ブスってだけで人生終わってた話
「私、可愛くないから~」
そんな風に言う女の子も、私――A子ということにして下さい――の前では同じ台詞を吐いたりしません。私よりは勝っていると知っているからでしょう。
父も母もごく普通の人なのに、その二人から産まれた私はとんでもなく醜い赤ん坊でした。父は母が浮気したと考え、母は父が整形したと睨む。私は両親の笑った顔なんて見たことありません。
席替えは誰も私の隣を嫌がりました。たまたまその方向を見ていたというだけで、男子に「何ガンたれてんだよ!」 と殴られたこともありました。繊細な女の子だと、「だってA子と一緒なんて……」 と泣き出すこともありました。それらを見た先生は「まあ、仕方ないわよね。A子ちゃんって怖いもの」 と笑いました。モンスターペアレントなんて言葉が生まれる前の話でした。
万事がこの調子だから、私はとにかく存在を消すことに集中しました。ずっと下を向いて、口数も少なく、ひたすら邪魔にならないように。
そうすると、今度は「気持ち悪い」 「何考えてるんだか分からない」 「不気味」 と言われるのでした。
それでも高校を卒業するまでは頑張りました。クラス制から逃れられれば終わる、と信じていました。そして迎えた卒業の日、配られた手作りの卒業文集を見て私は卒倒しそうになりました。
「ブスな子……1位 A子 2位 ○○……」
「怖い子 1位 A子」
「なんかやばそうな子 1位 A子」
「将来犯罪しそうな人(笑) 1位 A子」
余りのことに涙声で先生に訴えました。すると先生は「文集作った子から聞いたけど、個性がなくて皆と交わろうともしない君にも何か、と考えてこうなったって言ってたよ。それを否定するの君は。ネタになっていいとか前向きに考えれば済むでしょう? 大体そんなの出来る前に言えばいいのに今更になって……」
あの文集は、先生が適当に選んだ女子グループに書かせたものでした。
大学ではますます陰気に磨きがかかりました。ただただ人の目につきたくない一心でした。でも在学中はまだよかったのです。就職活動中に気づきました。化粧ではごまかしようも無いえらの張った顔。誰とも話そうとしなかったから普通に話す事も出来ない、滑舌の悪い喋り方。何十、何百社と受けて、全て一次で落ちました。
卒業後は家に引きこもりました。もう、何のために生きてるのか分かりません。
しかしある日、包丁が壊れてしまい、私は恐々外に出ました。
浦島太郎の気分でした。でも人が大勢いるのがかえって怖いのです。皆が私を笑っている気がする。馬鹿にしている気がする。被害妄想だとは分かっている。でも早く帰りたい。せかせかと無駄に力を使う早歩きをして、少し疲れ、私は隅の目立たないベンチに座りました。溜息を吐いていると、小さな子供とその母親がこっちを見ていました。さすがにあんな人は私を馬鹿にしたりしないだろうと、その時はそう信じていました。
「ねえおかーさん、あのおねえちゃんのおかお、きたなーい。なんで?」
母親は盛大に噴き出しました。「もうこの子ったら」 止める様子もありませんでした。
「いーい? みーちゃん。みーちゃんも悪い事したらああいう風に汚い顔になるのよ?」
「やだー! おかーさんはやくあのかいぶつやっつけてー!!」
――今日の昼頃、○○県○○市で女が刃物を振り回し、母子二人を殺傷、止めようとした通行人三人に怪我を負わせる痛ましい事件がありました――
――この女はまず小さな子供を狙ってますからね、狂ってますよ――
――何故こんな事をしたのか。我々はそれを知るため、犯人の女の高校時代の文集を入手しました。こちらです――
「ちょっとお母さん、見てよこれ、犯罪しそうな人だって!」
「やだねえ……犯罪する人はやっぱり早いうちから違うんだね。おおこわ」