第4話
地下の扉を開け、すぐに扉を閉める。“人間”は大急ぎで鍵を閉めた。
「ふぅ、間に合ってよかったですね」
にこりと笑いながら“人間”…女性は言った。
「貴女は?」
「私は貴方達人間の言う魔物です。」
その言葉に美咲を護るように隼人は前にでた。
「勘違いしないでください。私は人間との共存を望んでいる魔物です。」
「信じられると思うか?病院で俺たちは襲われた。そしてこの街も全員“化け物”だった!」
「…“化け物”ですか。確かにそうですね。私達魔物は自然を破壊し、青い空を紅くした人間達にそれを訴えようとしたところ、人間は私達の姿を見て戦争を起こした。私達魔物は元々一度戦いになるとなかなか感情を抑えることが出来ない。中には好戦的な者もいるようですが…。」
何を言っているのか、良く分からなかった。
「つまり…、この戦争の原因は人間にある、と?」
美咲は冷たい口調でいった。隼人も混乱していた頭がだんだんと冷静を取り戻していった。
「貴女は俺等の敵じゃない、そういいたいんだろうが、どうやって信じればいいのかわからない。もしかしてここにも“化け物”が潜んでいるんじゃないのか?俺たちがお前との話しをしていて、無防備になったところを狙っているんじゃないのか?」
隼人は早口で言った。いつ攻撃を仕掛けられるか分からないからだ。
「そんなことは絶対にしません。それに…ここにいるのは私だけになってしまいましたから。私の仲間達は他の魔物達に戦争をやめようと言いました。でもそれがいけなかった。自分達“使者”が人間に屈してはいけないと、私の仲間達は殺されました。」
「使者?使者ってなんですか?」
美咲は強気でいた。いざとなってはこの“化け物”を操ればいいと。
「使者、私達は魔物ではなく使者と言うのです。私の名前はアテムです。貴方方は?」
「私は美咲、こっちは隼人よ」
おい、美咲。そう隼人はつぶやいた。コイツを信じるつもりなのかと。
「もし本当に貴方が私達の味方なら、お願いがあります。」
「何でしょう?」
「私達に武器を与えてください。」
突然の言葉にアテムは考えた。
「人間の使う武器ならたくさんあります。この街はもともと人間の街。それにココは武器倉庫だったようですから。」
アテムが奥の部屋の電気をつけるとそこには剣、斧、槍、銃などたくさんの武器があった。
「…この武器に何も仕掛けしてないよな?」
暫く武器を見回した隼人がつぶやいた。美咲は大丈夫よと声をかけながら銀で薔薇の模様が入った拳銃二丁を手に取った。
「お前な…」
「勘よ、勘」
美咲は笑いながら拳銃の弾をそばにあった拳銃用のベルトに押し込んだ。
「それより隼人、貴方はどれにするの?」
「俺はコレにする。」
隼人が手に取ったのは短剣二つだった。
「お決まりですか?」
ずっと黙っていたアテムが声をかけた。
「これからこの街を抜け出すルートをお教えいたします。ですから早くこの街を出てください。」
アテムは悲しそうに目を伏せた。
「その前に、もうちょっと詳しくこの戦争の事を教えてくれないかしら?人間側から見た戦争は知っているけれど、使者側からの戦争は知らないもの」
美咲は拳銃をしまったベルトを腰に巻きながら言った。アテムはゆっくりと、自分にも言い聞かせるようにポツリポツリと話していった。
「私達使者というのは、自然を愛し、人間と共にずっと生きてきました。この変身能力を使って。人間と共に生き、人間達の過ちも共に見てきました。
知っていますか?この空の色、いつ紅になってしまったと思いますか?20年前なんですよ。意外と最近でしょう?元々は紅ではなく綺麗な青だったのです。ですが人間達の科学とやらにより、その色は失われ、代わりに紅になってしまったのです。理由は未だに分かっていません。大事な空の色が変わってしまい、私達使者はもう人間達の行為を見てみぬ振りをすることは出来ませんでした。最初は皆、人間達も分かってくれると思っていました。私達は人間の姿をやめ、本来の姿で説得に向かったのです。受け入れてくれることを願って。でも、だめでした。幸い私達使者は戦闘能力に勝っていたので、だれも殺されずに姿を消すことが出来たのです。ですが人間の科学はとても進んでいたのです。人間は戦闘能力を持つ人間を作りました。私はまだその本人達を見たことはありませんが、その2人は使者と人間、戦っているものを見境無く殺していったと聞いています。
この街は先ほども言いましたが元々人間の町です。そして一番科学が遅れている街でもあったのです。戦争が起きても、こんな田舎まで被害はないだろうと人間達は思っていたようですが、私達使者がこの町を訪れた時、人間達は一斉に病院に逃げ込みました。私達はそのままここを拠点にしたのです。
他に何か聞きたいことありますか?」
ふぅと息をつきながらアテムは扉の方を向いた。
「そんな事言ってる暇、無いようですね。」
その瞬間扉が破壊された。隼人は短剣を構え、美咲は拳銃を構えた。アテムは悲しそうに、何か決意した顔をしていた。
「いいですか、振り返らずにまっすぐ走ってください。いいですね、3、2、1、GO!」
アテムがいきなりそういいながら隼人と美咲の背中を押した。2人は驚きながらもまっすぐ走っていった。その瞬間、バーンという大きな音と共に地下は崩れ、2人は爆風によって吹き飛ばされた。
「な…なに!?」
「もしかして…アテムが…?」
呆然としていると、煙の中に使者の影が映っていた。
「ア…アテム!」
美咲がそう叫ぶと、影はゆっくりと煙から出てきた。その姿は服屋の店主だった。
「見つけた!見つけたぞ!アテムが裏切っていたのは驚いたが…自ら自爆するとはな…おかげで皆死んでしまった…これもお前達のせいだ!死ねぇ!」
アテムが、死んだ?自爆?なんだって?もしかして俺等を助けるために?そんな馬鹿な…
「そんな!アテムが…」
「美咲、逃げるぞ。アテムが俺達のために死んだんだ。逃げよう。」
信じてる信じてないは別にして、俺達はアテムに世話になった。いろいろと教えてくれた。俺達を逃がすために死んだんだ。
「いやよ。例えアテムがそれを望んで無くても、私は戦う。」
「美咲!」
服屋の店主は大きな斧を持ち上げて突進してくる。もう時間が無い。あぁなんでこんなにもイラつくんだ。
隼人は短剣を力強く握りながら服屋の店主を睨む。右足で地面を蹴って屈みながら店主の懐にもぐりこみ、右足を思い切り振り上げ顎を蹴り上げる。短剣を握りながら地面に手をついて体制をすぐに元に戻し、ひるんでいる店主の首を切る。倒れこんだ店主の心臓を二つの短剣で突き刺す!
「わりぃな…今イラついてる俺に喧嘩売ってきたお前が悪い。あの世にいきな」
店主は空と同じ紅い血の水溜りの中で動かなくなっていた。
「美咲大丈夫か?」
「大丈夫…ごめんね、アテム…」
美咲は祈るように手を組み空を見上げる。腰には銀色の拳銃が光っていた。
あの後2人は街を見回していたが、もともとそんなに人数がいたわけでもなかったため、皆あのアテムの自爆によって死んだという結論に達した。街を見回ってる間、2人は一言も喋ることなく、食料を拾ったバックに詰め込み街を出た。
行く当てもなく、2人は廃墟をさまよっていた。
「ねぇ、隼人?」
「なんだ?」
ずっと閉じていた口を先に開いたのは美咲だった。
「私ね、思ったの。人間が悪いんじゃないかって。」
「あぁ」
淡々と美咲は喋り始めた。
「人間が自然を壊さなければこんなことにはならなった。使者と人間、共に生きていくことが出来たはずだわ。でも人間は自然を破壊した。もし私が使者で自然を愛す者なら、絶対に許せない。それに、アテムはさっきの街が使者の拠点だと言ったわ。その拠点でもう一人も見かけなかった…使者はほとんど死んでしまったのよ。」
もともと、使者の人数は少なかったのだろう。まだどこかにいるかもしれない使者を探す気にはならなかった。
「あとは人間だわ。アテムは言った。作られた戦闘能力の持った二人の人間を作ったって。それって私達のことだわ。あの妙な能力といい…」
「あぁ…」
ここで再び静粛に包まれた。そして決意したように2人は顔を見合わせた。
「例えアテムがそれを望まなくても、」
「例え神が俺等を罰するとしても、」
2人は声をそろえていった。
「人間を、罪の捌きを」
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