挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
本好きの下剋上 ~司書になるためには手段を選んでいられません~ 作者:香月 美夜

第五部 女神の化身

533/677

加護の再取得 前編

 工房で皆が探し物をしている横で、わたしはお守り作りに励んだ。平民用のお守りは図書館の工房にある素材を使わなければできないのだ。下町の家族やグーテンベルク達に配る分を考えると、結構たくさん必要になる。ギルド長、ギルベルタ商会、プランタン商会を呼んでいる時に渡すならば、ギルド長だけ仲間外れにするわけにもいかない。

「お守りは余分も作ったし、これでよし」

 そうして、珍しく読書よりも平民用のお守り作りに励んだ後は、儀式に必要な物を神殿に運び込んだ。明日は加護の再取得だ。

「ローゼマイン様、わたくしは卒業式の後で再取得しましたから、明日の儀式には参加せずに訓練へ向かいます」
「わたくしも再取得いたしましたから、城でお仕事をしたいと思います」

 レオノーレとリーゼレータの言葉に頷き、わたしはユーディットを振り返る。

「ユーディットはどうしますか?」
「お祈りが足りていないと思いますから、今回は見合わせます。訓練に向かっても良いですし、護衛騎士がいた方が良いならば神殿に向かいます」
「護衛騎士はたくさんいるので、訓練に向かってくださいませ。……オティーリエとブリュンヒルデにも声をかけてみなければなりませんね」

 オルドナンツを二人に飛ばしたけれど、オティーリエはこれまで特にお祈りをしていないし、ブリュンヒルデはグレッシェルとのやり取りや側仕えの教育の手配などで非常に忙しいらしい。ブリュンヒルデは自分の卒業式の後で再儀式を行うので今回は見合わせるということだった。

「でも、わたくしに名捧げをしたグレーティアは強制参加ですから、必ず神殿に来てくださいね」
「かしこまりました」

 ローデリヒが全属性を得たのは名捧げのせいではないか、と推測されているけれど、まだ確証は得られていない。今回は成人組の後で名捧げ組にも加護の再取得を行ってもらうつもりなのだ。

 ……お母様も来られるかしら?

 お母様が神殿へ来ることができれば、名を捧げる主を変更した場合、得られる加護に差が出るのかどうかを調べることができる。ミュリエラには何度も儀式をしてもらうことになるが、できれば調べておきたい。わたしがオルドナンツでお母様に予定を聞いてみると、「午後からならば向かえます」という返事があった。

「新しいお菓子のレシピをいただきましょう。コルネリウスが卒業したので、もう新しいレシピが手に入らなくなってしまいましたから」

 ちゃっかりしているお母様のために、わたしは今年のご褒美だったムースのレシピを準備しておくことにした。



 次の日、三の鐘が鳴る前にはすでに儀式を行う側近達が揃っていた。わたしは神殿長室の工房の扉を開け、出入りするために必要な魔石を渡し、魔法陣などを運び出せるように準備する。

「ローゼマイン様、礼拝室に運ぶのでよろしいですか?」
「えぇ、フラン。ハルトムートには執務の指示を出した後は礼拝室へ向かうように伝えてあるので、礼拝室へ運んでください。できるだけ貴族院と同じようにしたいのです」

 力仕事なのでフランだけではなく、ギルとフリッツも工房から呼んで荷物運びを手伝ってもらっている。すぐにハルトムートの側近達も合流し、あっという間に荷物は運び出されていった。

「モニカ、孤児院に通達はされているかしら?」
「はい。本日は礼拝室に入らないように、と伝えています」

 わたしは工房へ出入りする者を見張らなければならないので、準備はハルトムートとダームエルに任せている。文官であるミュリエラとローデリヒとフィリーネが助手だ。

 全ての荷物を運び出してもらうと、わたしは側近達に渡していた魔石のブローチを回収し、工房の扉を閉めて礼拝室へ向かう。礼拝室では先に指示を出していた通りにハルトムート達が準備をしていた。

 祭壇に布や果実が飾られ、香炉には火が入り、ほんのりと香っているのがわかる。祭壇に向かって赤い布が敷かれていて、魔法陣の描かれた布が大きく広げられている。その魔法陣は貴族院で見た魔法陣と違って刺繍ではなく、インクで描かれていた。フェルディナンドもさすがに刺繍をする気にはなれなかったようだ。

「最初は本当にこの魔法陣が作動するのか、一属性ずつ儀式を行っても御加護を得ることができるのかを確認するため、最初はアンゲリカに挑戦してもらいますね」

 インクなので、年数がたつうちに掠れて消えている部分もあるかもしれないし、何か設置の仕方が悪くて発動しない可能性もある。

「試しですからアンゲリカの儀式にはわたくしが同席しますけれど、その後は一人ずつ順番にお願いします。貴族院での加護の儀式は一人ずつ行ったでしょう? 得られた加護をあまり大っぴらにする物ではないのかもしれませんし、儀式に集中するためかもしれませんから」

 アンゲリカは本当に唱えられているのかを確認するためにも見張りが必要だが、他の人は問題ないはずだ。儀式の手順を確認すると、皆が心配そうにアンゲリカを見つめた。本当にこういう時のアンゲリカには信用がない。当人はキリッとした顔で「頑張ります」と力強く頷いているけれど、やっぱり心配なのだ。

「アンゲリカを試した後は、ハルトムートに行ってもらいます」
「私ではなく、ですか?」

 コルネリウス兄様が不思議そうに言った。試しを行うのは身分の低い者を使うのが当然だが、きちんとできることを確認した後は身分の順番で行うのが普通である。

「えぇ、ハルトムートには儀式を早く終えて、執務に戻ってもらわなければなりませんから」

 護衛騎士であるコルネリウス兄様の代わりは何人もいるけれど、神官長として采配ができるハルトムートの代わりはいない。ヴィルフリートに頼まれたし、ハルトムートが楽しみにしているから、前倒しで儀式を行うことになったけれど、本当は数日後の洗礼式や祈念式の準備で忙しい時期なのである。

「なるほど。確かに効率を考えればハルトムートが先の方が良いと思われます。けれど、貴族社会では順序を乱すことは嫌がられるので、そこは覚えておいてください」

 わたしのやり方がまかり通るのは神殿だけ、と釘を刺しつつ、順番を入れ替えることは構わないと言ってくれた。

「わたくしはアンゲリカの儀式に付き添った後、神殿長室の工房にいます。ハルトムート、コルネリウス、マティアス、ラウレンツ、ミュリエラ、グレーティア、ダームエルの順で儀式を行い、結果を報告に来てくださいませ。ミュリエラはお母様がいらっしゃった後でもう一度行ってもらうことになります」
「かしこまりました」

 皆が頷くのを見回し、わたしは自分の足元にある木箱を指差す。

「この木箱には魔力の回復薬が入っています。必ず魔法陣を自分の魔力でたっぷりと満たすことを忘れないでくださいませ」

 そして、アンゲリカとわたしを残して、他の皆は一度礼拝室から出る。扉の外で護衛騎士達が見張っていることだろう。わたしは木箱から魔力の回復薬を取り出し、アンゲリカに差し出した。

「では、アンゲリカ。やりましょう。自分の欲しい加護を得られるように、特定の神々の名前を呼んでも儀式ができるのか試してみましょう」
「はい」

 アンゲリカはわたしが差し出した魔力の回復薬を持って、魔法陣の中心に立つ。そして、祭壇に向かって跪き、魔法陣に触れて魔力を注ぎ始めた。

「我は世界を創り給いし神々に祈りと感謝を捧げる者なり」

 アンゲリカが間違えないようにゆっくりと最高神と五柱の大神の名を唱えれば、アンゲリカの適性である火と風の属性の印が光り、それほど高くはない光の柱が立つ。こうして他人の儀式を見ると、全属性が最初から光って、柱の高さがアンゲリカの倍くらいあった自分が規格外と言われる理由がよくわかる。他人との比較は大事だ。

 ……眷属の御加護を得たら、どんどん光の柱が伸びていったもんね。他の人とはかなり差がありそう。

 わたしがそう思っていると、アンゲリカは眷属の名を唱え始めた。

「疾風の女神 シュタイフェリーゼ、武勇の神 アングリーフ。我の祈りがつきづきしくおぼしめさば 御身のご加護を賜らん」

 ……本気でピンポイントの神様にしか祈りを捧げていないよ!?

 この加護だけは欲しいと熱望しているのだろう、たった二柱の神様の名前を呼び終わった時点でアンゲリカはさっさと締めの言葉を口にする。眷属の名前を唱えても全く何の反応もないどころか、すぅっと魔法陣の上の光の柱は消えてしまった。

「これは間違いなく失敗ですね」
「やはり全ての神々の名前を覚えなければならないのですか。残念です」

 いくら魔法陣を魔力で満たしても、儀式の順番を勝手に崩したり、省略したりしてはならないようだ。だからこそ貴族院の三年生では全ての神々の名前を覚えるというのが共通の課題とされているのだろう。そうでなければとっくに廃れていたに違いない。

「シュティンルークの言葉を復唱することで儀式を行うことができるのかどうかも挑戦してみましょう」

 わたしの言葉に絶望の顔をしていたアンゲリカの顔に生気が戻る。

「わたくし、シュティンルークならばやってくれると信じています」
「主、これは実験だから付き合うが、本来は自分でやらねばならぬことだ」

 フェルディナンド声のシュティンルークに叱られながらアンゲリカは回復薬を飲む。実験ならば付き合う、というシュティンルークは元々の人格にずいぶんと影響を受けているのではないだろうか。

 ……実験結果はちゃんと送って上げようっと。

「やります」

 魔力が回復したアンゲリカが魔法陣の中心に再び向かう。そして、先程と同じように魔法陣を満たし始めた。

「我は世界を創り給いし神々に祈りと感謝を捧げる者なり」

 最高神と五柱の大神の名前はアンゲリカでも問題なく言えるようになっている。問題はその後の眷属神だ。

「闇の眷属たる厄除けの神 カーオスフリーエ」
「隠蔽の神 フェアベルッケン」

 シュティンルークの声をアンゲリカが復唱していく。アンゲリカが全くお祈りをしていない神々のようで、魔法陣に反応はない。ちなみに、わたしは両方の加護をいただいている。カーオスフリーエの加護があるのに、次々と災厄に襲われているのは何故だろうか。

「火の眷属たる武勇の神 アングリーフ」

 そこで初めて反応があった。火の神の貴色である青い柱が少し伸びた。導きの神エアヴァクレーレンの名前でも反応があり、青の柱がまた少し伸びる。その様子を見たアンゲリカが嬉しそうに笑った。やる気が出たのか、復唱する声に張りが出たような気がする。

「風の眷属たる時の女神 ドレッファングーア」
「疾風の女神 シュタイフェリーゼ」

 今度は黄色の柱が少し伸びた。シュタイフェリーゼの加護を得られたようだ。飛信の女神 オルドシュネーリの加護も得られるかと思ったけれど、残念ながら得られなかった。

 その後は特に反応がないまま、最後の言葉を口にする。

「我の祈りがつきづきしくおぼしめさば 御身のご加護を賜らん」

 青と黄色の二色の柱から光が上に上がっていき、くるくると回るようにしてアンゲリカに祝福の光として降り注ぐ。そして、魔法陣を満たしていた魔力は光の流れとなって赤い布を伝って祭壇を上がっていき、神の像に吸い込まれた。

「成功ですね」

 自分の時の儀式を思い返しても、これで問題なく加護を得ることができたはずだ。ただ、わたしには風の女神の加護が得られたのかどうかわからない。

「風の女神 シュツェーリアの御加護は得られたのかしら?」
「得られました。貴族院で行った時は最後に黄色の柱が消えたので、今回は大丈夫だと思います」

 ……大神の御加護は得られなかった時は光の柱が消えちゃうのか。それは初めて知ったよ

 貴族院でアンゲリカはずいぶんと珍しい経験をしたようだ。加護が得られずに光の柱が消えてしまうような経験をしたいとは別に思わないけれど、珍しいのは間違いない。

「アンゲリカが加護を得ることができたのは、シュティンルークのおかげですから魔力を与えるなり、褒めるなりしてあげてくださいね」
「はい。そして、シュティンルークをわたくしに授けてくださったローゼマイン様のおかげです。少しでも強くなれたのか確かめるために早く訓練場に行きたいと思います。そして、師匠に一度でも勝ってみたいです」

 アンゲリカがものすごくわくわくしているけれど、神々の御加護は魔力の消費が減って楽になるだけで、すぐに強くなれるようなものではないと思う。

 ……それとも、アングリーフの祝福を授けた時のようになるのかしら?

 アングリーフの加護を得た騎士達からは特に報告がないので、そこまで大幅な戦力アップにはならないと思う。でも、アンゲリカにとってはシュティンルークを使用する時の消費魔力が少なくなることは非常に大きいらしい。

「今日は護衛騎士達がたくさん神殿にいるので、訓練に向かっても良いですよ。再び加護が得られたことをおじい様に自慢して来てください。おじい様も神殿に来たがるかもしれませんから」

 おじい様も来てくれたらいいな、と思いながら礼拝室を出る。扉の外ではわたしの側近達が順番待ち兼護衛をしていた。

「アンゲリカが成功したので、儀式は問題なくできます。ハルトムート、いってらっしゃい。終わったら結果を知らせに神殿長室に来てくださいね」
「では、お先に」

 ハルトムートはコルネリウス兄様にそう言うと、礼拝室へ入っていく。

「ここには次に儀式を行うコルネリウスだけを残しましょう。他の皆はそれぞれの仕事をするように。アンゲリカは訓練に向かっても良いですよ」

 ローデリヒ、フィリーネ、ミュリエラ、ダームエルには神官長室で執務をするように言って、マティアスとラウレンツはわたしの護衛を頼む。グレーティアは神殿長室で待機だ。アンゲリカは風のような勢いで飛び出して行った。



 神殿長室に戻ると、わたしは早速工房へ向かう。グレーティアに工房へ出入りするための魔石のブローチを渡し、儀式を終えて戻って来た者を工房へ案内してくれるように言っておく。工房に男女二人きりという状況を回避するためにグレーティアにはいてもらわなければならないのだ。

「他の者がどのような御加護を得たのか、グレーティアに聞こえないようにするために盗聴防止の魔術具も準備しますね。あ、それから、フランは通常業務に戻ってください。工房への案内はグレーティアに任せますから」

 儀式から戻って来るわたしを迎えるためにフランは神殿長室に待機していたけれど、普段ならば神官長室で執務をしているはずだ。けれど、「さすがに神殿長室に神殿の側仕えが一人もいないという状態にはできません」とフランは微笑んで却下した。

 わたしはグレーティアに工房へ出入りするための魔石を渡す。

「ローゼマイン様は工房で何を作られるのですか?」
「お守りです」
「……昨日、図書館の工房でも作っていたようですけれど?」

 グレーティアが不思議そうにそう言った。確かに昨日もたくさん作ったけれど、あれだけではダメなのだ。

「昨日作ったのはグーテンベルク達に配る分です。平民用だけではなく、貴族用も必要ですから」

 実は、フェルディナンドが神殿の工房を片付ける時に素材の一部をもらったのだが、品質の良い物を優先して神殿長室の工房に入れてくれた。そのため、貴族向けのお守りは神殿の工房で作った方が品質の良い物ができる。

「では、ハルトムートが戻って来たら、連れて来てくださいね」
「かしこまりました」

 工房に入ると、自分が身につけているお守りの中で魔力消費が少なめのお守りを選んで、同じお守りを作り始めた。魔力攻撃を跳ね返す物と物理攻撃を跳ね返す物の二種類だ。

 ……不意打ちの攻撃さえ防いでくれたら、後は護衛騎士が対応できると思うんだよね。

 領主一族に付いている護衛騎士はおじい様が鍛えまくっている。不意打ちにお守りが反応してくれれば、後は何とかしてくれると思う。

 わたしはヴィルフリートとシャルロッテに渡すお守りを作成し、ふぅ、と息を吐いた。二人は魔力圧縮も行っているので魔力が多いけれど、メルヒオールはまだ魔力の扱いさえ覚束ないので、もっと魔力消費が控えめのお守りにしなければならない。「わたしを基準に考えるな」とフェルディナンドは口が酸っぱくなるほど言っていた。

 ……ちゃんと覚えてるわたし、完璧じゃない?

「ローゼマイン様、こちらのお守りは祈念式を回るヴィルフリート様やシャルロッテ様にお渡しするとおっしゃっていた分ですか?」
「あら、ハルトムート。終わったのですね?」

 グレーティアとハルトムートが工房に入ってくるのを見て、わたしはメルヒオールのお守りを作るために素材を選んでいた手を止めた。そして、踏み台から降りて机に向かう。二人のために作ったお守りを見た後、ハルトムートはニコリと笑った。

「ローゼマイン様、私も祈念式に向かうのですが……」

 ハルトムートが笑顔でお守りを要求してくる。作ってあげるのは構わないけれど、ここはわたしのお願いを押し通すチャンスだ。わたしはハルトムートを見上げて、ニンマリと笑う。

「ハルトムートがあの妙なお祈りを止めるなら、作ってあげてもいいですよ。あんなお祈りを子供達に教えるなんて神々に対する不敬ですからね」

 神々への祈りの言葉にしれっとわたしの名前を入れていたことを叱ったけれど、「誰に感謝しなければならないのか、旧ヴェローニカ派の子供に教えるのは大事です」とあまり聞き入れてくれないのだ。

 ハルトムートに言わせると、貴族社会に文句を言われている中で命を助けられたことを理解せず、下手に悪感情を抱いたまま過ごしていては、いくら努力を重ねても貴族になるための芽を摘まれることになる。それを教えるのは親切なのだそうだ。

「それでも、教え方というものがあるでしょう」

 お祈りの中に入れるようなものではない。わたしの言葉にハルトムートはほんの少しだけ何かを考えるように俯き、顔を上げて「かしこまりました。ローゼマイン様の仰せのままに」と胡散臭いほどに爽やかな笑みを見せた。

「感謝すべき対象を理解しなかった子供達が自分達の親兄弟の敵である領主一族にどのような態度をとるのか、それを貴族達がどのように受け止めるのかわかりません。ですが、私がローゼマイン様からお守りをいただくことに比べると、子供達の将来など些細なことです。すっぱり止めましょう」

 ……あ、あれ? あのお祈りを止めるのはすごく悪いこと? 将来的に子供達が困ることになるの?

 ハルトムートの言葉が胸に引っかかって、何だか頭がぐるぐるしてきた。「子供達のためならば続けた方が良いのだろうか?」と思ったところで、グレーティアがわたしの肩を軽く叩いた。

「ローゼマイン様、しっかりしてくださいませ。改変されたお祈りを覚えてしまう方が子供達の将来のためには良くないでしょう。領主一族への感謝の念を教えるのとお祈りの言葉を改変するのは別ですよ」
「そ、そうですよね? グレーティア、ありがとう。目が覚めました。ハルトムートはすぱっと止めるように。いいですね」

 わたしが命じると、ハルトムートはちょっと残念そうな顔で肩を竦めて了承した。

「それで、眷属の御加護はいただけましたか?」

 わたしは机に準備してあった紙を引き寄せ、ハルトムートに盗聴防止の魔術具を渡し、ペンを手に取る。

「はい。自分の適性からは光の眷属である秩序の女神 ゲボルトヌーン、火の眷属である育成の神 アーンヴァックス、風の眷属である飛信の女神 オルドシュネーリの御加護を得ました」
「適性からは、ということは適性以外の眷属からも御加護を得られたのですね?」

 わたしはメモをしながら問いかける。ハルトムートは嬉しそうに笑って頷いた。

「長寿の神 ダオアレーベンと夢の神 シュラートラウムの御加護を得て、命の属性を得ました」
「命の属性を持っている方は少ないようなので、珍しいですね」

 収穫祭や奉納式に参加していたハルトムートは予想外の眷属から加護を得ていた。

「一年とたっていないのに、これだけの眷属から御加護を得たのです。神事に積極的に参加するのは必要ですね。……これから何年か神殿でお祈りをしていると、ヴィルフリート様を追い抜くかもしれませんよ」

 魔力を奉納する神殿の神事はそれほど多くない。礎の魔術に何年も供給しているヴィルフリートの方が得られた加護が多いという結果になった。それが少し悔しそうだ。

「ヴィルフリート兄様は日常的に魔力を注いでいるので、そう簡単には追い抜けないと思いますけれどね」

 シャルロッテがどのくらいの加護を得られるのか楽しみだ。
 ハルトムートの結果を聴き終わり、工房から出るように言う。メルヒオールのお守り作りを始めるより先にコルネリウス兄様とグレーティアが入ってきた。盗聴防止の魔術具を使って、同じようにどのような加護を得たのか尋ねる。

「レオノーレと同じように武勇の神 アングリーフと疾風の女神 シュタイフェリーゼの御加護を得たよ。ローゼマインの護衛騎士としての面目が立ってホッとした」

 婚約者であるレオノーレが先にアングリーフの加護を得たことに少しだけ焦りがあったらしい。男のプライドというやつだろう。

 ……レオノーレにはイイカッコしたいんだね、コルネリウス兄様。

 微笑ましくなりながらわたしがコルネリウス兄様を見上げると、視線の意味に気付いたのかコルネリウス兄様がちょっと視線を逸らす。

「それから、闇の眷属であるフェアドレーオスからの加護を得た」
「では、闇の属性が増えたのですね。おめでとうございます」

 フェアドレーオスは退魔の神だ。正確には混沌の女神を追い払う神様である。騎士らしいといえば、騎士らしい。

「属性が増えるとは思っていなかったから嬉しいものだね」
「お昼にはお母様がいらっしゃいますから、報告されると良いのではございませんか? それとも、レオノーレにオルドナンツを飛ばします?」

 うふふん、と笑いながらコルネリウス兄様を見上げると、「余計なことばかりに気を回さなくて良いよ」と言いながら、コルネリウス兄様はわたしのほっぺをぎゅっと一度つねって工房を出て行った。

「なんで皆、わたしのほっぺをつねるかな?」

 わたしはちょっとひりひりする頬を撫でながら、メルヒオールのお守りの調合に取り掛かる。

 ……次は名捧げ組か。どうなるんだろう?
それぞれ加護を得ました。
神殿に出入りする期間は長い成年組ですが、神に祈りを捧げ始めたのは最近ですから、取得できた加護はそれほど多くありません。
奉納式で魔力を注いだ分、貴族院で祈り始めた人達よりは多いですけれど。

次は、後編です。名捧げ組とダームエルに注目ですね。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ