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初めてのことで、何だかそっけない感じになってしまいましたが、
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「うららさん」
声がする。
それだけで、あたしの心臓は、あたしの脳みそに反抗して、大きな音をたて始める。
何でわからないかな。
誰を好きになっても構わない。でも、わざわざ、自分が辛くなるひとを好きになって、あたしは真性のマゾか何かなのか。
「うららさん」
もう一度、出島さんがあたしの名前を口にして、そっと手を伸ばしてきた。
触られる、と思った瞬間、びくりと体が震える。
それを見て、出島さんは優しくため息をついた。
そっと、髪を撫でられる。
それだけで、あたしはパニックを起こしそうになるっていうのに。
だから。
結局、好きなんて感情は、思い込みが大半なんだから。何かの間違いで、うっかり、出島さんのことを好きかも、と思ってしまっただけ。だったら、もう一度、出島さんを好きだなんて考えなかった自分に戻れるはず。
そうすれば、もっと楽に過ごせる。
出島さんが、側にいようといまいと、あたしの生活は変わらなくなる。固執するからいけない。それがないといけない、と思い込むのをやめれば、こんな苦しい気持ちを味わないで済む。
そうしたら。
任務終了ですね、お疲れ様でしたって笑って、出島さんにお別れが言える。
そうしたら。
二度と、出島さんに会わなくて済む。
そうしたら。
きっと、あたしは、元に戻れる。
あの、平々凡々としていて、平和で穏やかな毎日に。
「ご無事で何よりです」
だから、そんな風に声をかけないでください。
一時の優しさで、ひとが傷つくってことを知らないんですか?
「うららさん?」
何とか戦隊のリーダーらしい出島さんが、颯爽と登場して数分後。
出島さんに放り投げられた河童は、未だに神社の前の境内でぴくぴくしているらしく、それを助けに飛んでいった片割れが、時折「だいじょーぶかー、傷は浅いぞー、寝るなー、寝ると死ぬぞー」なんて雪山遭難ごっこをしている。
あたしはといえば、目の前にいる出島さんに、俯いて、顔をしかめていた。
デリカシーってもんがさ。あんまりにもないと思うわけだよ、あたしとしては。
何か言ってやりたい。
なのに、髪を撫でられ、頭の上から髪の先まで指でなぞられると、悔しいかな、気持ちが良くて。こういうのを、二律背反っていうんだろうか。違うかもしれない。
だから、出島さんの手を振り払えないあたし的には、ぴくぴくしてた河童が立ち上がったのを見たときは、拍手喝采ものだった。
「おい!そこの、水棲種!ちょっと降りて来い!」
おお、怒っている。
ま、当たり前か。いきなりやってきた痛いおとなに、放り投げられたんだから。しかも、何の勧告もなしに。
暗くて良くは見えないけれど、どうやらこちらに向けてびしっと指をさしているらしい河童は、降りて来い、今すぐタイマンだ、と喚いている。
しかし、出島さんは、顔すらそちらに向けずに、
「嫌ですよ」
とだけ言った。
「なんだとーぅ!」
「嫌だって言ったんです。何でわざわざ、うららさんの隣という居心地の良い、しかも髪まで撫でさせてもらえて、明らかに天国みたいな状況を、君みたいな頭の足りない猿人種のために投げ出さないといけないんですか。そんな道理、どこにもありませんよ。あ、それとも、今のも、お馬鹿な猿人種には、理解出来ない高尚な内容でしたか?」
本当に、水棲種と猿人種って仲が悪いんだ……。
皮肉と呼ぶには、あまりにも大っぴらな悪意をもって、出島さんがせせら笑った。その様は、悪役のよう。
「お前!こんなときに、人間なんかといちゃつきやがって!何しにきたんだよ!」
「うららさんに会いに来たんですよ。そして、対面しています。今、心のふれあい中ですから、邪魔しないでください」
しれっと出島さんに返されると、残された河童は、ひそひそ声で話し合い始めた。
「そ、それもそうか……」
「そうだよな。あの人間、水棲種を呼ぶ囮だったんだもんな」
「え?それだけだっけ」
「え?他になんかあった?」
「ええと、あったような」
「ええと、なかったような」
「でも、あったとしたら、何だろう」
「そうだなあ。水棲種、見たかっただけだもんな」
「うん、見たかっただけだもん」
あたしを亡き者にするっていうのは、一体どこにいってしまったのか。ギャグなのか。振りなのか。
あの河童たち、想像以上に頭が悪いのかもしれない。
「おい、水棲種」
「なんですか、煩いですねえ」
「聞きたいことがある」
「スリーサイズなら極秘ですよ」
「そんなものいらない」
「そう。そんなの、見れば分かるから」
「そう、見れば分かる」
「ええええ!見れば分かるんですか!」
聞き捨てならないとばかりに立ち上がると、ぺっぺっと唾を撒き散らしながら、出島さんは必死の形相で尋ねた。
「じゃ、じゃじゃじゃじゃじゃ、じゃあ、う、うううううううううううううううららさんのも?」
「分かるよ。なあ」
「うん。分かる。見れば、分かる」
「そそそそそそ、それは」
ごくりと唾を飲み込む音が、あたしの斜め上からする。言わんでもない。出島さんの、日常的変態慣行である。
「あたしを亡き者にするっていうのが、目的だったんじゃないんですか!」
こんなシチュエーションで、初対面の河童に、あたしのスリーサイズを変態に暴露されるわけにはいかない。
あたしはとりあえず、大きな声でそう言ってみた。
すると、妙な沈黙が降り注いだ後、
「あ」
「あ」
ぽつりと呟く声がした。
うわあ。本気で忘れてたんだ。まずいこと言っちゃったかな、あたし。
と思ったのも束の間。
さっきまで境内にいた筈の河童たちが、あたしの目の前に立っていた。あたしが座っているからというのもあるけれど、すらりとした長身で、意外に筋肉質だった。
「水棲種も、見たし。なあ」
「うん。見た。やっぱり、ねえ」
「うん。感じ悪い。だから、もういい」
「うん。もう、いいや」
嫌な、予感がする。
そしてそれは、的中した。
あたしが座っていた場所は、瓦がめくりあがり、がらがらと音を立てて崩れおちる。
もし、出島さんが、あたしを抱え上げているのが、あと半瞬でも遅かったら、あたしは今頃、足くらいは砕けていたのかもしれない。
ぞっとした。言葉も出ない。
「何で邪魔すんの、なあ」
「うん。邪魔しないでよ」
言葉の尻に苛立ちを露わにして、河童たちが、あたしをお姫様だっこした出島さんを責め立てる。
「言ったでしょう」
呆然として、力の入らないあたしが落っこちてしまわないように、ぎゅっと抱え直すと、出島さんは、お気に入りの河童柄パジャマに身を包んだまま、微笑んだ。
周りは暗いままだったけど、この至近距離なら、出島さんの顔が見える。夜の闇にも隠れてしまわない、瞳。今それは、何か決意みたいなものを滲ませていて、不覚にもあたしはそれに見とれてしまった。
そして、そんな隙を逃さない、天性の才能を授かったらしい出島さんは、素早くあたしのおでこにキスを落とす。それから、不敵な笑みを浮かべて、目の前のふたりに対峙した。
「僕は、うららさんに、会いに来たんです。君たちこそ、僕の邪魔をしないでください」
静まれ、あたしの心臓。
そう念じるのが、あたしの精一杯。
うらら「あの、出島さん」
河童「はいはい、何でしょうか、うららさん!」
うらら「ちょっと気になっていることがあって」
河童「あ、僕のことですね?」
うらら「ええと、そ、それは」
河童「んーもう!水くさいなあ、うららさんたら!僕とうららさんの仲じゃないですか!何でも仰ってくださいよう!何なら、この胸に飛び込んで来てください!さあ、カモン!怖がらなくても大丈夫ですよっ!」
うらら「いや、それは遠慮しておきます」
河童「ああん!つれない!でも、そこがイイ!」
うらら「あの……」
つづく?
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