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禁書目録編
出会い
「待ちなさい!」
「やだ」

 ここは学園都市。

 東京都の大部分を利用した、人口二百三十万人が集う、科学と学生の都市である。外界と比べて科学技術が三十年ほど進んでおり、まさに外界から見れば近未来都市、憧れの場所だ。
「あー不幸だぁーっ!」
 そんな科学の最先端の街で何が楽しくて彼等は原始的な鬼ごっこをしているのだろうか。
 既に夕日は地平線の下に隠れてしまっており、漆黒の闇が広がっている。三人の足音を除き、辺りは静寂に支配されていた。
「待ちなさいって……言ってるでしょうがぁっ!」 
 少女の腹の底からの声に、本作の主人公、黒神マコトは不意に足を止めた。羽織った黒のジャケットが風ではためき、額にかかった少し長めの前髪が揺れている。
「マコト! お前死ぬ気か!?」
 必死に逃げていたもう一人のウニ頭の少年もマコトのその余裕な様子に、乳酸地獄真っ只中の足を止める。
「待ったよ?」
 本当に止まるとは思わなかったのか、少女は目を逸らしてうろたえている。待て、と言われて止まってやったのに何なんだろうこの罪悪感、とマコトは心の中で苦笑した。
 学園都市でも五本の指に入るエリート校、常盤台中学の制服を纏った彼女は、俗に言うお嬢様、というやつだ。しかしその片鱗は制服意外には全くない。スカートの下からは何故か白の短パンがはみ出しているし、目つきや言葉遣いは完全にヤンキーのそれである。
「何か御用?」
 追い掛け回されて少し不機嫌になっていたマコトは冷めた声、視線を女の子に向けた。
 少女は苦し紛れに、
「う……さっきはよくも!」
「それだけ? 俺達は助けようとしただけじゃん」
 マコトはわけがわからない、といった表情で首を傾げる。
「余計なお世話よ!」
「はぁ、不幸だ」

 そもそも何故こうなったかというと、遡ること一時間前の話だ。

「マコト、ファミレス行かねぇか? 晩飯おごってやるよ」
 夏休み前最終登校日。
 学校から帰っているとき、いつもは不幸だ不幸だ、とテンションの低い、マコトの親友、上条当麻は珍しくテンションが高かった。
 学生と名がつけば最悪でも週に五回は学校に通わなければならない。そんな彼らにとって、一ヶ月も学校に行かなくても済む夏休みとはまさに天国。そんなときに宿題を馬鹿みたいに出す教師サディストは本当に空気読めって感じだが……
「マジか? さっすが当麻、優しいなぁ」
 この時点でマコトは思い出すべきだった。不幸体質の当麻がこんな事を言う時にはろくなことがないと。

「じゃあ俺はチーズケーキとイチゴパフェと杏仁豆腐とシュークリームと……」
 レストランに入るとマコトはメニューのデザート欄を上から順に注文し始めた。躊躇、という単語は彼の脳内ディクショナリーには存在しない模様だ。店員さんはどう対応したものか、と顔を引きつらせている。当然、驕る側の当麻は気が気じゃないわけで、
「まてまてまて! 上条さんの懐も考えてくださいよ。つーかデザートばっかじゃねぇか! 女の子かお前は!」
「ザッハトルテと芋羊羹と……」
「すいません! 謝るからもうやめて!?」
 本作の主人公黒神マコトはどこかの万屋さん顔負けの甘いもの好きなのである。女の子みたいだ、といわれること数知れず。それを本人は極度に嫌がるのだが。
 涙を滝のように流す当麻と共にスイーツという名の料理を待っていると、
「君ぃー、お兄さんたちと遊ぼうぜぇ?」
「たっぷり可愛がってあげるからさぁ?」
 この涼しいファミレスとはミスマッチな暑苦しいお兄様達が少女にからんでいるのが目に入った。少女の方は目を閉じて、腕を組み、壁に寄り掛かっている。怖がっている様子はまるでなかった。むしろその佇まいは堂々としている。
 フラグメーカー当麻はこの少女がとんでもない奴だと知る由もなく、心の中で決意を固めた。そしてどこかうきうきした表情のマコトに声をかけた。
「なぁマコト、助けてやろうぜ?」
「え? ああ、いいよ」
 同じくお人よしのマコトと共に、軽いノリで死地へ向かうのだった。
「おい、あんたらそんな子供に寄ってたかって恥ずかしくないのかよ」
 ツカツカと真顔で歩み寄る当麻に不良達の、威嚇的な視線が突き刺さる。当麻はそれに動じることなく睨み返した。不良たちは少女から離れて、ゆっくりと当麻を囲む。
「何だてめぇは? ヒーロー面してんじゃねぇよ」
 この学園都市は超能力を支配し、超能力に支配されている。すなわちLEVEL0、いうなれば、あなたは落ちこぼれですよ〜、という烙印を押された当麻が、何の能力を持つか分からない不良に喧嘩を売るのは自殺行為である。
 まあ何度も言うが、当麻はフラグメーカーかつお人よしなのだ。
 一応当麻はLEVEL0なのだが生まれつき、異能の力は何でも打ち消す右手を持っているのだが攻撃には基本使えない。
 まあとりあえずそれはおいておこう。
「ほら、その子供も怖がってるじゃん。ナンパするならもうちょい年上狙えよ。何なの? ロリコンなの?」

 一方マコトは

 LEVEL2

 なのだが実際はかなり高LEVELの能力者である。ある理由でしばらく能力測定を受けていないのだがそれも後述する。
「な、てめぇ、言わせておけば!」
「大体こんな子供に……」
 激しく言い争う両者。
 しかし彼らは気付くべきだった。
 歯を食いしばり、プルプルと肩を震わしている少女に。
「――――子供子供うっさいわぁ〜っ!」
「ぐわ〜ぁっ!」
 子供扱いされたことが不満だったのか、少女はからまれていたはずなのに、不良達を一瞬で電撃で黒焦げにしてしまった。
 そして理不尽なことに、その矛先は続いてマコト達に向けられる。マコト達は危険を感じて逃げてきて今に到る、というわけである。

「当麻、任せるよ?」
「ああ、上条さんに任せなさい。お前に任せると大変なことになりそうだ。適当にあしらって、とっとと帰ろうか」
 そう言うと、ニヤリと笑って当麻は右手を前に突き出し構える。
「何をごちゃごちゃ言ってんのよ! これでもくらいなさいっ!」
 少女が急に振りかぶったかと思うと、青白い電撃の槍が飛んだ。それは、バチバチと痛そうな音を立てて、真っ直ぐに当麻に向かって音速で飛んで行く。
 そしてバシュウッといった何かに当たる音同時に辺りに白煙が立ち込めた。
「ふんっ、呆気ないわね」
 少女は勝利を確信しながら白煙に目をこらす。
 煙は徐々に晴れていき、
「あ〜不幸だ」
「え?」
 そこには何もなかったかのようにいつもの不平を発しながら、幻想殺し、上条当麻が右手を前に突き出し、立っていた。
 この右手、異能の力は何でも打ち消すスグレモノである。ただし、効力範囲は手首から先のため、そこ以外に当たると、一般人と同じくダメージをくらうが。 
 ちなみに今電撃槍に右手が触れたのには結構運が絡んでいたりする。当麻は表情は余裕そうにしているものの、内心は、危なかったぁ、キャー、死ぬかと思った、上条さんついてる〜、といった感じなのだった。マコトはその事情を知っているため、冷静であることを装っている当麻をジト目で見ていた。
 少女は防がれるとは毛ほども思っていなかったのか、目を見開いて驚いている。
「な、何で?」
「もしかして常盤台の超電磁砲、御坂美琴?」

 御坂美琴、とは学園都市に七人しかいないLEVEL5の第三位。電撃使いの頂点に君臨する少女である。
 この学園都市では知らない者はいないだろう。ここでは力自慢の不良ではなく、彼女のような人間こそ強いのだ。
「そ、そうよ」
 マコトは少女の肯定に、へぇ、と感心の声を漏らすと、
「当麻、早めに済ませよう? 相手が悪いよ」
「俺も腹減ったから早く終わりて〜よ」
「待ちなさい! 次はあんたよ!」
 二人がやる気のない発言をグダグダと並べ立ててていると、今度は御坂が当麻ではなくマコトに電撃を放った。
 マコトのだるそうな顔が青白く照らされる。命の危機にあるというのに、マコトは指一本すら動かさない。
 当麻がギリギリでマコトと御坂の間に入り、再び電撃は跡形もなく空中分解した。
「邪魔すんな!」
「こいつを本気にさせると辺り一体やばいからな」
 当麻の後ろではマコトが苦笑いを浮かべている。
 御坂はその笑みに恐怖を覚えた。まさかこの電撃が効かない意味不少年よりすごい力を持っているのではないか、と。
「な……何よそれ、つーかあんた達何者よ!」
「黒神マコトです」
「上条当麻です」
 御坂の意図に反し、二人は馬鹿にするかのように、自らの名前をさらりと言った。
 御坂は薄いオレンジの髪がかかった額に青筋を浮かべながら、ポケットからコインをとり出し、右手を突き出して構えた。
「やばいな、超電磁砲か。当麻、後ろに。右手以外に当たったら大変だから」
 超電磁砲レールガン、御坂の通り名であるその技は、同名の軍事兵器に、優るとも劣らない威力を持つ。弾はコインであるが、ローレンツ力を受け、音速で飛ぶため、当たったら体に風穴があいてしまうだろう。
 御坂はコインを宙へ弾く。
「そりゃそうだ。って、マコトは?」
 真っ直ぐに上がり、真っ直ぐ落ちてきたコインは再び御坂の手に戻り、刹那、青白く発光して、
「死ねやゴラァ!」
 御坂が年頃の女の子らしくないことを叫ぶと、同時にありえない速度でオレンジ色の火花を纏ったコインが飛んで行く。
「マコト〜ッ!」
 暗闇を引き裂くようにやって来るそれにもマコトは顔色一つ変えず手を伸ばす。そして
「なっ……」
 音速の三倍でとんでくるコインに向けて、マコトが炎を発すると、ジュッ、という小さな音をたててコインは着弾前に消えてなくなった。御坂は手加減したものの、いとも簡単に超電磁砲を止められたことに言葉を失った。
「噂通りだね。超電磁砲のコインは空気摩擦の熱に耐え切れず、飛距離は五十メートルが限界。なら、さらに熱を加えて着弾前に溶かしちゃえばいい」
 コインは所詮、ただのアルミ。融点は大して高くない。それに対してマコトの炎は数千度になりうる。ある程度の物なら一瞬で溶かしてしまう。
「くっ、いいわ。上条当麻に黒神マコトね。今日のところは許してあげる。首を洗って待ってなさい!」
 御坂は顔を悔しそうに歪め、敗者らしいセリフをはくと、足を踏み鳴らしながら暗闇に消えた。
 月明かりは、勝者であるマコトと当麻だけを、スポットライトのようにぼんやりと照らしていた。
「ふぅ、やっと行ったか」
 当麻は大きな安堵のため息をつく。
「とりあえずレストランに戻ろうか。このままだと俺達食い逃げだよ」
 何も言わずにレストランから飛び出したため、料理の代金は払っていない。まあ、食べてもいないのだが、今の世の中、中々融通が効かないのが現状だ。
「はぁ、不幸だ」
 路傍には、マコトの炎に巻き込まれたのか、原形をとどめていない鉄のような塊が煙をあげて、転がっており、道路のアスファルトは表面がドロドロに熔けていた。
 これが二人の出会いだった。
 この出会いが、二人の未来に大きく変化を加えることになることを二人は知るはずもなかった。

 5400円で〜す

「いやぁ、満足だ。当麻、ごちそうさま」
「うぅ、不幸だ」
 レストランにて腹を空かしたマコトがスイーツを食い荒らし、当麻の財布までも食い荒らしたのはまた別の話。
 この男に、驕る、という言葉は禁句である。


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