踊り念仏♪
「どははは、どほほほ、ばはははのは。」
「龍次さんには、インテリのド根性がみなぎっているわ。」
「そうかなあ。」
「ええ、冷静沈着で感情をコントロールしてるわ。とってもとっても男らしいわ。」
「そうかなあ。」
「やっぱり、インテリだわ。インテリは、決して感情的にはならないわ。立派で男らしいわ。」
「そうかなあ。」
「威張らないところが、さすがだわ。」
「そうかなあ。」
百台収容の駐車場は、ガラガラだった。十数台しか駐車していなかった。
「じゃあ、涌井さんは助手席に乗ってください。」
愛美が、龍次の背中を叩いた。
「わたし、前の助手席がいいわ。」
「前は、危ないでしょう!子供は、後部座席に決まってるの。」
「もう、子供じゃないって!」
涌井いづみは、龍次の隣を歩いていた。
「じゃあ、わたしも後ろの座席でいいです。」
龍次は、予期せぬ返事に焦った。
「えっ、後ろでいいの~?」
「ええ。」
「ば〜か、墓穴を掘ってやんの。」
「なんだって!」
三人は、新型のハイブリッドカーに乗り込んだ。
「いやあ、やけにクルマが少ないなあ。」
「そうですねえ。ガソリンが上がってますからねえ。」
「走りやすくていいですよ。昔の日本みたいで。」
「交通事故も少なくなってるって、テレビで言ってましたわ。」
「そうでしょうね。」
龍次は、静かに発車した。
「さすがに、ハイブリッドカーですね。ガソリンは半分でいいんですか?」
「これ、ガソリンと原子力なんですよ。だから、ガソリンはゼロ!な〜〜んて、冗談。はっはっは。」
愛美は、後ろの席から、「アホ!」と言った。
「なんだって!」
龍次は、怒った振りが得意だった。
「クルマが少なくって、平和だなあ。らんらんらん♪」
「そうですねえ。」
「道路が、ガソリン臭くなくって、いいなあ。らんらんらん♪」
「この自動車、空気が爽やかですねえ。ちっとも臭くない。」
「空気清浄機のコロナ放電で、マイナスイオンの空気をつくっているんですよ。」
「そうなんですか。道、分かりますか?」
「まっかせてよ〜ぅ!」龍次の声は、裏返っていた。
「最近は、二酸化炭素を出さないように、僕もゆっくりと働いているんです。」
「動物の、なまけもののようにですか?」
「はい。なまけものは、超省エネで実に利口ですよ。」
「なるほどねえ。」
「一生懸命に働くと、二酸化炭素を排出して、他の動物や環境に迷惑をかけますからね。」
「…そうですね。」
「プラント設備の仕事を引退したら、趣味で生きようと思ってるんですよ。」
「どのような、ご趣味で?」
「未来住宅の設計施工です。」
「それは、素敵ですねえ。」
「その前に、起点となる村を作ろうと思ってるんですよ。」
「さすが、インテリですね。」
「それには、いろんなプロフェッショナルが必要なんです。」
「そうなんですか?」
「どうですか、涌井さんも?」
「わたしは、ただの漫画家ですから。」
「これからの住宅には、センスのあるアイデアも必要なんです。」
「…漫画を描きながらでもいいですか?」
「けっこう、けっこう!」
後ろから、愛美が口を出した。
「わたしのアイデアも入れてよ〜!」
「いいよ、いいよ。」
「だったら、もっと色んな人を紹介してあげますわ。」
「えっ、ほんとですか?」
「ええ。」
「わ〜、貴重な人脈が増えるぞぉ〜!」
「すっかり、いい天気になりましたねえ。」
「そうですねえ。」
「朝は、凄い風だったんですけどねえ。」
「そうですねえ、おばあさんが叫びながら飛んでましたよ。」
「ははは、それ面白いわ。漫画家の才能がありますわ。」
「そうですかねえ。ひょひょひょ。」
ハイブリッドカーは、一時間ほどで、藤沢の遊行寺に着いた。
< 藤沢山無量光院清浄光寺 > 神奈川県藤沢市西富1−8−1
「でっかい、お寺だなあ。」
本堂の屋根の上でで、誰かが手持ち太鼓を叩きながら踊っていた。両脇に、長けの短い赤い着物を着たギャルが踊っていた。
「あっ、一遍上人が踊っているわ!」
どんどこどんどん なんまんだ〜 ♪ なんまんだ〜 ♪
踊れ楽しや なんまんだ 〜♪ なんまんだ〜 ♪
踊れ 楽しや 歌え うれしや なんまんだ〜 ♪ なんまんだ〜 ♪
涌井いづみは、マリリンモンローのように、色っぽく踊りだした。
愛美も、踊りだした。
龍次も、変な歌を唄いながら、踊りだした。
マリリンモンロー ノーリタリン この世は あの世と 同なじだあ〜 ♪
マリリンモンロー ノーリタリン あの世と この世は 同なじだあ〜 ♪
「愛美ちゃん、スケッチブック!」
「はい!」
愛美は、常時脇に抱えていたスケッチブックを、彼女に手渡した。
彼女は、スケッチブックを素早く受け取った。
「愛美ちゃん、踊ってて。」
「はい。」
彼女は、屋根の上の一遍上人を描き始めた。彼女が描き終わるころ、一遍上人は消えていなくなった。
「あ~良かった!間に合ったわ!」
龍次も愛美も、踊るのを止めた。
「きっと、間に合わせてくれたんですよ。」
「そうかも知れないわね。」
「踊り念仏は、いつごろから始まったんですか?」
「平安時代の末期に死者の霊を慰めるために、空也によって始められ、一遍によって広められました。」
「そぉうなんですかあ。未知との遭遇だなあぁ!」
「その後、多様な形に変化したのが、現在の盆踊りなんです。」
「そぉうなんですかあ。じゃあ、阿波踊りなんかも?」
「はい、そうです。」
この小説は
シュールミント の続きです。
最新作は、
人間村 です。
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