最終話
二人がやってきたのはあの病院だった。あの時とはまったく変わらず、芝生があり、木があった。そして人が寝転んでいる。何人かはすでに死んでいた。2人は病院の敷地内に入っていった。歩いていて、2人は思った。明らかに人数が減っているではないか。みんなガリガリに痩せ衰え、飢えて死んでいく人が多いと思われる。
「食糧難…か」
「美咲、実験室に行ってみよう。」
隼人に言われるままに実験室に向かった。実感室には血と腐った匂いで充満していた。
「何だ…この匂い…」
とてもひどい匂いだった。床に目を向けると一人の医師が腹に穴を開けて倒れていた。
「もしかしたらあの看護婦かもしれないね」
冷静に、とても冷たく美咲は言い放った。
「あぁ、そうだな。」
2人は悲しそうに、決意した表情で実験室を後にした。
2人は病院の中庭にいた。人々はすでに死を覚悟した顔をして生きていた。どうせ殺されるのだから、そういって自ら命を絶つ人もいた。2人は落ちていたライターを手に取り、病院に油を撒いてそこに火をつけた。人々はただ、その火を見ていた。数人は逃げ出し、数人は虚ろな目で火に魅せられていた。腐ったからだを焼く匂いが充満し、病院は煙に包まれた。美咲と隼人は逃げ出した人間を追うことはしなかった。ただ、自分達も火の中心にいたのだ。自分が焼かれる匂い、使者からもらった服が燃える匂い、髪が焼かれる音を聞きながら、二人の頭の中をまるで水に沈んでいた泥が舞い上がるように、記憶が戻っていった。
「私達は、たくさんの使者を、人間を殺したのね。」
迷彩柄の服を着た銃を持つ元人間達…死者を操り次々に使者を殺していく自分の姿。
「人は強く、脆い。使者も、脆く、強い。」
人間と使者が戦ってる中に生身で入り、蹴りを入れて骨が折れる音まで鮮明に思い出せる。
パチパチと、美咲の髪が燃えていた。2人は熱いとは感じなかった。ただ、暖かいと思った。
「青い空を見てみたかった。」
「そうだな」
美咲の腰に巻かれていたベルトが焼け落ち、拳銃が音を立てて落ちた。
「あの世で会おうな、美咲」
「そうね。また、あの世で」
今度は隼人の短剣が音を立てて落ちていった。そしてそのまま2人は目を閉じ、紅い空を見上げたまま崩れるように倒れていった。
しかし、歴史は繰り返されるのである。逃げた人間の中には研究者が数人混じっていた。また新たな場所で、また新たな人間が作成されるであろう。そして作られた人間は言うのだ。
「青い空が、見てみたかった。」と。
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