挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
本好きの下剋上 ~司書になるためには手段を選んでいられません~ 作者:香月 美夜

第五部 女神の化身

497/677

イラスト交渉とお茶会の話題

「……雰囲気が変わるというのはどういうことだ?」
「技術の流出を防ぐために詳しい説明はできませんが、印刷する過程で他者の手が入るということです」

 わたしの説明にレスティラウトはハッキリと顔をしかめた。芸術家肌のレスティラウトはやはり他者の手が入ることが気に入らないらしい。

「ならば、その工程を私が行えばよかろう」
「いいえ。技術の流出を防ぐため、それは受け入れられません。今のところ、エーレンフェストでは絵を買い取り、こちらで印刷することにしています。他者の手が入ることを拒まれるのでしたら、レスティラウト様の絵は買取りいたしかねます」

 誰のイラストを買い取っても、エーレンフェストの工房でガリ切りをする予定だ。側近にしたり、結婚したりしてエーレンフェストに移住した場合を除いて、ガリ切りを他領の者にさせるつもりはない。特に領主候補生であるレスティラウトは尚更だ。
 買取りをしない、という言葉に慌てたのは、レスティラウトではなく、ヴィルフリートだった。

「だが、ローゼマイン。これほど素晴らしい絵は他に得られぬぞ! ディッター物語をより良くするためにもこれは買い取るべきだろう? レスティラウト様には技術の流出をせぬように契約してもらい、その工程を行っていただければ良いではないか」

 よほどディッター物語とレスティラウトの絵に思い入れがあるらしい。ヴィルフリートが本にのめり込んでくれるのはありがたいし、嬉しいけれど、今はちょっと困る。

「ヴィルフリート兄様、素敵な絵と印刷しやすい絵は別物です。エーレンフェストにとって必要なのは印刷しやすい絵で、それが素敵であればより良いのですけれど、いくら素敵であっても印刷できない絵では買い取る意味がありません。正式な本の売り出しさえ始まっていない現時点で、ダンケルフェルガーのような大領地に研究されて印刷技術を奪われるのは困りますもの」
「そういうことか」

 レスティラウトは納得したようだが、ヴィルフリートはまだレスティラウトの絵を諦めきれないようで、絵とわたしを交互に見る。

「せっかくの、これほどの絵が……」
「えぇ。これほど素晴らしい絵です。エーレンフェストで本が売り出された後で立派な革の表紙を付けて製本する時に、レスティラウト様の絵を入れると素晴らしい本に仕上がると存じます」
「それでは、わ、他の者が見れぬではないか」

 私が、と言いかけたのを呑み込んだヴィルフリートを見て、わたしは軽く肩を竦める。

「仕方がありません。技術の流出が一番の心配事ですもの。第二位のダンケルフェルガーに今の時点で技術を奪われてしまっては、エーレンフェストではとても対抗できないでしょう?」

 ガリ切りはガリ版印刷の要である。見る目のある人が見れば、孔版印刷の原理がわかるかもしれない。それに、ロウ原紙も、ガリ切り用の鉄筆も、やすりも、全てグーテンベルク達が頭を寄せ合って、技術を磨き上げて時間をかけて作り出し、改良してきた物だ。簡単に奪われるわけにはいかない。
 いずれは印刷業を他領に広げていくことになるけれど、それは本さえ売りに出ていない今ではない。もう少しエーレンフェストの立場が安定してからの話である。

 付け加えるならば、ダンケルフェルガーの領主候補生ならばガリ切りまで自分で行えるのに、こちらには許可しないのか、と他領からクレームが来るだろう。全員を契約魔術で縛っていく方が大変だし、コストがかかりすぎる。何事も最初が肝心なのだ。わたしはエーレンフェストに引き込める腕の良い絵師がほしいのであって、領主候補生のイラストがほしいわけではない。

「それに、ペンで描くのと、印刷するのはどうしてもまるきり同じではありません。ですから、他者の手が入るのを許せないのならば、印刷して仕上がった物を見た時にも苦情をいただくことになると思います」

 麗乃時代のコピー機でさえ、完全に同じではなかった。薄すぎる線が出なかったり、逆に小さな埃の影が妙な線になって写り込んだりしたのだ。白黒でも映えるように描かれてはいるけれど、線が多いレスティラウトの絵をガリ版印刷すれば、印象が変わるのは避けられない。

「初めて他領から買い取った絵に対する評価がレスティラウト様からの苦情では、エーレンフェストの印刷業に対する印象も決めてしまいます。それならば、最初から買取りしない方が、レスティラウト様も不愉快にならず、エーレンフェストも困りません。お互いのためではありませんか」
「そうだな……」

 ヴィルフリートが至極残念そうに引き下がる。それに少し安堵して、わたしは興味深そうにこちらを見ているレスティラウトの赤い瞳を真っ直ぐに見て尋ねた。

「以上のことを踏まえた上で、レスティラウト様はこれらの絵をエーレンフェストに売ってくださいますか?」

 レスティラウトはこちらを見極めようとするようにじっと見ていた赤い目を少しだけ笑みの形にする。

「エーレンフェスト側の意見は理解した。他者に委ねられるかどうか、よく考えた上で返事をしよう」
「レスティラウト様の絵は本当に素敵ですから、良いお返事を期待しています」

 わたしは営業用スマイルでイラストに関する話を終えた。レスティラウトが軽く手を振ると、文官見習い達がイラストを片付け始める。
 それを見ながらレスティラウトがお茶を一口飲み、わたしとヴィルフリートを交互に見た。

「イラストの話が終わったならば、共同研究の発表について決めておきたい。領地対抗戦での発表はどちらでどのように行うつもりだ?」

 レスティラウトによると、共同研究の場合はそれぞれの場所で同じように展示をしても大領地にしか客が足を運ばないらしい。そのため、下位の領地で発表させることもあるそうだ。

「共通するのは騎士見習いやダンケルフェルガーの学生達を対象に行った聞き取り調査の部分だけで、実際に自分達の領地で行っている儀式に関する記述で大きく違いがあるので両方で展示すれば良いと思います。ねぇ、ヴィルフリート兄様?」
「そうだな。……ダンケルフェルガーでは儀式で祝福を得るための光の柱を立てることにも成功していると聞いているので、そちらの記述も行うでしょう。エーレンフェストはエーレンフェストの儀式について発表することにすれば、どちらかに見物人が偏ることもないでしょう」

 わたしとヴィルフリートの言葉にハンネローレがホッとしたように微笑んだ。共同研究においてどのように発表するか、ということは領地対抗戦にやってくる大人の印象に大きな違いが出るため、一番揉める部分になるらしい。

「では、共通する部分は文官の打ち合わせで行い、それ以外はそれぞれの領地で自由に行うということでよろしいですか?」
「はい、問題ありません」

 ヴィルフリートとわたしが同意する。その場にいる文官見習い達に視線を向ければ、共同研究に関わっている者達は承知したように頷いた。

 ……ライムントの研究はアーレンスバッハ側で行うことになっているから、後はドレヴァンヒェルとの交渉をどうするか、だね。

 エーレンフェストは素材を提供しているだけで、あまり研究に貢献できていないみたいなので、基本はドレヴァンヒェルに任せた方が良いかもしれない。わたしとしてはドレヴァンヒェルの研究結果がわかって、魔木から作られた紙の需要が増えればそれで良いのだ。

「予想外に早く話し合いが片付いたな。……ふむ、甘いお菓子とお喋りはこのくらいにして、ゲヴィンネンでもどうだ?」

 女性のお茶会はお茶とお喋りでいつまでも続くが、男にとっては退屈な物に分類されるらしい。レスティラウトは決めるべきことを決めてしまうと、ヴィルフリートをゲヴィンネンに誘った。
 ヴィルフリートはゲヴィンネンが結構得意なようで、よくドレヴァンヒェルのオルトヴィーンと勝負していると聞いている。ヴィルフリートは大喜びの顔で頷いた。

「お受けします。去年負けましたから、レスティラウト様が卒業されるまでに一度は勝ってみたいと存じます」
「残念だが、オルトヴィーンにも負けることがある其方ではまだ私に勝つのは無理だ」

 フンと鼻を鳴らしたレスティラウトの言葉にヴィルフリートが闘志を燃やした顔になる。
 ダンケルフェルガーの側近達がにわかに動き始め、すぐに別のテーブルにゲヴィンネンが準備され始めた。時間が余ればゲームをする予定だったのだろう。側仕え達の動きにはほんの少しも慌てた様子がない。

 お菓子を食べながら準備ができるのを何となく見ていると、テーブルに並べられるゲヴィンネンの青い駒が目に入る。そこで初めてわたしはダンケルフェルガーのお茶会室に飾られている青いクリスタルのように澄み切った彫刻がゲヴィンネンの駒を模していることに気付いた。

「ダンケルフェルガーはゲヴィンネンも愛好されていらっしゃるのですね。あちらの置物はゲヴィンネンの駒でしょう?」
「え? えぇ。その、ダンケルフェルガーではディッターの反省会をする時にゲヴィンネンを利用するのです」

 ハンネローレが少し恥ずかしそうにそう言った。
 なんと、ディッター大好きなダンケルフェルガーでは試合の前後に儀式を行い、更に反省会まで行うらしい。一年間でディッターのために使う時間はどれくらいになるのだろうか。

「何の神具かわからなくても、フェアフューレメーアの杖が伝わっているのですもの。儀式とディッターを大事にしていなければ、とても残りませんよね」
「神具といえば……。昨日、わたくしが参加した上位領地が集まるお茶会では、先日の儀式の話題で皆様、ずいぶんと賑わっていたのですよ。直接参加していない方も参加した方からお話だけは聴いていたようで……」

 ハンネローレの話によると、初めて神事に参加したことでとても衝撃を受けたそうだ。皆で一つのことを行う一体感、聖杯から立ち上がる光の柱など、日常では味わえない衝撃的な出来事だったらしい。参加できなかった者は、次の機会があればぜひ参加したいと考えているらしい。

「ツェント・トラオクヴァールから直接お言葉を賜るなど、最優秀でも獲得しない限り、難しいでしょう? 皆様、感激されておいででした。それから、ローゼマイン様の神々しいまでのお姿に心打たれた方も多かったようです」

 ……神々しい? 何それ?

 ハンネローレはどことなくうっとりとした様子で、傍から見ていた儀式の様子を教えてくれる。次々と神具を出し、皆が体験したことがない神事を行い、魔力回復と癒しまで行う聖女だったらしい。貴族らしく、何事もないように振る舞えていたようだ。

 ……ひとまず、魔力が漏れそうになって、何とか回避しようとしていたことはバレてないってことだよね? わたし、マジ成長してる!

「お祈りをするためのお守りを作るのが流行し始めているようですし、ローゼマイン様と同じように神具を扱うことができないか、考えている方々もいらっしゃるようです」

 一気にたくさんの者を癒したフリュートレーネの杖を扱えるようになりたいと考える者、ダンケルフェルガーでライデンシャフトの槍を得ようと奮闘している者がいるそうだ。

「ダンケルフェルガーではまだライデンシャフトの槍を作り出すことに成功した者はいません。シュタープで作り出した今まで通りの槍で、儀式の時に魔力を打ち出すのが一番安定して祝福を得られるようです」

 けれど、青く光るライデンシャフトの槍を持ちたくて仕方がない者もいるらしい。貴族院からの報告を聞いたアウブ・ダンケルフェルガーだそうだ。

「ですから、その、どうしても教えられない秘密というのでなければ、ローゼマイン様はどのようにして複数の神具を作れるようになったのか、教えていただけませんか?」

 きっと聞き出してほしいと言われているのだろう。ハンネローレがとても申し訳なさそうな顔をしている。

「ダンケルフェルガーで儀式に使うフェアフューレメーアの杖はどのように覚えるのですか?」
「杖は両親が作るのを見て、触れて、自分の魔力を流すことで作れるようになるのです。……このようにして」

 小さな疑問だったのだが、わたしの言葉は「先にそっちの作り方を教えろ」という意味に取られたらしい。ハンネローレが席を立って、シュタープを出し、魔力を集め始める。

「シュトレイトコルベン」

 杖を出す呪文をハンネローレが唱える。シュタープが変形し、その手にはフェアフューレメーアの杖が握られていた。

「触ってみてもよろしいですか?」
「えぇ、どうぞ。少し魔力を流してみてくださいませ」

 わたしはハンネローレの杖に触れて、少し魔力を流す。魔法陣が浮かび上がるのと、「きゃっ!?」とハンネローレから小さな叫び声が上がって、魔力が反発するのはほぼ同時だった。

「も、申し訳ございません。……その、少し驚いたのです。他人の魔力が流れ込んでくる現象に」

 家族は魔力が似通っているため、それほど気にならなかったけれど、他人であるわたしの魔力は異質で驚いたらしい。他人の魔力が流れ込んでくる不快感は知っている。わたしは急いで謝った。

「不快な思いをさせてしまって申し訳ございません」
「いいえ、わたくしがよくわかっていなかったのが悪いのです。……この杖の作り方が領主一族の血脈だけで受け継がれている理由がよくわかりました」

 ハンネローレが「皆が使えるようになると便利だと思ったのですけれど」と肩を落とす。皆で使いたい理由があるのだろうか。もしかしたら、ダンケルフェルガーはとても暑い地域で、夏の暑さを和らげるのに大勢で儀式を行いたいのかもしれない。

「魔法陣を知るだけならば、図書館のあの書庫で調べることはできそうです。先程浮かび上がった魔法陣と同じような魔法陣が儀式の行い方に描かれていましたから」
「王族からの要請を待つしかありませんね」

 ハンネローレがクスリと小さく笑いながら「ローゼマイン様はどのようにして神具の作り方を覚えたのですか?」と尋ねる。わたしは「フェアフューレメーアの杖とほぼ同じですよ」と微笑み返して答えた。

「神殿にある神具に魔力を奉納すると、魔力が流れて魔法陣が浮かび上がります。ある一定量を越えて奉納すると、その魔力の流れが頭に刻み込まれた感じになるというか、シュタープを変化させる時に自然と思い浮かぶようになるのです」

 わたしの場合、初めての奉納で浮かんだ魔法陣がシュツェーリアの盾を作る時の基本になっている。神殿の神具はシュタープで自分の神具を作ることができるようになるための補助器のような物ではないだろうか。

「初代の王は神殿長だったそうですから、その子等も神殿で神具に魔力を奉納することで、自分の神具を作れるようになっていったのではないかと考えています」
「政変が終わった後、神殿から貴族院へ入った者は何人もいましたけれど、ローゼマイン様のように神具を扱う者はいなかったそうですよ?」

 ハンネローレが不思議そうに言うけれど、何の不思議もないと思う。

「作るだけならばできた者はいると思います。ただ、これだけ神殿が蔑まれている状態で扱う者はいないでしょうね。それに神具を扱うにはハンネローレ様もご存知のように、魔力がかなり必要です。特例で貴族院に入り、初めて魔力圧縮を行うようになった元青色神官や青色巫女では神具の形を維持することも難しいと思われます」

 魔力圧縮を頑張って、何とか中級レベルまで魔力量を増やしたダームエルが形を維持できないのだ。青色上がりの学生では扱うことなどできないと思う。

「神殿にいる間、真面目に、真摯に、儀式を行っていれば、御加護を得た学生はいると思うのですけれど、貴族社会に戻りたくて神殿を憎んでいたり、自分の境遇と共に神々を恨んだりしている者では難しいかもしれませんね」

 前神殿長がいた頃の青色神官の生活が神殿の普通だったら、自堕落すぎて加護を得るなど無理だと思う。付け加えるならば、儀式で魔法陣に魔力が行き渡らなかった可能性も高いのではないだろうか。
 余計なことを言わないようにハンネローレには微笑みながら、心の中で呟いた。

「ダンケルフェルガーでは神殿に祀られていない神具や神々のお話があるのですもの。その歴史には圧倒されます。先日、クラリッサを窘めるためにハンネローレ様の側仕えが口にした言葉があったでしょう? エーヴィリーベが失った、と……。あれは何でしょう? わたくしが知っているお話には出てきていないのです」

 初めて聞く単語だったと思う。わたしの質問にハンネローレは「これからお貸しする本に載っているのですけれど……」と前置きをしながら教えてくれた。

「縁結びの神エアヴェルミーンは命の神エーヴィリーベの眷属であり、友人でした。土の女神ゲドゥルリーヒに求婚し、闇の神の許しを得るために協力したのがエアヴェルミーンだったのです」

 エアヴェルミーンの協力があって結婚できたが、エーヴィリーベの結婚後の生活は聖典の通りである。ゲドゥルリーヒやその眷属の扱いに憤ったエアヴェルミーンとエーヴィリーベは喧嘩別れし、土の女神の眷属を連れて、水の女神のところへ行き、ゲドゥルリーヒを助けるための手助けをしたらしい。

「エアヴェルミーンを失ったエーヴィリーベになるというのは、結婚する上での協力者を失うという意味や、大事にすべきものを蔑ろにすることで最愛の人を失うことになるという意味になります」

 ……なるほど。エーレンフェストの神官長をしているハルトムートに嫁ごうと思ったら、クラリッサには協力者が必要不可欠だもんね。

「でも、縁結びはリーベスクヒルフェの管轄ですよね?」
「自分が縁を結んだせいでゲドゥルリーヒが大変な目に遭った、とエアヴェルミーンは縁結びの神としての力をリーベスクヒルフェに譲り、神としての力を失ったとされています」
「そうなのですか。それで聖典にはエアヴェルミーンが神として載っていないのかもしれませんね。そんな零れ話がたくさん載っている本を読めると思うと、楽しみでなりません」

 わたしがわくわくしながらちらりとダンケルフェルガーの文官達が準備している本に視線を向けると、ハンネローレは少しだけ膨れっ面になった。

「わたくしはとてもひどいと思いましてよ、ローゼマイン様。貸してくださったフェルネスティーネ物語がまさかあのようなところで終わっているなんて……。あの続きが気になって仕方がございません」

 どうやらハンネローレは見事に「続きが読みたい病」にかかったらしい。いい傾向である。第一夫人が行った様々な嫌がらせに背筋を震わせ、フェルネスティーネの状況に涙を流し、庇ってくれる異母兄にときめきを覚えたらしい。

 ……感動の言葉にも神様がいっぱい出てきてるけど、方向性は間違ってないと思う。多分。

「これがローゼマイン様を基にしたお話でなくて、本当によかったですわ」
「わたくしが基になっているならば、アウブ・エーレンフェストが本にすることをお許しにならないと思いませんか?」
「自分がひどい扱いをしていると広げるような行為ですものね。ただ、洗礼式を前に引き取られたという状況や髪の色、成績優秀なところなど共通点は多いですから。誤解される方は他にもいらっしゃるかもしれません」

 ハンネローレは心配そうに声を潜めて忠告してくれる。わたしは心配してくれることにお礼を言った。

「ご心配ありがとう存じます。でも、二巻が出れば、別人とわかるでしょうから問題ありません。もうじきできると思うのですけれど……」
「ぜひ貸してくださいませ! やっと意地悪な第一夫人から逃れて貴族院に入学し、素敵な出会いがあったところで終わってしまったのですよ。この後、どうなるのか、わたくし……」

 フェルネスティーネを庇おうとする異母兄と出会ったばかりの王子の二人が素敵で、どちらの恋を応援するか、悩み中らしい。

 二巻では異母兄がさっさと他の相手を見つけちゃいます、なんてネタバレはもちろんしないけれど、これだけ第一夫人に対して怒り、恋の行方を楽しみにしている読者がいるのだから、お母様も喜んでくれることだろう。

 ……お母様の前にミュリエラが喜んでるよ。ものすごく頷いてる。

「一つ心配なのは、あの方が書かれるお話には時折悲恋物語もあるのですもの。とても美しいのですけれど、もし、フェルネスティーネが不幸なままで終わるお話ならば、わたくしは……」

 ハンネローレが不安そうにおろおろとしているので、「最終的には幸せになりますよ」とだけ教えてあげる。これで安心して続きを待てるだろう。

「わたくし、フェルネスティーネが幸せになるまで応援したいと思います」

 ハンネローレが笑顔でそう言った時、ゲヴィンネンをしていたヴィルフリートが顔色を変えて立ち上がった。

「違います、レスティラウト様!」

 ……何事!?

 突然の大声にわたしとハンネローレはもちろん、部屋中の者の視線がヴィルフリートとレスティラウトに向けられる。ヴィルフリートがきつく奥歯を噛み締め、レスティラウトを睨んでいるのがわかった。
 レスティラウトは軽くシュタープを振ってゲヴィンネンの駒をスッと動かした後、ゆっくりとヴィルフリートに赤い目を向ける。

「……何が違うのだ?」
「エーレンフェストの次期アウブは私です。ローゼマインではありません」
レスティラウトはイラストで譲歩できるのでしょうか。
大領地の行動力を目の当たりにしているローゼマインに譲るつもりはありません。
ハンネローレと盛り上がるお茶会はヴィルフリートの言葉で終了です。

次は、対立です。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ