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番外編 ほ たとえばこんな展開は。・・・有りそうで怖い。2
 一面の銀世界。
 夕べの雪が収まって、あたりはまるで静謐な絵画の中に迷いこんだかのようだった。
 連なる立ち木に吹き付ける雪が凍りつき、自然、見事な陰影を作り上げていた。
 怜悧な、佇まい。
 立っているだけなのに、優美な美貌に足がすくむ。
 水の国の王城にあって、開かれた窓から、平原を見つめていたリシャールは長い髪をかすかに揺らした。
 凍てつく寒さ。その寒気。けれども豊かな大地には、雪とて必要不可欠な、自然からの贈り物。
 いつもはその恩恵に深く頭をたれる彼も、今朝は酷く人恋しい思いに囚われた。
 ここに、彼女がいたのなら。
 私の心はここまで寒々としたであろうか?
 自問するも、答えは出ない。
 ただ、粛々と・・・眼差しは自然が作り上げた景観美に囚われていた。

 こそこそと。
 そんな王を心配そうに見つめる影。
 ・・・イルセラとセルリアだった。
 (落ち込んでるな)
 (一向に靡いてくれない姫にどうしていいのか行き詰っているらしいぞ)
 ((リシャール様、セイラン王みたいに、鬼畜にはなりきれないからなー・・・))
 顔をあわせて思慮深げに頷きあう。
 (いっそ泣きつきゃいいのに・・・)
 とは、セルリア。
 (いっそ攫っちゃえばいいのに・・・)
 とは、イルセラ。
 そこでお互いに顔を見合わせて。
 ((いっそ孕ませちゃえばいいのに・・・))
 ううーんと考えるふたり。
 と。ぽむ!と手を打ったセルリア。尚もこそこそと、イルセラに耳打ちする。
 (なあ、なあ、あれってさ、まだあそこにあるのかなー?)
 (あれって何さ・・・?)
 こしょこしょこしょ。
 そして、ニンマリと、微笑みあったふたりだった。
 ((合言葉は、我が君のために!!))

 水の国の双璧が何を成しているのかは、誰も知らない。


 ***************************


 専らチヒロの研究機関となりつつある、土の国の技術省では、最高顧問と名を変えたチヒロが今日も何かを作っていた。
 ただし、いつもと違うこの匂い。
 「・・・なんなんだ、このにおいは」
 「あ、オウラン」
 大きな、樽を前にチヒロが微笑んだ。そのチヒロの前には山のような小魚。・・・と、塩。
 内臓を出して腹に塩を詰めていたり、腹を割かずに塩をふりかけ樽に均等に詰めていたり。
 十人ほどの人間が手を動かしている中で、一緒に手を動かしている王妃。
 「うんとね、しょっつる!魚醤って言うんだけど、魚と塩で作る調味料なんだー!」
 重石を載せて終了。あとは時間が解決してくれるはず!
 「技術さんと打ち合わせして、まずは作ってみようってことになったの。捜しても豆に代えられそうな作物はなかったし、米麹なんて作り方知らないし!んで、思いついたのが、これ・・・魚醤なんだけど、これもねー・・・。内臓の処理なんかどうするのか分かんないから、まずは、実験!こっちが内臓処理した方で、こっちはそのまま、こっちは内臓と塩を良く混ぜてから身を並べたもので・・・」
 「・・・だからこうも、魚臭かったわけか・・・」
 「あ、ごめんね、におう?」
 「いや。かまわないぞ。で、どういったものになるんだ?」
 「うん、何年か寝かせて、黒っぽい琥珀の液体を取るんだけど・・・前に、私が持ってきた調味料に、醤油ってあったでしょう?あれの代わりになるんだよ」
 「!!あれか!」
 オウランの目がきらん!と輝いた。
 オウランが私の作る料理の中で絶賛してくれたものの中に、「てりやきチキン」があった。
 ハチミツと醤油で味付けした、スパイシーなこっちの世界の鶏肉は、一級品だった。
 恐るべしジャパニーズフード!
 アメリカ、フランスなどのなみいる美食大国を席巻した「テリヤキ」はここ、土の国の王様の胃袋もがっちり掴んで放さなかった。
 オウラン、目の色が真剣だよー。目力すごいよー!
 「何年寝かせればいいのかも実験したいから、これから、いろんな小魚で試すの。その中で、どれが一番味よく仕上がるか、あと、塩分濃度も調べたいし・・・」
 「全面的に協力する!予算はまかせろ!うるさい奴には、俺が許す、テリヤキを食わせてやれ」
 「え、いいの?お醤油、流石になくなるよ?」
 界渡りの時に持ってきていた大瓶の醤油はもう残り少なくなっていた。オウランが余りの美味さに、封印を叫んだそれ。ええー、いいの?
 「仕方あるまい。だが、何年か後にこれと似たような調味料が出来るのだと知れば、協力は惜しまないだろう!」
 「そうだね。じゃ、今日はテリヤキチキンで!」
 最後の醤油かー。なんか、最後の晩餐みたいだわ。使い切ったら、少なくとも半年は醤油もどきにすらに出会えないんだもん。感慨も深くなるってもんねー・・・、美味く作れなかったら、大変だわ!
 にっこり笑って精を出す王妃殿下、だった。
 そして、作業が終わり、彼女が調理に向かうべく、ぽてぽてと王城を歩いていた頃。

 淡く輝く、青い光が土の国の王城深くで瞬いた。

 小さな青い一点は複雑怪奇な文様を描く。淡い光が走る、交差し、円を描き、重なって、やがて巨大な魔方陣を描き出した。見たことのある者のみが分かる代物。それは、あのクルス亭で使われていた転移方陣をさらに高度に昇華させた魔方陣だった。

 ・・・そこは、土の国の調理場。
 沢山の人々が働くその場所で、青い光は明滅する。人の目に触れてもなんら自然光と変わらぬ光は、せわしなく働く人の目にはただの光の反射としか映らなかったのだ。
 そして、魔方陣は待っていた。
 発動のタイミングを。そのきっかけを与えてくれる、ただ一人の訪れを。
 複雑に絡み合った文様は、甘い蜜を持つ娘一人に照準を合わせていたのだ。
 そこへ何も知らぬ娘が現れて、魔方陣を踏みしめ歩き、中央へ。
 その瞬間、明滅する光が溢れんばかりの青い光の本流となって、チヒロを包み・・・消えたのだった。
 
 (・・・これは、夢か・・・?)
 雪に閉ざされた水の国の王城で、自室のベッドの中、リシャールは戸惑う。

 目覚めて尚も見る夢なのかと自嘲したリシャールも、腕の中の暖かさ、柔らかさに要として廻らぬ頭を動かした。現実か?

 柔らかい。
 あたたかい。
 芳しい。
 甘く甘く、脳髄を蕩かすような、芳香の持ち主は。
 「・・・チヒロ・・・?」
 
 眠っているのか、可憐な赤い唇からは、すうすうと健やかな吐息が。
 甘い吐息に誘われて唇を寄せるも、夢かと思って躊躇する。それを繰り返し、繰り返してようやくリシャールは唇を合わせた。
 合わせた端からじんわりと熱が唇に移る。
 ほのぼのと暖めてくれるその熱に、心震えて、胸が熱くなった。
 ああ。たしかに、ここに。
 貴女がここに、居てくれる・・・。
 歓喜のままに口づけを深めた。舌で舌を探り、何度も唾液を嚥下して、チヒロを喘がせた。
 「・・・あ、ん、ふ・・・オウラ、ン・・・?」 
 夢見心地の彼女が呼ぶ声に、我に返った。
 先を叫ぶ心のままに穿ってしまいたかった。
 けれど、この身はオウランに非ず。
 身を引き裂かれてしまいそうだった。彼女がオウランを選んだ時、オウランの横で笑っているのを見ていたとき。なぜ、私の隣に彼女がいないのだろう、と。
 望んで望んで、手を伸ばした始めての人。
 一人は嫌だと泣いて縋ってくれた愛しい人。
 この世界に、ここにいたいと泣いてくれた可愛い人。
 きつく抱きしめた。
 せめてこのぬくもりで、貴女が凍えないように。
 眠るチヒロをただ抱きしめて、リシャールは目を閉じた。
 願わくば。
 明日の朝日が彼女を照らすその様を、目に写すことが出来ますように。


 眠りに着いたリシャール王の部屋の前では、水の国の双璧が念入りに魔方陣を消しにかかっていた。
 誰も追ってこれないように、痕跡を完璧に消し去る。
 「この雪だし、姫も帰るの諦めてくれるといいなー!」
 「だな!ああ、精霊封じの札は?」
 「おーよ、ばっちり!城の騎士総出で城のあちこちに張ってもらってる」
 「おーし、今度こそ追い込むぞ!使える手は全部使って、今度こそ、姫の口からここに残るって言ってもらうんだ!」
 

 水の国の騎士達も、一丸となって、泣き落としに加わるからね!
 だから、我が君!
 ・・・姫を諦めるなんて、まだ、早い!
 
うん。リシャールだとこんな感じかな。相手を思って強く出れない。
でも脇を固めているやつらがやつらなので、泣き落としは結構・・・厳しい。
帰れるかなー。帰れても、しょっつる出来上がってたりしてー・・・。何年後だー?


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