6話 計画
高橋の代わり、妻の沙希を地獄に連れて行く夜魔田。
「いい加減、起きてくれませんかね」
魂というのは死んだ時に気を失っている場合がある。沙希も気を失っていたので、夜魔田が背負って運んでいる。
「休憩所で起きるのを待ちますか……」
天国と地獄の境目にある休憩所。そこから猶予の道と呼ばれる道を通って、天国または地獄に向かう。
猶予の道とは、魂に死んだことを自覚させ、考える時間を与え、、これからのことを覚悟させるためにある。
休憩所に着くと、まず沙希を椅子に座らせて、自分はその隣に座った。沙希は何の反応もなく、当分起きる気配はない。
「飲み物でも飲んでましょうか」
飲み物はセルフサービスのため自分で取りに行かないといけない。夜魔田は立ち上がると、そこに神内がやってきた。
「あれ、胎児の魂はもう処理したんですか?」
夜魔田の前にきた神内は首を横に振った。
「いや、とりあえず天国に置いてきました。先ほど、天国行きの人間が死んだので、先にそれを回収しに行かないといけなくなったので」
「ああ、それで」
「それで、相談なんですけど、あなたが持ってきた魂、少し私に貸してくれませんか?」
神内が貸して欲しいのは沙希の魂。今から回収しに行く魂は、沙希と密接な関係があるので、神内はある計画を立てた。
「貸すって……地獄行きの魂ですよ?」
「ええ、だから。猶予の道を通るその間だけ貸して欲しいんです。少し、思うところがありまして」
「……まあ、それなら構いませんけど。胎児のことで迷惑をかけましたし」
「じゃあ、それでは少しここで待っていてください」
そう言うと、神内は急いで回収に向かった。
この時、沙希が気を失っていることを確認した。気を失っているということはまだ、自分が天国に行くか地獄に行くか知らない。これは神内にとって好都合だった。目を覚ます前に計画を進める必要がある。
***
……僕はなぜ歩いているのだろう?
水崎は繁華街を歩いていた。
……飛び降りて死んだはずなのに
自分がすでに死んで、魂の状態で彷徨っていることに気づいていない。
「死んだのですよ、あなたは」
誰かがそう言った。声のした方に振り向くと、神内が立っていた。
「死んだ? ああ、やっぱり、そうなんだ」
自ら死を選んだだけあって、落ち着いている。
「それで、あなたは?」
「私はあなたを天国に連れて行く天使ですよ」
「天使……天国……」
と言うことは、僕は地獄行きじゃないのか……
水崎は何とも言えなかった。まだ苦しまないと気がすまない、そんな思いがある。
「じゃ、行きましょう」
神内は水崎の手を取ると、宙に浮いた。水崎は一瞬、驚いた表情を見せたが、抵抗することなく神内に従った。
どんどん空高く舞い、雲を突き抜けたと思ったら、いつの間にか地面に立っていた。
「あれ、空に浮いてたはずなのに」
水崎は足元を見ると、確かに地面がある。真黒な地面に、真っ白な空。その二色に支配されていた。
「それじゃついてきてください」
多少、戸惑っている水崎にそう言うと、神内は先を歩いて行った。
「あ、はい」
水崎は返事をして慌ててついてくる。
少しして休憩所に着くと、夜魔田とまだ気を失っている沙希が待っていた。
「ん、どうやら間に合いましたか。それでは夜魔田さん、ここからは私に任せていただけますか」
「ええ、いいですよ。それでは、また後で」
夜魔田は軽く手を振ると、この場から立ち去った。
「さて、と、とりあえずは起きるのを待ちますか。ああ、水崎さん、あなた、この方に見覚えがありますか?」
神内は沙希を指差した。
「いえ、知りませんけど」
嘘ではなく、全く見覚えがない。どこかで会ったのかと、過去を思い出すが見当たらない。初対面のはずだった。
「そうですか」
神内は軽く相槌を打った。
「ん、んん」
不意に沙希が声を上げた。
「あ、タイミングよく起きたようですね」
ゆっくりと目を開く。沙希の視界に真っ白な空が映った。それから、少し視線をずらすと、神内の姿。その横にもう一人。
沙希は水崎に見覚えがあった。忘れるわけがない。水崎との過去は最高に楽しい記憶だった。
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