決断
「また、会えるよね?」
子供の声が聞こえる。どうやら夢の中のようだ。
「ああ、俺はちゃんとまた会いに来てやるよ。」
「約束だよ、約束。」
間違いない、これは夢だ。ジンがそう思い始めた時。
「・・・・・き。・・・兄貴。」
「うん?」
ジンはウオッカに起こされ、目を覚ました。
「ああ、寝ちまってたか。」
「すいません。けど、みんな集まりましたぜ。」
「そうか。」
ジンとウオッカは、他の構成員達が集まった場所に移動した。
「おい、五,六人足りないぞ。」
構成員達を見るなり、ジンが言った。出発した時は三十人だった構成員の数が欠けていた。
「ジン、無理言うんじゃないぜ。察に加えて自衛隊まで出張っていて警戒しているんだ。六人しか欠けなかった方が奇跡だぜ。」
スネイクが言った。どうやら自衛隊や警察に阻まれて集まれなかったらしい。
「そうか。」
「で、なんなんですか。急にこんな苦労させてまで呼び出して。」
爆破部隊の隊長であるラオチュウがジンに聞いた。他の構成員達も同じ事を聞きたいような顔をしている。
「おう、本題はそれだ。さて、お前らの中には既に聞いているやつもいるかもしれないが、先ほど支部長から連絡があってな。組織は日本支部の解散を決めたそうだ。」
その言葉に、構成員達の間に動揺が走った。しかし、スネイクやラオチュウ、そしてベルモットらベテラン達は微動だにしない。
「つまり俺達は巣を失った渡り鳥。いや、場合によっちゃ組織からも追われる鴨になったわけだ。そこで、俺はお前らに言っておく。今や俺は実行部隊の長でさえない。お前らと同じただの人だ。だからお前らはもう好きにしていいんだぞ。」
ジンの言葉に対し、構成員達は顔を見合わせる。
「好きにしろとはどういうことでしょうか?」
一人の若い構成員がおずおずジンに聞いた。
「そのままだ。察に自首するも良し、逃げるも良し、お前らが自分で考える事さ。」
それからしばらく、沈黙が場を支配したが、スネイクがそれを破った。
「ジン、お前はどうするつもりだ?察に自首するか?」
「いまさら自首したって死刑さ。こうなったら、察に自首した本山の野郎を道連れにでもしてやるさ。」
「だったら俺も付き合うぜ。どうせ帰る場所はないんだ。だったらヤケクソになって戦ってやるぜ。」
そのスネイクの言葉にラオチュウが賛同する。
「自分もついていきます。こうなったら自衛隊だろうが、警察だろうが、探偵だろうが、組織だろうが、自分達にはむかって来たら最後の一発まで戦って、後は知りません。」
「俺もついていきますぜ。」
ジンの相棒のウオッカも賛成する。それが火付け役になったように、他の構成員からも賛成の声が上がる。
「俺も。」
「俺も行きます。」
「自分も。」
最終的に、19人が残った。そんな中、ジンは隅にいたベルモットに声を掛ける。
「ベルモット。お前はあの人のお気に入りだ。いまから急いでアメリカへ行けばなんとかなるかもしれないぞ。」
それに対し、ベルモットはいつもの笑顔で言った。
「あら、私もあなた達についていくわよ。いまさらそんな卑怯なまねなんかしないわよ。
「ふ、馬鹿野郎どもが。よし、そうと決まったら今後の行動を計画するぞ。」
そして、打ち合わせを終えると、それぞれの役割を果たすべく、散らばっていった。
「ヤケクソか、それもいいな。俺たちの底力見せつけてやるぜ。」
構成員たちを見送りながら、ジンがそっとつぶやく。
「兄貴、行きますぜ。」
ウオッカが呼ぶ。
「おう。」
そして彼らは、愛車のポルシェ356に乗り込んで出発した。ジンたちは最後の決戦に挑もうとしていた。
同時刻 阿笠邸地下室
志保は地下室で薬の成分の解析を行っていた。
「はあ。」
志保はパソコンを動かす手を止め、今日何度目かになるかわからないため息をつく。
彼女が悩んでいる理由、それは解毒剤を作った後の自分の立場であった。
彼女に既に家族がいないのはご承知のとおりである。また、黒の組織に入っていたというのも彼女の心に影を落としていた。そんな自分が今後社会で生きていく場があるのか。そんな不安があったのだ。しかし、何より彼女の心に影を落としていたもの、それは。
「工藤君。」
そう、新一の事である。実は(というよりも原作でも確実と思われる。)彼女は新一が好きであったのだ。最初は研究の対象としか見ていなかった。しかし何度も助けられ、守ってもらっていくうちに、彼女は彼に惹かれていった。しかし、彼には蘭という生涯最愛の人がいる。とてもではないが、好きとは言えない。いや、、万が一兆が一という可能性はある。言えないことはない。彼女自身が言わないだけである。なぜそうしているかは自分自身でもわからない。とにかく、言えないのだ。
「はあ。」
彼女の悩みは深い。そこへ。
「おい、灰原。」
新一がやって来た。
「え。な、なによ。あなたは上で暗号解いていたんじゃないの?」
自分を落ち着かせようとする志保。
「ああ、なんとか解いたぜ。」
新一はようやくあのマニアックな問題との格闘を終えたようだ。ちなみに、その問題は以下のとおり。
横浜の姉妹を失いし老嬢とは何か。 ヒントNY
広島の原爆投下機、エノラ・ゲイの名前の由来は機長の何から来ているか、答えよ。
ご苦労様でした
「で、お前こそどうしたんだよ。手が止まってるみたいだぜ。」
「え、ちょ、ちょっと疲れただけよ。」
まさかあなたが好きと言うか悩んでいたなんて言えない。
「ふうん。じゃあ気晴らしにラジオでも聞いたらどうだ。」
そう言って、部屋においてあったラジカセに近づく。
「多分ニュースしかやってないわよ。」
志保がそう言うが、流れてきたのは明るい曲であった。
「・・・・・・負けない力を下さい、祈りが勇気になる。誇らしい自分でいたい、そのためにできる事をただ、いつも頑張ってみよう、愛を込めて♪・・・」
「え!?」
ここで、いったん間奏に入り、しばらくして再び歌が流れ始めた。
「・・・・明日を生きて行こうと、約束があればいい、忘れない素直な心、あなたと結んでいたい。明日を生きて行こうよ、約束が支えたよ、予感から希望に変わる、瞬間を待ち望んでるよ、つらいことがある時も、あきらめない♪・・・」
「素直な心ねえ。」
新一がつぶやいた。
「お前も素直になれよな。」
新一が志保にそう言った。
「じゃあ、俺は戻るから。がんばれよ。」
そう言って戻ろうとする新一。しかし、志保はある決意を固めていた。
「待って。」
「?」
「あなたが言ったとおり、素直になってみようと思うわ。・・・・・・・・わ、私、あなたが、工藤君が好き。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はあああああああ!!!!!!!!」
叫ぶ新一。
「あのさ、灰原。おめえわかってるよな。俺が好きなのは蘭だって言う事。」
「わかってるわ。けど、私はあなたがすきになってしまったの。けど、よく考えれば私とあなたとでは住む世界が違うわ。例え蘭さんがいなくても、私なんか・・・・」
志保は黙ってしまった。
しばしの沈黙を破って、言葉を紡いだのは新一だった。
「そんなことないぜ。」
「え?」
「お前が優しくて、壊れやすい人間だってことはわかってるぜ。確かに、お前は罪を犯していたかもしれない。けど、それを自覚し償おうとしているんだから、それでいいんじゃねえのか。そして、人を好きになるのは誰だって有ること。むしろ自然な事さ。・・・・・・おめえは本当にいい奴だよ。もし蘭がいなかったら、あながちおめえの事を好きになっていたかも知れないぜ」
「工藤君。」
「けど、今俺が愛してやれるのは蘭だけなんだ。ごめん。」
「いいのよ。」
「え!」
「あなたにそう言ってもらえただけでもうれしい。私ずっとあなたに好きって言おうか迷っていたの。どうせふられる、けどもしかしたらってずっと思っていたの。だから反ってすっきりしたわ。」
「灰原。」
「さ、作業を続けるから。それに工藤君昨日あまり寝てないんでしょ。少し休んだら。」
「ああ、そうするよ。それじゃあ灰原も頑張れよ。」
「ええ。」
そして新一は戻り、志保も何事も無かったかのように、作業を続けた。ただ、このことが二人に与えた影響は大きかった。
ちなみに、実はこの光景を平次や快斗達に見られ、この後冷やかされる事になるのは、別の話である。
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