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本好きの下剋上 ~司書になるためには手段を選んでいられません~ 作者:香月 美夜

第五部 女神の化身

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春の成人式と養父様の出発

 サンプル作りを終えて、神殿での生活に戻る。春の成人式を明日に控え、神殿長室ではわたしと側仕え達の間で議論が起こっていた。メルヒオールを始めとした青色見習い達を春の成人式に参加させたいと言っておいたのだが、却下されたのだ。

「どうしてダメなのですか? 他の青色見習い達はまだしも、神殿長を引き継ぐメルヒオールは絶対に成人式に参加させた方が良いと思います」

 ふんぬぅ、とわたしがフランに意見すると、フランとザームが視線を交わした後、ザームが厳しい顔で首を横に振った。

「ローゼマイン様、メルヒオール様を始め、青色見習いは未成年です。儀式には参加できません」

 わたしとしてはメルヒオールへの神殿長職の引継ぎのため、それから、秋の収穫祭に青色見習い達を回らせるのであれば彼等にも儀式の見学をしてもらいたいと思っている。けれど、これまでの慣習から未成年は参加できないし、慣習を変える必要はない、と側仕え達は言い張っている。

「わたくしは未成年ですけれど、神殿長として儀式を行っているではありませんか」
「ローゼマイン様は神殿長ですから。青色……いえ、神殿長になる前は参加できなかったではありませんか。メルヒオール様の儀式への参加は神殿長に就任してからです」

 青色巫女見習いと言いかけたフランが貴族の側近達を気にして、神殿長になる前と言い直す。戸籍ロンダリングの上に年齢詐称までしているので、不用意に昔の話はできないのだ。

「確かに洗礼式や成人式には参加できませんでした。でも、前の神官長フェルディナンド様の命令でトロンベ討伐の後の癒しの儀式は行いましたもの。絶対にダメということはないはずです」

 青色巫女見習い時代のフェルディナンドの命令を前例として出したことで、元フェルディナンドの側仕えだったフランとザームが少し言葉に詰まる。

「それは、神殿で魔力の多い青色神官が不足していて、どうしようもなかったからではありませんか」
「今はあの時よりもっと青色神官が減って、更にどうしようもない状態になっていることは神殿にいればわかるでしょう? わたくしだって成人がいれば、未成年を神事に出すようなことはしません」

 いくら反対されても、これは受け入れてもらいたいと思っている。今の神殿は成人の青色神官が七人しかいないのだ。未成年の領主候補生が領地内を駆け巡って何とか神事をこなしている状態である。
 春の祈念式でライゼガング系の貴族に嫌がらせを受けたヴィルフリートや、養母様の出産前後で忙しさを増すシャルロッテが収穫祭に行きたがらなければ、その途端に神事に支障が出る。儀式による加護の増加もあるので二人は手伝ってくれるとは思うけれど、あまり広範囲を任せるのは皆の負担を考えると好ましくないし、最悪の場合になった時、神事を神殿の者でこなせないのはどうかと思う。

「青色見習い達にも収穫祭へ行ってもらわなければ人手が足りませんし、何より、収穫祭へ向かうのは彼等自身のために必要なことなのです。この春に受け入れた青色見習い達は普通の青色神官と違って、親からの補助がありません。領地の補助金と収穫祭で得られる収入で冬支度をしなければならないのです」

 旧ヴェローニカ派の親達から接収したお金があるとはいえ、どのくらいの期間、どのくらいの金額を養父様が孤児院や神殿に回してくれるのかわからない。基本的には孤児院や貴族院での教育費として使う予算として考えられている。ならば、彼等の冬支度のためのお金は農村やギーベの土地を回り、収穫祭に参加して自分で稼いでこなければならないのだ。

「秋の収穫祭で農村へ向かえば、そこでは洗礼式、星結び、成人式の全てを一度に行わなければならないでしょう? 何も見たことがないまま、突然儀式を行うのは大変なのです。わたくしは自分の経験上、他の皆には慌てずに済むように儀式の見学をしてほしいです」

 神殿長としていきなり神事をさせられたわたしはぶっつけ本番がどれだけ心細いことか知っている。それに、わたしはマイン時代の最初の洗礼式で平民の儀式がどのような物だったのか知ることができたけれど、彼等は平民の儀式を見たこともないのだ。

「一年後にわたくしが神殿を去れば、わたくし一人の穴を埋めるために何人も青色神官が必要になるでしょう? 彼等はまだ騎獣を持っていませんし、貴族院に入学していないため魔力も少ないので、全員が神事に向かわなければならなくなります。そうなる前に、わたくしの目が届くうちに、なるべく経験を積ませてあげたいのです」

 メルヒオールが神殿長に就任して責任者になった途端に、未成年の見習い達を領地のあちらこちらに派遣することになればメルヒオールも大変だ。洗礼前や貴族院に入る前の子供達を孤児院や神殿で受け入れることを提案したのはわたしなので、彼等が生活に困らないように、青色見習いとして生きていけるように道を作ってあげることは大事だと思う。

「ローゼマイン様のお考えはわかりました。ですが、せめて、青色見習い達の見学は夏の成人式からにしてください。新しいことを始めるには準備期間が必要ですし、青色神官達にもそれぞれの意見があるでしょう。何より、見学にも儀式用の衣装の準備が必要になります」

 季節一つ分の余裕があれば、儀式用の衣装を整えることも、青色見習い達に付いている側仕えと連携を取って教育もできると言う。夏の成人式と秋の洗礼式を見学すれば、儀式の流れや雰囲気はわかるだろう、と言われてわたしは頷いた。

「では、青色神官達への根回しや準備はフラン達に任せます。儀式用の衣装はお金があるならば新調しても良いし、ないならば以前の青色神官や青色巫女が置いていった物で誂え直すように助言してあげてください」

 わたしの時は適当な大きさの物がないとか、平民に与える物などないと前神殿長が言ったとか、いくつかの理由で新調するしかなかったけれど、今は粛清などで保管されている青色の衣装が増えている。ずっと保管しておいても生地が傷むのだから、使える物は使ってもらえば良い。

「かしこまりました。青色見習い達の側仕え達に収穫祭への参加を伝え、教育と準備の開始を命じましょう。秋の収穫祭のためにメルヒオール様を始め、青色見習い達に夏の成人式、秋の洗礼式の見学をさせるため、他の青色神官達の意見もまとめます」

 根回しは始めるけれど、正式な発表は春の成人式が終わってから、という話で側仕え達との議論は終わった。



 そして、成人式当日。わたしはわたしで結構緊張していた。夏の成人式でトゥーリが成人するのだから、今日の春の成人式にはルッツの兄であるラルフがいるはずなのだ。マイン時代の知り合いで、わたしのことを覚えていそうな知り合いはルッツの兄くらいだが、ザシャとジークはうまい具合にわたしが参加せずに終わった。

 ……ラルフにバレたりしないよね?

 わたしは鏡を見ながら儀式用衣装を少しつまんでみる。ボロ服を着ていたマインとは似ても似つかない恰好だ。それに、もう何年も前に死んだ近所の子供のことなんて覚えてないと思う。わたしが小さい神殿長として下町で噂になった時もトゥーリやルッツからは何も言われなかった。

 ……わたしもラルフの顔がわかるかどうかわからないから……うん。平気だよね。

 そう自分に言い聞かせながら、わたしはフランや護衛騎士と礼拝室前に移動する。

「神殿長、入場」

 ギギッと開かれる扉とたくさんの視線に緊張しつつ、わたしは聖典を抱えて礼拝室に入った。ひそひそと交わされる会話に耳を澄ませながら、壇上に上がる。

 ……どれがラルフだろう?

 少し目を凝らしながら、下を見下ろす。ここにラルフがいるはずなのだが、壇上からでは皆が成長しすぎているし、誰も彼も春の貴色の緑をまとっているのでよくわからない。

 ……ラルフは赤毛だったから、あれかこれかそれか……。うーん、面影があるような気がするからあれがラルフかな? うーん、よくわからないね。

 貴族らしい笑顔を貼り付けたまま、わたしはどうでもよいことを考えていると、ラルフが目を凝らすように少し顔を歪めて、やや首を傾げる。

 ……あれ? 何か気付かれた? ちょっと不信感を持たれちゃった?

 わたしは急いで聖典に視線を向けて視線を逸らした。そして、貴族生活で培った作り笑顔でいつも通りに儀式を行う。

「水の女神 フリュートレーネよ 我の祈りを聞き届け 新しき成人の誕生に 御身が祝福を与え給え 御身に捧ぐは彼らの想い 祈りと感謝を捧げて 聖なる御加護を賜わらん」

 祝福を与えれば神事は終わりだ。新成人達が礼拝室から出ていくのを見送っていると、ラルフが一度振り返った。

 ……あ、あぅ、ラルフにバレたのかどうか調べたい。でも、下手に突いたほうが藪蛇やぶへびになりそうじゃない? どうしよう?

 もし、何かあったらトゥーリやベンノから連絡があるだろう。しばらくは黙って様子を見るしかなさそうだ。



 春の成人式が終わり、神殿では青色見習い達を含めて会議が行われた。根回しをしてくれたザームによると、成人の青色神官達も人手不足は嫌という程実感しているようで、特に不満はなかったそうだ。むしろ、領主の後見を受ける立場なのだから働け、という気分らしい。

 人手不足のため、そして、各自の冬支度のために秋の収穫祭に参加しなければならないことを理由に青色見習い達にも告げ、準備をするように命じる。祝詞の暗記、儀式用の衣装、馬車の手配、料理人と食料品の調達などやらなければならないことは多い。
 ただ、初めての未成年に全ての神事を任せるのは難しいため、今年の収穫祭だけは成人の青色神官とペアを組ませることが新しく決められた。

「あの、姉上。少しお時間よろしいでしょうか?」

 ニコラウスが少し不安そうに尋ねてきた。今日の護衛がマティアスとユーディットで、コルネリウス兄様がいないせいだと思う。コルネリウス兄様には邪険に追い払われるので、ニコラウスはコルネリウス兄様が苦手そうだ。

「構いませんよ。何か質問があるのかしら?」
「はい。私の冬支度は父上が手伝ってくれるのでしょうか?」

 両親が粛清されている子もいれば、ニコラウスのように片親だけが処分を受けている子もいる。ニコラウスは父親からも見捨てられそうだと感じているようだが、ニコラウスの生活費はお父様から出ているのだ。冬支度も頼めば手伝ってくれると思う。

「お父様にお手紙を出してみればどうですか?」
「……受け取ってもらえなければどうしようかと思うと、少し怖いです。私はエルヴィーラ様に疎まれていますから」

 母親のトルデリーデがしてきたことを思えば、お母様がニコラウスを疎ましく思うのも無理はないだろう。けれど、一番家の中がぐちゃぐちゃになった時期に公平とかバランスを考えられるのが、わたしのお母様なのだ。

「よほど無茶な要望でもない限りは叶えられると思います。でも、冬支度が整えば、収穫祭に参加しなくても良いわけではありませんよ。神々の御加護を得るためにも真剣にお祈りしてきてくださいね」
「はい。少しずつですが、側仕え達と祝詞を覚えています。先日、神殿に稽古を付けに来てくださったおじい様も真剣に祈って御加護を増やせ、とおっしゃいました」

 わたしが図書館で調合している時なので顔を合わせなかったけれど、見習い達の鍛錬におじい様が一度神殿に顔を出してくれたそうだ。ニコラウスは筋が良いと褒められたらしい。

「姉上からおじい様にお礼のオルドナンツを送ってあげてください。姉上が神殿にいらっしゃらなかったことにガッカリしていましたから」

 ……なんか同じようなことを前にマティアス達からも頼まれたような……?

 ゲルラッハの調査の時を思い出していると、マティアスも同じことを思い出したようだ。何となくニコラウスを見る目に同情が籠ったように見える。ユーディットも少しばかり遠い目になって、「それで昨日は……」と呟いた。

 ……ユーディットって何かおじい様との付き合いがあったっけ?

 首を傾げながら自室に戻ると、マティアスが「忘れないうちにボニファティウス様にオルドナンツを」と勧めてきた。ユーディットも「すぐに送った方が良いと思います」と黄色の魔石を差し出してくる。
 わたしは頭に疑問符を浮かべながら、護衛騎士達の言う通り、おじい様にお礼のオルドナンツを送った。

 神殿に忌避感があるようだったけれど、わたしとの約束を忘れずに見習い達に稽古をつけてくれるなんておじい様はすごい。ありがとう。大好き、というようなマティアスとユーディットが監修した内容だ。

 おじい様からの返事は「ローゼマインとの約束を守るのは祖父として当然のことではないか」という短いものだったが、マティアスは「これで良し」と満足そうに頷き、ユーディットと握手していた。

 後でフィリーネがこっそりと教えてくれたのだが、おじい様の機嫌が悪いと騎士団の訓練に手加減がなくなるらしい。今、訓練に行っているダームエルやコルネリウス兄様のためだそうだ。



 秋の収穫祭に参加が決まった青色見習い達が神事に使う祝詞を覚えようと神殿内でブツブツ言っている姿が見られるようになり、れっきとした貴族の子が真剣に神事に臨む姿を見た青色神官達も仕事に真剣に向き合うようになる。

 初めての長期出張に何がいるのか、どうしなければならないのか、と悩む青色見習い達とお茶をしながら神事の話をしたり、成長しても使えるように自分の儀式用の衣装を整えた話をしたりしながら注意点を伝えていく。

「儀式用の衣装を新しく誂えられるのは、お父様からの援助があるニコラウスくらいです。わたくしは以前の巫女見習いの衣装をお直しするしかありません」

 家族以外の者が着た衣装をお直しするなど初めてらしい青色巫女見習いは、境遇の変化が少し辛いと小さな声で零した。金銭的に切り詰めた生活をするのが初めてで、戸惑いを隠せないらしい。

「……命を失ったり、城の子供部屋で過ごしたりするよりは快適なのです。ローゼマイン様やアウブ・エーレンフェストには感謝しています。でも、時々とても悲しくなるのです」

 神殿での生活は、家族と一緒にいて何一つ不自由なかった時とは比べものにならない孤独で厳しい生活だそうだ。確かに辛いし、寂しいだろうと思う。

「私は成長すれば衣装など誂え直す物だと思っていました。長く一つの衣装を使おうと考えたことがございません。けれど、ここではそれが必要なのですね」
「貴方達の成長は早いですから、それに合わせて自分のお金で誂えるのは大変ですよ」

 以前は未成年が神事に参加することなどなかったから、成人してから誂えれば長く使えたけれど、成長期の未成年では同じようにいかない。

「ローゼマイン様、成長しても着られるようにするには、どのように誂えれば良いのか教えてください」

 元はわたしが知っていた着物の仕立て方を応用した物だ。コリンナに売りつけた知識ではないので勝手に広げても良かったけれど、トゥーリを中央へ出すことに少しでも協力的になってもらうためにはギルベルタ商会へ利益を流しておいた方が良い。わたしはコリンナに手紙を書いて、わたしの儀式用の衣装の仕立て方を彼等の専属に売るように指示を出した。



 そして、あっという間に夏の洗礼式を終え、アーレンスバッハへ養父様が向かう日が近づいてきた。わたしはフェルディナンドに届けてもらうために図書館の工房でまとめた調合セットやお料理をたっぷり詰めた魔術具をラザファムに頼んで城へ持ち込んでもらう。

 最高品質の魔紙のサンプルは準備できたし、お手紙も書いた。お手紙の表には季節や葬式向けの挨拶に加えて、養父様に持って行ってもらう素材のリスト、そして「これで問題がなければ量産します」と書いた。その裏には消えるインクでどんなふうに作ったのか、途中でどのような紙ができたのかという過程を加えた最高品質の魔紙のレシピを書いておいた。

 間違いなく、マッドサイエンティストのフェルディナンドは自分で作ってみたくなると思うので、何の加工もしていない魔木紙を全種類数枚ずつ素材として入れてある。王族からの命令通りに工房が与えられていれば、時間を見つけては勝手に研究するだろうし、改良点があればそのうち教えてくれるだろう。

「フェルディナンド様に工房を与えるのは王族とアウブのお約束ですから、必ずご自分の目でご確認くださいませ。そして、与えられていないようでしたら王命に反しているということですから、ディートリンデ様とゲオルギーネ様に何らかの罰を与えるようにお願いしてくださいね」

 ……すごすごと引き下がってきたらダメだよ!

 出発前日の夕食の席でわたしが口を酸っぱくして言うと、養父様は至極面倒くさそうな顔で「ヴィルフリートが嫌がるのもわかる」と嫌な顔になった。どんなに嫌な顔をされても、それはわたしが王の養女になるための条件なのだから、王族にはきっちりと約束を守ってもらわなければ困る。

「たとえフェルディナンド様が嫌がっても、本当に正しい意味で隠し部屋が与えられているのか確認してくださいませ」
「ふむ、それは少し面白そうだ」

 面倒くさそうだった養父様が少しだけやる気を見せたので、ホッと安堵の息を吐いた。わたしと養父様のやり取りを見ていた養母様が微笑みながら、大きくなってきた自分のお腹を撫でる。

「それほど心配しなくても、ジルヴェスター様はきちんとお仕事をしてくれますよ、ローゼマイン。ご自分の目でフェルディナンド様の様子を確認できる数少ない機会なのですから」

 ……ホントにそうならいいけど。

「ローゼマインもメルヒオールもしばらくは城に滞在するのでしょう?」
「はい。三日ほど滞在して礎に魔力供給をする予定です。星結びの儀式の準備があるので、わたくしはあまり長く滞在できないのです」

 星結びの儀式の前後で孤児院の子供達と「にょきにょっ木狩り」もしなければならないのだ。城でのんびりできる時間はない。

「わたくし達はお姉様とお茶の約束をしているのですよ、お母様」
「あら、子供達だけで? わたくしは招待してくれないのですか?」
「えぇ、わたくしが主催した子供だけのお茶会ですもの」

 シャルロッテの言葉にわたしとヴィルフリートが頷く。城に滞在している間に兄妹水入らずのお茶会で、側近達も排して情報交換をする予定なのだ。

「兄上や姉上とのお茶会は久し振りで、私も楽しみなのです。そういえば、私は先日神殿の青色見習い達とお茶会をしたのですよ。それに、孤児院の者が働く工房の見学もしました。本ができるところを見たのですが、すごかったです」

 メルヒオールも楽しそうに神殿生活の話を始めると、皆が興味深そうに聞き入る。給仕をしている側仕え達の反応を見ても、神殿への忌避感が少しずつ薄れているのがわかった。



「いってらっしゃいませ、養父様。それから、お父様もどうかお気を付けて」

 アウブとその護衛騎士である騎士団長のお父様を見送る。他領のアウブの葬儀ということで、結構な大人数での移動になる。養母様はお腹が大きく、長旅は危険だということでお留守番だ。体調が許す限りは執務を行うことになっているらしい。

 見送りを終えて自室に戻る。一緒に見送りに行っていた側近達が全員入ってきた。ずらりと並ぶ側近達を見て、何だか懐かしい気分になる。

「久し振りに側近が勢揃いですね。前に集まった時は王の養女になることを発表し、中央へ移動する者の意見を聞いた時でしたもの」

 わたしがクスッと笑うと、ユーディットが恨めしそうにわたしを見た。

「リーゼレータがついて行くと聞いた時には、わたくし、泣きそうでしたよ」
「あら、ユーディットは泣きそうではなく、リーゼレータの意地悪、裏切者と泣いていたではありませんか。わたくしもブリュンヒルデも残るのに、一人だけ除け者だと嘆くユーディットをなだめるのは大変でしたよ」

 オティーリエがクスクス笑うと、ユーディットが恥ずかしそうに赤面する。成人するまではフィリーネも残ることが決まって、「これから名捧げを希望しても未成年を連れていってくれるとは限らない」とわかったことで落ち着いたらしい。

「悲しい思いをさせてしまってごめんなさいね。でも、ユーディットが成人して、中央へ来てくれるならば大歓迎ですよ。……ユーディットの御両親が決める結婚までの短い期間でも嬉しいし、心強いです」

 お母様に言われた通り、できるだけ素直な気持ちでわたしが誘うと、ユーディットは照れくさそうに微笑んで頷いた。

「それに、フィリーネが成人までの間は神殿で孤児院長を務めることになりましたから、様子見がてら青色見習い達の訓練もしてあげてください」
「はい」

 あと決まっていないのはダームエルだけだな、と思いながら視線を向ける。何故かずいっと視界に入ってきたのは満面の笑みを浮かべたクラリッサだった。鼻歌でも歌いだしそうなご機嫌な笑顔で一歩前に進み出る。

「……クラリッサ、どうかして?」
「やっと名捧げの準備ができました。さぁ、ローゼマイン様。わたくしの全てを受け取ってくださいませ!」

 ……嫌です。……って言いたいんだけど。ハァ……。

 ゴリ押しの名捧げ、二人目。ハルトムートと違って、クラリッサはわたしの魔力で縛られる時に恍惚とはしていなかったので、普通の反応にちょっとだけホッとした。

 ……いや、待って。クラリッサは普通じゃないから。騙されちゃダメだよ、わたし!
春の成人式から養父様の出発まで、それほど大きな出来事はありませんでした。
えーと、クラリッサの名捧げくらいでしょうか。
周囲の人達とのちょっとした交流を交えつつ、時は流れます。

次は、アーレンスバッハの閑話でランツェナーヴェの使者です。
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