15水色の少女
ブクマが1000件超えました!
感想も貰えました!励みになります!
ありがとうございます!
《容姿・体型について》
・1話でも凄いさらっと書きましたが、容姿と体型だけは課金で直せることになっています。ただ、その場合は初期装備が課金アバター専用のものになるなどの、ランダムプレイヤーに比べてハンデにも似た制限を受けることになります。
・ランダムによってリアルより醜悪な人の顔になることはありません。
彼の、いや彼女の容姿は一言で言うと『儚可愛い』だった。
整った小さな顔とどこか自信なさげな潤んだ瞳。頰を垂れる水色の髪はしっとりとヴェールのように顔を包み込んでいた。そして、目を離したらふと消えていそうな雰囲気があった。
「……あの?どうし、た、か……ですか?」
彼女は体の麻痺が取れたばかりだからか、それとも生来の気質故なのか。片言、というよりもちぎれちぎれに言葉を発する。あと敬語があまり上手くないようだ。
そんな発音も儚可愛い!なんて考えてしまっている僕は彼女の見た目に想像以上にやられてしまっているのだろう。
ぼけー、とした顔でシルルを見続けているとコノカがジトっとした目で見てくるのを感じた。
「いや、ギアリーがやられるのはどうでもいいのですが、この子、ギアリーが止まっちゃってるせいでどうしていいかわかんなくなっちゃってますよ」
「……ああ、ごめんよハニー。別にコノカを蔑ろにしていた訳じゃないんだ。今も昔も変わらず僕は君のことを愛してるぜ」
「ダーリンは惚け過ぎて遂に頭も阿呆になりましたか?」
ずびし。そんな事を言ってコノカは僕の頭をチョップした。まるで壊れかけのブラウン管テレビを叩くかのように。一見全時代的でなんの生産性もないようなその行為は僕にはしかりと意味があったようで、なんとか常考を取り戻すことができた。
……僕はテレビだった?てかこのやりとりに既視感があるな……。
「……サンキュー、目が覚めた。しっかし美少女の不意打ちは卑怯だよな。なんというか、思考が侵される気がするよ」
「大丈夫です。侵してるのはギアリーの邪心ですから」
何が大丈夫なのか。
「それよりも、この子をこれ以上放っておくと可哀想ですよ」
「そうでした」
取り敢えずは目の前の儚い方の美少女だ。
とはいえ、中途半端に放ってしまったためいざ話題を戻しても妙な沈黙が部屋に落ちてしまう。おい、どうにかしろよ、コノカ。「それは男として情けなくないんですか?」だって?知らんな。男女平等万歳!
そんな静かな攻防を繰り返すこと1分足らず。見かねたのかベッドで毛布から顔だけを出しているシルルは仕切り直すように、小さくお礼を繰り返した。
「……ありが、と……」
「ちょ!可愛過ぎませんかこの子!!毛布から顔を出していじらしくお礼ををいう様子から言った後少し照れるように顔を傾ける様子まで何から何まで儚可愛いんですが!」
「うるさいです同じやりとりを繰り返す気ですか。……ギアリーは少し黙っててください。私が事情を聞きますので」
ぴしゃりと言われてしまう。水色の少女に近づいていくコノカを目の端におさめながら僕はシルルのいるベットの隅に腰を下ろした。
ガールズトーク盗み聞きの術、発動!
ー・ー・ー
「……うぐっ、ひぐっ……」
「……あ、えっ、あぅ。こ、こ……うぅ」
……なんだこの状況。ガールズトークってこんなに情緒不安定なものだったのか?
目の前にはぽろぽろと涙を流してシルルに抱きつくコノカとそれを見てオロオロしたいけどまだ完璧に体が動かせなくて変な声を出すシルル、という景色が広がっていた。
コノカはシルルの戸惑いなんて御構い無しにぎゅっときつく抱きしめている。おそらくそうでもしれないと、どこか行ってしまいそうで怖いのだろう。彼女は儚可愛いから。
シルルの身の上の話はこんなところから始まった。
「……あの、俺」
「俺っ娘!!」
「黙って下さい」
「すみません」
間違えた。これはなかったことになったんだ。本当(嘘)はこう。
「……俺、名前、シ、ルル・ウォンレッ、ト・ミーネニミ、チ。…気付い、たら、あそこにい、た……」
こうして始まる彼女の身の上話は実に悲惨だった。
ゲームにログインしたらベンチの上で汚い布一枚に覆われた状態で放置。僕のようにキャラメイク画面などもなく突然のことだったらしい。その時のシルルは、体のほとんどが動かすことの叶わない状態で、異常な悪寒に襲われてたそうだ。
ログインしたくても手首から先しか動かないせいで上手くウィンドウが操作できないし、助けを呼ぼうとも変なうめき声しか出ない。当初は心配そうに見ていた周りのプレイヤーもシルルのうめき声に怯えて去って行ってしまったと言う。
もういっそ、諦めて寝てしまおうか、と思ったのが僕たちが出会う三時間も前のこと。
しかし、そんな時だった。彼女は手元にある一冊の手帳に気付いたのだ。
『設定手帳』
小さく書かれたその冊子は都合よく手首から先だけでもめくれそうで、都合よくページ全体が目に入るような位置にあったと言う
見るや否や、目を通してみたらしい。
書かれていたのは一人の少女の悲劇。
華麗なる一族に生まれ、優雅なる人生を踊るはずだった少女の凡そ地獄と評されるに値する半生がそこには綴られていた。
気づけば涙していた、とはシルルの談。
そして、何故だかそれが自分のことだと思い込むような奇妙な錯覚に襲われたという。気づけば彼女の半生を今なら映像付きで思い出せるそうだ。
「……し゛る゛る゛さ゛ぁ゛ん゛!!そんなことがあったんですねえぇぇ……」
コノカよ。そこまでガチ泣きするんじゃぁない。シルルが引いておるぞよ。
「そうか……捨てられた貴族の娘の設定、ねえ。聞く限りじゃ、口にも出したくないような典型的で悪質なドブ家族の設定話与えられちまったようだな。なんというか、同情するぜ」
「……ん。けど、リアルより……なんでも、ない」
「シルルさぁぁぁん!!これからは私が付いてますよおおお!」
リアルより……。
ふっと漏れた一言が恐ろしかったが、聞くのが怖かったし何よりも下手に探ると底なし沼にハマる予感がして「何かあったら言えよ」というのが精一杯でそれ以上突っ込むことができなかった。
情けない僕を笑えよ、ベジータ。
「コノカ……そろそろシルルを放してやってくれ。圧殺なんてしたくないだろ」
「それでこの子が救われるなら私はその罪を負います!!」
「救われねえよ?!」
ちょっと悲しい話に弱すぎやしませんかね?
……おっし、コノカちゃんのためにお兄ちゃんも一つ御涙頂戴しちゃうぜ?!
べりべり。くだらないことを考えつつコノカとシルルを半強制的に引き裂く。マジックテープのような感覚だった。
「……ギアリー、この子は私のパートナーになります」
「うん、少し落ち着こうな。コノカまで冷静さを欠いたらこの部屋には萌狂いと萌狂いと病人だけになっちゃうよ」
それなんてカオスだよ。
「しかしそうは言ってもですね、私にも譲れないものがあるのですよ」
「せめてシルルの意思も考慮したげて」
なんだかゴブリンに対して見せたような並々ならぬ気迫を感じるな。……もしかして、ゴブリンを狩ってまだ1日も経ってないから興奮してるとか?……いや、ないな。ないよな?
ただシルルに対して感情移入し過ぎているだけだろう。
「……あの、俺……えっと」
「どうした?ゆっくりでいいよ」
「ありがと。あ、あの、俺、お、俺を……パーティに入れて、く、だ、さい」
事情を話したきり黙っていたシルルが言い出した言葉はコノカが喉から手が出る程欲しいものだった。やはりというかなんというか、隣でステイする狐娘はシルルの言葉を聞くなり目をキランキランに輝かして僕にはほぼ見せないきらきらな笑顔を振りまいていた。
もしも彼女に尻尾があればふりんふりんだっただろうことは想像に難くない。
「ぎ、ギアリー!いいですよね?」
「ああ、勿論だ。……ただ」
「ただ?ただなんですか?問題なら私が排除して見せましょう!!」
「問題はコノカだ、少し落ち着け」
ずびし。我慢の限界突破から来る怒りの脳天チョップが炸裂した。
「うぅ……痛いです」
「そりゃあ痛くしたんだから当たり前だ。いうならば愛といってもいいだろう」
「愛はこんなに痛くないはずです」
「大人になれよガール」
どうやらコノカは我を取り戻したようだ。これで安心安全だな。
「あ、あの!」
シルルが少し大きな声で呼びかける。大きな声といっても僕たちの普段の喋り声に届くか届かないかくらいの音量なので「お、頑張ったな」といった声量だったのだが、それはどうでもいいことだ。
「どうしたのですか?」
「あ、え、と、その……俺、こんなだけ、ど、さ、ですけど……よ、よ、よ」
一息つく。大きく息を吐き、吸い込む。
「よろしくお願いしま、す?」
そう言ってシルルは、麻痺がようやく溶けたのか、蕩けるような笑いを見せるのだった。