突き刺す。子供の人権を守ろうとしているのだろうか。特に青髪の、ピアスをした野郎は目玉が飛び出さんばかりにマコトをにらみつけている。
(ぞわっ)
 外は摂氏30度を越える真夏日だというのに、マコトは背中にかき氷を突っ込まれたような寒気を感じた。
「わ、わかりました。受けます、受けますよ、受けさせていただきますよ」
 超アウェー状態に耐え切れなくなったマコトは渋々了承した。
 実は今日は学校をサボるつもりだったのだが、当麻が、お前を連れていかないと、青髪ピアスに殺されるんだ! 頼むから来てくださいっ! と朝っぱらから必死に土下座するのでつい来てしまったのだ。
 青髪ピアス、オソロシヤ。


・・・


「はぁ、LEVEL0ですか」
 当麻が肩を落として、トボトボと測定から帰ってきた。握り締められてくしゃくしゃになった紙には、嫌味なほど大きくLEVEL0と赤字で書かれている。マコトは慰めるように当麻の肩を叩いた。
「まあお前はしょうがないよ。測定機の力も打ち消してるんだろうな」
「不幸だ……」
 ここ、学園都市ではLEVELに応じて奨学金が出る。
 必然的にLEVEL0である当麻は貧乏学生になってしまうのだ。
 当麻はいつも財布の中身を気にしながらカップ麺を購入しているのだが、不幸にも湯切りに失敗し、流しに中身をぶちまけ、マコトの部屋に食べ物を低姿勢でねだりにくるシーンはいつ思い出しても目頭をあつくする。

 次、黒神!

「あ、はい」
 マコトが装置に向けて炎を放つと、まるで文句を言うように耳障りな音で騒ぎだした。 

 なっ、ここでは測れない! もっと大掛かりにやらねば!
 
「だるっ」
 すっかりテンションの下がったマコトを待ち構えていたのは、おもちゃを買って貰った子供のように目を輝かせた小萌先生だった。
「この場所に行ってください。門のところで案内してくれる人がいますよ。黒神ちゃんの力が上がって、先生とても嬉しいです」
 そうにこやかに言って携帯に地図データを送信する。
 青髪ピアスがやけに冷たい視線を送ってくるのは気のせいだろうか。
(嫉妬か? 嫉妬なのか?)
 当麻から奴の恐ろしさを聞いていたマコトは、襲われはしないかとびくびくしながら教室を出た。


・・・


「あぢぃ〜。何でこんな面倒なことに……お、ここか」
 夏真っ只中。
 夏休み初日(能力測定はあるが)だというのに何が楽しくて外に出るのか。空調の効いた快適な店内に逃げ込んでいるのか、人通りも疎ら。そのせいかセミの鳴き声がやけに大きく聞こえる。
 能力を使えば暑さなど打ち消せるのだが、普段から使うと疲れるので、今はオフ状態なのだ。
(セミ、うるさい。燃やすぞコノヤロー)
 そんな動物愛護団体から苦情がきそうな事を考えていると、
「来たわね!」
 さらにうるさいのが現れた。
「げ、ビリビリ」
「っ、ビリビリ言うな! 私には御坂美琴っていう立派な名前があるのよ!」
 当麻が御坂をビリビリと呼んでいたので使ってみたのだが、どうやらお気に召さなかったらしい。顔をひきつらせ、髪からは電撃がほとばしっている。 
 そんな御坂に慣れっこなのか、隣のツインテールの女の子が御坂を無視して喋りはじめた。溜め息を落としていたのをマコトは見落とさなかったが。
「はじめまして、白井黒子ですの。今日はよろしくお願いしますわ」
 ぺこり、とお辞儀した彼女は、口調、たたずまい共に御坂よりずっとお嬢様らしく、常盤台の生徒であることを思わせた。
 私立常盤台中学は、どこのお姫様だろうが、LEVEL3未満は入学を許さない、学園都市でも五本の指に入る超名門校である。過去にはどこぞのお姫様の入学を断り、国際問題に発展したとかしないとか。
 かくいう白井も実際、LEVEL4の空間移動能力者テレポーターである。ちなみに空間移動能力者は非常にレアであり、学園都市に五十人近くしかいない。
 車いらず電車いらずエレベーターいらず。学園都市に入る前のマコトはこの能力をご所望だった。

 なぜなら彼は、天性の怠け者だからだ。

 彼は小学校のとき週四日登校を成し遂げた経歴を持つ。
 友達や先生には金曜日は通院している、といったものの、実際には家で漫画読んだりゲーム読んだり……
 先生ごめんなさい、といいながらポテトチップスを漁ったのはよい思い出だ。
「あ、どうも黒神マコトと申します」
 相手の気品につられ、ついつい丁寧になってしまう。相手に合わせるのは昔から得意だったりする。
「まあ、礼儀正しい殿方ですこと。それではご案内しますわ」
「あ、待ちなさいよ!」

 常盤台中学は女子校だ。
 つまり一応男子であるマコトが目を引くのは当然のことで、辺りからはひそひそ声が絶えなかった。ハーレムだ、などどと騒げる程マコトの性格は楽天的ではない。
「うぅ、何かめっちゃ気になる」
「大丈夫ですわよ。みなさん殿方が珍しくて興奮しているだけですわ」
「あいつ何? キモーいとか言われてないかな」
「心配しすぎですわよ」
「あんた、意外と心配性なのね……」
 女子相手にビビリまくる情けない男がそこにはいた。
 結局、御坂と白井の後ろを隠れるように歩き続け、測定場につくまで、マコトは神経を擦り減らした。


・・・

 
 準備はよろしいですか?

「はい」
 お嬢様学校だけあって、常盤台のプールはオリンピックに使われそうな広さだった。緩衝材として張られた水は太陽光を反射し、宝石のようにきらめいている。
 マコトは飛び込み台に立って辺りを見渡す。係員の監視室から御坂と白井がこちらを見ており、校舎からはたくさんの生徒が身を乗り出して見つめていた。このプールは、高位能力者が測定に用いる為、皆興味があるのだろう。
 マコトは緊張のため額に汗がにじむのを感じながら、係員の合図を待った。

 開始!

 マコトが目を閉じると、掲げた右手からルビーのように赤い球体が飛び出して輝き始めた。時間と共に大きくなっていくそれは、早くもマコトの身体ほどの大きさになっている。
「わぁ」
「綺麗ですわね」
 ドロドロと渦を巻くそれは幻想的で、思わず二人を含めた観客から声が漏れる。
(二年ぶりの能力測定。観客もいるし頑張ってみよう。Level4くらい行けばいいけど……)
 心の中で気合を入れると、限界まで精神を研ぎ澄まし、集中力を高める。
 そして限界まで高まったと同時にそれを思い切りプールに叩き付けた。
 するとドガンッ、という爆発音と同時に周りは高さ十メートルはあろう深紅の炎につつまれ、あたりに真っ白な水蒸気が発生した。マコトが炎に触れると、一瞬で鎮火し、水蒸気爆発も収まった。
 
 結果が出ました。
 最高温度5329℃
 蒸発時間0.03s
 吸収率98.9%
 LEVEL・・・5

 機械の、結果を告げる無機質な声に多数の観客がおお〜っと驚きの声をあげた。二人も例外ではない。
「すごい……」
「開いた口が塞がりませんの……」
「は? LEVEL5?」
 水で並々と満たされていたはずのプールは、すっかり空っぽになっており、当事者であるはずのマコトは、わたあめのような霧の中で唖然としていた。


・・・


「キャー、新LEVEL5の黒神さんよ!」

 常盤台を出るとき、多数の女子に囲まれ、気分がよかったのはここだけの話。


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。