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本好きの下剋上 ~司書になるためには手段を選んでいられません~ 作者:香月 美夜

第五部 女神の化身

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新しいアウブ

「フェルディナンド様はどうなのだ!?」

 登録用の魔石を取るために出た瞬間にエックハルト兄様が食らいつくような勢いで尋ねてきた。エックハルト兄様からわたしを守るように飛び出してきたアンゲリカの肩を軽く叩いて退いてもらい、わたしは解毒剤を飲ませたこと、順調に回復していてランツェナーヴェの掃討と境界門の閉鎖に向かうつもりであることを告げる。

「戦いの場に出るなど、毒の影響は問題ないのか?」
「……エックハルト兄様もご存知の通り、フェルディナンド様は隠し事に長けた方ですから、完全には回復していると思えません。でも、普通の病人のように寝ていることはできないようです。なるべく早く終えられるようにしなければなりませんね」
「わかった。ダンケルフェルガーに連絡しておこう」

 エックハルト兄様は頷くと、すぐに踵を返して執務室を出ていった。ユストクスは何やら木箱を準備し始めている。わたしも書箱から登録用の魔石を取り出し、もう一度供給の間へ向かう。踏み込む直前に自分の側近達を振り返り、指示を出した。

「境界門を閉めるためにはわたくしが行かなければなりませんから、護衛騎士はいつでも出られるように準備してくださいませ」
「はっ!」



 フェルディナンドに登録用の魔石を染めてもらって執務室に戻ると、扉の窪みに登録用の魔石をはめ込んだ。すぐにフェルディナンドが出てきて、部屋の中を見回す。フェルディナンドに駆け寄ったのはエックハルト兄様とユストクスだ。

「フェルディナンド様、ご無事で何よりです」
「心配をかけたな」

 安堵の表情を見せる二人にフェルディナンドはわずかに笑みを見せる。けれど、それはほんの一瞬のことで、すぐに表情を引き締めた。

「ローゼマインよりランツェナーヴェが暴れていること、さらわれた者がいると聞いたが詳しい状況は把握できているのか? 騎士団の状況を報告せよ、エックハルト」
「はっ! 魔力を防ぐ銀色の武器や防具、一瞬で魔石になる毒の散布によって一方的に何人もの騎士がやられたと報告を受けています。シュトラールによると、魔術が効かない相手に無策で立ち向かうよりは、と城にいる貴族達を避難させ、魔力登録がなければ開かない部屋に隠れるように指示を出していたそうです」

 当人の魔力でなければ開閉できない隠し部屋に籠って難を逃れた貴族達も多い様子に少し胸を撫で下ろしながら、わたしは供給の間を閉じた。扉の大きさを元の小さいサイズにして、護衛騎士達に書箱の位置を直してもらう。その間もエックハルト兄様の報告は続いていた。

「レティーツィア様はランツェナーヴェの手に落ちたようです。ディートリンデ様の指示によって、ランツェナーヴェの者に連れ出されるレティーツィア様とシュトラールの娘が目撃されています。一瞬で魔石となる毒を持っていると警告したのはレティーツィア様で、シュトラールは逃げて皆を救えと命じられたそうです」

 そのおかげで、アーレンスバッハのレティーツィア派の貴族達が知らないうちに皆殺しされるという事態は防げたらしい。全ての屋敷に連絡ができたわけではないので、荒らされた貴族の家々にどれだけの貴族が生き残っているかはまだ把握できていないようだ。

「ディートリンデ、ゲオルギーネ、アルステーデの身柄の確保は済んでいるか? もしくは、所在の把握はどうなっている?」
「ディートリンデ様はレオンツィオ様と共にランツェナーヴェの館へ向かったまま戻っていないと聞きました。ランツェナーヴェの非道を止めてほしいと嘆願するために向かった者も帰って来ず、先程ランツェナーヴェの館へ踏み込んだところ、館はもぬけの殻だったと報告が入っています。出た様子がないので現在の所在は不明です」
「……そうか。わかった」

 フェルディナンドが顔をしかめてエックハルト兄様に頷くと、今度はユストクスがアルステーデについて報告を始める。

「アルステーデ様とその夫ブラージウス様はディートリンデ様のお招きでランツェナーヴェの館へ行ったと家人からの情報がありました。まだ帰宅しておらず、ディートリンデ様と行動を共にしている可能性が非常に高いと言えます」
「なるほど。だから、みすみす其方等の侵入を許し、ローゼマインに礎を染められるのを阻止できなかったのか。登録メダルの廃棄による処分をすべきかと思ったが、領地内にいそうにないな。ゲオルギーネは?」

 フェルディナンドはユストクスの報告を聞きながらハルトムートを呼んで、わたしの薬を準備させる。優しさ入りの回復薬を飲んでおくようにと言われ、わたしは回復薬を飲んだ。

「旧ベルケシュトックの祈念式をゲオルギーネ様が行うということで、ギーベの館を転々とするために何日も前からご不在のようです。どこのギーベのところに滞在中なのかは、まだわかりません。どのギーベからもオルドナンツが返ってこないのです」
「……それは不穏だな。エーレンフェストへの侵攻に、ギーベ達が協力している可能性も高い」

 この場にいるのはエーレンフェストの者ばかりだ。フェルディナンドの口からエーレンフェストの危険性を出されたことで部屋に緊張が走る。すぐにでも部屋を飛び出してエーレンフェストへ戻りたいような気分になった。

「ゲオルギーネを捕らえるためにエーレンフェストへ行かねばならぬ。だが、先に境界門を閉め、これ以上の悪さができぬようにランツェナーヴェを叩いておく方を優先させよ。これは君にしかできないアウブ・アーレンスバッハの仕事だ、ローゼマイン」

 それが終わればゲオルギーネに唆された貴族達にアウブ交代を知らしめるためにエーレンフェストへ向かうとフェルディナンドは言った。

「フェルディナンド様、そのままで戦いの場には出られないでしょう。お召し替えの準備はこちらにございます」

 ユストクスが木箱の上にマントやいくつかの魔石や薬の準備を終えているのが目に入った。わたしが準備の良さに驚いていると、ユストクスはわたしを見ておどけたように微笑む。

「アウブ・アーレンスバッハ、大変無礼とは存じますが、フェルディナンド様の自室は荒らされておりますし、この緊急時です。アウブの執務室をフェルディナンド様のお召し替えのために使わせていただきたいのですが、許可をいただけませんか?」
「許可します。わたくし達は出ておきますね」

 自分の側近を引き連れて、わたしはアウブの執務室を出た。けれど、扉の外側には誰もいない。ハンネローレ達はどこにいったのだろうか。

 ……エックハルト兄様が声をかけていたはずなのに、ダンケルフェルガーがいないなんて……。

 何かあったのだろうかと思ったら、負傷したダンケルフェルガーの騎士達がぞろぞろとやって来た。

「ローゼマイン様、フェルディナンド様はご無事でしたか?」

 ニコリと微笑んでそう言ったハンネローレは特に傷がないけれど、後ろの騎士達は結構怪我をしている者が多い。

「ハンネローレ様、ダンケルフェルガーの騎士達のお怪我はどうされたのですか?」
「ランツェナーヴェの兵士は何ということもないのですけれど、あの船の攻略に手こずっています」

 貴族街をうろうろしていたランツェナーヴェの兵士達を蹴散らしたり、ランツェナーヴェの館へ攻め込んだりしている間はよかったが、船に逃げ込んだ者を追いかけたところで船から武器が出てきたらしい。船に近付けまいとするように、細い銀色の針のような物が大量に飛び出す武器が使われたそうだ。

「船に戻るランツェナーヴェの兵士と囚われた娘を装って、十人ほどの騎士を中に送り込んだのですが、オルドナンツも届きませんから……」

 ハンネローレはこの執務室前で待機していたため、それから先は現地で戦っていたハイスヒッツェから報告される。

「全く魔力を通しませんし、騎獣も鎧も貫通します。騎獣を消して船体に飛び乗り、武器を使ってみましたが、大した効果はありませんでした。我々が持ってきた非魔術具の武器は対人用ですから、船のような大きな物には船体に少し傷が付く程度です。一度対策を練るために騎士達を引き上げさせました」
「騎獣や鎧を貫通する初見の武器が使われる中、船体に飛び移り、船の強度を調べてくださったことに感謝します。フェルディナンド様にも相談してみましょう。怪我をした方々、こちらへいらしてください。癒しをかけます」

 わたしはフリュートレーネの杖を出して、ダンケルフェルガーの騎士達にまとめて癒しをかける。

「アーレンスバッハの騎士達の一部は境界門で見張りをさせています。船に動きがあれば連絡が来るでしょう。それから、新しいアウブに会わせろ、と騒ぐアーレンスバッハの貴族達は一室に集めています。聞き分けのない方が多かったことに苛立ったダンケルフェルガーの騎士達が彼等を一喝し、少々手荒なことをしてしまいました。お許しくださいませ」

 アウブの執務室に入れろと騒いだ貴族達は「邪魔者」と判断し、片っ端から捕獲して一室に閉じ込めているらしい。ダンケルフェルガーの騎士が見張っているので、ランツェナーヴェの兵士に襲われることもないし、命に別状はないらしい。

「この扉を守ってほしいとお願いしたのはこちらですから大丈夫です。助かりました。……あの、ハンネローレ様。鐘二つ分の時間がそろそろ過ぎようとしているのですけれど、ダンケルフェルガーの方々はどうされますか? わたくしは境界門を閉じますし、フェルディナンド様はこれからランツェナーヴェの掃討戦を行いますが……」

 わたしはハンネローレに意見を聞いたのに、ハイスヒッツェがずずいっと前に出てきて「もちろん掃討戦に同行します」と力強く言った。

「やっと歯ごたえのある敵が出てきて、フェルディナンド様と共に戦える機会を逃すわけにはまいりません」
「ハンネローレ様……」

 本当にそれで良いのか、とわたしがハンネローレに意見を求めると、ハンネローレはちょっと困った顔になって微笑んだ。

「最初の方は敵が弱すぎて、魔術具も回復薬もほとんど使用していません。本物のディッターなのに戦う場がほとんどなくて不満の残る騎士達を連れて帰ると、後が大変なのです。このままご一緒させていただけると助かります」

 ……発散させてから帰らせたいのですね。わかります。

 血の気の多そうなダンケルフェルガーの騎士達を見回して納得していると、傷が回復した途端、ハイスヒッツェ達はいかにして銀色の船を攻略するかを考え込み始めた。

「大きな岩でも落としてみるのはどうだ? 身体強化を使って投げてみれば、穴くらいは開くかもしれぬ」
「中にいるお嬢様方が巻き込まれる可能性が高いぞ」

 そんな話を始めた騎士達を見ていると、ハンネローレが「あら?」と声を上げた。

「ローゼマイン様、その王族の紋章は外しておいた方が良いのではございませんか? 大変申し上げにくいのですが、お肌に触れていらっしゃる部分の鎖が少し傷んでいるように見受けられます」
「え?」

 わたしは王族の紋章のネックレスの首の辺りに触れてみる。ハンネローレの言った通り、金属のつるりとした感触ではなく、少しざらついている。錆びているような感触がして、触れた指先を見ると、金色の粉がついていた。
 わたしは首を傾げながらネックレスを外す。ハンネローレの言う通り、留め金の辺りの肌に当たる部分だけが傷んでいるのが一目でわかった。

「今日、いただいたところなのですけれど……不良品でも渡されたのかしら?」

 首を傾げていると、ハンネローレが「ローゼマイン様の魔力が大きすぎただけですよ」と苦笑した。

「それを身につけた状態で魔力を使いすぎたのでしょう。求愛の魔術具に使われている鎖部分は作成者の魔力でできているので、作成者を超える魔力で負荷をかけすぎるとそういうことになります」
「それは、心当たりがありすぎますね」

 ネックレスをつけてから国境門二つに魔力供給をして、転移陣を何度か使い、礎の魔力を染め変えた。短時間で魔力を使い過ぎたのだろう。それはすぐに納得できた。けれど、納得できないこともある。

「あの、ハンネローレ様。このネックレスは求愛の魔術具なのですか? 求愛の魔術具は講義で習いましたけれど、相手の属性に合わせて作り、誓いの言葉を入れますよね? これは違うと思うのですけれど……」
「ローゼマイン様、講義で作成したのは求婚の魔石ですよ。求婚の魔石は自分にできる最上の物を贈りますが、求愛の魔術具はその前の段階ですから、少し格を落とすのが普通です。誰が求愛したのかわかるように紋章や名前が刻まれていて、ほんのりと魔力が滲み出ているのが特徴になります」

 わたしは驚いて許可証だと思っていたネックレスを見下ろす。魔力が滲み出ているとハンネローレは言ったけれど、わたしにはその魔力が見えない。どのように見ればよいのだろうか。後でフェルディナンドに聞いてみた方が良いかもしれない。そんなことを考えていると、クスとハンネローレが笑った。

「講義の時にも何度か思いましたけれど、ローゼマイン様は成績優秀で何でも知っていらっしゃるのに、男女の機微やその間で行われることはあまりご存じないのですね」
「勉強が足りないことは認めますけれど、他のお勉強と違ってフェルディナンド様が教えてくださらなかったのですもの」

 お母様の恋物語を読んでもよくわからないことは棚上げして、フェルディナンドのせいにしてみたら、ハンネローレに困った顔をされて、護衛として背後に立っているレオノーレに「殿方が教えることではありません」と言われた。

 ……まぁ、そうだよね。

「ローゼマイン様、こちらに包んで革袋に入れておいた方が良いでしょう。王族の許可証を失うと困りますから」

 わたしはハルトムートが笑顔で差し出した布を受け取って許可証を包むと、腰につけている革袋に入れた。大事な許可証がこんなに脆いなんて想定外である。

 ……でも、求愛の魔術具か。何を考えてジギスヴァルト王子はこんな物を贈ってきたんだろうね?

 王命ならば結婚は嫌でも決まるし、王命でないならば結婚する必要もない。求婚の魔石以外の物をわたしに渡す意味などないだろう。



「待たせたな、ローゼマイン……。何だ、この有様は?」

 アウブの執務室から魔石の全身鎧になって出てきたフェルディナンドはダンケルフェルガーの青いマントがひしめく廊下を見て、顔を一瞬引きつらせた。ダンケルフェルガーの騎士達はフェルディナンドの姿を見て、ざっと音を立てて廊下に整列し、跪いていく。

「何故アーレンスバッハの城にダンケルフェルガーがこれほどいるのだ、ローゼマイン?」

 想定外の不意打ちに弱いフェルディナンドがギロリとわたしを睨んだ。

 ……まずい。ダンケルフェルガーのことを説明するの、すっかり忘れてたよ。

 わたしは取り繕った作り笑いで「ほほほ……」と笑って誤魔化しながら、ダンケルフェルガーの有志達を示す。

「わたくしと共にフェルディナンド様をお救いするため、そして、礎を奪う本物のディッターに参加するためにダンケルフェルガーからいらっしゃった有志の方々です」
「ご無事で何よりです、フェルディナンド様!」

 わたしの後ろの方でハイスヒッツェが立ち上がり、満面の笑みを浮かべて近付いてくる。バッと自分のマントを外して、嫌そうな顔をしているフェルディナンドに差し出した。

「これをお返しします。このマントは私がフェルディナンド様に正々堂々とディッターで勝利してこの手に取り戻したいのです」
「いらぬ。持って帰れ」

 ……ああぁ、やっぱり温度差がひどいことになってる!

 すげなくあしらわれてもハイスヒッツェは全くめげずにフェルディナンドに語り続ける。さすがダンケルフェルガーの男。この程度ではへこたれない。

「前回は良かれと思って行ったことが裏目に出てしまいました。私はフェルディナンド様をお救いするつもりだったのです。今度こそお役に立ちたいと……」
「其方と問答をしている時間が惜しい。ランツェナーヴェを逃さぬために境界門を閉めに行き、掃討戦を行わねばならぬ」

 パタパタと手を振って「邪魔だ」と追い払われたけれど、ハイスヒッツェはむしろ得意そうな笑顔になった。

「協力いたします。ローゼマイン様の要請により、ここへ来ているので。そして、全てを片付けたら、後程ゆっくりとディッターについて……」
「全てを片付けたら、な。あと十年くらい待っていろ」
「もっと早く片付くように協力いたします。ですから、ディッターを……」

 ……わぁ、フェルディナンド様の対応に全くめげてないよ。

 貴族院時代からフェルディナンドにどれだけぞんざいに扱われても、しつこくディッターを申し込んできたハイスヒッツェにとってはこの程度の対応は何ともないようだ。さすがダンケルフェルガーの男。しつこい。

「ここにいるのはダンケルフェルガーの騎士ばかりではないか。アーレンスバッハの騎士はどうした?」

 レオノーレがハンネローレから聞いた状況を説明し、ダンケルフェルガーとの共闘の流れを伝えると、フェルディナンドは「どこまで非常識な手段を使ったのだ、君は」とわたしの頬を一度つねった。これは絶対に八つ当たりだと思う。

「常識の範囲ではフェルディナンド様を救うことができなかったのですもの。ダンケルフェルガーの騎士達のおかげで、こちらは怪我もなく礎を奪い、フェルディナンド様を助けることができたのです。ハイスヒッツェさんを追い払う前にお礼を言ってくださいませ」

 わたしの言葉にフェルディナンドはしばらく考え込むようにしてハイスヒッツェを見る。

「わかった、ハイスヒッツェ。其方の要望通り、境界門を閉鎖した後、ランツェナーヴェを一人残らず捕らえ、エーレンフェストへ行くとしよう」
「エーレンフェストへ行くのですか!? 一体何のために、でしょう?」

 ハンネローレが目を丸くしてわたしとフェルディナンドを見比べる。アーレンスバッハへ来ることは最初から話し合っていたことだけれど、エーレンフェストへ行くという話は全くしていない。指揮官のハンネローレが戸惑うのは当然だろう。

「ローゼマインはアーレンスバッハの礎を奪ったが、宝を奪うだけがディッターではない。宝を守りきらなければ、いくら騎士が強くて余所の宝を奪ったところで敗北になる。何度となく私に宝を奪われて敗北したダンケルフェルガーはそのくらいよくわかっているであろう?」

 フェルディナンドと同世代の騎士が多いのだろうか。痛いところを突かれたような顔をする騎士達が続出する。

「……つまり、エーレンフェストの礎を守り切ったと確証があるまで本物のディッターはまだ終わらぬ。完全なる勝利を手にするまで気を抜くな。ランツェナーヴェは見知らぬ武器や毒など、思わぬ手段を使ってくる。私の指揮下に入れ、ハイスヒッツェ。完膚なきまでにランツェナーヴェを叩きのめす」
「はっ! これよりダンケルフェルガーはフェルディナンド様の指揮下に入り、本物のディッターを継続する!」
「おぉ!」

 ダンケルフェルガーの騎士達がざっと立ち上がった。暑苦しいが頼もしい。

「ユストクス、私が戻るまでに隠し部屋の貴族達を救い出し、あらゆる情報を集めろ」
「かしこまりました」
「ハルトムート、クラリッサ。其方等は一室にまとめられているアーレンスバッハの貴族を解放し、ディートリンデとローゼマインを比較しつつ、新しいアウブがいかに優れているのか、ローゼマインの聖女らしさと共に宣伝しろ。ローゼマインがアウブとして治めなければアーレンスバッハが崩壊するということを骨の髄まで叩き込め。ローゼマインを見たら跪きたくなるくらいに洗脳して構わぬ。ローゼマインがすんなりとアウブ・アーレンスバッハとして貴族達に受け入れられるか否かは其方等の活躍にかかっている」
「お任せくださいませっ!」

 張り切った二人の声が響く。何となく胃の辺りが痛くなった。

「あの、フェルディナンド様。ハルトムート達に任せても大丈夫なのですか? ものすごく不安なのですけれど……」
「君の功績を宣伝するという点で、これ以上はない人材であろう。そんなことよりも、魔力は回復しているか?……アウブである君にはこれから少し無理をさせることになると思う」

 フェルディナンドが少し心配そうにわたしの顔を覗き込んだ。わたしは安心させるためにニコリと微笑んで首を横に振る。

「大丈夫ですよ。お薬を飲みましたから。……それに、正念場なのでしょう?」

 毒を食らって死にかけていたフェルディナンドが完全に回復する前に敵を叩こうとするのだ。急がなければならないことはわかる。

「よろしい。では、行くぞ。アウブ・アーレンスバッハである君がこの混乱を治め、全てを手中に入れねばならぬ」

 凶悪な笑みを浮かべたフェルディナンドが騎獣を出した。そこにオルドナンツが飛んできた。エックハルト兄様の腕に降り立った白い鳥は男の声で喋る。

「エックハルト、シュトラールだ。ランツェナーヴェの船が動き始めた。ダンケルフェルガーの攻撃が止んだ隙に国境門を超えるつもりではないかと思われる。フェルディナンド様はまだか!? 至急指示を!」

 三回叫んだオルドナンツが魔石に戻った。エックハルト兄様の手から魔石を取って、フェルディナンドがシュタープでオルドナンツを作り出す。

「フェルディナンドだ。新しいアウブと共に境界門を閉めに行く。決して攻撃せず、相手に姿を見せず、しばし待機せよ」
フェルディナンドとハイスヒッツェの再会。
冷たい対応にも全くめげない男ハイスヒッツェ。
そして、頑丈でダンケルフェルガーにも壊せなかったランツェナーヴェの船。

次は、ランツェナーヴェの船です。
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