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彼と彼女の千文字会話 作者:江見村元素

土手編

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漢字

 土手に座り込み、沈む夕日と川のせせらぎを見つめながら。
 一日の終わりに、二人は他愛ない会話を始めます。



「最近漢字をよく忘れるんです」

「ああ、僕もよくある」

「もう歳ですかね」

「早いよ。まだ脳が劣化し始めるほど老いてないから」

「実は私たち四十代後半だったりして」

「だいぶ歳だなオイ。本当にそうだとしたらこれまでの会話がだいぶ寒いよ」

「多分十代後半とか二十代くらいだと思いますけどね。それはともかく漢字です」

「今はパソコンとかケータイで書くことのほうが多いからね。変換を勝手にやってくれるのは便利だけど、そのせいで思い出せなくなるっていうのはあるかも」

「寝る前に日記を付けてるんですけど、書いてる途中で詰まると面倒なんです」

「確かに」

「『うつ』ってどう書いたかなーって」

「『鬱』は書ける人の方が少ないだろ。あと日記書いててそんな字が出てくるって何があったの?」

「『鬱』じゃなくて『打』です」

「なんだ良かった……いや良くないや。それが思い出せないのは重症だね」

「使わない能力は無くなっていくってことですよきっと。逆に言えば使えなくても問題ないと脳が判断してるんです」

「パソコンさえあれば大抵のことが事足りるからね。でもそう思い込んじゃうのはダメな気がする」

「いざというときに正しい漢字が書けないと困りますもんね。ダイイングメッセージを残すときとか」

「うん、そうだね。でもいざってレベルじゃないからそれ」

「ぐぅ、犯人の名前を伝えなければ……あれ? 『だいすけ』の『すけ』ってどう書いたっけ? みたいな」

「カタカナで書けばいいのに」

「それだと大輔さんなのか大介さんなのか大助さんなのかわかりません」

「めんどくさい人間関係だな。まず誰がどのダイスケなのか覚えるのに苦労しそう」

「パソコンを立ち上げている暇はなく、ケータイでちまちま文字を打つのも無理です」

「もう諦めればいいんじゃないかな。どうせ自分は助からないし」

「そんなとき、犯人の顔を撮影してその場で自宅のパソコンと同期。ダイイングメッセージだってフリック入力で素早く残せます。そう、iPhoneならね」

「やめろ」



 一人が腰を上げると、もう一人も立ち上がります。
 そうしてどちらからともなく手を繋ぎ、今日に背を向けて、去っていきました。
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