拓斗は駐車場に車を停めて愛を待っていた。
しばらくすると愛が歩いてやってくるのが見えてきた。
「待った?」
愛は助手席のドアを開け入ってきた。
「全然待ってないよ」
ここは、愛の家がある団地内にある小学校の駐車場である。
桜を見にいったあの日以来、まだデートらしい所へは行っていないが、2、3回ほどこの駐車場で会っていた。
「はい、お腹空いたでしょ」
愛は鞄の中から弁当箱をだしてきた。
拓斗は仕事が終わってから来るので、もちろんご飯は食べていない。
「ありがと〜。開けていい?」
拓斗は愛から受け取った弁当箱を開けてみた。
「おぉ〜オムライスじゃんか〜」
拓斗は目を輝かせている。
「味は適当だけどね」
「俺、オムライス好きなんだよ。いっただきま〜す」
「はい、どうぞ」
「うん、めっちゃ美味しい」
拓斗はすごく美味しそうに食べている。
「美味しい?よかった」
愛もそんな美味しそうに食べている拓斗を見ながら喜んでいる。
「愛って料理上手なんだね」
「ただのオムライスだよ。そんなの料理のうちに入らないよ」
「そんなことはないよ〜。オムライスもれっきとした料理だよ」
「愛にとっては手抜き料理だね」
「そうなんだ〜。愛が奥さんだったらいろんな料理がでてくるんだろな」
拓斗は最後の一口を口の中に入れ、ほうばっている。
「拓斗が旦那さんだったら喜んでご飯作ってあげるのにな」
二人とも名前の呼び方も変わっていた。
「ごちそうさま。ほんと美味しかったよ」
「こんなものでよかったらいくらでも作ってあげるよ」
愛は拓斗の食べた弁当箱を綺麗に片付けている。
「ねぇ〜、平日って休めないの?」
愛が拓斗の目をじっと見つめてきた。
拓斗はその目に吸い寄せられそうだ。
「どうして?休めない訳じゃないよ。有給一様あるしね」
「じゃ〜休んでお買い物行こうよ」
愛は拓斗の手を握ってきた。
拓斗の胸が高鳴りだした。拓斗はまだ愛に何もできないでいた。
今までの自分ならすぐに手をだしていたのだが、どうしてか何もできない。これがほんとの恋というものなのか。
『今日こそは決めるぞ』
拓斗は心の中で決意を決めた。
「うん。いいよ。買い物行こうよ。いつがいい?」
「来週ならいつでもいいよ」
「うん。わかった。明日調整してみるね」
「やった〜。嬉しい」
愛は大喜びだ。
拓斗は愛が握ってきた手を握りかえし、そのまま愛を包み込むように抱きしめた。
「好きだよ。愛」
拓斗は愛の耳元でささやいた。
「愛も拓斗のこと大好き」
拓斗は愛の小さな顔に、自分の顔を近づけた。
愛も拓斗の顔を見つめていたが、急に笑いだした。
「ごめんごめん(笑)。愛ね、こういうの苦手なんだよ」
愛はまだ笑ってる。
「んも〜。今ものすごくいい雰囲気だったんだよ」
「だからごめんって(笑)。だって拓斗の真剣な顔見慣れてないから、ついね」
「そこはグッと我慢しないとだめじゃん」
「はい、ごめんなさ…えっ…」
喋っていた愛の唇に、拓斗の唇が重なった。
「びっくりした?ちょっと強引だったかな」
愛はきょとんとした顔で拓斗を見ている。
拓斗は愛をぎゅっと抱きしめ、今度はゆっくりとキスをした。
愛もさっきとは違い、拓斗に身を任せたのだった。
気がつくと、車の窓ガラスが真っ白になっている。
愛は指で相合い傘を描いていた。
「こらこら、そんなところに描かないの」
拓斗は愛の後ろから手を伸ばした。
「はーい」
愛は拓斗のほうを振り向き、軽くキスをした。
「愛ってほんとに子供みたいだよね」
「こんな愛のことキライ?」
「いいや。大好きだよ」
「じゃ〜いいじゃん」
普段はうるさくない車のエンジン音だが、静かな駐車場ではよく響く。
窓ガラスも外の景色が見えるようになってきた。
「じゃ〜来週休む日わかったら教えてね」
「うん、わかった。家まで送ろうか?」
「いいよ、すぐそこだからね。それに家のまわりは誰が見てるかわからないからね」
「そうだね。じゃ〜気をつけて帰ってね」
「うん。拓斗も運転気をつけてよ」
「じゃ〜ね」
拓斗は愛に手をふりながら、車を走らせた。
季節も暖かくなってきたせいか、夜にウォーキングしている人も多くなってきた。
知らない人にあまり挨拶をしない愛であったが、今日は人とすれ違うと自然と挨拶をしている自分がいたのだった。
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