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本好きの下剋上 ~司書になるためには手段を選んでいられません~ 作者:香月 美夜

第五部 女神の化身

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親睦会(四年)

 三の鐘で進級式が始まる。準備にバタバタしている寮内の雰囲気を感じながら、わたしはリーゼレータとベルティルデに髪を結ってもらっている。ブリュンヒルデとグレーティアは新入生の女の子に髪飾りを配りに行っていて不在だ。

「ベルティルデは髪を結うのが上手ですね」
「わたくし、髪を結うのが好きなのです。エルヴィーラ様にも褒められたのですよ」

 お母様に仕えていた時にどのような仕事をしていたのか、お母様とどんな話をしていたのか、お喋りしながらベルティルデが髪を整えてくれる。そんなベルティルデのローズピンクの髪には新入生の女子に贈られる髪飾りと両親から入学祝に贈られたという髪飾りが飾られていた。

 しばらくはベルティルデの様子を見ていたリーゼレータが途中からは髪飾りの準備をしたり、荷物の確認をしたりし始めたことからも側仕え見習いとして合格であることがわかる。

「ローゼマイン様、親睦会に同行する側近はマティアス、ローデリヒ、ブリュンヒルデでよろしいですか?」
「えぇ、リーゼレータ」
「昨日、情報収集に行っていた文官達からの情報ですが、今年はクラッセンブルクに領主候補生の新入生がいるようです。ご挨拶をする時のためにお名前をもう一度お知らせしましょうか?」

 わたしが読書に没頭していて聞いていなかったことを悟っているらしいリーゼレータが悪戯っぽく笑う。

「お願いします」
「アウブ・クラッセンブルクの第三夫人の姫君で、ジャンシアーヌ様です。おそらく奉納式のことで何度も顔を合わせることになると思います」

 ……ジャンシアーヌ様、ジャンシアーヌ様……。

 わたしは何度か心の中で反復し、名前を覚えた。



「おはようございます、ローゼマイン様」
「おはようございます、ダームエル」

 準備を終えて多目的ホールへ行くとダームエルがいた。ハルトムートやコルネリウス兄様もいるけれど、二人は貴族院で一緒だったことがあるのでそれほど違和感がない。でも、多目的ホールにダームエルがいるのは見慣れなくて不思議で仕方がない。決して青色神官の衣装を着ているだけではないと思う。

「レオノーレとアンゲリカも今日はよろしくお願いしますね」

 ダームエル達が今日青色神官の衣装を着ているのは、わたし達が進級式や親睦会に行っている間に中央神殿の人達と打ち合わせがあるせいだ。クラッセンブルクからは誰が出て来るのか知らないけれど、今日の指定でエグランティーヌから連絡があったのだ。

「奉納式の打ち合わせはハルトムートに任せます。他の皆はハルトムートが暴走しすぎないように気を付けて見ていてくださいませ」
「かしこまりました」

 またイマヌエルとハルトムートの対立がありそうで、わたしは一緒に行くコルネリウス兄様やダームエルによくよく気を付けてもらえるようにお願いしておく。

「ローゼマインは久し振りに会える友人もいるだろう? 親睦会を楽しんでおいで」
「はい、コルネリウス兄様」

 コルネリウス兄様に送り出されて、わたしは玄関ホールに出た。玄関ホールにはエーレンフェストのマントをまとった学生でひしめきあっている。緊張した面持ちの一年生が可愛い。ブリュンヒルデとシャルロッテが手配してくれていたので、エーレンフェストの学生の髪は皆つるつるつやつやだ。

「では、行くか。新入生はマントとブローチをなくさぬように、それから、エーレンフェストの扉の番号を忘れないように気を付けるのだぞ。寮に戻れなくなるからな」

 わたし達はヴィルフリートの号令で扉を出て講堂へ向かった。

 多少領地の順位に変動が見られるけれど、大した変わりはない。わたし達は8番のところに整列するだけだ。

 例年通りの進級式が始まり、講義に関する説明がされる。領主会議で決まったようにシュタープの取得が三年生になったことと、それに関連して昔のカリキュラムが大幅に取り入れられた講義内容へ変更になることが伝えられる。

「わたくし、シュタープの取得を楽しみにしていたのですけれど……」

 ベルティルデが少し不満そうに唇を尖らせた。周囲の一年生もどちらかというと不満そうだ。カリキュラムが変更されることは発表されても、その理由が述べられなければ不満に思う者はいるだろう。

「シュタープは貴族の証なので早く欲しい気持ちはわかりますけれど、取得時期はできるだけ遅い方が良いのですよ」
「そうなのですか?」
「えぇ。奉納やお祈りで神々の御加護をたくさん得られることがわかりました。魔力に大きな変動があると、一年時に取得したシュタープでは自分の魔力を扱えなくなるかもしれません。カリキュラムの変更はそれを防ぐためなのです。講義の時に不満に思っている他領の一年生がいれば、そう教えてあげてくださいませ」

 ベルティルデは納得したようで「わかりました」と返事をして、近くで話を聞いていたらしいニコラウスもコクリと頷いた。



 進級式が終わると、親睦会のため階級ごとに分かれて動くことになる。わたし達領主候補生はそれぞれ三人の側近を連れて小広間に移動だ。

「8位エーレンフェストより、ヴィルフリート様、ローゼマイン様、シャルロッテ様がいらっしゃいました」

 扉の前に立つ文官らしき人の声に促されて、わたし達は小広間に入る。中には去年と同じようにヒルデブラントが座っていた。

「今年も時の女神 ドレッファングーアの糸は交わり、こうしてお目見えすることが叶いました」

 エーレンフェストの順番が回ってきて、ヴィルフリートが代表で挨拶をするのも毎年のことだ。わたしはヴィルフリートとシャルロッテに挟まれた状態でヒルデブラントと向き合う。

「今年の奉納式はツェントも期待していらっしゃいます。私はまだ正式に入学していないのですが、一つ階級を落とした中級貴族の奉納式ならば負担も少なかろう、とツェントより参加を許されました。貴族院の神事に参加できるのは初めてなので楽しみです」

 ニコニコと楽しそうにヒルデブラントはそう言った。

 ……地下書庫に入れるように魔力圧縮をしたり、古語の勉強をしたり、ヒルデブラント王子はホントに頑張り屋さんだよね。まだ貴族院に入学してないなんて信じられないよ。

 今度は王族として奉納式に参加するらしい。今から積極的に神事に参加していれば、神々からの加護はたくさん得られるだろう。今の王族の中でツェントになれる可能性が一番高いのはヒルデブラントだと思う。

「ユルゲンシュミットを統べる王族が積極的に神事に参加するのはとても大事なことですから、ヒルデブラント王子の前向きで努力家なところは素晴らしいと思います。奉納式がヒルデブラント王子にとって得難い経験になることを願っています」

 ヒルデブラントを激励して舞台から降りると、上位領地に挨拶をして回ることになる。最初はクラッセンブルクだ。クラッセンブルクのテーブルではわたしとさほど背が変わらない女の子が側近を従えてニコリと微笑んで迎えてくれた。菫色の髪に青い瞳の可愛らしい少女だ。おっとりとした雰囲気がとてもクラッセンブルクの女性らしいと思った。
 わたし達エーレンフェストの領主候補生は跪いて初対面の挨拶をする。

「ジャンシアーヌ様、命の神 エーヴィリーベの厳しき選別を受けた類稀なる出会いに、祝福を祈ることをお許しください」
「許します」

 指輪から飛び出した祝福を受けて、ジャンシアーヌがエグランティーヌやプリムヴェールに似た感じの優雅な微笑みを浮かべた。

「エーレンフェストとは共同研究として奉納式を行うように、とアウブより伺いました。ご覧の通り、一年生で慣れぬ研究に戸惑うことも多いと存じます。ローゼマイン様、どうぞよろしくご指導くださいませ」
「こちらこそよろしくお願いいたします、ジャンシアーヌ様」

 クラッセンブルクとの挨拶を終えると、ダンケルフェルガーだ。レスティラウトが卒業したので、今年はハンネローレが一人で立っている。目が合うとハンネローレが親し気な微笑みを浮かべた。わたしもニコリと笑みを返す。

 ヴィルフリートが「ローゼマイン」と小声で呼びかけながらエスコートしている手を外して、わたしの背中をそっと押し出した。ハンネローレと一番仲が良いのはわたしなので、挨拶の場をわたしに譲ってくれるようだ。

「今年も時の女神 ドレッファングーアの糸は交わり、こうしてお目見えすることが叶いました。お久し振りですね、ハンネローレ様」

 他の学生達と違ってハンネローレとは領主会議で会っているけれど、久し振りであることに変わりはない。

「今年はダンケルフェルガーに喜んでいただける本がいくつもあるのですよ。レスティラウト様の絵が入ったディッター物語もありますし、ダンケルフェルガーの歴史本も出ています。フェルネスティーネ物語の三巻もあるのですけれど、もう読んでしまわれたでしょう?」

 ハンネローレの護衛騎士の男性はエーレンフェストの新しい本にとても興味を示してくれたけれど、ハンネローレの琴線には触れなかったようだ。

「えぇ、フェルネスティーネ物語の最後はとても感動いたしました。今年は貴族院の恋物語の新しい本はございませんの? 素敵な恋物語ばかりでとても楽しみにしているのですけれど……」
「もちろんございますよ。今年も本の貸し借りをいたしましょう」
「えぇ、楽しみにしています」

 二人で笑って挨拶を終えると、次はドレヴァンヒェルの前に移動する。ここは何人か領主候補生がいて去年より小さい領主候補生が増えているけれど、代表として立っているのはオルトヴィーンだ。ヴィルフリートが挨拶をして、今年も共同研究をしないか、と誘われている。

「残念ながら、今年はクラッセンブルクやフレーベルタークと神事関係の共同研究の予定が詰まっているのだ。個人ならばまだしも、領地同士で協力する大掛かりな研究は難しいと思う」
「興味や協力を引き出せる題材が必要ということか……。グンドルフ先生と相談する必要がありそうだ」

 オルトヴィーンがそう言いながらわたしを見た。去年と同じようにグンドルフからわたしを共同研究に引っ張り出そうとしているようだ。

 ……グンドルフ先生が何と言っても、わたしはしないよ。

 貴族院でわたしができるだけしたい研究は図書館の魔術具作成だし、印刷業の飛躍を求めて転移陣の改良をするミュリエラとライムントのお手伝いならばしたいと思う。でも、今年は中央へ移動するための準備が忙しい。多分、離宮の確認もしなければならないだろうし、中央での側近を選ぶ必要もあるだろう。王族との話し合いが増えるのは目に見えている。

 ついでに、奉納式の予定が詰まっているせいで貴族院でもエーレンフェストでも忙しい。エーレンフェストでは青色見習い達を連れて奉納式に戻らなければいけないし、中央から戻ってくる貴族との面会時間も必要になるし、色々な人に後のことをお願いしておかなければならない。
 エーレンフェストで行うことを考えると、帰還期間をできるだけ長く取りたいので、正直なところ図書館の魔術具の研究時間が取れるかどうかも疑わしい。下手したらヒルシュールに素材を預けることになるかもしれないと思っているくらいだ。

 ……ハァ。わかってたことだけど、好きなことをできる時間はあんまりないかも。

 この冬にやることを頭に思い浮かべてげんなりしながらドレヴァンヒェルの前から離れる。その後のギレッセンマイアーとハウフレッツェはシャルロッテに挨拶を任せた。ギレッセンマイアーのルーツィンデからは弟と妹を紹介された。

 弟の方は二年生で、秋に養子縁組をしたばかりらしい。わたしが知る限り、ギレッセンマイアーの領主候補生は女の子ばかりなので、同じ領地内で婿を得るために血族の男子と養子縁組をして領主候補生を増やすのは珍しくはない。きっと弟妹を結婚させるためだと思う。けれど、専門コースに分かれるギリギリの時期に養子縁組をするのは珍しい。

 ハウフレッツェも六年生の女性が代表して挨拶をしているけれど、弟妹がいる。ヴィルフリートは弟と少しやり取りがあるらしい。妹は新入生だそうだ。

「……何だか今年は領主候補生の新入生が多いですね。急に人数が増えています」
「神々の御加護を得る方法やその効果が知られたことで養子縁組が増えているようだ、とハルトムートが言っていたではないか」

 ジャンシアーヌの名前を聞いていなかったこともそうだが、色々と報告を聞き流していたらしい。専門コースに分かれる前の年齢で、魔力的に問題のない血族の上級貴族とアウブの養子縁組が増えたそうだ。

「ハルトムートは、久し振りの大事な読書時間を邪魔しないように私とシャルロッテに情報を流す、と言っていたが、真横で報告していたのだぞ? いくら何でも聞いていないというのはおかしくないか?」
「読書をしている時に周囲の音が聞こえないのは別に珍しくもおかしくもないですよ。昨日は本当に久し振りの読書だったので、我を忘れて没頭したことも事実ですけれど」

 ……それにしても、久し振りの大事な読書時間を邪魔しないようにって……。何それ、ハルトムートなのにカッコイイじゃない。うっかりキュンとするところだったよ。

 読書時間の確保で甘やかしてくれるのは非常に嬉しいけれど、報告が届かないのは困る。今度からは報告を文字列にして読ませる方向で甘えさせてほしい、とお願いしてみよう。

 そんなことを考えているうちに、ヴィルフリートがアーレンスバッハへの挨拶を終えていた。ディートリンデが卒業し、レティーツィアがまだ入学していない今年は、ディートリンデの側近マルティナが代表として出ているようだ。

「叔父上とディートリンデ様はお元気ですか?」
「えぇ、フェルディナンド様のおかげでアーレンスバッハは大変助かっています。礎が染まったことで、魔力供給のお手伝いもしていただけるようになりました」

 ……え!? 星結びの儀式もまだなのに、執務と神事だけじゃなくて魔力供給までしてるの!?

 わたしが驚いてマルティナを見つめると、マルティナは困ったような笑みを浮かべた。

「星結びが終わる前から隠し部屋を与えるという横暴な王命をディートリンデ様が呑むことになったため、代わりに、星結びが終わる前ですけれど魔力供給を引き受けようとフェルディナンド様がおっしゃったそうです。本当にお優しいこと」

 隠し部屋は結婚ができないのにエーレンフェストへ帰さないアーレンスバッハの非常識に対して隠し部屋を要求したのだ。隠し部屋に対して更に魔力供給を要求するのはおかしいと思う。

 ……本当にフェルディナンド様から引き受けたの? 祈念式で採集をしたみたいにフェルディナンド様が何か企んでる? それとも、周囲から非難されないためのアーレンスバッハのロビー活動?

 マルティナがヴィルフリートにアウレーリアの様子を尋ねるのを見ながら、わたしは考え込む。どちらもありそうで真実がわからない。

 考え込んでいるうちにエーレンフェストの席に戻ってきた。ここからは下位の領地が挨拶に来るのを待つことになる。
 インメルディンクが挨拶に来た時、わたしより一つ上の学年のムレンロイエが紫の髪をパサリと払って微笑んだ。同情と蔑みと嘲笑の混じった笑みに警戒心の方が強くなる。

「ローゼマイン様は養子縁組を解消して中央神殿の神殿長になられるのでしょう? 神事の大切さをユルゲンシュミットに広げるためとはいえ、領主候補生から上級貴族に落とされ、中央神殿に入ることになるなんて大変ですね。なんてお可哀想……」

 ……中央神殿の神殿長になるって噂、他領でもしっかり流れてるみたいだね。

 王族からの密かな呼び出しが重なったことでエーレンフェストの貴族は判断したようだが、他領の貴族も同じように呼び出される姿を見ていたのだろうか。それとも、アーレンスバッハのゲオルギーネに煽られて「エーレンフェストの聖女は中央神殿の神殿長になるべき!」と王族に願い出た領地だろうか。クスクスと笑う声が上がることから考えても、エーレンフェストから聖女が取り上げられるのはいい気味だと思っている領地がいくつもありそうだ。

「ローゼマインを中央神殿に入れるというお話をツェントからいただいたことはございません」

 きっぱりとそう言ったヴィルフリートにムレンロイエは「あら?」とオレンジの目を瞬いた。周囲もざわりとして、こちらに注目が集まる。

「そんなはずはございません。領主会議でアウブ・エーレンフェストは王からお招きを受けていらっしゃいますもの」
「王族から中央神殿の神殿長にどうかというお話があったのは事実ですけれど、まだ何も決まっていないのです」

 わたしは一度ムレンロイエの主張を肯定した上で、ニコリと微笑んだ。ムレンロイエの脳内ではわたしが上級貴族落ちに確定しているようだけれど、先がどうなろうとも今は領主候補生でエーレンフェストの方が上位である。好き放題に言われるのを黙って聞いてあげる義理はない。

「わたくしの虚弱さでは、他領に出向いて神事を行うのはとても無理なのです。ですから、王族を始め、各地の領主一族には神事を覚えるため中央神殿へ赴いていただくことになります、とアウブ・エーレンフェストはお返事されました。ツェントの判断によっては、来年以降青色巫女見習いの衣装をまとったムレンロイエ様と中央神殿でお会いできるかもしれませんね」

 わたしが中央神殿長になる時は王族を含めた全領地の領主一族が道連れです、と返事をするとムレンロイエは顔色を変えた。自分が神殿に入れられることなんて考えたことがないような顔をしている。

「王族と各地のアウブから中央神殿入りの答えがない限り、ローゼマインの中央神殿入りはありません」

 インメルディンクに対してハッキリと答えたことで、その後は中央神殿入りの話をしてくる者はいなかった。

 フレーベルタークの上級生とは共同研究のことでヴィルフリートとシャルロッテが話をしていた。この共同研究は二人が中心になるので、わたしは一歩引いて話を聞く。どうやら貴族達が神殿へ行って、少しでも加護を得たり、収穫量を上げたりしようと頑張っているようだ。

 ……そういえば、エーレンフェストの貴族って、下町との商談以外で神殿に来ないね。

 そんな感想を抱いて親睦会の時間を過ごした。低学年の領主候補生が増えて、賑やかな親睦会だった。



 わたし達が寮に戻った時には、多目的ホールにハルトムート達も戻っていた。わたしは早速奉納式についての報告を聞くことにする。もちろん、中級や下級で奉納式を行うヴィルフリートやシャルロッテも一緒だ。

「交渉、お疲れ様でした。どのように決まったのですか?」
「クラッセンブルクとエーレンフェストの共同研究であって講義ではないため、講義時間を空けることはできず、土の日を利用する形で奉納式を行うことになりました」

 学生側としては少しでも早く神事を経験して加護を増やせるようにお祈りをしたいけれど、教師側としては共同研究を希望者が講義を終えた後に時間を合わせて行うことと位置付けているため、講義の時間を空けられない。そのため、土の日に希望者を募って奉納式を行うことになったらしい。

「共同研究は講義ではないので、学生全員に参加義務もありませんし、特例を一つ作ると後が面倒ですものね。講義時間以外でなるべく早い時期に、と思えば土の日を利用するしかないでしょう」

 クラッセンブルクがもっとゴリ押しするかと思ったのだけれど、そうではなかったようだ。中央神殿はそんなに何度も行う必要はないので一度に済ませてほしい、と言ったそうだが、下級貴族と領主候補生では魔力量に差がありすぎるから、と却下されたらしい。

「エグランティーヌ様に何度も食い下がりましたが、領主会議の奉納式で意識を失った青色神官や巫女の例を出されて、イマヌエルも最終的には反論できなくなっていました」

 フッと愉しそうにハルトムートが笑った。

「それから、エグランティーヌ様によると、ヒルデブラント王子が安全のために階級を落として中級貴族の奉納式に参加するそうで、低学年には一つ下の階級の奉納式に参加することを提案するようです」

 ハルトムートの言葉にシャルロッテがホッとしたように胸を撫で下ろした。

「危険が減るのは良いですね。慣れないと魔力供給は本当に大変ですもの」
「低学年の下級貴族は参加を見合わせた方が良いかもしれぬ。供給している時は自分の魔力量の残りを把握しにくいからな」

 シャルロッテの言葉にヴィルフリートも頷いた。

「それで、私達はどの土の日に奉納式を行うことになったのだ?」
「ローゼマイン様がエーレンフェストに帰還することを考えると、最初の土の日に領主候補生と上級生の奉納式を行うのが良いと判断しました。二週目が中級貴族、三週目が下級貴族になります」

 ふんふん、とわたしが頷いていると、コルネリウス兄様が不満そうにハルトムートをジロリと睨んだ。

「ローゼマインの体調を考えると、私は下級貴族から奉納式を始めて、三週目を上級にした方が良いと提案したのだけれど……」

 最初の週はどうしても講義が詰まっているので最初の土の日は休息が必須で、講義を終えている三週目の土の日をわたしの奉納式にした方が良いとコルネリウス兄様は提案したそうだ。

「ローゼマイン様の体調を最優先にしたいというコルネリウスと、少しでも早くエーレンフェストに戻ることをローゼマイン様が望んでいるのに三週目では遅すぎるというハルトムートで意見が対立して大変でした」

 ダームエルが溜息を吐くと、レオノーレも疲れた顔で頭を振る。

「エグランティーヌ様が仲裁してくださり、身分順に行う方が望ましいということで領主候補生と上級貴族の奉納式が最初の週になったのです」
「王族の前で対立していたのですか?」

 シャルロッテとヴィルフリートが目を丸くする。わたしも驚いた。

 ……一体何をしているの、二人とも!?

「どちらも主思いなのですね、とエグランティーヌ様は苦笑されていらっしゃいましたが、生きた心地がしませんでした」

 ダームエルとレオノーレが少し遠い目で教えてくれたことに、「王族の前でそんな言い合いをするなんて!」とわたしは頭を抱えたくなった。わたしのやらかしに頭を抱える保護者達の気持ちがわかった気がする。

「今度エグランティーヌ様にお詫びしなければなりませんね」
ちょっと人数が多すぎたようで講義に行きつけませんでした。
あちらこちらの領地で新入生が増えました。
他領でも流れていた「中央神殿入り」は黙らせました。
奉納式の予定が決定です。

次は、初週の講義です。
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