オフィス街の喫茶店 (ショートショート)
美鶴は、オフィス街にある小さな喫茶店の前で、ハイヒールの踵が折れてしまい、困っていた。そこへ親切にその店主が助けてくれた。それからは恩返しのため、毎日その店に通い、いつしか店主の元で働くようになっていた。
雇われ店主で、このまま赤字が続けばクビかなぁと力なく笑う彼を助けるために、美鶴はさまざまなアイディアを絞り出した。
一番人気のブレンドコーヒーを原価ギリギリまで安くして、店の呼び物にし、近くのオフィスと契約して、会議用モーニングコーヒー出張サービスをやり始めた。OLのたまり場にするため、一口大のケーキ六種類選べるというプチ懐石デザートというメニューも作り、大ヒットとなった。
忙しくなってから、早朝の担当は彼が受け持った。午後から閉店まで、そしてその片付け、翌日の仕込みを美鶴が受け持つことになる。
ところが、ヒマにもなり、売り上げもよくなったため、店主は夜、遊びはじめて金遣いも荒くなり、美鶴のストレスとなっていった。
別れたいのに別れられない事情があった。
美鶴は鶴の化身だった。助けられるとその相手に恩を返すため、その人の望みをかなえてやりたくなる悲しい鶴の習性だった。相手の望みがかなっても自分の正体がばれるまでその人のそばを離れられない。しかし、彼とは美鶴とすれ違いの生活のため、鶴の自分の姿など見られることはあり得ない。
そこで、遊びに行った彼を呼び出すことにした。ストレスと毎夜のデザートの研究のため、ぶくぶく太ってしまった自分の本当の姿を見つけさせて、やっと美鶴はその店主から解放されたのだ。