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冒険者ギルド

三章前に少し番外編です。

 冒険者ギルド。


 人間が住まう領域内の都市であれば、ほぼ例外なく支部が存在している組織である。

 その起源は、創世神アナスタシアを崇拝するエメルディア大神殿が、諸外国の介入を防ぐために組織した傭兵ギルドが発端だったとされる。

 エメルディア大神殿は、神殿騎士団という独自戦力を組織したため、傭兵ギルドはその役割を終えたが、傭兵そのものの需要は人類の歴史に戦いが尽きない以上需要が絶えることはなく存続を続けた。

 やがて、傭兵ギルドは戦いのみを生業とする者と、人々から依頼を受けて雑務をこなし、または雇い主を持たずに古代文明の遺跡に潜り持ち帰った宝物で生計を立てる者たちとに分かれるようになった。

 後に、後者は傭兵ギルドから分かれて新たなる組織を設立する。


 冒険者ギルドの誕生である。


 魔物による被害が増加すると、冒険者ギルドはあっという間に組織として大きくなっていった。

 傭兵同様に戦いをこなせるだけでなく、様々な雑用依頼もこなせる彼らは、魔物との戦いで疲弊した諸国にとっても民にとっても、非常に重宝する存在となった。

 

 民にとっては、依頼する場所を一箇所に絞ることによって、その依頼内容に応じた適切な人材に仕事を頼むことができるようになったこと。

 国にとっては、頻発する国内の魔物被害に対して騎士を派遣する必要がなくなること。

 場合によっては、民から訴えを受けた国が冒険者ギルドを通して依頼をすること

もあった。


 多彩な職能集団が集まる場所――それが冒険者ギルドなのである。




 レムルシル帝国の帝都シムルグ。

 シムルグという巨大都市の冒険者ギルドは、東西南北の四つに支部がわかれていた。

 その中の一つ――東支部。

 三階建ての建物の前に、小さな人影が二つあった。

 男の子と女の子。

 男の子のほうが歳上か、女の子よりも僅かばかりに背が高い。

 とはいえ、その男の子も十歳に満たないくらいである。

 男の子が内開きの扉を押して、中へと入っていく。


「ここが冒険者ギルドかぁ・・・・・・」


 中に入ると大きなホールになっていた。

 正面には冒険者と依頼者を媒介する受付のカウンターがあり、三名の職員が座って訪れる冒険者や依頼者に対応している。

 右手側には十の大きな円卓が設置され、それぞれの卓には椅子が六脚ずつ。その奥には長いカウンターと十脚の椅子、厨房らしき場所が見える。

 壁には依頼が明記された紹介文が貼られた掲示板が設置されていた。

 そして左手側には階段と、ギルドの横手で出られるようになっている小さな扉があるだけだった。

 

 男の子はどこか心細げに左腕にしがみついている女の子を促して、真ん中の受付を待っている人の列に並んだ。

 奥の卓を囲んで語り合っていた数人の冒険者や、列で同じように並んでいる者たちが、二人の子供たちへ興味深げに視線を寄越す。


 冒険者ギルドには子供も所属することがある。

 冒険者同士の間でできた子供であったり、帝都の外壁の外に広がる貧民街の子供たちだ。

 冒険者はスリや窃盗といった犯罪に手を染めるよりも、よほど健全な職業だからだ。

 貧民街出身の彼らは冒険者ギルドに所属し、小さな雑務をこなしながら小金を稼いでいく。

 多くの場合はその過程で命を落としてしまったり、四肢を失うなどの重傷を負って挫折してしまう。

 だが、本当にごく少数の者が幸運を手にして、財を成した者も存在する。

 

 いつか冒険者として名を挙げてやる――。


 ほんの僅かしか成功者がいない道とはいえ、夢を追う子供たちは後を絶たない。

 ゆえに、この冒険者ギルドに子供がいても珍しいことではないのだが――。


 二人の子供たちは、とりわけ幼かった。

 男の子の方は、まだ辛うじて冒険者志望の子供に見えなくもない。

 服装も継ぎだらけのシャツにズボン。

 貧民街出身の子供としてありふれた格好をしている。

 だが、その男の子の陰に必死に身を隠そうとしている女の子。

 物語の絵本の中から飛び出してきたような、傍目にも上等な服を身に着けていた。今は多くの視線を集めて怯え不安そうな表情を浮かべていたが、将来はどれだけ美しく成長するのだろうと思わせる愛らしい女の子だった。

 

 周囲の注目を集めながら子供たちの並ぶ列は進み、やがて二人はカウンターの前へと立った。

 

「こんにちは。冒険者ギルドにようこそ」


 受付に座っている若い女性が、緊張した表情を浮かべている子供たちへにっこりと微笑みかけた。

 

(どこかの貴族か、商会の子が依頼にでも来たのかな?)


 受付の女性――ルリアは二人の子供を見て思った。

 身なりから女の子が主人の娘で、男の子が使用人といったところだろうと推測する。

 

「ううん、お姉さん。僕たち冒険者になりたいんだ」


「え? 冒険者登録に来たの!?」


 思わず素っ頓狂な声を出してしまった。

 マジマジと二人の顔を見つめる。

 男の子はともかく、女の子はカウンターにようやく頭が出るくらいの背の高さだ。

 冒険者の子供は一定数存在しているとはいえ、あまりにも幼い。

 男の子くらいの年頃が、冒険者として登録するには一番幼い年齢くらいだ。

 

「えっと、二人ともいくつ?」


「僕が九歳で、こっちが七歳です」


 ルリアは頭を抱えたくなった。

 あまりにも幼すぎる。

 貧民街の子供であっても、大体冒険者として登録し稼ごうと考えるのは十歳くらいからだ。

 ここまで幼い子供は、冒険者ギルドの受付三年というルリアの仕事歴でも初めてだった。

 

「うーん……あのね? 冒険者って、とっても危ないお仕事なの。君はともかく、こっちの女の子には早いかなぁ?」


 もちろん、全てが危ない仕事ばかりではなかったが、集中力の散漫な子供――特にまだ幼い女の子には仕事ができるとは思えない。

 ギルドも信用が第一だ。

 依頼を失敗されてしまうと、信用が落ちてしまう。

 それに――。


(この子、どう考えても良いお家のお嬢様よね。冒険者なんてやって大丈夫なのかしら?)


 ふらふらと街の中を出歩いて、誘拐されたりしないだろうか。

 女の子は男の子の腰に手を回してしがみつき、顔だけを出している。


「大丈夫だよ。こう見えても、僕たち鍛えてるから」


(いやいやいや)


 心の中で首を振る。

 

(やっぱり、諦めさせよう・・・・・・)


 そう思った時、「何してんですか、ルリアさん」と、扉から入ってきたばかりの若い冒険者が聞いてきた。


「げ? このガキどもは宿木亭の二人じゃねぇか」


「ポウラットさん、この子たちのことご存知なのですか?」


 十八歳のポウラットは、最近駆け出しからようやく抜け出しかけている冒険者だ。

 

「ああ、宿木亭の周辺を拠点にしてる冒険者なら、ほとんどの奴が知ってるんじゃないと思います。」


 憧れているルリアに声をかけられて、少し嬉しそうな顔をするポウラット。

 だがすぐに顔をしかめた。


(こいつら、ガキのくせにスゲー身のこなししてんだよなぁ)


 ポウラットは仕事で早く目覚めた時、拠点にしている宿から冒険者ギルドへと通う際に、渡り鳥の宿木亭の裏道を通る。

 その際に、宿の裏庭で木剣を打ち合っている子供たちの姿を何度も目撃していた。

 最初見た時には、こんな早朝からガキは元気でいいなぁと思っていたが、よくよく見ていると、その斬撃の鋭さと身体の捌き方に驚いた。

 

(もしかしたら俺よりも・・・・・・いやいや、そんなわけあるか!)


 首を振るポウラットをルリアは訝しげに見た。


「ああ、まあ登録だけでもしてやればいいんじゃないですか? そっちのちっこい女の子はともかく、こいつなら少しは仕事できるでしょうし」


 そうルリアに告げる。


「うーん、名前は書ける?」


「大丈夫」

 

 貧民街出身の子供たちの多くは字を書けないことが多い。

 だが、男の子は差し出した書類にスラスラと自分の名前を記入した。

 記入するといっても名前と年齢だけだ。

 冒険者は拠点を設けない者も多いし、それ以上書く項目もない。

 

「ウィン・バード、と。ウィン君ね」

 

 差し出された書類に目を通していると、ルリアは袖口を引っ張られた。


「レティも書く!」


 精一杯背伸びして、女の子が主張した。


「えっと・・・・・・お嬢ちゃんにはちょっとまだ早いかなぁ」


「書くの!」


 さっきまで男の子――ウィンの後ろに隠れていたのに、顔を真っ赤にしてグイグイと袖を引っ張ってくる。


「お姉さん、レティも僕と一緒に鍛えたから大丈夫だよ」


 ルリアは仕方なくもう一枚書類を取り出すとレティと名乗った女の子に渡した。


「字は書ける?」


「お兄ちゃんに習ったもの」


 たどたどしい筆跡で「レティ」と記入した。


「じゃあ、ちょっと待っててね」


 ルリアはふぅと溜息を吐くと立ち上がる。

 それから鎖付きの小さな金属製の札を二人にそれぞれ1つずつ手渡した。

 

「これが、登録証ね。冒険者ギルド、シムルグ東支部所属と登録番号が記入されてるのよ。この札は身分証も兼ねるから、絶対に無くさないように注意して」


 それからルリアは子供たちのために、冒険者ギルドの仕事内容をわかりやすいように説明していく。


 駆け出しと呼ばれる間は、掲示板から依頼を受けることができずに、ギルドの斡旋する仕事をすること。

 一人前と認められば、掲示板に貼られた依頼を受けることもできるが、それもギルドの承認が必要であること。

 ギルドの登録証は、身分証として使用することもできる。

 住所不定の冒険者にとって、登録した冒険者ギルドが身元の保証先となってくれるが、万が一犯罪などでギルドに不利益を出した場合には、賠償はもちろんのこと、場合によっては刺客を差し向けられる。


(この子たち、本当に理解出来てるのかしら?)


 うんうんと難しい顔で頷いているウィンの横で、レティはポカーンとした顔で、時たまウィンを真似て頷いてるだけだ。


(この子は絶対に理解してないな)


 確信した。

 

「とりあえずは簡単な仕事からやってみようか」


 ルリアは説明を終えると、仕事が記載されている台帳を取り出して早速二人の前に広げたのだった。






「こんにちは!」


「こんにちはぁ!」


 冒険者ギルドの受付カウンターに座るルリアに、二人の幼い冒険者、ウィンとレティが元気よくやってきた。


「はい、こんにちは」


(この子たち、頑張るわね)


 ルリアの期待以上に子供たちはよく働いていた。

 月に数回の頻度でしか冒険者ギルドへと訪れることはなかったが、ウィンとレティの二人は確実に仕事をこなしていた。

 懸念していた失敗もほとんどない。

 仕事と言っても、冒険という言葉が相応しくない雑務ばかりだ。

 それこそ、失せ物探しや大商人の邸宅の草むしりなどという仕事である。

 多くの駆け出し冒険者が、「その程度の仕事を頼むなよ」「使用人にでもやらせろよ」と言いたくなるようなものばかりである。


 ところが、こういう仕事が本当はバカにならない。

 小さな仕事もコツコツとこなしていくことで、やがて「失せ物を探して欲しい」「草むしりをしてほしい」という雑用依頼を出した大商人とコネができたりすることもある。

 そしてそのコネは将来、貴族や大商人からの指名依頼となって、冒険者へ大きな利益をもたらした例は多いのだ。

 冒険者ギルドとしても、強力な後援者となってくれる可能性がある。

 そのため、駆け出しの冒険者にはどんどんそういった仕事を斡旋する。

 街の通りの掃除、街中に流れている水路の掃除、工事現場の人足などなんでもござれだ。

 こういう安全な街の中で仕事をさせることで、駆け出し冒険者にどんどん体力や技術、さらには人脈、情報収集能力など身につけさせていくことができる。


「何かお仕事ありますか?」


「そうね、これなんてどうかしら?」


 頭だけをカウンターの上に出そうと、必死に背伸びをしているレティの柔らかい髪を撫でてあげると、ルリアは依頼書が閉じられた冊子を取り出してウィンの前に広げてみせた。


「・・・・・・鶏小屋の見張り番?」


「そうなの」


 ルリアは帝都近辺の地図を引っ張りだすと、カウンターに広げてみせた。


 帝都シムルグは堅固な城壁によって囲まれた都市である。

 その外壁の外には貧民街が広がり、その外に農園地帯が点在しさらにその外側には肥沃な草原が広がっていた。

 ルリアはその草原地帯の一つを指さす。

 

「この辺りに広がっている草原にある牧場からの依頼。鶏小屋や畑の野菜が、よく荒らされているらしいの」


「狼のような獣か何かの仕業ですか?」


「そこまではちょっと分からないみたいなんだけど・・・・・・」


 ルリアはウィンの目がみるみる輝くのを見て、言葉を切った。

 カウンターに身を乗り出さんばかりになっているのを見て、内心で「しまった!」と思う。


「……あのね? あくまでも見張りだからね」


「ええ~? やっつけるんじゃないの?」


「畑を荒らしている犯人の正体が何なのか、見つけてもらうだけでいいわ」


 実力のある冒険者は、それに見合う報酬が必要であり拘束期間が長い仕事であれば、当然費用も鰻登りだ。

 そのため、実力的に劣り費用の安い駆け出しの冒険者を雇い、先に調査を行ってもらう。

 その後で、実力に見合った冒険者に依頼を出したほうが結果的に安い。


「危ないからダメです。畑を荒らしている犯人がなんであれ、やっつけるのは別の冒険者にしてもらいます」


「……僕たちだって冒険者なのに」


「お前ら、下調査の仕事を受けるのか? なら俺が一緒に行ってやろうか?」


「あら、ポウラット君。こんにちは」


 ルリアとウィンたちの会話を聞いて、ポウラットが声をかけてきた。

 ポウラットも駆け出し同然の冒険者であるが、こういった下調査の仕事も何度かこなしてきている。

 冒険者ギルドでもポウラットへ一人前の証として、指定依頼を推薦しようかと考えているところだ。


「どうでしょう、ルリアさん。俺がこの子たちと一緒にパーティーを組んで仕事してみれば、危ない目に合わすこともないと思いますよ」


 少し顔を赤くしてポウラットはルリアへと話しかける。


「家畜って、牛とか羊が被害にあってるんですか?」


「いまのとこ、鶏とか兎とかかしら」


「だったら、鼬とか狐、野犬とかの可能性が高そうですね。数が少なければ、俺でも追っ払えるかもなぁ」


「そうねぇ……ウィン君はそれでもいい?」


「ポウラットさんと一緒か。僕は大丈夫です」


「まあ、ちょっと俺の分も入るから報酬減るけどな。追っ払うことができたら、その分上乗せされるだろうし、それほど損はないと思うぜ」


「じゃあ、ポウラット君。お願いするわね」


「あ、ああ! 任せて下さい!」


 ルリアに向かって、ポウラットは思い切り胸を叩いてみせる。

 そんなポウラットを無視して、ルリアは広げた地図をもう一度見なおした。

 依頼のあった牧場のある場所――その場所には少し、帝都の外周部に広がる森の先端が伸びていた。

 

(本当に森の獣が出てきているだけだったらいいんだけど……)



 

 

 ウィンが渡り鳥の宿木亭の主人であるランデルに、冒険者として仕事の依頼を受けたので夜は帰らないと告げてくるのを待って、三人は出発した。

 帝都をぐるりと囲んでいる外壁の門から外に出ると、粗末な小屋が建ち並ぶ貧民街が広がっている。

 市民税を納めることができない貧しい人々や、別の土地から流れてきた者が暮らしている街だ。

 必然、犯罪率も高い。

 ポウラットは子供たち二人に、決して自分から離れないように言い含めてから歩く。


 特に危険なのはレティである。

 明らかに上等な服を身に着けているのだ。

 誘拐犯にとっては恰好のカモである。

 レティは自分がどれだけ危ういところを歩いているのか、あまりよく分かっていないのかぴょんぴょんと飛び跳ねるような足取りで歩いている。

 目を離すと、いつの間にかはぐれてしまいそうで、ウィンは彼女の手をしっかりとつないでいた。

 ポウラットは二人の子供たちに注意を払いつつ、良からぬ視線を向けている連中に対して威嚇をしながら進む。

 ここの連中の装備は錆びた短剣やナイフが主だ。

 駆け出しとはいえ、きちんと訓練を受けてしっかりとした装備を身に着けている冒険者を襲うのはリスクが高い。

 油断さえしなければ、襲われることはない。


 やがて、建っている粗末な小屋の数がまばらになり、作物が植えられている農園地帯へと出る。

 ポウラットとウィンは、ほぅっと二人同時に大きくため息を吐き、顔を見合わせて笑いあった。


「どうしたの?」


「なんでもないよ」


 唐突に笑い出した二人を不思議そうに見上げるレティの頭を撫でて、ウィンが答えた。


「やれやれ、仕事をする前に疲れた気分だ」


 ポウラットは腰の水袋から中身を一口飲むと、ウィンへと差し出す。

 中身は甘い果実の汁だった。

 少しぬるくなっているが、とても美味に感じる。


「レティも!」とせがんでくるレティに、ウィンは飲ませてやった。

 

「お前ら。本当の兄妹じゃないよな?」


「違うよ。レティは友達だよ」


「友達かぁ、いいよなお前ら。俺も本当ならルリアさんとこういうとこを一緒に歩きたいぜ」


 ウィンの頭をガシガシと乱暴に撫でながら、ポウラットはボソリとこぼし周囲を見回した。

 見渡す限りの草原が続き、遠くにはこんもりと生い茂る森が見える。

 日が傾きつつあり、日差しが傾きつつあり羊飼いたちが、羊を追っているのが見える。


「日が暮れる前に目的地に着かないとな。ほら、ウィン。ちゃんとレティの手を引っ張ってついてこいよ」


 気づくと道端の花に興味を惹かれて立ち止まっているレティ。

 いつまでもじーっと花を見つめ続けているレティの手を引っ張るウィン。

 

(ふぅ、ルリアさんが仕事を斡旋したくらいだから大丈夫なんだろうけど、どうにも不安だな)


 見つけた花について嬉しそうにウィンに報告しているレティを見て、ふとポウラットは思案の表情を浮かべる。


(そういえば、この子はちゃんと家の人に言って来てるんだろうな?)


 レティの身なりは間違いなく、上流階級のお嬢さんにしか見えないものだ。


(これ、何も知らない人から見たら、俺がいいとこのお嬢様を誘拐しているように見えるんじゃないの?)


 ポウラットは不安に駆られながら、二人の子供たちの後ろを歩いていた。

 そしてその不安はすぐに的中するのである。




「きゃああああ! 人さらい!!」


「ちっがあああああう!」


 依頼人が待つ草原に建てられた小さな小屋。

 三人を出迎えた依頼人の女性は、浮かべていた笑顔を凍りつかせて絶叫――慌ててポウラットも叫び返したのだった。


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