ふわりふわりと、私の手には雲がある。
触れたらべとべとするような雲が私の手に浮かんでる。
夏のお祭り、迷子の私は一人歩く。
なけなしのお金で買った雲を片手に、歩き続ける。
祭囃子がやけに遠く聞こえて、少し寂しい。
太鼓の音が、人の声が、鈴の音が、私と同じ迷子の声が、今を歌う。
祭囃子はやまずに私は一人。
一人ジャズのテンポで歩き続けた。
人は太鼓を囲い盆踊り、みこしを担ぎわっしょい、わっしょい。
心を躍らせる音が響く。
ぺろりと雲をなめた。高いお空の白い雲はとても甘かった。
「おい、お前なにやってんだよ」
雲の甘さを感じながら祭りを楽しむ私にかける声。
水の様に澄み入る大切な声。
心では満面の笑みを作っているのに、無表情に見えるのだろう。振り返った彼の顔は怒り半分安堵半分、私の二番目に好きな顔だ。
「え? 迷子?」
間抜けな返答、ごめんなさいと謝る事もできない私らしい。
「いやそれはお前の状況だろうが、なに人が一生懸命探し回ってるときに綿飴なめてんだよ」
「こうしたら見つけてくれる。しんじてた」
あきれた顔をする。それは三番目に好きな顔なんだ。
私と彼は、昔からの友人と言うやつだ。だが幼い時はいざ知れず、男女間に友情は存在しない。その区分に漏れない私は、彼にほれている。
近所の夏祭りに、毎年恒例のように二人で行って私は当然のように迷子になる。
もう何回繰り返したかもわからないような恒例行事。このときだけ彼は、私を迷子にしないようにとが策しているが無意味だ。私は彼を見続けてきた、隙なんてどこに生じるか理解している。
「なぁ、そろそろこんな馬鹿な事をするのやめろよ。いつまでも祭りぐらい一緒に言ってやるし、何より俺が女だってお前知ってるだろう?」
あぁ、私が男だということもな。って言うか当たり前のことだと思う。
「立場が逆だといっているんだよ! お前が探しに来い! いったい何のために毎回こんなあほなことをお前はさせるんだよ」
いやいや、君が追いかけてくれる間なら脈ありだろうと思って。なにより、君が見つけたときに見せる喜びと安堵の表情は私が一番好きな顔なんだ我慢してくれよ。
「だから大好きだと、惚れてる、付き合ってくださいお願いします。ってなんども」
「だから毎回オーケーだといっているだろうが!」
「「心の中でな」」
………………………………………………………………わーお。
雲が私の手から零れる、その代わりに私はいつの間にか彼に抱きついていた。
祭囃子の声どころか人の声さえ聞こえなくなくなる。
私の手には、雲より大きなものがつかまれた。
***
季節は冬だ。雪が私の頭に降り積もっていた。
だが私はいつものように彼を待っている。
当然私の立場は迷子、いつものように待つ。
カランカランとお祈りの音が、やっぱり人の声が、年を開ける歓声が響いていた。
「あー、もー、おまえはー」
人ごみを掻き分けながら彼女は、私を見つけてくれた。
「いや、いや、すいません。私は一生探してもらう立場が似合うので」
「言い訳にもなってない」
私より長身な彼女は、そのままこぶしを私の頭に下ろす。
「あははは、まぁいい。じゃあ行こう、神様にお祈りだ」
手を引っ張って二人で歩き出す。
降り積もった雪を二人で払いながら。
綿雨の降り注ぐ空を見ることなくもっと大きなものを手にして。
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