Stage 13
とある河原。そこに、執事を首にされ、お屋敷を追い出され、借金取りに売られ、三千院家の権力に因って社会的に抹殺されたこの世で最も理不尽な男・綾崎 ハヤテはいた。
はぁ・・・──溜め息を吐くハヤテ。
「あら、ハヤテくんじゃありませんか」
と、土手の上から声が聞こえてきた。
ハヤテはその声がした方を向いた。その先には、自転車を支えてこちらを見ているマリアがいた。
「あ、久しぶりですね、マリアさん」
「本当ですね。所でハヤテくん、こんな所にいて大丈夫なんですか?借金取りに追われてるんですよね?」
「ええ。ですが、此処にいると何故か見つからないんですよ。だから僕、今彼処に住んでるんです」
そう言って、橋の下にある段ボールの家らしき物を指差すハヤテ。
「と言う事は今、ホームレスって事ですね?」
グサッ!──と、背中に矢が刺さるハヤテ。
「あの、マリアさんに一生のお願いがあります・・・」
「はい?」
「あのクソ生意気な女に内緒で、その、156,804,000円お貸し頂けませんか?勿論、必ずお返ししますので」
「借りてどうするのですか?と言うか、今のハヤテくんにそんな大金を返せる程の充てがあるとは思えませんけど?」
「ですよねぇ・・・。あー、僕はこれからどうすれば良いんだ?屹度何時か、借金取りに見つかって、殺されて臓器を何処かに売られるんだろうな・・・」
ハヤテは一瞬にして暗く成った。
「あの、ハヤテくん?」
「僕の事なんか放っておいて下さい」
「156,804,000円、お貸ししましょうか?」
「えっ?」
暗く成っていたハヤテが、今度は目を点にする。
「あの、今何て・・・?」
「156,804,000円をお貸しします、と言ったのですが聞こえませんでしたか?」
「良いんですか!?」
「構いませんよ。実は私、そのつもりでハヤテくんの事を捜していたんです」
そう言って、自転車の前カゴに収められたトランクを手にするマリア。
「そ、それはもしかして!?」
「はい、156,804,000円です」
と、ニッコリ笑顔で答えるマリア。この時、ハヤテの目には彼女が女神に見えたと言う。
「こらマリアー!その金をどうするつもりだぁ!」
そこへやって来たのは、ハヤテ曰くあのクソ女・ナギである。どうやらマリアが156,804,000円を持ち出した事に気付いて追って来たらしい。
「あら、気付かれちゃいましたね。それじゃあ私は急ぎますので」
マリアはそう言ってトランクをハヤテに渡し、自転車に跨って慌てて漕ぎ出した。が、1ミリも前に進む事が出来ない。振り返ると、荷台にロープが引っ掛かっていた。そのロープが辿る先にはハヤタがいる。
「マリアさん、お金返してくれないかな?」
「えっ、何の事ですか?私は持っていませんよ?」
「惚けるな!先刻お前が156,804,000円をトランクに詰めているのをヒナギクが見たんだ。言い逃れは出来んぞ」
「私は持ってないんです!本当です!信じて下さい!」
一方、ハヤテは橋の下の段ボールの家にトランクを抱えて隠れていた。
「危ねえ、もう少しで見つかる所だった。マリアさん、大丈夫かな?」
と、気配を消しながら土手の上を確認するハヤテ。だが、マリアの姿は無い。それどころか、ナギもハヤタもいない。
「その金を返して貰おうか?」
突然、背後からナギの声が聞こえた。
ハヤテは恐る恐る振り返った。その先には、腕を組んで自分を睨み付けているナギが立っていた。そしてその傍らに、ロープで縛られ、口を塞がれたマリアの姿がある。
「もが、もがもが!」
と、マリアは何かを伝えようとする。因みに今のは、『ハヤテくん、逃げて下さい!』である。しかしそれが彼に通じたかは定かでは無い。
「おい、聞こえてるのか!?それを返せと言ってるのだ!」
だが、ハヤテは無視してマリアを見つめた。
「もがもがもがもがもが!?もがもがもがもがもが!(何をしてるのですか!?早く逃げて下さい!)」
マリアがそう言うと、ハヤテはすっくと立ち上がった。
「マリアさんを置いてくなんて僕には出来ません!」
ハヤテはそう言って、疾風の如く、ナギの横を通り過ぎ、マリアを捕まえて去って行った。
「ゴミが・・・消えた!?」
「否、消えたんじゃない。逃げたんだ。マリアさんを浚ってな」
「解ってるんならさっさと追い掛けろ!」
「無理だ・・・。あの速度ならもう、練馬を出てる。何、心配する事は無い。奴には発信器を付けた」
「あんな短時間でか!?」
「ああ、そうだ」
そう言って、ハヤタは度の入っていない眼鏡を取り出し、スイッチを入れてアンテナを伸ばした。
「おい、それは幾ら難でも著作権的にヤバくないか?」
「知るかそんな事!てかレーダー反応しねえよ!」
「壊れたんじゃねえのか?」
「そんなバカな!?阿○ 博士が作った物が壊れたなんて聞いた事無えぞ!」
「形有る物何時か壊れると言うでは無いか」
ナギのその一言に因り、ハヤタは脱力感に見舞われた。
「で、マリアさんはどうなるんだ?」
「首にするつもりだが?」
ハヤタは頭を抱え、
「マジかよ・・・」
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