第3章:時には月が雲隠れ
咲子を見舞いにいった日の翌日の放課後。智奈は眉間にシワを寄せて、夕陽に染まった階段を見下ろしていた。
「智奈。顔が恐いよ。どうしたの?」
と、もみじは智奈を見て、悪戯っぽく笑いながら言った。
「…何回言えば分かるの?二日酔いよ」
と、目だけをもみじに向けて智奈は言った。
「一日中、不機嫌だったもんね。男子が恐がってたよ」
智奈はもみじの言葉に応えずに、視線を階段に戻した。
「…ここよね。咲が落ちた階段って」
「そうだよ。本校舎。2階。東端の階段。咲から聞いたじゃない」
智奈は左手を手すりに添えて、ゆっくりと階段を降りはじめた。もみじも智奈に続いて階段を降りた。
踊り場に降りると、智奈は持っていたバックからはみ出していた定規を抜き取り、階段の段の縦の長さを測りだした。
「何cm?」
と、もみじはしゃがみこんで訊いた。
「…24・5cm」
そう言って、智奈は定規で肩を叩くと、「…意外に短いわね」
「気がすんだところで私の話、聞いてくれる?丸1日かけて私が仕入れてきた話!」
智奈はもみじを睨みつけると、「…聞いてあげるから、大声出さないで」
「了解」
そう言って、もみじは眼鏡のツルを人差し指で撫でながら、「咲と同じ日に落ちた生徒だけど、名前は奥山秋子。2年4組。この先輩が落ちたのが、西棟の2階。西端の階段ね」
「…たいした情報力ね」
そう言って、智奈は立ち上がった。ゆったりと階段を昇りながら、「…つまり、同じ日に、同じ階から落ちたってわけね?」
「そう。しかも、奥山先輩が落ちた西棟って、渡り廊下で繋がってるじゃない?」
「…そうね」
智奈は階段を昇りきると、廊下に立って、まっすぐに伸びている廊下の果てを睨みつけた。
もみじは、智奈に近づくと、「つまり!この直接上の西端と東端の階段で、2人の人間が『5時55分の怪人』の被害にあったのよ!」
智奈はもみじを睨みつけて、「…聞いてあげるから大声出さないで、って言ったでしょ?」
「了解」
智奈達は廊下を西棟に向かって歩きはじめた。
「奥山先輩ってね、口が軽いことで有名だったらしいよ。2年生の女子の間では常識だって」
と、もみじが左手に並ぶ教室を眺めながら言った。
「…なるほどね」
と、智奈はトイレを右手に見ながら言った。
「それでね、奥山先輩は合唱部なの。落ちた日も部活で残ってたんだって。休憩時間の間に落ちたみたいで、時間が過ぎても帰ってこないから、合唱部の同じクラスの人が捜しにいったんだって」
「…それで見つけた、と」
「うん。でも、救急車をよんだのは別の人。西棟って、理科室とか音楽室とか、特別な教室ばっかりじゃない?一番最初に気づいたのは、美術室にいた美術部だって。他にも科学部とかパソコン部とか、西棟に残ってたって」
と、図書室を横目に見て、もみじは言った。
「…奥山先輩、頭を打ったみたい。まだ意識が戻ってないらしいよ」
「…なるほど。奥山先輩は重症。西棟には人がたくさんいたってわけね」
そう言って、智奈は本校舎と西棟をつなぐ渡り廊下の上で足を止めた。智奈は窓の外に目をやった。
黄昏がグラウンドのサッカー部の影を長く伸ばしていた。智奈は激しく動く影法師達を見つめながら、呟いた。
「…多すぎるわね。容疑者が」
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