暑い、暑すぎる。地球温暖化は思っているよりもはるかに深刻らしい。
高校最後の夏休みも終わりに近づく8月の真っ昼間。私は同じクラスの太一と2人で学校の運動場にいる。木陰に置いてあるベンチに腰掛け、特に盛り上がる会話もなく、ただ2人でぼーっとしていた。背中を汗が一筋伝う。
「誰も来ないね」
「来ないな」
今日は、夏休み開けにある体育祭についてクラスの応援団がいろいろと話し合う日なのだ。集合場所は確かに運動場だったはずなのに、一時間過ぎた今でも集まっているのは私と、団長の太一だけ。
だけど嫌な気分はない。好きな人と夏休みに二人っきりになれるなんてめったにないのだ。暑かろうが何だろうが、この時間がずっと続けばいいな、なんて密かに思ったりしていた。
「くそ、暑いな」
「そりゃ夏だからね」
「それにしてもこの暑さは異常だろ」
私とは対象に太一は珍しくイライラしている。暑い暑い、と言いながらうなだれた。だけど私から見れば全然暑そうに見えない。汗ひとつかかずに暑い暑い、を連呼する彼はどこか不自然に見えた。
「よし、帰ろう」
見た目とは裏腹に、余程暑いのだろう。短くそう言うと、太一はベンチから立ち上がって背中を伸ばした。焼けた肌に白いポロシャツがよく似合う。彼のその姿に私の心臓は少しだけ早くなった。
だけど本当に帰ろうする太一に焦る私。せっかく二人っきりなのだからもう少し一緒にいたいのが事実。この時間が終わってしまう寂しさに思わず引き止めた。
「ねぇ、太一」
「んー?」
「あのさぁ、」
「うん」
「アイス食べに行かない?」
私なりに、かなり勇気を出した一言だった。断られるのを覚悟で誘ったのだけど、アイスと聞いて太一の表情が柔らかくなる。意外にも快く誘いに乗ってくれた。
私が心の中でガッツポーズをした瞬間、太一のジャージのポケットから携帯電話の着信音が鳴った。どうやらメールのようだ。
太一は携帯の画面とにらめっこをしたあと返事を打つより先に、ごめんと言った。あまりにあっさりした言い方だったので、一瞬誰に対して言ったのか分からなかったけど、太一がこちらを向いたので私に言ったのだとすぐに気付いた。
次の瞬間、雲の上から地上へ一気に叩き落とされるような一言を聞く。
「ごめん、やっぱ行けねぇ」
「え?」
ちょっと野暮用が、そう言う太一はどこか嬉しそうで、私の胸はチクリと痛む。
じゃあまたな、と短く言うとくるりと背中を向けて一度も振り向かずに歩いて行ってしまった。
残された私はただ呆然と、小さくなっていく太一の背中を見つめる。こめかみを流れる汗を拭うことも忘れて、一人運動場の隅っこに立つ。
数日前、友達から太一に最近好きな子ができたと聞いていたのを思い出し、じわじわと胸に染み込んでくる虚しさに必死で気づかないふりをした。
太一に彼女ができたのを知ったのは、次の日だった。
夏の背中に恋をした
(走っても走っても、追いつけない)
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