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第二十九話:目覚め・2
 体が本調子になったので、「全快した!」と言ったけど、過保護な奴らが五人、なかなかベッドから出してくれない日が続いた。
 三食はベットで。見張りつき。
 朝。青唐辛子風味のスープ。焼き茄子風デザート添え。
 昼。生山葵、マスタード味の原型が判らないスープ。見た目パンケーキ、その実赤唐辛子粉で練り上げました!な危険物。
 夜。黒胡椒風味、後味はタバスコのクラッカー・・・。とりどりの果物・・・と見せかけた危険物。
 ・・・刺激が強すぎます。どんな猛者でも胃痛をおこすよ。
 ・・・っていうか、本当にこれ、病人食なの・・・?
 でも、食べないと、みんな悲しそうな顔をするので、少しは口に入れなくちゃならない。
 美形の、愁い顔って威力あるね!なけなしの根性振り絞って口に入れることが出来るんだもん。

 そんな彼らは私の部屋で顔を突き合わせてなにやら画策中の模様。
 なんか、黒い物が漂ってるよ!
 「貴殿は、どうする?」
 「・・・行きたくはないが、行かねばなるまいな。」
 「・・・だが、姫はだめだ。」
 「ならば、誰が残る?」
 「・・・・・」
 ずっとこんな感じ。行きたくはないけど、行かなきゃならない。王様は、みんなそう思っているみたい。だから。
 「あの、国の代表としていかなきゃならないんでしょう。そして、それって私にも当てはまるんでしょう?なら、ここで一人待っているより一緒に行きたいです。みんな一緒なら、色ボケくんも手出しは出来ないでしょ。」
 「・・・色ボケ・・・」
 はああって大きくため息をついたオウランが首を振り振りやる気なさそうに言った。
 「まあ、相手の出方を見るにはちょうどいいかもな。エルレア・ロウ・オルデイアは先の国王と同じ血塗れの道を行くのか、それとも、共存の道を探るのか。これから彼の国はその行く末をわれらに示すのだから。チヒロを守るには、そばにいるのが一番かもな。」
 「では、根の国へ?」
 「一緒に、行きます。」
 リシャール様が心配そうに言葉をかけ、それに元気に答えたら、セイラン様に頭を撫でてもらいました。良く出来ました!っていってくれてるんだと思って、うれしくなった。


 そうと決まったら、善は急げとばかりに彼らは動き出した。大人しく寝ていろとのありがたい言葉を残して・・・。そう、暇なのは私だけ。だってする事ないんだもん。
 だから、予てから計画してた事に手を出そうと思いました。この日のために、せっせと話しかけ、ようやく仲良くなった侍女サンに、拝み倒して頂いた侍女の制服。
 わくわくしながら袖に手を通す。髪は丸めて帽子で隠し、準備オッケー。
 「キュウちゃん?」
 確認の声をかける。いくら私でも単独行動がどれほど危険か、よおく判ったから。人の変わりに精霊ってのもなんですけど。
 「あのね、変なひとがいたら、警告してね。ふうちゃんも、お願いね。みどりちゃんは私の手首にまきついて。だいちゃんは隠れてる人がいたら閉じ込めて。足元崩すのもいいかも。あ、怪我はさせないようにね。りゅうちゃん、呼んだら、出てきてくれる?」
 「きゅう」
 「是」
 「応」
 「了」
 「わかった。危ないまねはするな。」
 火、風、木、土、は短く肯定の念を返してくれて、水の精霊のみ、過保護に答えを返してくれた。
 「それじゃあ、チヒロいきます!」

 部屋を抜け出し、お茶セットを持って、調理場へ。
 シャラ様のお声がかりだと大事になって誰も目線すら合わせてくれない。でも、今度こそ、刺激のないものが食べたいから、侍女サンに化けて、調理人に会うのデス。
 ・・・そーっとなかを伺うと、一人のおじさんが頭を抱えてた。仕事は終わったのだろう、調理場はきれいだった。
 「・・・あのう・・・」
 「なんだ。今日はもう終わったぞ。明日の仕込みで頭がいっぱいなんだ。それにここは、王族専用の・・・。ああ、姫様のお茶か。まってろ、今、用意する。」
 「あの、違います!わたし、その、姫様のお口に合う食べ物を、一緒に探せたら、と思いまして・・・!」
 その台詞におじさんは食いついた。
 「どんな物を好まれるんだ!?考えられる、あらゆる物をお出ししたのだが、一向に姫様のお気に召すものがないんだ!あまりの食の細さに、シャラ様はじめ、他国の王様にまで厳しい言葉をかけられて・・・。」
 ・・・脅しを掛けてたのか・・・。おじさんはもはや涙目で、憔悴しきった顔で迫ってくる。私は慌てて、話し始めた。
 「あの、姫様は刺激の少ない物がお好みなんです。辛くなくて、子供たちが好んで食べるものってないんでしょうか?」
 そう、ずっと不思議だった。辛いものは子供達には刺激にしかならない。初めは、辛くない物から慣らしていくんじゃないかな、と。
 ・・・そしたら、でたよ。見た目はでっかいテーブルロールパン。斧でかち割る、茄子味の「デザート」。・・・こいつか。
 「他には?」
 オレンジ色のチョコ風味の「塩味」の果実、バスケットボール・・・
 ゴーヤー味の黄色いりんご(・・・)。
 キャベツとねぎをあわせた香りの、スイカ並の大きさの、どう見てもかぼちゃ(・・・)。
 負けるな、チヒロ。
 「味見をさせていただけますか?姫様との会話で、少々思うところありまして・・・。われわれには、食用として適さない物の中に、お口に合いそうなものがあるかもしれません。」
 そう訴えると、おじさんは、感激して泣いてくれた。相当、煮詰まっていたらしい・・・。

 「この、これのように、クリーム状の物って見たことは?」
 私は、茄子味デザートを指差した。ハチミツは採れる事が判ったから、次はミルク!乳製品!そう思って、まずはイメージから探れないかと、問うてみた。
 「クリーム状?ううん、ラクの実はどうだろう。石鹸の原料なんだが、若い実はうまいぞ。それから、キュイの実かな。」
 「ええ、と動物のお乳って搾らないんですか?」
 といったらすごい顔で見られた。なんか、じろじろ見られて顔がどんどん近づいて!
 「ああ、やっぱり、姫様か!」
 ばれました・・・。
 ああもう!何でばれたのか!ってきいたら、何のことはない、この世界では動物のお乳なんて飲まないから、なんだって・・・。おまけに、月色の瞳で、アウト。でも、収穫はありました。おじさん、リイノさんが、話しを聞いてくれたの。
 「なるほど、な。辛すぎて飲み込めなかったのですか・・・。」
 「はい。色も香りも、とても美味しそうに見えるんですが、私には、辛すぎるんです。」
 「どんな食事をなさっていたのですか?」
 「主食は、主に米で炊いて食べます。主菜は、動物のお肉で、牛、豚、鶏、それから、魚。煮たり、焼いたり、いろいろな味付けで。野菜は、煮たり焼いたりして食べるか、生で食べるか。後は、乳製品です。ミルクから、バターや、クリーム作って、それから、デザート。」
 ああ、夢にまで見たチョコレートケーキ・・・。
 真剣に話を聞いていたリイノさんは、ひとつ頷くと、奥から緑の大きな野菜を持ってきた。
「これは、さっき言ったキュイの実です。大抵はそのまま焼いて食べるんだが・・・。」
 リイノさんがゴリゴリと摩り下ろし始めた。見る見る下ろされる緑の物体からは・・・。
「これ、この香り・・・ミルク?」
「・・・そう、どうしても乳の出が悪い母親の、母乳代わりなんだ。キュイの実は。」
 真っ白な晒しでぎゅっと絞ると緑色の液体が採れた。香りは、ミルク。馥郁として甘い。
 一口飲んだら、あまりの美味しさに、涙が出た。
 見た目は緑で、メロンジュースみたいだけど、味は確かに牛乳、だった。
 「どうだい?姫様?」
 「おいしいです!ありがとうございました!」
 「なんの!ようやく、お口に合うものが見つかってこっちもうれしいよ!あ、うれしいです?」
 おじさんは、次に荒いパン粉みたいな粉を持ってきた。
 「一番味のない粉はこれなんだが・・・。」
 匂いも、味も、小麦粉だった。
 「卵、ありますか?」
 風の国でホットケーキを焼いたから、卵がこの世界にもあるって知っていた。ガチョウくらいにでかい卵。火の国の卵はそれよりは少し小さくて、アヒルくらいの卵だった。
 「ふるった粉に、キュイジュースと、卵を入れて、よーく混ぜてから、薄く焼きます。ここに本当なら、甘いジャムや、バターをぬって食べるんです。」
 「甘い?甘いねえ・・・」
 うーんと唸ってから、何かに気づいたのか、また奥でごそごそしだした。
 「これなんて、どうかな?小さい女の子が好む果物で、甘酸っぱいんだ。」
 それは、巨大な、青いイチゴだった・・・。
 「おおう、ブルーベリー味。煮ればジャムも夢じゃないかも。だけど。やっぱり、あんまり甘くないですね。」
 どっちかと言うと、すっぱくてほのかに甘い、のだ。
 でも、これを使って、ジャムを作ってくれるって、リイノおじさんは約束してくれた。
 脱、危険物の道は近い!
 
 


 


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