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ヒポポタマス!
作:ごはんライス


 僕が母さんに向かって、「ヒポポタマス!」と叫んだら、母さんはすごく悲しそうな顔をした。ヒポポタマスは英語で、意味は動物の「カバ」だ。別に、バンド名とかじゃないよ。
 僕はそんな母さんの悲しそうな表情を見てると何だかとっても愉快になってきて、食いかけのエビフライを母さんの顔にぶつけてみた。
「わーん。わーん」
 母さんが泣き出し、母さんの配偶者すなわち父さんが怒り出した。
「こら! たけし! 母さんに謝りなちゃい!」
「うん。いいよ」
 僕は、母さんに土下座した。
「申し訳ござらぬ」
 母さんは、僕の頭をふんづけながら言った。
「許さぬ」
 僕は、その言い方がなんだか面白くて、起き上がってマネしてみた。
「許さぬ」
 すると、父さんがまた怒りだして、食いかけのエビフライを僕の顔にぶつけてきた。
「マネするんじゃない!」
 僕は答えた。
「マネするんじゃない!」
 母さんは床に落ちたエビフライを両足でふんづけてグチャグチャにしたあと、拾って、それを一歳になる弟に食べさせた。
 僕は、げらげら笑いながら、「マネするんじゃない! マネするんじゃない!」と叫びながら、テーブルの上に飛び乗って、皿やお椀やコップを次々と蹴飛ばしながら踊った。
 ついには、父さん、マジギレして、僕を殴った。僕は殴られた。身内に殴られた。殴られてしまった。殴られてしまいました!
 殴られて数メートル後方にぶっとび、窓に激突。窓をぶち割って外に放り出され、外をちょうど走っていたダンプカーにはねられて宙を舞った。
 父さんは、エビフライをかじりながら、その様子をベランダから眺め、「むしゃむしゃ。たけしもなかなかやるじゃないか、むしゃむしゃ」とほほえんだ。
 母さんも、「そうねえ。たけちゃんも男の子なのねえ、ふふふふふ」とほほえんだ。
 僕も、宙を舞いながら、なかなか愉快で、げらげら笑っていた。
 しかし、内臓が破裂していたので、その愉快さは長くは続かなかった。
 アスファルトに叩きつけられると、間もなく静かに息をひきとった。
 父さんは、「なんだ。もう終わりか。つまらん」とため息をついて、今度は一歳になる弟の頭をつかみ、窓から放り投げようとしたので、母さんが、「やめて。あなた、やめて」と泣きわめいた。だから、やめた。
 すると、今度は母さんが「つまらん!」と叫んで、弟の頭をつかんだので、父さんが、「やめて。芳子さん、やめてください!」と号泣した。
 だから、やめた。

 僕は、アスファルトの上で(よかった)と思った。

 しばらくすると、また別のダンプカーが、死んだ僕に迫ってきたので、ムダと知りながら、僕は心の中で(来ませんように! 来ませんように! 来ませんように!)と激しく祈った。
 その時、上からエビフライが3本落ちてきた。そして、翼を広げると飛び始めた。
 ちょうど腹のへっていたダンプカーは、その3本のエビフライを追いかけて、どこかへ走って行ってしまった。
 あとで地獄の閻魔様に聞いた話ですが、その3本のエビフライというのは、父さんと母さんと弟のことだったそうです。(了)














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