ボクはヒーロー
ひらがなが多めになっています。予めご了承ください。
ボクのしょうらいのゆめは、"せいぎのみかた"になることです。
"せいぎのみかた"というのは、わるいひとをこらしめて、みんながしあわせにくらせるようにすることです。
だからボクは、たくさんのひとをたすけるために、たくさんわるいひとこらしめらるようになりたいです。
わるいひとをたおせるようになるには、おっきなからだが大切だとボクはおもいます。
だからボクは、たくさんのおやさいやおにく、おさかなにごはんやパンを食べて大きくなります。
ママは、たくさんたべるぼくをほめてくれてます。
せいぎのみかたになりたいんだというと、りっぱなゆめだね、きっとなれるよ。とあたまをなでてくれます。
ママのきたいにこたえるためにもボクは、はやくせいぎのみかたになりたいです。
このせかいには、わるい人がたくさんいます。
人をころしてしまう人。ものをぬすむ人。いじわるする人。人をたたく人。
みんなわるい人です。
ボクは、そんな人たちをたおすのが、"せいぎのみかた"だと思っています。
ようちえんのおなじクラスの中にも、わるい人はたくさんいます。
たかしくんはしょうこちゃんをいつも泣かせているし、
ゆうじくんはゆみちゃんをたたいてるし、
じろうくんは、ありえるちゃんをヘンな名前! って言って泣かせています。
たかしくんも、ゆうじくんも、じろうくんも、わるいひとなのです。
だから、"正義の味方"のボクが、たおさなければなりません。
ボクは、まず、しょうこちゃんのクレヨンをとりあげてい泣かせているたかしくんに「クレヨンかえしなよ」といいました。
たかしくんは「うるせー。あっちいけ」ってボクを突き飛ばしました。
だから、ボクは隆君をたおすことにしました。
ボクも突き飛ばし返すと、たかしくんは大きなからだでおもいっきりしりもちをつきました。
たかしくんはいたそうなかおをして、目にいっぱいなみだをためてゆみちゃんからはなれていきました。
ボクは"せいぎのみかた"として、いいことをしました。ゆみちゃんにクレヨンをかえすと、
「ありがとお」
って、にっこりわらってくれました。
ボクは"せいぎのみかた"なのです。
こんどは、じろうくんが、ありえるちゃんをわらっているのをみました。
「じろうくん、ありえるちゃんのこと、なんでわらってるの?」
「だってこいつ、なまえへんなんだもん!」
じろうくんはありえるちゃんをゆびさしてわらっています。
ありえるちゃんはたくさんないています。
「ありえるちゃんの名まえはヘンじゃないよ。じろうくんのほうがヘンだよ」
ボクがそう言うと、じろうくんはおこってボクのことをたたきました。ボクもじろうくんのことを、たたきかえしました。
じろうくんはまっかになったほっぺたをさすって、「お前もありえるもおかしな名まえ!」っていってはしっていきました。
ボクは"せいぎのみかた"として、いいことをしました。ありえるちゃんに「ありえるってへんななまえじゃないよ。たくさんいるもん」って言うと、ありえるちゃんは、
「ありがとぉ」
って、泣くのをやめてにっこりわらってくれました。
ボクは"せいぎのみかた"なのです。
こんどは、ゆうじくんがゆみちゃんのかみのけをひっぱっていました。
「ゆうじくん、かみのけひっぱちゃいけないんだよ」
ボクは注意しました。けれど、ゆうじくんはむしして、ありさちゃんのかみのけをひっぱっています。
だからボクも、ゆうじくんのかみのけをひっぱってしょうこちゃんを助けてあげます。ママは人になにかするときは、あいてイヤっておもうか、かんがえなさい。っていいます。だから、ゆみちゃんの、かみのけをひっぱるゆうじくんは、ひっぱられてもしょうがないのです。
ゆうじくんは、みじかいかみのけをひっぱられたので、いたいいたいとおおきなこえをだしました。
「いきなりなにすんだよっ!」
「ボクは"せいぎのみかた"だから、わるいことをしているゆうじくんを、こらしめたんだ!」
ボクがむねをはって言うと、ゆうじくんはひっぱられたかみをおさえて、はしっていきました。
ボクは"せいぎのみかた"としていいことをしました。しょうこちゃんに、「かみのけ、いたくない?」ってきくと、
「せいぎのみかたは、そうやっていじわるしないんだよ」
って、まったくちがうことをいいました。
ボクはどうしてゆみちゃんはありがとうって言わないのかなっておもいました。ボクは"せいぎのみかた"で、いじわるされているゆみちゃんを、たすけてあげただけなのに。
でもきっと、ゆみちゃんは"せいぎのみかた"をしらないのです。
ボクはゆみちゃんに、
「せいぎのみかたは、わるいひとをこらしめるのがやくめなんだ」
っておしえてあげました。
ゆみちゃんが知らなくても、ボクは"せいぎのみかた"なのです。
***
つぎのひ、ボクがブランコであそんでいると、せんせいによびだされました。
せんせいはきっとボクが"せいぎのみかた"としてのこうどうを、ほめてくれるのかなぁって、わくわくしながらせんせいのところまでいくと、せんせいはこまったかおをしていました。
「まさよしくん、どうしてゆうじくんとじろうくんとたかしくんに、いじわるしたのかな?」
「ボクは意地悪してないよ! さんにんがいじわるしてたから、ボクは"せいぎのみかた"だから、こらしめてやったんだ!」
ボクはむねをはって、どうどうといいます。ママは、いいことをしたらどうどうとむねをはっていなさい。っておしえてくれたからです。
「でも、つきとばしたり、かみのけひっぱったり、なまえをばかにしたんでしょう?」
「ちがうよ! さんにんがゆみちゃんと、かありえるちゃんと、しょうこちゃんに、そうやっていじわるしてたから、ボクは懲らしめただけだよ!」
せんせいはこまったかおを、もっとこまったかおにしました。
「まさよしくんは、そうやっていじわるしているひとがいたら、いじわるしてかえすのかな?」
「いじわるじゃないよ! せいぎのみかたとして、ボクはみんなを、たすけただけだよ!」
せんせいはなにを言っても、こまったかおをするだけでした。せんせいは"せいぎのみかた"のボクをしんじてもらえないんだなぁと、おもうと、なんだかかなしくなりました。
そんなかなしかったことをママにはなすと、ママもこまったかおをしました。どうして、どうしてそんなかなしそうなかおをするの? そうきくと、ママはすこしだけ声をちいさくして、言います。
「せいぎって言うのは、あくをこらしめることだけじゃ、ないんだよ」
***
またつぎの日、ボクはずっとほっぺたをふくらまして、すごしました。
"せいぎのみかた"は、いつもあくにかって、みんなにほめられて、すごいって、おもわれるのです。
なのに、どうしてボクだけがおこられたんだろうって、なんかいやでした。ゆうじくんや、じろうくんや、たかしくんは、ボクよりももっとわるいことをしているのです。なのに、どうしてボクだけ。
ぼくのこころのなかには、そのおもいがきえなくて、まいにちようちえんにくると、ほっぺたをぷぅっとふくらましていました。
ボクは友だちとあそばないで、みんながねんどをしているときも、おえかきをしているときも、そとであそんでいるときも、ずーっとほっぺたをふくらましていたのです。
そうしたら、せんせいにおこられて、ボクはかなしくなってようちえんの、はしっこに行きました。
いつもおむかえにきてくれる、バスのうしろにボクがかくれると、ほかにも人がいます。だれかなぁってみたら、ゆみちゃんでした。
「なにやってるの?」
しゃがんでいるゆみちゃんにボクは声をかけます。またゆうじくんにいじわるされたなら、ぼくがやりかえしてあげようって、おもいました。
「あのね、まさよしくん。きて」
そういうゆみちゃんのちかくにいくと、ゆみちゃんの手には、ちいさなとりがいました。
げんきがなくて、すぐにしんじゃいそうなちいさいとりです。
「きっと、このとりさん、あそこにあるおうちからおちちゃったんだよ」
ゆみちゃんがゆびをさすと、ぴい、ぴいってなくとりのおうちがみえました。
「ほんとだ。じゃあ、おうちにかえしてあげないと!」
とりのおうちは、ボクのしんちょうよりも、たかいところにありました。せのびしても、まだまだとどきそうにありません。
「なにか、ないかなぁ」
まわりを、きょろきょろってみまわすと、みんなであそぶ、さんりんしゃがおいてありました。もしかしたら、あれにのったら、とりのおうちまで、とどくかもしれません。
「ゆみちゃん、ボク、さんりんしゃのうえにのるから、すべらないように、おさえててくれる?」
「うん!」
とりのおうちの下までさんりんしゃをもってくると、ボクはことりをゆみちゃんからもらって、さんりんしゃの、すわるぶぶんにたちました。すこしふらふらしたけど、ゆみちゃんがおさえてくれたからたてるようになりました。
「んーっ、あとちょっと!」
あとすこしで、とどきそうです。けれど、あとちょっととどきません。さんりんしゃのすわるぶぶんで、ボクはつまさきだちになると、とりのおうちのすぐ下までとどきました。
「とりさん、あとすこしだよ! がんばってぇっ!」
ちょっとだけことりががんばれば、きっとおうちにかえれそうです。
けれどげんきのないことりは、すこししかうごきません。
「がんばって! がんばって!」
ゆみちゃんもことりを、おうえんしています。
「がんばれー!」
ボクが大きな声でさけぶと、ことりはぴぃってないて、おうちにぱたぱたとなんとかかえりました。
「「やったぁーっ!」」
ぼくとゆみちゃんはうれしくていっしょにばんざいします。
ゆみちゃんが手をはなしたから、さんりんしゃにのっていたボクも、ふらふらあぶなくなって、ころんでしまいました。
「まさよしくんは、せいぎのみかただっ!」
ゆみちゃんがころんだボクに、えがおでいいました。
「せいぎのみかた……? せいぎのみかたっていうのは、わるい人をこらしめるのがしごとなんだよ。ボクはいま、ことりをたすけただけで、なにもしてないんだ」
ゆみちゃんの言ってることがわからなくてくびをかしげると、ゆみちゃんはちがうよっていいました。
「せいぎのみかたっていうのは、こまってるひとをたすたり、よわい人を守るのがしごととなんだよっ。だから、こまってるあたしをたすけてくれたまさよしくんは、せいぎのみかたなんだよ、ヒーローだよ!」
わるい人をこらしめるのが、"せいぎのみかた"じゃなくて、こまってる人をたすけたり、よわい人をまもったりするのが、"せいぎのみかた"。
そういわれると、そうなんだっておもいました。
「まさよしくんっ、ゆみちゃん!」
なるほどっておもっていると、せんせいのおこった声がきこえました。
***
それからボクとゆみちゃんは、いっぱいおこられました。なんでこんなあぶないことしたの、ことりをたすけるのだって、せんせいだったらとどくんだから、せんせいをどうしてよばないの。そう言うふうに、いっぱいおこられました。
すなおにボクとゆみちゃんは、せんせいにごめんなさいって言いました。
せんせいから、たくさんおこられたあとだけど、ぼくはこの前みたく、かなしくなったりしませんでした。
それよりも、ゆみちゃんが言っていた、よわい人を守る、こまっている人をたすけるのが"せいぎのみかた"、と言うことばのほうが、ボクの心にありました。
これからボクは、いじわるしているわるいひとをこらしめるんじゃなくて、よわい人を守ろうってけっしんしました。
ボクは、ヒーローなのです。