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本好きの下剋上 ~司書になるためには手段を選んでいられません~ 作者:香月 美夜

第五部 女神の化身

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相談

 エグランティーヌからの相談は書庫でできる話ではないということで、わたしは離宮のお茶会に誘われた。どうやらかなり緊急事態のようで、できれば明日の午前が良いらしい。わたしは地下書庫以外に予定がないし、エグランティーヌのお誘いなので、いつでも構わない。

「一体何をローゼマインに相談するのだ?」
「それは……。ローゼマイン様とのお話が終わったら、アナスタージウス様にもお話いたします」
「エグランティーヌ、どういう意味だ? それではまるで私の同席を拒んでいるように聞こえるぞ」

 アナスタージウスが怒りの籠った低い声で問いかけたけれど、エグランティーヌは全く意見を翻す気がないようでアナスタージウスを見つめた。

「わたくしはローゼマイン様とお話がしたいのです。明日のお茶会、アナスタージウス様はご遠慮くださいませ」
「却下する。ローゼマインが関わるとほとんどの場合とんでもないことになるではないか。事態を把握しておくのは必須だ。故に、譲らぬ」

 先程からエグランティーヌとアナスタージウスの攻防が続いている。アナスタージウスが同席しようがしまいがわたしは構わない。アナスタージウスに睨まれるのが面倒なだけなので、二人が納得できるように決めてくれればそれで良い。

 ……わたしはむしろエグランティーヌ様の体調が悪そうに見える方が気になるよ。

 大事な奥様が青い顔をしているのだから、アナスタージウス王子もこのような言い合いより、体調を心配してあげた方が良いと思うけれど、お茶会に同席することは譲れないらしい。わたしが下手に口を出すと長引くに違いないので、決着がつくまでの間、書庫で文献に向き合うことにする。

 ……アナスタージウス王子は面倒くさいレベルで嫉妬深いからね。

「ローゼマイン様、明日の予定はどうなるのでしょう? 王族のお招きは領主会議中の予定にございませんから、アウブへの報告や準備が必要なのです」

 わたしは「痴話喧嘩になんて付き合っていられないよ」とさっさと見切りをつけたけれど、王族の対応に慣れていないオティーリエはそう簡単には切り替えができないようで、心配そうに尋ねてきた。

 王族を訪問するとなれば、衣装や手土産など様々な準備が必要だ。二人の攻防の結果によって、明日の予定がどのようになるのかわからないのでは、側仕えの仕事ができない。特に、この領主会議では姿を見せないようにしなければならないと言われていたので、王族の招きを受ける予定などなかったのだ。オティーリエの頭の中は大混乱中だろう。

「どうなるのでしょうね? こればかりはお二人の意見が合わなければわかりません」

 わたしが二人を見て、困ったわ、と頬に手を当てていると、お茶を飲んでいたマグダレーナがカップを置いて立ち上がった。そして、二人の前に進み出て、大袈裟に溜息を吐く。

「アナスタージウス王子、エグランティーヌ様。お二人とも少々見苦しいですよ」
「マグダレーナ様……」

 アナスタージウスとエグランティーヌにバッサリと言い切れるマグダレーナを心底尊敬した。わたしにも、二人から少しずつ距離を取りながら様子を窺っているハンネローレにも絶対にできないことだ。

「アナスタージウス王子は、何故ゲドゥルリーヒが周囲の救いにすがり、エーヴィリーベから距離を取ろうと考えたのか、ご存じないのかしら? 学生に戻って神話をお勉強し直した方がよろしいのではございませんこと?」

 呆れ果てた声のマグダレーナの叱責にアナスタージウスがビクッとなった。きっと土の女神に拒まれた命の神はこんな表情をしていたに違いない。

「女性には女性同士でお話ししたいこともございます。普段はアナスタージウス王子の意見を受け入れてくださる寛容なエグランティーヌ様が拒まれるだけの理由があるのです。そういう心情を理解して差し上げるのも夫として必要だと思いませんか?」

 エーヴィリーベのように縛りつけすぎると嫌われますよ、と脅してアナスタージウスを黙らせると、マグダレーナは赤い瞳をエグランティーヌに向けた。

「エグランティーヌ様もアナスタージウス王子を排してお話をしようと思えば、暴走するのはわかっていることではございませんか。先にそちらの話し合いを終えてからローゼマイン様にお声をかけるべきでしょう。そうしなければ、アナスタージウス王子のご不満がローゼマイン様に向けられます」

 ハッとした表情のエグランティーヌが困った顔になってアナスタージウスとわたしを見比べる。マグダレーナはエグランティーヌ様を見つめる目を少し柔らかくしながら続けた。

「王族との会談が突然次の日の予定に入るのは、招待を受けた者だけではなく、その周囲の者にとって負担が大きいものです。具合が良くないせいでしょうけれど、少々気配りが足りませんね」
「……わたくし、取り乱しすぎたようですね。思い至らず申し訳ございません」

 エグランティーヌがマグダレーナとわたしに謝罪する。

「わたくしとしては緊急でローゼマイン様にお話をしたいのですけれど、先にアナスタージウス様とお話しなければならないようです。ローゼマイン様、申し訳ございませんが、ご相談はまた後日にしてくださいませ」

 夫の感情を先に何とかしなければお茶会もできないなんて、エグランティーヌも大変である。わたしは「気にしないでください」とエグランティーヌに伝え、この場を収めてくれたマグダレーナにお礼を言って書庫に入る。お茶会の予定が延期になって、オティーリエが安堵しているのが視界の端に映った。



 養父様が迎えに来るまで現代語訳をして、一緒に寮へ戻る。その道中でエグランティーヌからお招きを受ける予定であることを伝えると、養父様が盛大に顔を引きつらせた。

「何故未成年の其方が王族の離宮にお招きを受けるのだ? 図書館で話をするのでは駄目なのか?」
「エグランティーヌ様から相談したいことがあると言われました。……まだ何も伺っていないので、ただの想像ですけれど、神事に関係するご質問があるのでしょう。以前にも神殿について質問を受けたことがありますから」

 わたしの言葉に養父様がどうにも納得できないような表情でわたしを見下ろした。

「其方に相談か……。まぁ、中央神殿と王族の関係が良くない以上、神事については其方が一番質問しやすいのであろうが……不安にしかならぬ」
「アナスタージウス王子も養父様と同じような理由で同席したいとおっしゃいましたよ。エグランティーヌ様が拒まれたので、まだ日程は決まっていないのですけれど。詳細が決まったらまた知らせますね」
「うむ」



 結局、マグダレーナに注意されたアナスタージウスが「エグランティーヌに嫌われるよりは……」と折れたようで、エグランティーヌの相談は二日後になった。それまでは現代語訳をして、昼食を摂って、帰りは養父様に連れられて寮へ戻る生活だ。これで一日が過ぎていくので、とても祠探しに出かけられるような状態ではない。

 ……行動できる時間を作るのも大事だけど、下調べも必要だよね。

 迅速に祠を回っていこうと思えば、場所がわからなければ困る。

「アンゲリカ、ダームエル。二人はどのように一日を過ごしているのですか?」

 夕食の後でわたしが図書館の外を見張っている二人に尋ねると、アンゲリカが「図書館に繋がる回廊を見張っています」と答えてくれた。

「もしかしたら、またディートリンデ様がいらっしゃるかもしれないので、よく注意するように、とコルネリウスとレオノーレに言われています」
「そうですか……。では、どちらか片方は、この地図をもとに祠を探してくれませんか? 中央棟を中心に、おおよそ等間隔にあるのでそれほど大変ではないと思うのです。交代でも良いですから」

 地図を見せながら、図書館の南にあったのと同じような祠があるはずだ、と説明すると、二人は快く引き受けてくれた。同じような場所にずっといるのも疲れるようで、午前と午後で見張りと祠探しを交互にしてくれるらしい。

「ローゼマイン様は祠を見つけてどうされるのですか?」

 次の日の準備をする文官達と一緒に行動しているはずのクラリッサが不意に会話に入ってきた。わたしはニコリと笑って、「清めます」と答える。

「神様がいらっしゃる場所を汚しておくわけにはいかないでしょう? 先日も祠を清めたのですけれど、クラリッサの研究していた広域魔術の魔法陣がとても役立ちました」
「ローゼマイン様のお役に立てて嬉しいですけれど……あの魔法陣をどのように使ったのでしょう?」

 不思議そうなクラリッサにダームエルが祠を丸洗いした話をする。その場にいたかった、と悲しがるクラリッサにわたしは口止めしておくことにした。

「ハンネローレ様もご一緒だったので、今の話はダンケルフェルガーでも把握されていることだと思うのですけれど、王族のお手伝いの範疇で起こっていることですから、他言無用でお願いしますね。こっそり聞き耳を立てているハルトムートも他言無用ですよ」
「かしこまりました」

 わたし達がそんな話をしている間、オティーリエとリーゼレータは忙しそうに王族と会うための準備を整えていた。上位領地や王族とのやり取りはブリュンヒルデに頼っていた部分が多い。養父様の側仕えとして寮に来ているリヒャルダにも応援を要請して、衣装や手土産などを準備する。

「ローゼマイン様と貴族院へ行くと、毎日がこのような状態になるのですね。側近に入ったばかりのグレーティアが予想以上に鍛えられているわけです」

 話には聞いていても、実際に貴族院で王族対応をしたことがなかったオティーリエはそう言って苦笑していた。



「来てくださってありがとう存じます、ローゼマイン様」

 挨拶を終えると、エグランティーヌがお茶とお菓子を一口ずつ味わい、勧めてくれる。本当にアナスタージウスがいなくて、エグランティーヌと二人だけという状態が不思議な感じだ。

「少しエグランティーヌ様の顔色が良くなっていますね。祠から戻って来られた時は青ざめていらっしゃったので、心配していたのです」
「心配をかけてしまいましたね。魔力を使いすぎただけですから、もう大丈夫です」
「エグランティーヌ様も祠にヴァッシェンをしたのですか?」

 祠で大量の魔力を使う用途を他に思いつかずにわたしがそう問いかけると、エグランティーヌは明るいオレンジの瞳を丸くして、クスクスと笑う。

「ローゼマイン様が清めてくださっていたので、祠を清める必要はありませんでしたよ」

 夫婦なので、エグランティーヌの離宮はアナスタージウスと同じだ。今日、アナスタージウスは一人で地下書庫へ行っているらしい。エグランティーヌが人払いをしたことで、わたし達は二人だけになった。それでも、エグランティーヌは念を入れて盗聴防止の魔術具を差し出してくる。

「エグランティーヌ様が強硬にアナスタージウス王子を排すると思わなかったので、驚きました」

 わたしがお茶を飲みながらそう言うと、エグランティーヌは「ローゼマイン様にご相談してからならば、アナスタージウス様にもお話しできると思うのですけれど……」と微笑んだ。

「どのようなご相談でしょう? わたくしでお役に立てると良いのですけれど……」
「わたくしが相談したいと申し出た日、祠の確認に向かったでしょう?」

 エグランティーヌはわたしをじっと見つめながら話し始めた。ヒルデブラントの案内で祠に行き、その扉に触れた途端、魔力を奪われて引き込まれるような感覚がして、気付いたら祠の中にいたらしい。

 ……わたしの時とほとんど一緒だね。

 わたしは別に魔力を奪われるような感覚はなかったのだが、エグランティーヌによると、それほど多くはないけれどシュタープから魔力を引き出されたような感じがしたそうだ。

 ……もしかしたら、引き出された量が少なくて気付かなかったのかな?

 全身に魔石のお守りを常時つけているわたしは、常にどこかの魔石に魔力を吸われている状態だ。そのため、ちょっとくらい引き出されてもいつものことで違和感を覚えない。自分の魔力の流出にやや鈍感になっていると言える。

「あの祠は火の神とその眷属が祀られた物でした。ライデンシャフトの像を見上げていると、不意にお祈りをしなければならない気がして……わたくし、奉納舞を舞ったのです」

 ……わたしは人並みに成長しますように、ってお祈りをしました。

 神様を前にした行動にはちょっとだけ個人差があるようだ。わたしの場合、奉納舞はちらりとも頭に浮かばなかった。神に祈りを捧げるという行為がエグランティーヌにとって奉納舞なのだろう。

「まるで講堂の舞台の上で魔石を付けて舞っている時のように勝手に魔力が引き出されていくような感じだったのですけれど、わたくしはそれを不思議にも思わず舞っていました。そうして魔力を奉納していると、次第にライデンシャフトの手に青の魔石ができ始めたのです」

 ……うーん? わたしの時は入った時からライデンシャフトの手に青い石板があったよね?

 わたしが見たライデンシャフトは最初から手に青い石板を持っていた。うっすらと光っていて文字が刻まれているのが見えたので、青い魔石とは思わずに青い石板だと思ったはずだ。

 ……もしかして、これまでに奉納している魔力の差、なのかな?

 青い石板を得た時の感覚が、これまで自分が捧げた祈りの魔力と「神の意志」が混じり合っているというものだったので、多分間違いないと思う。

「奉納舞で魔力がほとんどなくなってしまったので、わたくしは普段から腰に下げている回復薬を使いました。ローゼマイン様が配ってくださった回復薬程の効果はございませんけれど、とても回復するお薬なのですよ」

 エグランティーヌは王族で使用されている回復薬を使って、魔力を回復させたらしい。そうしたら、また祈らなければならない気分になったそうだ。

「え? 回復したらまたお祈りをしたのですか?」
「えぇ。そうしなければならない気がしたのです」

 結局、エグランティーヌは自分が腰に持っていた回復薬を全て使い切るまで魔力の奉納を行ったらしい。

「終わった時には青の魔石がずいぶんと大きくなっていました。けれど、まだ祈りが足りぬ、と刻まれていたのです」

 ……どれだけ魔力を搾り取る気ですか、ライデンシャフト様!?

 そして、エグランティーヌは魔力が尽きたら、まるで祠から追い出されたように外にいたらしい。

「ずいぶんと長い時間を祠の中で過ごしたのですけれど、外に出ると時間が全く変わっていなくて、他の方は祠に入れなかったようなのです」

 扉を押しながら「本当に鍵が閉まっている」とアナスタージウスは言っていたことから、彼が中に入れなかった、と判断したそうだ。マグダレーナやヒルデブラントにも何の変化もなかったらしい。

「ねぇ、ローゼマイン様。あの祠は次期ツェント候補が祈りを捧げる祠ではございませんか? 地下書庫にあった石板には何度も回って祈りを捧げるという文言が刻まれていたものもあったでしょう? 祈りが足りて、あの青の魔石が完成した時には一体どうなるのでしょう?」

 エグランティーヌの言葉にわたしは「どうなるのでしょうね?」と首を傾げる。王族から次期ツェント候補が出たのであれば、わたしのことは言わない方が良い。「わたしはすでに青い石板をゲットしてます」なんて、自称次期ツェント候補のディートリンデよりも王族に喧嘩を売ることになるはずだ。

「……でも、ローゼマイン様も中に入られたでしょう?」
「どうしてそう思われるのですか?」
「神殿でお祈りをして、御加護を増やしていらっしゃったローゼマイン様ならばあの祠に入れると思います。それに、わたくしのお話に驚きがありませんでしたもの」

 エグランティーヌと自分との違いについて考えていたので、確かに驚きはしなかった。失敗だ。もっと大袈裟に驚いておくべきだった。

「あら、とても驚きましたよ。声が出ないほどです。……わたくしが一番驚いたのは、講堂の舞台で魔石を付けて舞ったという部分でした。王族が魔法陣を光らせることに挑戦したのですか?」

 わたしは話題を逸らす。エグランティーヌは微笑んで答えてくれた。

「えぇ。次期ツェント候補を選出するための魔法陣だ、とローゼマイン様とフェルディナンド様が教えてくださったでしょう? 卒業式の後で、加護の再取得の儀式をし、王族は魔法陣を光らせることができるのか、挑戦したのです」

 ディートリンデが光らせることができたのだから、と王族も魔石を身に着けて魔力を放出しながら舞ったらしい。そうしたら、トラオクヴァール、ジギスヴァルト、アナスタージウス、エグランティーヌの四人は選出の魔法陣を光らせることができたそうだ。

「加護の儀式を行ったことで全属性になったツェント、ジギスヴァルト王子、アナスタージウス様も魔法陣を光らせることができたのに、あの祠には入れたのはわたくしだけなのです。アナスタージウス様とわたくしで一体何が違うのでしょう?」
「シュタープですよ」
「え?」

 目を瞬くエグランティーヌに、「マグダレーナ様から報告されていませんか?」とわたしは首を傾げた。

「昨日の終わり際、わたくしが現代語訳をしていた石板に載っていたのです。小さな祠の使い方が……」

 小さな祠は眷属神が祀られている物で、祈りを捧げると先程のエグランティーヌの話と同じように魔石ができるらしい。それを得ることで属性の強化ができるのだそうだ。全ての眷属神の魔石を得ることで、大神の御加護を得られるようになるらしく、学生時代に必死で祈りを捧げた王族の言葉があった。

「シュタープは一生に一度だけしか得られませんよね? ですから、卒業前のシュタープを得る時期までに大神の御加護を得ようと必死だったようですよ。ツェント候補のシュタープは始まりの庭で得なければならないそうです。エグランティーヌ様はそこで得たのですか?」
「……始まりの庭という名前は初めて知りましたけれど、そのように呼ばれても不思議ではない場所で得ました」

 呆然とした顔でそう言った後、エグランティーヌは落胆したように肩を落とした。

「それでは、シュタープを得る時に属性の足りなかったジギスヴァルト王子は火の神の祠に入れず、次期ツェント候補になれないということではありませんか……」
「ジギスヴァルト王子は無理かもしれませんけれど、ヒルデブラント王子ならば可能性はありますよ。シュタープの取得時期を卒業前に戻して、小さい祠でお祈りをして属性を増やして、加護の儀式で全ての大神から御加護を得ることができれば、次期ツェント候補になれると思います」

 あの年で魔力圧縮を頑張るための根性があるのだから、ヒルデブラントならば何とかなると思う。エグランティーヌが表に立つのが嫌ならば、ヒルデブラントに頑張ってもらえば良い。大神の加護を得る方法がわかったのだから、何とかなるだろう。問題はヒルデブラントが成人する頃まで今のツェントがもつのかどうかだ。

「……ローゼマイン様、次期ツェントはジギスヴァルト王子と発表されました。わたくしやヒルデブラント王子が次期ツェント候補となれば、またユルゲンシュミットが荒れるでしょう」

 ジギスヴァルトは魔法陣を光らせることができたし、星結びの儀式で今までにない祝福も与えられた。これからジギスヴァルトを次期王として盛り立てていこうと中央はまとまりつつあるらしい。そこにエグランティーヌやヒルデブラントが不和を巻き起こすわけにはいかないそうだ。

「騒乱の種となるのを回避したいエグランティーヌ様のお気持ちはよくわかりますけれど、グルトリスハイトがないこと自体がユルゲンシュミットの荒れている原因でしょう? 国境門の開閉、領地の境界線など大きな問題はグルトリスハイトがあれば解決します。なるべく早くグルトリスハイトが必要なのではありませんか?」
「それはそうですけれど……」

 それでも、エグランティーヌには自分がグルトリスハイトを手に入れるのは抵抗があるようだ。自分の親兄弟が殺されたトラウマもあるのだと思う。

 ……うーん、できるだけ早めにグルトリスハイトを手に入れて、フェルディナンド様をエーレンフェストに戻すのと引き換えに、ジギスヴァルト王子に譲れるようにした方が良いのかな?

 祠に入ることができなかったアナスタージウスに相談することもできずに思い詰めている様子のエグランティーヌを見て、わたしはそう思った。
 でも、口にはしない。
 多分、わたしが一番グルトリスハイトに近いところにいると思う。祠に入った時点で青い石板が完成していたのだから、他の祠でもそれほど苦労することなく石板を得ることができるだろう。

 ……でも、前にフェルディナンド様は「王族しか入れない開かずの書庫」にグルトリスハイトがあるって言ったんだよね。

 いくら石板を集めても条件を満たせない可能性があるのだ。ジギスヴァルトにグルトリスハイトを譲れるかもしれないというような妙な期待はさせない方が良い。

「石板を調べていけば、ジギスヴァルト王子がグルトリスハイトを手に入れるために必要な情報もあるかもしれませんよ」

 わたしが耳当たりの良い綺麗事を述べて、貴族らしい笑みを浮かべると、エグランティーヌは何か言いたそうにわたしを見た後、そっと視線を伏せた。

「相談に乗ってくださってありがとう存じます、ローゼマイン様」



 エグランティーヌの離宮を出て、わたしは寮に戻る。アンゲリカとダームエルから祠の位置を調べ終わったという報告を受けた。
アナスタージウスを排除してのお茶会でした。
王子達にはなれない次期ツェント候補になったことを肌で感じているエグランティーヌ。
早めに手に入れてジギスヴァルトに譲れば丸く収まると考えているローゼマイン。

次は、祠巡りです。
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