中学までは鼻たらしたガキだったからさ、俺。よくわかんなかったわけ。いやまあ、今でもそこまで大人になったわけじゃないけどさ。なんつーの?比喩だよ、比喩。
黄本んちってのは、うちの村で唯一の神職についてる家系だからさ。やっぱ、それなりな扱いを受けるわけだよ。小さい頃とかも、黄本とほっつき歩いてると、村の人がやれ団子どうだとか、トマトどうだとか、キュウリどうだとか言ってくるんだけど、決まって黄本のが大きかったもんな。で、丁重にそれをもらってから、歩き始めるとさ、必ず言うわけ、黄本が。こっちあげるよって。でまあ、俺もやんちゃ盛りの育ち盛りで、年中無休で腹が減ってるから、毎回喜んで交換してもらってたんだけど。
えーと、何の話だったっけ?
そうそう、黄本。とにかく、あいつは昔っからそういう奴なんだって。
俺の、自慢の友達だよ。
中学に上がる直前くらいかな?それまでは俊希くん、って呼んでたのに、急に俺のことを岡崎って呼び捨てにするようになった。それで、俺も、うららちゃんって呼んでたんだけど、黄本って呼ぶようになった。そこ、笑うとこじゃねえよ。
で、なんか、ぽーっとすることが増えた。何読んでんのか、いっつも本にカバーしてるからわかんないんだけど、黄本は本を読むことが増えた。それなりに友達もいるんだろうけど、いつ見ても本読んでるか、本を読むために図書館に行っちゃうんだよ。気になるじゃん?何読んでるか。だから、一回こっそりタイトルを見ようとしたんだ。そしたら、すげえ剣幕で俺に蹴りを入れやがった。びっくりしたね。痛かったし。それまでは礼儀正しいこ、って印象だったから、クラスのやつらもびっくりしたんじゃない?ちなみに、タイトルは見れなかったことにしといた。本当は見えたんだけど。「花の嵐は駆け落ちの合図」とかいうタイトルだったかな?何だそりゃ、だよな。あまりにあんまりなタイトルなんで、突っ込めなかったよ。
高校生になる頃にはさ、黄本とも、廊下ですれ違うときに「おう」なんて片手をあげるくらいにしか接点がなくなってさ。でも、黄本があんまりにも変わらずに「おう」って言うから、俺もつられて「おう!」なんて返せる。なんつーか、一定なんだよな、あいつ。いつ見てもあんまり変わらない。別に表情がないわけじゃないんだよ、でも、振り幅が狭い、つうのかな。笑うけど爆笑しないし、呆れるけど激怒はしないし、落ち込むけど鬱にはなんない。だから、一緒にいて楽なんだと思う。黄本のまわりは、いっつも女子がきゃーきゃー言ってる。
だから、すんげえびっくりしたんだって。夏休みに、河原で知らない男と黄本が一緒にいるのを見たとき。男と一緒っつうのも、ちょっとはびっくりしたけどさ。だって、あいつから、そういう恋愛のオーラとか感じないもん。興味あるのかもわかんねえ。男の話もしたとこ、見たことも聞いたとこもないし。
そうじゃなくてさ。声をかけたときの狼狽ぶりがさ。いつもの黄本と、かけ離れてたからさ。
いつもだったら、お前何してんだよーって声だけかけて去るんだけど。あんまりにもその男のことを隠そうとするから、変に気になっちゃって。それでついつい、突っ込んで質問したりさ。
あれだろ?出島さん、って、その一緒にいた男の名前なんだけどさ。あのひと、黄本んちに居候することになったんだろ?
変わったひとだよな、出島さん。いや、変わってるっていうか、特殊っていうか。
は?キス?……何の話か、よくわかんねえよ。
ちっがうよ!誰にだって、触れて欲しくない話題のひとつやふたつあるって話なんだよ!
なんだよ、黒歴史ってどういうことだよ!うるっせえよ、そのことはもういいんだよ!!
そんなことは置いといて、だな。
居候になったいきさつ?さあ……。それが、よく覚えてないんだよな。黄本が河で溺れてさ。そんで、それを出島さんが助けて、スイカを自転車のかごに乗っけて、座席に黄本を乗っけて、黄本んちに向かうまでは覚えてるんだけど。そのあとが、なんか思い出せなくて。気付いたら、黄本んちで黄本の家族と一緒におはぎ食ってたんだよね。わけわかんねえ。
出島さん?う〜ん、いやまあ、あれはあれで良いんじゃない?ちょっと絡みづらいとこはあるけど、別に悪いひとってわけじゃなさそうだし。異様に黄本のこと気に入ってるみたいだよ。知らないよ。好きとか嫌いとか、それは当人の問題だろ。俺が口出しすることじゃないよ。多分ね。
黄本も、まんざらじゃないんじゃないの?あいつ、結構天の邪鬼だから、絶対認めないと思うけど。出島さんはさ、あけっぴろげに黄本のことを見たり、声かけたりするの。でも、黄本は違うんだよな。ちらちら見るんだよ、出島さんのこと。しかも気付いてないみたい。は?言わないよ。何でそんなこと、俺がわざわざ言うんだよ。気付きたかったら、勝手に気付くだろうしさ。
で、結局何の話なんだっけ。俺?俺が黄本のこと、好きかって?それは、惚れてるかって意味で?じゃ、違う。惚れてはいないよ。でも、大事にしたいやつだから、あんまり傷付いて欲しくはないかな。
それはどうかな。考えてもみなかった。ああでも、あるかもね。あいつは、いずれは巫女になるってこと、運命みたいに思ってるみたいだから。運命、じゃないなあ。なんつーか、仕様がない、みたいな。なりたくてなるわけじゃないと思うけど。どうだろうなあ。俺はずっと一緒に育ってきたから、あんまりわかんないけど、高校入ってから、黄本さんって神秘的だよな、って言う奴らがいるのは知ってる。だからさ、それはあれじゃない?感情の振り幅が狭いから。大声出したりとか、そういうのもないし。暗いんじゃないんだけど、目立たないわけでもないんだけど、何か妙に静かなんだよ、たまに。そういうの、俺らの年代じゃ珍しいじゃん?みんな、あることないこと叫んで、毎日過ごしてるっていうのにさ。はは。ま、それは言い過ぎだけど。
これだけでいいの?あっそ。いや、別に。どうせ暇してるから。今?まだ夏休み中だけど。ああ、もうすぐ新学期だな。何で?ふ〜ん。
ていうかさ、そもそも、あんた誰なの?
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