ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
ハイテク案山子
藤沢の遊行寺を出た龍次たちのハイブリッドカーは、大菩薩に向かっていた。
「長いトンネルだな〜。」
「新笹子トンネルは、約三キロあります。トンネルを抜けると右です。」
「りょうか〜〜い!」
トンネルを抜けると、細かい雪が舞っていた。
「ぅわ〜〜、雪だ。」
「あの信号を右です。」
「りょうか〜〜い!」
「道が狭くなるので、注意してください。」
「はい。なんか、降りそうですねえ。」
「上に行くと、雪が積もっています。」
「どうりで寒いや。チェーンつけてないけど、大丈夫かなあ。」
「おそらく大丈夫です。峠の手前で曲がりますから。」
「ああ、良かった。」
龍次たちを乗せたハイブリッドカーは、草食獣のように、用心深く走っていた。道を照らす灯りなどは、まったくなく、対向車もまったくなかった。
「この道で大丈夫なんですか?」
「大丈夫です。」
「これは、県道かな・・」
「そうです。」
「民家とか、あまり無いんですねえ。」
「はい。」
「大菩薩峠かぁ・・・、凄いところで、陶芸をやってるんですねえ。」
「そうなんですよ。」
「大菩薩峠で、大菩薩陶芸〜!な〜〜んちゃって。」
「おもしろいわ〜、それ。」
「そうかな〜〜。ほほほ〜〜〜。」
「もう少し行くと、大きな農道が左にあります。そこを曲がってください。」
「はい。これをまっすぐ行くと、どこに行くんですか?」
「大菩薩湖です。」
「大菩薩湖…、あっ、あの標識かな?」
「そうです。鹿に気をつけて。」
「鹿〜!?」
「ときどき出るんですよ。目が光ってるので分かります。」
龍次のハイブリッドカーは、ゆっくりと左に曲がった。他に、車は走っていなかった。
「なんだか、幽霊でも出そうだなあ。」
「時々、出ますよ。」
「えぇ〜〜〜、ほんとぉ〜!」
「意外と臆病なんですねえ。」
「カミナリとか幽霊とかゴキブリとか、嫌いなんですよ〜!」
「好きな人は、あんまりいませんね。」
涌井いづみと、愛美めぐみは、後ろの座席に乗っていた。
突然、カラフルな光が闇に輝き、激しい犬の吠える声が車窓を通して聞こえた。
3人は驚いた。愛美が、指差した。
「なに、あれ!?」
龍次が答えた。
「あれは、ハイテク案山子かかしだよ。」
涌井いづみが、龍次の横顔を見ながら冷静に質問した。
「ハイテクかかし?」
「赤外線で獣を探知して、脅かしてるんですよ。僕が内職で作っている、吠太郎ほえたろうに似てるなあ。」
「内職で、そんなの作ってるんですか?」
「ええ。ちょちょいのちょいとね。」
「ちょちょいのちょいと、どこで売ってるんですか?」
「インターネットでね。ちょちょいのちょいと。」
「ハイテク案山子かかしって、難しそうですね。」
「簡単ですよ。構造は、高校の理科程度ですから。ほっほ〜〜〜。」
「さすがだわ、龍次さん。」
「これでも、一生懸命に勉強してきたんですよ。」
「基本は大切だわ。」
「そこらへんの、ボンクラとは違いますよ。」
「龍次さんは、やっぱりインテリだわ。」
「人が遊んでるときにも、一生懸命に勉強してきたんですよ。」
「偉いわ。」
愛美が、龍次に質問した。
案山子かかしなんて、誰でもできるんじゃないの。」
「ところがどっこい、どっこい、どすこいしょ!できないんだなあ〜〜〜。」
「なんで?」
「簡単なようで、難しいんだよ。安くで作るのは。」
「そうか…」
「お金をかけたら、誰にでも出来るよ。」
「どこが違うのかしら。」
「おっとこ、どっこいどっっこい、どっこいしょ!いい質問!」
「一流と三流の違いかな。な〜んちゃって。一生懸命に勉強してきたんですよ。」
「どのくらい?」
「たかが案山子かかしされど案山子かかしに、三年余月、実に長く厳しい歳月だったなあぁ〜〜。」
漫画家の涌井いづみは、なぜか微笑みながら龍次の横顔を見ていた。
「龍次さんって、努力の人なんですねえ。誠実で男らしいわ。」
「そうですかあ?」
「最近の人は、自分ではちっとも努力しないで、他人の真似ばっかりして、楽ばっかりしようとしてるわ。」
「まあね。」
「男だわ。精神に男のどしょっ骨が、貫かれているわ。」
「そうかなあ。」
「ぱっぱり、本物のインテリだわ。」
「そうかなあ。」
「偉いわ。」
「自分の創意工夫で、生活を改善し、新しいみんなの社会を築くんですよ。」
「なかなか出来ることではないわ。」
「そうかなあ〜〜。」
「最近の男は、みんな、真似で生きてるわ。へなちょこだわ。」
遠くの方で、別のハイテク案山子かかしが、閃光をを発しながらマシンガンをぶっぱなしていた。
龍次は、その案山子かかしを、ちらっと見た。
「おお〜〜〜、やってるなあ。」
愛美が、明るく爽やかな声で言った。
「龍次さんって、男らしくて偉いわ。やっぱり本物のインテリだわ〜。」
風が草木を撫でながら、吹いていた。
「やっぱり、山には男らしいニヒルな木枯らしが似合うなあ〜。」
龍次は、無表情だった。すっかり、木枯らし龍次になっていた。
「やけに、国定忠治なやくざでロックな風が吹いてるぜえぇ〜ぃ!」
愛美が叫んだ。
「よっ、高砂屋たかさごや!」
「たかさごや?」
「歌舞伎の掛け声、知らないの?」
「知らない。」
「な~んだ。一流大学出の割には、教養ないのね。」
「教養がなくって、悪かったね!」
まるで、親子の会話のような龍次と愛美であった。
涌井いづみが、ライトで照らされた前方を見ながら、何気に呟いた。
「きっと、愛美ちゃんは、龍次さんのことを気に入っているんだわ。」







この小説は シュールミント の続きです。

最新作は、 人間村 です。

 六角オセロゲーム 

 六角オセロの掲示板 



+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。