挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
本好きの下剋上 ~司書になるためには手段を選んでいられません~ 作者:香月 美夜

第五部 女神の化身

578/677

ディルクとベルトラムの洗礼式

 ギルに紋章入りの魔石を渡したので、ニコラとヴィルマにも渡すことにした。ニコラはフィリーネの成人と一緒に移動してもらう予定で、ヴィルマは一旦お母様に預けて、成人後に引き取るつもりだからだ。

 神殿長室に二人を呼んで魔石を差し出すと、ニコラは嬉しそうに「どこに行ってもローゼマイン様のために頑張ります」と言いながら、魔石を透かすようにして紋章を見つめて喜んでくれた。

「ヴィルマはわたくしの専属絵師となってくれますか? それとも、お母様の専属絵師の方が良いですか?」
「ローゼマイン様の専属絵師になりたいと思います。エルヴィーラ様は良いお客様ですが、わたくしの主はローゼマイン様ですから」

 ヴィルマはニコリと笑って魔石を手に取ってくれた。よかった。ヴィルマと笑い合っていると、扉の向こうでハルトムートの来訪を示す鈴が鳴る。

「ローゼマイン様、シャルロッテ様がそろそろ戻られるようです」
「あら、予定より早かったのですね。玄関まで迎えに行くので、お茶とお菓子の準備をお願いします」

 収穫祭に向かった面々の中で最後に戻ってきたのはシャルロッテだ。わたしはハルトムートと一緒に正面玄関へ出迎えに向かう。「ニコラやヴィルマ達にも紋章を渡したのですか」と言っているハルトムートの首元にも紋章入りの魔石が光っている。一緒に行くけれど、どうしても欲しい、とクラリッサと二人分の魔石を持ってきたのだ。本当は後で連れていく者への身分保障として渡している物なので、ハルトムートとクラリッサに渡すのは違うと思うのだが、紋章をもらったものがいびられるとダームエルが心配していたので、紋章を刻んであげた。ハルトムートはご機嫌だ。

「ただいま戻りました、お姉様」
「おかえりなさい、シャルロッテ。長旅、大変だったでしょう? 少しお茶でもいかが?」
「喜んでご一緒させていただきます」

 シャルロッテを神殿長室に招待してお茶とお菓子を食べながら収穫祭の話を聞く。北の方は春を呼ぶ儀式が行われるようになってから収穫量がグッと上がり、住民の生活はずいぶんと楽になっているらしい。

「グレッシェルのエントヴィッケルンが終わったので、来年からは魔力が溜まり次第、儀式の舞台を作り直すことができるかもしれない、とお話ししてきました。少し時間をかければ北の方の貴族達は領主一族の味方に取り込むことができそうです」

 ……貴族関係の社交はやっぱりシャルロッテがすごいね。

 シャルロッテの報告を聞いていると、ニコラがお茶のお代わりを持ってきてくれた。その胸元には急いで紐で付けたらしい紋章の魔石が光っている。基本的には装飾品を付けることがない灰色巫女が魔石を付けているのを見て、シャルロッテが目を丸くした。

「まぁ、それはローゼマイン工房の紋章ですよね? 先程ハルトムートも付けていましたが、何か意味があるのですか?」

 シャルロッテの問いかけに、わたしは自分が成人した時に連れていく者が買い取られないように、主に捨てられたと思われないように与えた話をする。ついでに、ハルトムートとクラリッサは一緒に行くけれど、自分達も欲しいと言って自分で魔石を持ってきた話もした。

「お姉様、わたくしも欲しいです」
「え? シャルロッテも? でも、あれはわたくしの側近や連れていく者に与えている物ですから……」

 まさかシャルロッテがハルトムート達のようなことを言うと思わなくてわたしが目を瞬いていると、シャルロッテは少し恥ずかしそうに頷いた。

「えぇ。わたくしはお姉様について行くことはできませんし、ずっとエーレンフェストにいるつもりです。でも、あれはお姉様が庇護を与えた印のような物で、離れていても主であることを示す魔石なのでしょう? わたくしもお姉様と離れてしまっても姉妹であることを示すような何かが欲しいと思ったのです」

 主従関係ではなく、姉妹関係を示すような何かが欲しいという言葉はわたしの姉心を直撃した。これは何が何でも頑張らなくてはならない案件ではないだろうか。

 ……だって、可愛い妹のおねだりだよ!? 離れていても姉妹であることを示す何かが欲しいって言うんだよ? 作るしかないでしょう! 姉として!

「どういうのが欲しいですか、シャルロッテ? わたくし、できるだけ要望に応えますよ!」
「そんな! わたくしがお姉様のお時間を今以上に奪うわけにはまいりません。下町の職人に任せた金属の飾りで十分です」
「下町の職人に……?」
「えぇ。主従関係を示す物と紛らわしくなりますから、別に魔石である必要はありません。わたくしとお姉様の繋がりが他の方から見えればそれで良いのです」

 コインくらいの大きさの金属にローゼマイン工房の紋章を彫り込んだ物で十分だとシャルロッテは言う。主従と姉妹では意味が違うので素材を変えた方が良いらしい。
 わたしはシャルロッテと話し合いながら大きさや素材を決めて、設計図を描いていく。そして、ギルを呼ぶとヨハンに依頼するように頼んだ。きっと冬のうちに作ってくれるだろう。

「ヨハンは腕が良いので、素敵に仕上げてくれると思います」
「楽しみにしています、お姉様」



 収穫祭が終わると冬支度である。もう慣れた作業なので、孤児院も神殿長室もフラン達に任せておけば問題ない。メルヒオールや青色見習い達の冬支度も神殿の側仕え達が主導で行っている。主は奉納式の期間以外は基本的に城で滞在するので、自分達の冬支度になるからだ。

 冬支度を神殿の皆に任せ、わたしは自分の準備をしていく。フェルディナンドに頼まれた魔紙を作り上げたり、貴族院で作る図書館のシュミルのために必要な素材の準備をしたり、アーレンスバッハへ送る料理やお菓子を準備しなければならないのだ。葬儀の時にもらったお手紙の返事と一緒に送った分はそろそろなくなる頃だろう。

 ……今回は魚の出汁を利かせて、わたし好みに作り替えたアーレンスバッハ料理を送るよ。

 アーレンスバッハの料理に慣れた人にとっては、「おいしいけど、これは違う! 偽物だ!」という感想が飛び出しそうな改造具合になったが、気にしない。

「それにしても、フェルディナンド様の工房にはかなり色々な素材がありますね。わざわざ採集に行かなくても、ここで全て揃うのではありませんか?」

 わたしが魔紙の調合をする傍らでヒルシュールのメモを見ながら素材を出していくクラリッサが感嘆の籠った声でそう言った。調合したい文官にとっては宝の山だそうだ。

「フェルディナンド様が集めた分も多いですけれど、ユストクスが各地で素材採集をして、お土産に持ち帰った分が多いそうですよ。わたくしは体力温存を優先しなければ神事ができませんけれど、フェルディナンド様は祈念式や収穫祭の時に採集していたようですから」

 わたしはそんな話をしながら時間短縮の魔術を使い、レシピと睨めっこしながら調合をしていく。フェルディナンドのレシピは手順も使う素材も多くて面倒なのだ。

 ……ババーッと魔力を使って、一気に金粉を流し込めば速いのに。むぅ。



 そんなふうに貴族院へ向かう準備をしていると、グレーティアからオルドナンツが飛んできた。ディルクとベルトラムの洗礼式の衣装や青色見習い達に回せる衣装の確保ができたらしい。旧ヴェローニカ派から接収した物の中に子供の衣装がなかったか尋ねたり、お下がりにできそうな衣装を探してもらったりしていたのだ。

「一度合わせる必要がございます。いつ神殿へお持ちすればよろしいでしょうか?」
「三日後にしましょう。その頃には調合が終わるはずです」
「お休みの日を考慮して五日後にします」

 オルドナンツのやり取りの結果、五日後にグレーティアとメルヒオールの側仕えが神殿に衣装を持ってきてくれることになった。アウブから回された物なので、青色見習い達はメルヒオールの部屋で自分に必要な衣装を選ぶことになる。冬の洗礼式で着る衣装、子供部屋でいる時に着る衣装、貴族院へ行く者は黒を基調とした衣装、騎獣服、調合服など必要な物がたくさんあるのだ。

「わたくしは孤児院でディルクとベルトラムの衣装合わせをしてきます」

 わたしはグレーティアと側仕え達を連れて孤児院へ行き、一階にある子供部屋でディルクとベルトラムの衣装合わせを始めた。二人にも洗礼式用と子供部屋用の衣装が必要だ。テキパキと衣装を合わせて、グレーティアは二つの籠に衣装を分けていく。

「こんな綺麗な服がもらえるなんてすごいな」
「洗礼式に着るというのに、ずいぶんと安っぽくて古びているではないか」
「あら、犯罪者の子にはこれでも分不相応なくらいですよ。気に入らないならば自分で誂えれば良かったのです。そうしてくれれば、わたくしも集める手間が減りましたのに」
「なっ!?」

 思わぬ言葉にベルトラムがバッと振り向くと、グレーティアがベルトラムを見つめて冷たく笑う。普段は前髪で隠れがちの青緑の瞳にははっきりと侮蔑の光があった。

「自分の立場を全く理解できていないのですね。アウブは別に慈悲や優しさからわたくし達を救ったわけではありません。将来の貴族の数を確保するためです。犯罪者の子はやはり不穏分子だと判断されれば、連座を免れただけの子供など即座に処分されます」

 グレーティアの冷たい眼差しと厳しい言葉にベルトラムの表情が凍り付いた。少なくとも、孤児院ではそんな言葉をかけられたことがなかったせいだろう。傷ついている顔のベルトラムにグレーティアは更に言葉を重ねた。

「今まで続いてきた連座を回避するのは簡単なことではないのです。今の状況がどれほどの幸運なことなのか、弁えられぬ者は不安要素でしかありません。外に出す前に排除した方が良いのではございませんか、ラウレンツ?」
「グレーティア、言いすぎです」

 わたしが思わずグレーティアを止めると、グレーティアはニコリと微笑んで厳しい目をわたしに向けた。

「愚か者の言動に十名以上の命がかかっていることも、兄であるラウレンツの教育が足りていないことも事実です。たとえ不安要素だとしても無実の子供を排除できない、と甘いことをおっしゃるならば、己の立場くらいは叩き込むべきです。甘やかすのは優しさではございませんよ、ローゼマイン様。このままでは罪を犯した家族の連座からせっかく救った命を、今度は愚かな子供のせいで失うことになります」

 それは本意ではないでしょう? とグレーティアはじっとわたしを見つめる。一度救ったからといって、それが永続するわけではないと諭されて、わたしはコクリと頷いた。

「指輪は後見人のアウブが準備してくださるそうです。そして、ディルクの付き添いはわたくしが、ベルトラムの付き添いはメルヒオール様の側仕えがすることになりました」
「……排除を望んでいても付き添いをしてくれるのですね。ありがとう存じます、グレーティア」

 グレーティアは小さく笑い、「洗礼式当日に着る衣装だけ置いていきます。後は去年と同じ子供部屋に持っていきますね」と言って立ち上がると、籠を持って城へ戻っていく。途方に暮れた顔になったベルトラムの頭をポンとラウレンツが叩いた。

「ベルトラム。物言いは厳しいが、彼女の言葉は事実だ。城で生活すれば、嫌でも現実が見えると思う。孤児院のような優しい世界ではないぞ」

 その後、ディルクとベルトラムは春から使う部屋と家具を選んだ。側仕えを選ぶのは春に戻ってきてからになる。コンラートはもうしばらく孤児院で灰色神官見習いとして過ごし、体が成長して儀式を行うことができるくらいに魔力が増えたら青色見習いとして部屋を得たいそうだ。

 ディルクとベルトラムはわたしが貸した指輪で祝福を与える練習をしたり、お披露目のためにフェシュピールの練習をしたり、洗礼式で行う儀式の順序や貴族の上下を覚えたり、バタバタと準備をしているうちに冬になった。



 洗礼式当日、わたしは城の自室で儀式用の衣装をリーゼレータとオティーリエに着せてもらっていた。グレーティアはディルクの付き添いのため、神殿へ行っている。着替えさせ、孤児院にある子供用のフェシュピールを持ってくることになっている。

「今日の儀式を終えたら、この衣装は貴族院へ持ち込むのですね?」
「そうです。アウブ・クラッセンブルクから養父様に連絡が入り、貴族院が始まってすぐの時期に奉納式を行うことになったのですって」

 中央神殿から神具の貸し出しを受けるためには奉納式の時期を避けなければならず、加護を得る儀式を行う三年生が少しでも多くの加護を得るためには、なるべく早い時期に神事を経験した方が良い。中央神殿、貴族院の教師等で話し合った結果、学生達の奉納式は貴族院が始まってすぐの時期に、下級、中級、上級で三度に分けて行うと決まったそうだ。

「わたくしの都合は無視ですよ。どう思いますか、リーゼレータ?」
「中央や上位領地による決定が押し付けられるのはいつものことです。でも、ローゼマイン様の負担を減らすために、下級の奉納式はシャルロッテ様が、中級の奉納式はヴィルフリート様が行うことにすればどうか、とヴィルフリート様がアウブに掛け合ってくださいましたよ」
「それは助かりますね」

 儀式の準備や打ち合わせに時間を取られることは確実なので、どんどん講義を終えていかなければエーレンフェストの奉納式に間に合わなくなってしまう。

「アウブの交渉で領主会議の時に同行した青色神官達は貴族院にも同行できることになりましたから、奉納式が終わるまでは護衛がたくさん付けられるので心強いですね」
「急に同行が決まったため、冬の社交の予定がめちゃくちゃになって貴族院へ向かう準備が大変なことになっているようですけれどね」

 神官長のハルトムート、青色の護衛騎士をしていたコルネリウス兄様、ダームエル、レオノーレ、アンゲリカは奉納式が終わるまで貴族院への出入りが認められた。助かるけれど、大変だ。

 着替えが終わると、グレーティアからオルドナンツが飛んできた。ディルクとベルトラムはもちろん、青色見習い達も城に到着したようだ。



「新たなるエーレンフェストの子を迎えよ」

 壇上でわたしの傍らに立つハルトムートの言葉と共に大きく扉が開かれて、貴族の仲間入りをする子供達が入場してくる。十二人の子供がいる中、ディルクとベルトラムは最後尾を歩いていた。

 この場で洗礼式を行うのは六人だ。ハルトムートが神話を語り、身分の低い者から魔力の登録が行われる。

「ディルク」

 名前を呼ばれたディルクが緊張した面持ちで前に出てくる。わたしは魔力検査の魔術具をディルクに差し出した。ディルクは魔術具の棒を手に取って光らせる。拍手が沸き起こった。ホッとしているディルクにニコリと微笑んで、わたしはメダルを取り出すと、魔術具を印鑑のように押させて登録した。

 ……何、これ?

 魔力の登録をしたのに、ほとんど色が変わらない。ものすごくうっすらとした色合いで全部に色が付いているような、付いていないような変な感じだ。強いて言えば、風の属性が強いような気がする。

 ……こういう時ってどうすればいいの?

 わたしはフェルディナンドの姿を探して振り返り、ハルトムートと目が合った。何となく、ちょっとだけきまずい。
 そんなわたしには気付かなかったようで、ハルトムートは近付いてきてメダルを覗き込んだ。そして、わたしと同じように不可解そうな顔で「風の御加護はありそうですね」と呟いた。一応風の加護がありそうなことはわたしもわかっている。

 ……ハルトムートにもわからないみたい。

 いくら考えても答えが出るはずがないので、わたしはディルクに視線を向けて微笑んだ。

「風の御加護がございます。神々の御加護に相応しい行いを心掛けることで、より多くの祝福が受けられるでしょう」

 ちょっと変なことが発生したが、メダルへの魔力の登録は終わりだ。ハルトムートが管理するための箱に入れる。登録が終わると、魔術具の指輪を持った養父様が舞台に上がってきた。

 途端に大広間の中がざわりとし始める。「あれが旧ヴェローニカ派の子供か」「連座を免れた子だ」とひそひそした声が上がり始めた。連座を免れた旧ヴェローニカ派の子供達がどのように思われているのか、グレーティアが言っていた城の現実がよくわかる。

 そんな周囲の声を完全に無視して、養父様はディルクに指輪を差し出す。

「神と皆に認められたディルクに指輪を贈ろう。これから私が後見人になるのだ。故に、親による階級ではなく、其方の魔力量によって階級を定める。新しい中級貴族の誕生だ。おめでとう、ディルク」
「心より感謝いたします、アウブ・エーレンフェスト」

 ディルクは緊張しているようには見えない笑顔で丁寧にお礼を述べると、左手の中指にはまった赤い魔石の指輪に視線を落とした。

「ディルクに土の女神 ゲドゥルリーヒの祝福を」

 わたしが祝福を贈ると、ディルクも練習通りに祝福を返してくれる。ぽわんとした光が浮かび、わたしに届いた。
 パラパラと疎らな拍手が聞こえてくる。これまで経験した洗礼式とは雰囲気が違うことに不安がジワリと胸に広がった。けれど、これでディルクの洗礼式は終了だ。

「ベルトラム」

 じろじろと粗を探すような貴族達の視線の中、ベルトラムもディルクと同じように前に出て魔力登録をする。ベルトラムは普通に色が変わった。ディルクは何だったのだろうか。身食い同士で比べても、わたしの時とは明らかに違う。

 ……わたしは全属性だったから、比較対象としてはわたしの方が変なのかもしれないけど。

「水と火の御加護がございます。神々の御加護に相応しい行いを心掛けることで、より多くの祝福が受けられるでしょう」

 ベルトラムの魔力登録が終わると、養父様がまた指輪を持ってきた。今度は青の魔石が付いている。ベルトラムはどうやら夏生まれらしい。

「神と皆に認められたベルトラムに指輪を贈ろう。これから私が後見人になるのだ。故に、親による階級ではなく、其方の魔力量によって階級を定める。新しい中級貴族の誕生だ。おめでとう、ベルトラム」
  「心より感謝いたします、アウブ・エーレンフェスト」

 ベルトラムはそう言ってその場で跪くと、養父様に手を伸ばした。手を取って額を付けるには身長が足りなかったが、何がしたいのか養父様は理解したようだ。少し身を屈め、ベルトラムに向けて手を差し出す。ベルトラムは養父様の手を取って、甲に自分の額を当てた。

 壇上でアウブに対して最大級の感謝を捧げるベルトラムの姿に貴族達のひそひそとした声が一瞬止んだ。



 その後、他の子供達の洗礼式を終え、フェシュピールのお披露目が行われた。下級貴族からお披露目が始まり、中級貴族でディルク、ベルトラムの順番に演奏をする。練習時間が少なかった割にディルクは上手に弾けたと思う。ベルトラムはやはりきちんと教育を受けてきた貴族の子だというのがよくわかる上手な演奏だった。

 お披露目が終わると、ハルトムートの締めの言葉で一旦昼食のために解散となる。わたしは着替えて、昼食を摂り、また大広間に向かう。今度は貴族院へ入学する新入生に向けた授与式があり、貴族院への移動日の発表が行われた。ニコラウスがマントとブローチをもらっている姿が見える。

 社交の場では「中央神殿へいらっしゃるのですか?」と問われることが多く、エスコートしてくれていたヴィルフリートが「そのようなことはありません」と貴族達を追い払う姿が多かった。

 一通りの貴族達と挨拶を終えると、わたしは旧ヴェローニカ派の子供達に「今年も貴族院で頑張りましょうね」と声をかけて回る。ずいぶんと料理をがっついている貴族が数人、目についた。数年前はまだしも、もう珍しくもない料理にこんな大勢の集まりで没頭している姿は珍しい。

 ……変な人達。

「ローゼマイン様」

 ディルクの声にわたしは振り返った。ディルクは付き添いのグレーティアとベルトラムと一緒だった。どうやら青色見習い達を中心に交流を広げているらしい。

「ディルク、あまりローゼマイン様に馴れ馴れしくするな。本来はローゼマイン様から声をかけてもらえるのを待たなければならないのだ」

 ベルトラムがディルクの腕を引いて、貴族社会でのやり方を教える。ディルクはベルトラムの言葉を聞いて、「申し訳ございません、ローゼマイン様」とわたしに謝罪した。わたしはディルクにニコリと笑った後、ベルトラムに視線を向ける。

「ベルトラム、素敵でしたよ。アウブへの感謝を目に見える形で示したことで、一瞬とはいえ、貴族達の声が止みましたもの」

 ベルトラムが言葉に詰まったような顔になって、わずかに視線を逸らす。多分照れている。ラウレンツはちょっとしたノリで「跪いて感謝しましょうか?」というような性格なのに、兄弟でもかなり違うようだ。

「ベルトラム、この後は、グレーティアと一緒にディルクが大きな失敗をしないように見ていてくださいませ」
「あまり大変な役目を押し付けないでください、ローゼマイン様」

 貴族の常識を知らないディルクの監視は大変だろう。でも、ちょっと嫌そうな顔をしながらも、細々とディルクに教えているベルトラムの姿は何だか少しだけ生き生きしているように見えてホッとする。

「ベルトラムは大丈夫そうですね、グレーティア」
「安心されるのが早すぎます、ローゼマイン様」

 子供達への視線や言葉の端々から旧ヴェローニカ派の貴族が肩身の狭い思いをしているのを肌で感じながら、冬の社交界は始まった。
貴族院まで行きつけませんでした。
ベルトラムが不安材料で、それを見逃せないのは自分の命もかかっているグレーティア。
過去に色々あってラウレンツとベルトラムの父親や兄が大嫌いなので容赦なしです。
ディルクの魔力の登録に不可解なことがありましたが、首を傾げつつ洗礼式は終了しました。

次は、貴族院へ行きます。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ