それは偽りの月のように。(3/8)縦書き表示RDF


それは偽りの月のように。
作:境 鏡介



第2章:月光は道を照らす


 智奈達の通う高校から、バスで10分程の所にある病院のベッドの上で、パジャマ姿の咲子は大袈裟にため息をついた。
 「全治1ヶ月だって!冗談じゃないわよ」
 「でも、元気そうでよかったよ」
 と、もみじがほっとした様子で言った。
 「そうね。鼻とか潰れてるのかと思ってたよ」
 と、智奈は咲子の左足のギプスの長さを測りながら言った。
 咲子は、智奈の定規を取り上げて、「顔と携帯だけは守りきったの」
 「自分で足を滑らせたんでしょ?誇らしげに言わないでよ」
 と、智奈は肩をすくめて言った。
 「それがね、違うの」
 咲子は、そう言いながら髪をかきあげた。
 「突き飛ばされたのよ。誰かにね」
 「嘘っ!」
 冷蔵庫の中をあさりながら、もみじが大声を出した。
 「もみじ、声が大きい」
 と、智奈はもみじをたしなめて、「足滑らせたのが恥ずかしいからって、嘘はいけないわよ。エイプリル・フールには早すぎるし?」
 「嘘じゃないって。本当なの」
 と、咲子は定規をもてあそびながら言った。
 「詳しく聞かせてよ」
 と、咲子の見舞い品のプリンを配りながら、興奮した様子でもみじは言った。
 「…図書室から出た後だったの」
 と、プリンのフタを開けて咲子は言った。
 「咲が図書室?珍しい」
 と、もみじは目を丸くして、「読書の秋だから?」
 咲子は軽く手を振って、「違うよ。彼氏の趣味。読書家なのよ」
 「読書家?咲にしては珍しい」
 と言って、智奈はプリンを口元に運んだ。
 「咲はスポーツマンが好きだったじゃない」
 「付き合って、知ったのよ。スポーツマンで読書家だったの」
 と、咲子は答えた。
 「文武両道?」
 と、もみじは訊いた。
 「ロマンチストよ」
 と、咲子はうんざりした様子で、「モノクロ映画のラブ・ロマンスしか観たこと無いんじゃないかなって、思うことあるわ」
 「それで、図書室で逢い引き?」
 「…違うけど。似てるかも…」
 そう言って、咲子は言葉を曖昧に切って、恥ずかしそうに顔を伏せた。 咲子の様子を見た智奈は、悪戯っぽく微笑むと、「どうします?桃川さん。恐らく、他人に言うのもためらうくらいの恥ずかしいことしてますよ?」
 「そうですね、栗栖さん?柿崎さんは、確実に恥ずかしがってますからね。期待ができますよ」
 そう言うと、もみじは眼鏡を押さえて、「柿崎さん。どうして、図書室に行かれたのですか?」
 咲子はプリンを口に運びながら、投げやりな口調で、「本。誰も読んでなさそうな本の中に、待ち合わせの場所とか時間が書いてあるメモが挟んであるの。事前に、メールでどの本に挟んであるのか知らされてね」
 「キャー!」
 と、もみじは叫んで、「警報よ!恋愛空襲警報!」
 「恋愛爆撃機来襲!非戦闘員は速やかに退避せよ!」
 と、智奈も声を張り上げた。
 「上官殿!敵軍は恋愛焼夷弾を使用しています!被害は甚大です!」
 「話が脱線したから、本題に戻るわよ」
 と言いながら、咲子は定規で軽く智奈達の頭を叩くと、「とにかく、私は図書室を出て、階段に向かったの。途中でメールが来て、そのメールを見てる間に階段について。階段を降りようとしてたときも、携帯の画面に集中してたから、後ろに誰かいるのに気づかなかったのよ」
 「それで、ドンッ?」
 と、もみじは突き飛ばすジェスチャーをして言った。
 咲子は無言で頷いて、スプーンをくわえた。
 
 
 
 
 「どう思う?」
 「どうって?」
 「突き飛ばされたって話」
 智奈ともみじは、病院の並木道を歩いていた。足元では、秋の色に染まった落ち葉がカサカサと音をたてている。
 「…咲は恋愛がらみで『色々と』やってるからね。もしかしたら本当かも」
 「なるほどね。じゃあ、もう1人のほうはどうなのかな?」
 「もう1人?」
 「咲が突き飛ばされたって日に、もう1人。階段から落ちたらしいじゃない」
 智奈はポニーテイルをいじりながら、「…さぁね。事故か。咲みたいに突き飛ばされたのか」
 もみじは眼鏡を押さえて、「もし突き飛ばされたのなら、突き飛ばしたのは人間か。『5時55分の怪人』か」
 「…何にせよ、同じ日のほぼ同時刻に2人も落ちたのはひっかかるわね。…それにしても」
 言葉を切って、智奈は眉間にシワを寄せた。
 「頭にくるわ。どこかの誰かのせいで、今日の昼休みまでにノートが返ってこなかったんだから」
 「智奈、顔恐いよ。元々しかめっ面なんだから、自重しなよ」
 と言って、もみじは楽しそうに笑った。












ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう