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孤高の黒猫
作:秋之



第五話:クロ先輩・シロ先輩


ウォルーナに、共有症候群の発病者と引き合わされてから、既に二週間。

この期間の間、エレクは一度もルビアと会話をしていない。食堂や医務室、廊下などで何度か顔は合わせたものの、そこからの進展は全くなかった。

リリンとは何度か話したのだが、それはルビアの事とは全く関係なく、木星での出来事や、休息はしっかりと取っているのかなど、主にエレクを気遣っての会話である。

別にルビアを怒らせた事が気になり、両親を苛まれている訳ではないのだが、どうにも暇を持て余しているようで、いらない事まで気がまわっているらしい。


「クロ先輩!」

「・・・・・・・・・?」

「本当だ、クロ先輩だ!」

「・・・・・・・・・」

「あ、ちょっと、先輩の事ですよ、貴方ですよ貴方」

「・・・・・・・・・・・・貴方って誰だ」


食堂でぼんやりと椅子に腰掛けていたエレクに、ちょうど授業を終わらせた生徒達がわらわらと集まってくる。

逃げたい、と切実に心に思ったのだが、一つしかない食堂の入り口から十数人出てくる彼らの中を縫って出て行くことは、本末転倒な気がした。


「謹慎処分ですか、先輩」


いきなりエグい事から尋ねてくるのは、若さ故なんだろうか。


「謹慎処分じゃない、はずだ。よく分からない。それよりも、お前等、何しにここに集まるんだ。散れ」

「喧嘩したんでしょー? ウォルーナが言ってたぞ! 二人ともお馬鹿さんだって言ってた」

「言ってたな。・・・そうそう、そのウォルーナがさ、クロ先輩呼んで来いって言ってたんだ。二人っきりで話があるって」

「・・・・・・・・・」


どうして人の脳は、こんなにも記憶力に長けているのだろうか。

今すぐ、前言を聞かなかった事にして、ここから立ち去りたい。

多数の人間は苦手だが、ウォルーナは苦手を超えて、嫌いだ。

あの軽薄な雰囲気、笑顔なんだかニヤついているだけなのか分からない表情、そしてなにより、あの手作り人形。


「なるべく早くってさ〜」

「・・・・・・分かった」


いきたくない、が、ウォルーナは一応、曲りなりにも医者なのだ。

ここで断ってしまって、共有症候群の解決策を泡にしてしまうのは良くない。ウォルーナの話が、共有症候群の事なのかも分からないが。

取り合えず、行くにこしたことはない、という事だ。


「・・・・・・・・・・・・はぁ」


ため息をついて立ち上がったエレクの背を、生徒達が見送る。

いつからだろうか、彼らはエレクをクロ先輩と呼ぶようになった。それは、エレクがここの制服を一向に着ようとせず、木星の、黒地に赤のラインの制服を常用している清だろう。

白地に青のラインの月の制服とは真逆のデザインなので、彼はここで目立つ事この上ない。

かといって、彼が月の制服を着て、似合うのかと問われれば、大半は首をひねるだろう。似合わない、とまではいかないが、似合うことはない。

故に、クロ先輩だ。

ほのかな憧れの意もそこにはあるのかもしれない。

最高年齢の、指令、ルビアと対等に渡り合えるのは、今までウォルーナだけだったのだ。そこに異色のエレクが割り込んで、無理矢理にルビアを説き伏せたと言うのだから、知名度があがるのも頷かれる。

最初は、無表情であるし目付きも鋭く、更に色が朱だったので、生徒達も近付けなかったのだが、そこに、ある勇気ある少年があらわれたのだ。


「あっ! クロ先輩、はようです!」

「………あぁ」

「ウォルーナさんのとこですか? いってらっしゃい!」

「………………あぁ」


その勇気あるものが、今エレクに元気すぎるほどの挨拶をした少年、トキハだ。

彼はその日も食堂で水を飲んでいたエレクに、いつも通りにあいさつをしたのだった。


▼ ▼ ▼


「おはようございます! 先輩は今日、何か用事はありますか!?」

「別に。………お前、誰だ」


トキハの元気すぎる声音に、エレクはうるさそうに眉を寄せて、彼の青い瞳を見る。

ネバーランドは、金髪碧眼の人工が異常に多い。

木星は黒髪黒眼がここと同じくらいに多かった。なので、エレクは木星でも少し変わった存在だった。


「自分はトキハと言います、パイロット候補生です! クロ先輩って呼んでいいですか!?」


食堂入り口付近で、他のパイロット候補生が不安げにこちらを見ていることに気が付きながら、エレクは小さくため息をつく。

クロ先輩ってなんだ、と思いながらも 「好きにしろ」
 と答えると、トキハが小さくガッツポーズを決めた。

そして、食堂入り口付近からも、何やら歓声が。


「先輩、これから僕ら授業なんですけど、シュミレート一緒にどうですか!?」


満面の笑みで、
「一人余るんですよね!」
と、笑顔で言うトキハを、数秒無言で見つめたエレクは、僅かばかり微笑んで、トキハに頷いた。


▲ ▲ ▲


と、後半は僅かばかり美化されたきらいがあるが、そんなこんなで今の少年等とエレクの関係は成立していた。

エレクと付き合ってみると、彼は以外にも優しいことに気が付く。

世話上手と言うのだろうか。

無口に優しい、ワイルドなお兄さん? 迎えに来てくれたなら、友達に見せ付けたくなるような彼氏?

そんなポディションにエレクは立たされていた。しかし、本人はそんな事とは知らない。


「クロ先輩って、なんか格好いいよね〜」

「ルビアさんのこと、今度からシロ先輩って呼ぼうか」

「いいね! それ!」

「だろ〜」


食堂での彼らの話は盛り上がる一方、シロ先輩と呼ばれる事になったルビアは、医務室でエレクと劇的な対面を果たしていた。

戸を開けたら、奴がいた。

思わず、ルビアは一歩後ろに歩を下げた。












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