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マハラジャ
玉砂利の敷いてある境内けいだいは、人々や彷徨える亡霊たちで賑わっていた。
「いや〜、お見事、お見事!」
お坊さんだった。小さく優しく手を叩きながら静かにやって来た。三人の前で立ち止まると、深く頭を下げた。
「あけまして、おめでとうございます。」
三人も、ほぼ同時に、頭を深く下げ挨拶を返した。
「あけまして、おめでとうございます。」
お坊さんは、穏やかに三人を見ていた。そして、微笑んでいた。
「わたくしも、若い頃には原宿の歩行者天国や、麻布十番のマハラジャで、そういうふうに踊っていましたよ。」
涌井いづみは、興味深く尋ねた。
「マハラジャと言うと、ディスコですか?」
「ええ。」
お坊さんは、踊りだした。「いぇ〜〜!」
龍次は驚いた。
「ぅっわ〜〜、それは奇遇だ!」
「麻布十番の、マハラジャで?」
「ええ、メインは横浜でしたけど。」
お坊さんの踊りは、すぐに終わった。踊り終わると、目を閉じて手を合わせた。
「南無阿弥陀仏!」
愛美めぐみが、みんなに質問した。
「マハラジャって、なんですか?」
その質問に答えたのは、龍次だった。
「僕たちが若い頃に流行った、踊って遊ぶところだよ。」
「パラパラみたいなの?」
「ありゃ〜、盆踊りだね。ユーロビートだよ。」
「ユーロビート?」
「…荻野目ちゃんだよ。」
「おぎのめちゃん?」
「荻野目洋子ちゃん。」
「どういうの?」
「ダンシング・ヒーローだよ。」
またも、お坊さんが踊りだした。
「こういうの。…愛してるよなんて〜、誘ってもくれない〜♪」
「ああ、それ。知ってる!」
お坊さんは、踊るのを止めた。目を閉じて手を合わせた。
「南無阿弥陀仏!」
境内けいだいには、外国人も多かった。中国語が飛び込んできた。三人だった。
「ツェ・スゥオ・ザイ・ナー・リ?」
三人は、それぞれに顔を見合わせて、しどろもどろしていた。
お坊さんが、澄んだ声で答えた。
 「ニー・シュオ・シェン・マ?」
「ツェ・スゥオ・ザイ・ナー・リ?」
 「イー・ジー・ゾウ・ワン・ヨウ・グアイ。」
「シエ・シエ。」
 「ブ・ヨン・シエ。」
中国人たちは、頭を下げると、去っていった。龍次たち三人は驚いた。
「中国語も、できるんですか?」
お坊さんは答えた。
「お経は、中国語で書かれてありますからねえ。」
「なるほど〜。」
愛美が、お坊さんに尋ねた。
「あの人たち、何て言ってたんですか?」
「トイレを尋ねていたんですよ。」
涌井いづみは、中国人らしい観光客を見ていた。
「中国からの観光客って、多いんですか?」
「ええ、去年あたりから多いですねえ。ほとんどが、中国の沿岸部の方々ですね。」
「香港とか、北京とか、上海とかですか?」
「ええ、そうですね。中国は、外資の工場などで沿岸部だけが裕福なんですよ。内陸部は、まだまだ貧しいんですよ。」
「どうしてですか?」
「たぶん、輸送コストの問題があるんでしょうね。燃料も上がってますからねえ。」
涌井いづみは、「なるほどぉ。」と、頷いた。
「あなたたち、ダンスが好きなんですか?」
涌井いづみは、瞳を輝かせながら、答えた。
「ええ。」
「十二礼という、お経のロックバージョンもあるんですよ。」
「ほんとですか!」
「ほんとですよ。四月八日の、お釈迦様の誕生日にやるので遊びに来てください。」
「のりのりの、ロックンロール八ビートですか?」
「はい。」
「ぅわ〜〜〜!」
龍次が、お坊さんに質問した。
「踊ったら、悟れますか?」
「ええ。」
「わたしのようなものでも?」
「実は、人は生まれながらにして、すでに悟っているのです。」
龍次は驚いた。
「え~~~~~~~~!?」
「いろいろな煩悩が、邪魔をしているだけなのです。」
龍次は、更に驚いた。
「え~~~~~、マジ~~ぃ!」
「それを、本覚といいます。」
「ほんがく…」
「物質も精神も、同じ宇宙の根源、大日如来から生じているものなのです。」
「だいにちにょらい?」
「今日的に言うと、ビッグバーンのことです。」
龍次は、更に更に驚いた。
「え~~~、大日如来とは、ビッグバーンのことだったのぉ~~~~~!?」
「そうなんです。」
「不思議だなあ、どうやってそんなことが分かったのかなあ?」
「深い瞑想からです。」
「お釈迦様の瞑想って、凄いなあ~~。」
愛美が、横から口を出した。
「この人、ボインの瞑想が得意なんです。」
龍次は怒った。
「なんだってえ!」
お坊さんが、龍次に怒った。
「愚か者~~~!」
それから、みんなは心の底から笑いあった。お坊さんも、笑っていた。
怒った振りの上手な、お坊さんと龍次であった。
「お釈迦様は瞑想で、おいらは、迷って走る迷走〜〜、な〜んちゃって!あ~~、おかしい!」
みんなは、しらけた。みんなは、冷たい視線で、龍次を睨んでいた。




この小説は シュールミント の続きです。

最新作は、 人間村 です。

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