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本好きの下剋上 ~司書になるためには手段を選んでいられません~ 作者:香月 美夜

第五部 女神の化身

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儀式後の反応とお茶会の始まり

 シュバルツ達の今のひめさまはオルタンシアのはずである。だから、わたしはシュバルツ達の言葉を聞いて、オルタンシアが頑張って図書館のために魔力を注いでいたと理解して、素直に感心していた。

「オルタンシア先生にたくさん魔力を注いでいただいたのですか。シュバルツもヴァイスもよかったですね」
「わたくしの魔力など、図書館に必要な量を考えるととても少ないですよ」

 王族のお見送りのために出て来ているオルタンシアは謙遜してそう言ったけれど、図書館のために頑張る人はいい人に違いないと思う。

「それより、じじさまとは何だ?」

 オルタンシアと微笑み合っていると、空気を切るようにアナスタージウスが言葉を発した。グレイの瞳に問われて、オルタンシアとソランジュは顔を見合わせる。王族に答えられるような返答を持っていないのだろう。代わりに答えたのはシュバルツ達だ。

「じじさまはじじさま」
「ふるくてえらい」

 わたしが以前に聞いた答えと全く同じである。ぴるっと耳が動いたのも可愛い。だが、相変わらず意味不明だ。
 王族ならば「じじさま」に何か思い当たることがあるのか、とわたしはアナスタージウスとエグランティーヌの様子を見上げたけれど、二人とも理解できないような顔をしている。

「……何だ、それは?」

 アナスタージウスはシュバルツ達から情報を得るのを早々に諦めたようで、再度オルタンシアとソランジュに視線を向けた。何と答えたものか困っている

「以前、ソランジュ先生はシュバルツとヴァイスよりも古い魔術具かもしれない、とおっしゃいましたよね?」

 わたしの言葉にソランジュが頷いた。

「えぇ。けれど、はっきりとしたことはわかりませんよ、ローゼマイン様。もしかしたら、シュバルツ達のように名前で呼ばれていた魔術具があったのかもしれないと思ったのです。けれど、資料に記述する時はそのような愛称ではなく、何のための魔術具なのか、用途で記すため、じじさまと呼ばれていた魔術具があるかどうか調べるのは難しいかと存じます。」

 愛称が廃れた時に何の魔術具について記述されているのかわからなくなるのを防ぐため、資料は愛称では書かれていないらしい。

「あら? でも、以前にお借りした司書の日誌にはシュバルツ達はそのままの名前で書かれていましたけれど……」
「あれは公に保存するための資料ではなく、私的な日記ですから」

 私的な日記はほとんど残っていないそうだ。

「わたくしも魔術具について調べていましたけれど、じじさまという名称は出てきていません」

 最近ライムントと一緒に魔術具について調べていたというオルタンシアが記憶を探るようにしてそう言った。

「ただ、本日の魔力供給したことで、じじさまが喜んだのでしたら、あの魔術具がじじさまなのではないでしょうか」
「なるほど。何の魔術具だ?」
「図書館の礎とも言える魔術具ですから、シュバルツ達よりも古い時代に作られていることは間違いないと考えられます」

 オルタンシアの言葉に納得したようで、アナスタージウスは「礎ならば、確かに古くて偉い魔術具であろう」と軽く頷いた。納得したところでそのまま帰ろうとするので、わたしは慌ててアナスタージウスに声をかけた。

「アナスタージウス王子、書庫にはいつ行くのですか? いらっしゃる日を告知しておかなければ、図書館側の準備もございます」

 王の許可を得て図書館に入れるのだ。わたしはわくわくしながら次の予定を尋ねる。けれど、アナスタージウスは少しだけ眉を動かして、「予定はない」とすげなく言い切った。

「どうしてですか? 今回の儀式で重要さを認識したのでしたら、貴重な資料がたくさんある書庫を調べるのは最優先になるはずではございませんか」

 一体何のために王族を今回の儀式に巻き込んだのか。周囲の不平不満を抑えるためでもあったけれど、わたしの真の目的は、儀式の重要性を知ってもらって「地下の書庫にある貴重な資料をぜひ調べなければ!」と言ってもらうためだったはずだ。

 ……儀式は恙なく終わったのに、なんで!?

 どこで計算を間違えたのか。

「しばらくは忙しい。預かった魔力でユルゲンシュミットを潤さねばならぬ」

 皆からたくさんの魔力を預かった時点で王族が忙しくなるのは当然のことだった。資料を読むより先に魔力供給しなければならないのは、王の顔色からも明らかである。資料よりも魔力供給をして一息吐きたい、と思うだろう。

 ……のおおぉぉっ! 痛恨の計算ミスッ!

 王族に協力を要請されて頻繁に書庫に入ろう計画がガラガラと音を立てて崩れていく。

「ツェントは図書館へ行く許可をくださるとおっしゃったのに……」
「今、来ているではないか。あの書庫に今日行くとも、期日を決めてくるとも父上は約束しなかったはずだ」

 ……言質を取り損ねてる! 詰めが甘いよ! わたしのバカバカ!

 落ち込んだわたしを見て、エグランティーヌが優しく微笑む。

「ローゼマイン様がおっしゃる通り、古い文献を見直すことも大事なのですけれど、今の時期に魔術具や神具に魔力を供給することは来年の収穫に大きな影響を及ぼします。ですから、春になる前に魔力供給を大急ぎで行わなければなりません。しばらく我慢してくださいませ」
「わかりました」

 これでも神殿長である。冬の奉納式がどれほど大事なのかはわかっている。書庫には入りたいけれど、とてもとても入りたいけれど、我慢するしかないようだ。

「ローゼマイン、其方、エグランティーヌに対するものと態度がずいぶん違うのではないか?」
「そんなことはありません。王族の方々が中央神殿に神事を任せているならば、書庫で資料を確認することを優先させてほしいと思いますけれど、王族が魔力供給を行うならば、神殿長として邪魔するわけには参りませんもの」

 しょんぼりはするけれど、我慢はできる。許可がなければ入れないのだから、仕方がない。

「いずれ書庫に入らねばならない時は来る。其方等は余計なことを考えず、余計なことをせずに、研究発表の準備を進めておけ。よいな、エーレンフェスト。それから、ダンケルフェルガー」

 アナスタージウスの目はわたしだけではなく、ハンネローレにも向いた。突然話を振られたハンネローレが一瞬ビクッとする。

「本日の儀式で光の柱を目撃した者は多数になった。光の柱に関する苦情や問い合わせをこちらではもう受け付けぬ。ダンケルフェルガーで処理しろ」

 ディッターをする余裕はあるのだろう? と言われたハンネローレが縮こまるようにして、「かしこまりました」と返事をしている。ディッターをしているのは騎士見習い達なのに、注意されるのがハンネローレだなんて可哀想すぎる。

「一度講堂に戻り、片付けが終わっているのか確認するとしよう」

 アナスタージウスがそう言って歩き出す。わたしとハンネローレは王族の後に順番について行く。ちょっとくらい歩くのが遅くても後ろに誰もいないので、迷惑をかけることがないのは嬉しいところだ。



「もう終わっているようだな?」

 講堂へ行くと、残っているのはわたしの側近とクラリッサくらいだった。ハルトムートとクラリッサが熱く語り合っているのが遠目でもわかり、わたしの側近達は少し遠巻きにしながら二人を見ている。
 ハルトムートは今日の儀式のために特別に許可を得てやって来た神官長で、本来ならば貴族院に関わることがない成人である。婚約者とはいえ、さすがにハルトムートとクラリッサを二人きりにするわけにはいかないだろう。

 ……できることなら放って置きたいという皆の心情が透けて見えるけどね。

 わたし達の到着に逸早く気付いたリーゼレータがやや速足で歩いて来て、現状の報告をしてくれた。

「全ての片付けを終えた後、ヒルデブラント王子に連絡し、扉を閉ざしていただきました。ダンケルフェルガーとエーレンフェストは解散し、今はローゼマイン様がお許しになった二人の語らいを邪魔することなく見守るため、ここに残っているのはローゼマイン様の側近だけになっています」
「大変なお仕事を残してしまってごめんなさいね、リーゼレータ」

 ハルトムートは上級貴族で、それ以外に残っている側近は中級と下級貴族である。誰もハルトムートとクラリッサを止められなかったのだろう。

 ……リヒャルダを置いて行けばよかったかも。

 ちょっと反省しているわたしを見下ろしながら、アナスタージウスは「ならば、我々の仕事は終わりだ」と呟き、柔らかい笑顔でエグランティーヌに向かって手を差し伸べる。

「戻ろう、エグランティーヌ」
「はい、アナスタージウス様」

 王族の二人は講堂の状況を確認すると、さっさと自分達の離宮へ戻って行く。エグランティーヌのエスコートをしているアナスタージウスはご機嫌だ。
 仲良し新婚夫婦を見送った後、わたしは二人の世界を繰り広げている恋人達に目を向けた。

「ハルトムート、クラリッサ。わたくしも愛し合う恋人たちを引き裂くようなことを口にするのは心苦しいのですけれど、そろそろ六の鐘が鳴ります。寮へ戻りましょう」

 わたしが声をかけると、完全に二人の世界に浸っていたハルトムートとクラリッサがこちらを向いた。

「ローゼマイン様……。仕方がありません。今日はここまでのようです」
「わたくし、もっと語り合っていたいです」

 ハルトムートのマントをつかんだクラリッサの青い瞳が熱っぽく潤んで、恋人との別れを惜しんでいる。ハルトムートも至極残念そうな顔でクラリッサを見つめながら、「私も同じ気持ちです」と微笑んだ。

「これほどローゼマイン様について語り合える時間が楽しかったのは初めてです」

 見つめ合う二人の世界にはお互いしか映っていないのがよくわかる。図書館へ同行するのを断られてガッカリしていた顔はもうどこにもない。

 どうしようかな、と思っていると、ハンネローレが「コルドゥラ」と少し振り返って自分の側仕えを見上げた。指名されたコルドゥラが「では、僭越ながら……」と静かに前へ出てくる。

「クラリッサ、このままではエアヴェルミーンを失ったエーヴィリーベになりますよ」

 コルドゥラに声をかけられた瞬間、クラリッサがパッとハルトムートのマントから手を離して、ハンネローレの側近達の最後尾に並んだ。目を瞬くわたしにハンネローレがニコリと微笑む。

「クラリッサが大変失礼いたしました、ローゼマイン様」
「いいえ、わたくしこそお手数をおかけしました」

 領地対抗戦の研究発表についてまた話し合いましょうね、と話をして、わたしとハンネローレは別れ、それぞれの寮へ戻った。



「ハルトムート、急いでエーレンフェストに戻らなくては六の鐘が鳴りますよ」

 基本的に六の鐘が鳴ったらお仕事は終わりである。緊急事態のために転移の間に騎士は詰めているけれど、時間外はよほどの理由かアウブの連絡がない限りは動いてくれない。
 そして、成人であり、神官長であるハルトムートの貴族院滞在は儀式を行う今日しか許可されていない。間に合わなければ罰されるのである。
 神具の詰まった箱の数々をワゴンと共に、神官服のハルトムートを転移の間に放り込む。

「わたくし達の儀式用の衣装は清めてから後日送ります、と養父様に伝えてくださいませ。それから、わたくしも送りますが、ハルトムートからも本日の儀式に関する報告書を提出してくださいね」
「かしこまりました」

 実に慌ただしかったけれど、無事にハルトムートは時間内に転移することができた。見送って自室に戻った時、ちょうど六の鐘が鳴り始める。

「夕食の時間ですよ、ローゼマイン様。お召替えをしましょう」

 リーゼレータとグレーティアに神殿長の儀式服を脱がせてもらい、寮内で動くための普段着に着替える。
 そして、食堂へ向かう。ヴィルフリートとシャルロッテはすでに食べ始めていた。

「遅かったな、ローゼマイン」
「図書館の礎の魔術具に皆の魔力を供給したのですけれど、普通の学生が入るところでないため、場所が少し遠かったのです。でも、楽しかったですよ。たくさんの魔術具があって」

 オルタンシアとライムントが動いていない魔術具の用途を調べている最中らしい。有益な魔術具があれば、自分の図書館にも導入するつもりだ。

「お片付けの方はどうでした?」
「これと言って報告しなければならぬようなことは……。あぁ、ダンケルフェルガーのレスティラウト様からお茶会の要請を受けている。今回の儀式も含めて共同研究をまとめたり、領地対抗戦における発表の仕方などを決めたりしなければならぬ」

 わたしもハンネローレと約束したけれど、男同士でも似たような話をしていたらしい。わたしが「いつが良いでしょう?」と言いながら側仕え達を見回していると、シャルロッテがクスクスと笑った。

「お姉様、お兄様はレスティラウト様と……」
「シャルロッテ!」

 シャルロッテの声にヴィルフリートの少し慌てたような声が重なった。まるで麗乃時代のわたしにいかがわしい本の隠し場所を知られて、お母さんには知られまいと必死に隠そうとしていた幼馴染のような姿にピンときた。

「ヴィルフリート兄様はどこに隠しているのですか? 寝台の下はありきたりですよ」
「何の話だ、ローゼマイン?」

 全く理解できないという顔をされて、あれ? と首を傾げる。ピンときたと思ったのに、完全に的外れだったようだ。わたしがシャルロッテに視線を向けると、シャルロッテが小さく頷いた。

「隠す必要などありませんよ、お兄様。むしろ、きちんと報告しなければならないことではありませんか。次のお茶会でレスティラウト様はいくつも描かれた絵を持って来てくださるそうです。その中から本の挿絵に相応しいと考えられる絵を買い取ってほしい、ということでした。少しでも早く挿絵の入ったディッター物語を読みたいそうです」

 シャルロッテの言葉にヴィルフリートが少し不満そうな顔になる。

「レスティラウト様がカッコイイ絵に仕上がったとおっしゃったので楽しみだったのだが、ローゼマインは男心を解さぬからな。報告するのは少し躊躇ってしまうのだ。それに、お茶会の話が出れば、側仕えから伝わることではないか」

 ヴィルフリートの言葉に、わたしは溜息を吐きたくなった。

「絵の買取りは貴族院で行われることですけれど、寮の費用ではなく、わたくしの予算か、印刷業の予算から出ることになるのです、ヴィルフリート兄様」
「ぬ?」
「どこから予算を出すのか、エーレンフェストと話し合いが必須で、お金をやり取りするためにも書簡でやり取りすることになるので時間が必要なのですよ」

 レスティラウトからイラストを買うことになった時にある程度お母様と手紙のやり取りはしているけれど、明確ではないのだ。まず、レスティラウトのイラストが買い取って挿絵として使えるレベルにあるのかないのかで変わる。挿絵として使えないレベルであれば、わたしの私費で買い取って、ダンケルフェルガー向けに少数印刷して売り出すことになった。
 レベルが高く、広く売り出せるならば、印刷業の予算で買い取ることになり、お金を出してもらうにはお母様の決済が必要になる。

「そうだったのか。本に関する費用は全て其方が出しているので、そのようになっているとは知らなかったな」

 わたしの私費はフェルディナンドがいなくなった今、ハルトムートが管理している。自由にできる金額があっても、手元に現金があるわけではないのだ。

「ですから、きちんと報告してくださいませ」
「その言葉を其方に言われるとは……。其方も報告はきちんとするのだぞ。今日のことにしてもそうだ。あのように大規模な癒しを行う予定はなかったではないか。何故、そのようなことになったのだ。報告が必要ではないか。適当に省略せず、きちんと父上に報告するのだぞ」

 ヴィルフリートへのお説教はそのまま自分に返って来て、わたしは肩を落とした。



 エーレンフェストに報告書を送った後、わたしは疲れから熱を出して寝込んだ。寝込んでいる間にもダンケルフェルガーとのお茶会の予定が着々と決まっていく。どのようなことが決まったのか、予算に関してどうするのか、と布団の中から尋ねるとリヒャルダに呆れた目で見下ろされる。

「姫様はダンケルフェルガーとのお茶会までに体調を整えてくださいませ」
「儀式の後にお茶会の予定を入れていなくて正解でしたね」

 リヒャルダとブリュンヒルデがわたしの体調をよく観察しながらダンケルフェルガーとの予定を立てているのを見ていると、フィリーネとミュリエラが報告に来てくれた。

「エルヴィーラ様からお金が届きました。ローゼマイン様の私費だそうです。これでレスティラウト様の絵を購入できますね」

 良い絵だったら、印刷業の方で買い取ってくれるらしい。

「ですから、ローゼマイン様は早く体調を整えてくださいませ」

 わたしが動けるようになったのは二日後だ。寝込む時間がちょっと短くなっている気がする。丈夫になったな、と感動しながら、わたしは食堂で食事を摂り、多目的ホールで寝込んでいた間の報告を聞く。

「お姉様が寝込んでいらっしゃる間、わたくしとお兄様はグンドルフ先生の研究室にお招きされていました。御加護を得るためにドレヴァンヒェルでは皆が本当に真剣でございましたよ」
「うむ。これだけ早くに全員がお守りを準備している領地など他にないのではないか」

 ヴィルフリートも真剣な目で頷いた。二日とたたずに全員にお守りを配布できる、少なくともそのための素材が与えられるというのはすごいと思う。

「ドレヴァンヒェルが大領地として君臨できる理由がよくわかりますね」
「あぁ。エーレンフェストは事前に情報があったにもかかわらず、誰も神々の印を刻んだお守りを持っていない。そして、同じように儀式を経験した文官見習いがいるのに、皆に広げてお守りを作ろうとする動きも見えないであろう? この差はとても大きいと思うのだ」

 奉納式に参加できたエーレンフェストの文官見習い達は基本的にヴィルフリートとシャルロッテの側近ばかりだ。わたしの文官見習い達は中級と下級なので参加できていない。

「今、イグナーツとマリアンネに調合室でお守りを作らせている。事前情報があっても、上手く使えていないことに正直なところ落ちこんだぞ、私は」

 同じ年のオルトヴィーンと違って、上手く皆を導けていない、と呟くヴィルフリートにシャルロッテが「すぐに身につくことではございませんよ、お兄様」と慰めの言葉をかける。

「わたくしは明日、中位領地とお茶会の予定がございます。他領の方々の反応を見てまいりますね。お兄様とお姉様はダンケルフェルガーとのお茶会を頑張ってくださいませ」

 シャルロッテの言葉にわたしはコクリと頷いた。



 そして、ダンケルフェルガーとのお茶会当日。わたしは約束の時間にヴィルフリートと共にダンケルフェルガーのお茶会室へ向かう。レスティラウトとハンネローレに迎えられ、挨拶を交わして、席を勧められるのはいつも通りの流れだった。

「では、こちらを見てほしい」

 お茶とお菓子を楽しんでいると、レスティラウトがそう言いながら自分の側近に視線を向ける。

「お兄様、絵は研究のお話の後と……」
「こちらを先に済ませた方が集中できるではないか」

 ハンネローレの言葉をレスティラウトは手を振って遮ると、文官見習いが荷物の中から十枚ほどのイラストを出して、わたしとヴィルフリートの前に並べ始めた。

「白黒の加減がどのようになるのかわからぬので、こちらで選ぶよりも其方に選んでもらう方が良いと判断した。本にするのに良い物を選べ」

 騎獣に跨り、武器を構える騎士の姿が大きく描かれ、マントが翻る音が聞こえそうな迫力のある絵が一番に目に入る。

「……すごいですね」

 ヴィルマの絵を参考にしたのだろう。ある程度線が整理された白黒の絵がそこにある。そして、優しくて柔らかい印象のヴィルマの絵とは違って、宝を巡って争うディッターの様子が生き生きと描かれている。

 ……正直なところ、レスティラウト様の絵の才能をなめてたよ。

 ハンネローレが「嗜み」ではなく「得意」と言ったところで察するべきだった。レベルが段違いだ。
 わたしが見ているイラストを覗き込んだヴィルフリートが深緑の目を輝かせて、尊敬の眼差しでレスティラウトを見つめる。

「素晴らしいです、レスティラウト様! このような挿絵があれば、ディッター物語はもっと面白くなるでしょう。ローゼマイン、そう思わぬか?」
「えぇ。素晴らしいと思います。ただ、絵を印刷する上でガリ切りという工程があるのですが、それを他者の手に委ねると多少雰囲気が変わると思います。それもご了承いただけますか?」

 わたしの言葉にレスティラウトがわずかに眉間に皺を刻んだ。
図書館で結局お預けを食らったローゼマイン。
ハルトムートをさっさと追い返すと熱を出しました。
ドレヴァンヒェルの迅速な対応はのんびりエーレンフェストと大違い。
そして、ダンケルフェルガーとのお茶会が始まりました。

次は、イラストと儀式の結果です。
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