表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

短編小説

ホスピタル!

作者: 夕凪

短編であること

ジャンルは『ファンタジー』

テーマ『マニアックな武器 or 武器のマニアックな使い方』




 長谷川ゆきの。16歳。

 地方の県立高校にかよう、ごく普通の女子高生。趣味はプリクラ。全て変がおで撮るあたしを友達はみんな変だって言うけど、そこはそれ。そういうの含めても一般的な人間だ。

 成績もどちらかと言えば良い方ってだけだし、運動だって人並みだったから成績に合わせて進学したってだけの高校に通いはじめて1カ月。

 


 あたしの通学路は、閑静な住宅街から爽やかな森林にチェンジしたようです。



 あたしはこの世界の勇者として妖精たちに召喚されたらしい。

 ここでは妖精が世界を支えて成り立ってるらしいんだけど、その妖精にある病気が蔓延している。妖精って基本は白いんだけど、その病気になると黒く変色して、妖精として世界を支えられなくなるんだって。

 本格的に病気にかかった数が多くなって、世界を支えるにも病気を治すにも力が足りなくなった妖精たちはカミサマ?に助けてくれとお願いした。それで、たどり着いたのがこのあたし。

 この病気の妖精をたくさん治せば、世界を支える力も強くなってあたしも帰れるらしいから、単純に頑張るつもりで旅に出た。


 この時、あたしの持ち物は学校指定の革のスクールバック。その中にスマホ、筆箱、筆記用具、入学祝で買って貰ったブランドの財布。英和辞典と各種教科書。雑誌の付録で付いてたトートバックの中にはジャージと、休み時間に食べようと思っていたファミリーパックのチョコレート。それから、妖精たちがくれた旅に必要な道具たち。

 今考えればよくもまあこんな装備で旅に出たよ、あたし。

 あれから5年。

 正直、あとどれくらいしたら帰れるか検討もつかないなあ。




 今日もあたしは世界を巡る。

 さすがに制服はきついんじゃないかって年齢になって、あたしは基本ジャージで過ごしてる。

 持ち物に妖精たちがかけてくれた祝福のお陰で汚れたりほつれたりすることはないから、その辺は嬉しいんだけど、さすがに21で制服はね。帰ったあとのことは考えないよ。

 災害が起こった場所にはそういう妖精が多くなってるらしくて、今は土砂崩れのあった山に向かってるんだ。

 途中で何度か治してあげた妖精が引っ付いてきてうざいけど、いつものことだ。


 「あーもう。こっちで合ってんでしょ?何をそんな慌ててんの?」


 目の前を飛び回る妖精たち。

 歩いてるのに、前を塞ぐから邪魔なことこの上ない。


 「は、何?まだダメに決まってんじゃん。今日の目的果たしたら入れるんだから、ちょっとくらい我慢しろっつの」


 もう目的地は見えているんだから、落ち着いててよ全くもう。

 大雨が降り続くその山は、遠目から見るにも無惨な状態だった。禿山ってこういうのを言うんだよねきっと。剥き出しの地面にまだ立ってる木々が、ファイトなドリンクのCMを連想させる。踏ん張ってる木の間や倒れた木のそばにうぞうぞと集ってるのが病気の妖精だ。うん、ぶっちゃけキモい。

 それを認識出来るところまできたあたしはポケットからスマホを取り出すと、アプリを起動させた。

 マップだ。

 何でかマップを開くと周辺地図と妖精が集まってる場所がわかるから、この世界の上空には衛生でも飛んでるんだと思ってる。他に文明の利器なんて見たこともないけど、これに写る理由を納得しようとしたらそうなった。矛盾?そんなん気にしてたらそもそも現実を受け入れられないっての。

 

 「頼むからすぐ集まってよー」


 ぐるぐる取得中のアイコンが回ってるうちに、リュックみたいに背負ってたスクールバックから教科書その他をトートバックに移した。

 ずっしり重くなったトートを肩に背負って、軽くなったスクールバックのチャックを明け閉めする。

 ヂーとかシャーとかそういう音を響かせながら禿山に分け入る。

 足元ぬかるんでるし木は倒れてるしほんと歩きにくいことこの上ない!なのに手は止めることが出来ないから、チャックが奏でる音があたしをいっそうイライラさせる。


 長い時間続けて、ちらりと後ろを振り替える。

 あー、もー、やー、むりー。

 気分はハーメルンの笛吹だ。あれはまだ動物.........だったはずだからあたし的にも許せたけど、もうこれは何回やっても嫌だ。

 前をチョロチョロする妖精たちは白いし、集まってる訳じゃないからキモくはない。

 じゃあ後ろは何でダメかって言うと、黒い巨大な芋虫に見えるくらい密集してうねうねついてくるんだ。密集って言うのがダメ。しかもそれが巨大で、自分についてくるって言うのが更に嫌。


 我慢できなくなったあたしは、新品のままのスクールバックのチャックを全部開放して、一気に離れる。


 「うええ、やっぱキモいっ」


 どう考えても入りきらんだろってくらいの量がジ○リ顔負けの勢いでスクールバックにうねうね突っ込んでる。あー、もう見たくない。

 まあ、何でもね。

 あたしのスクールバックには病気を治す力があったらしくてね。

 これが勇者の武器ってやつらしくて、初めて使い方を教わったときは、バックだけ召喚すれば良かったじゃんって思った。

 チャックの音で病気の妖精を呼び寄せて、バックの中に入れさせる。そうするとどういう効果か妖精は回復するんだって。さっぱり原理とかわからないけど説明は聞いてない。理解できる気がしなかったんだもん。

 後ろに着いてきてた芋む.........妖精が全部中に入ったのと、マップに妖精が映らないのを確認してからスクールバックに歩み寄った。


 「よっしゃ、気合いいれますか!」


 こっからがあたしの本番。

 実はこの中妖精にとってめっちゃ居心地が良いみたいで一回は入るとなかなか出てこない。

 

 「さっさと.........出てこいってのぉ!」


 叫びながら、ばっさばっさとスクールバックを振り回す。

 うーん、そうだなあ。あ、帰ろうと思ってチャリの鍵が見つからないときにやるのより10倍は激しくバックを揺する。中身とか気にしてたら出来ないけど、そんな遠慮は最初の頃に吹っ飛んだ。いつまでたっても出ていきやしないんだから!

 しかも、こうやって振り回すと回復した妖精の力が世界に広がるから、良いことらしいけど、あたし、ほんといらないよねえ!?


 全部出しただろう辺りでトートバックから物を移し、しっかりチャックを閉める。

 またしばらくは入れろってうるさい妖精が増えるだろうけど無視だ無視。


 「はー、じゃあ次は何処かねえ」


 今日もあたしは世界を巡る。

 時にたくさん、時に少しの妖精を、あたしの武器に引き付けながら。



 ああ、もう。

 ほんと早く帰りたいなあ.........!








 

 

武器っちょ企画に反してないかビクビクしつつ。

冷静に見たら可哀想な主人公に.........そういうこともありますよね♪

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ