挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
本好きの下剋上 ~司書になるためには手段を選んでいられません~ 作者:香月 美夜

第五部 女神の化身

484/677

王族と図書館 前編

 王族にはほんの少しでも情報が必要だと言ったジギスヴァルトが深緑の目で静かにわたしを見つめていた。穏やかに微笑みながら、それでも、こちらをじっと観察しているのがわかる。

「正直に答えてください、ローゼマイン」
「はい」
「三本の鍵が必要になる書庫には王族と領主候補生の一部とシュバルツ達しか中に入れず、その中には王族が読んでおくべき資料があると聞きました。間違いありませんか?」
「間違いがあるかないかはよくわかりません」

 わたしの正直な答えにジギスヴァルトが目を瞬き、アナスタージウスが額を押さえた。

「ローゼマイン、それはどういう意味ですか?」
「わたくしがシュバルツ達の管理者から鍵の管理者となったことをエーレンフェストに知らせた時に、司書が確認した本を読ませてもらえる喜びを報告したのです。そうしたら、それはおかしい、と返事が来たのです。わたくし自身が知っている情報ではありませんから、間違いがあるかないかは書庫に入ってみなければわかりません」

 ジギスヴァルトが「なるほど」と頷く隣でアナスタージウスが「其方は相変わらず正直すぎだ」と溜息を吐いた。もっとオブラートに包む必要があったらしい。

 ……でも、正直に答えろって言ったのは王族だよね?

「それにしても、不思議ですね」
「何が、でしょう?」
「どうしてエーレンフェスト以外に三本の鍵が必要な書庫の情報を知っている者がいないのでしょうか? 中央にも大領地にもその書庫について知っている者がいないのです」

 ジギスヴァルトの言葉にわたしは首を傾げた。全くいないということがあるのだろうか。粛清を乗り切った王族ならば知っていると思う。

「去年まで領主候補生コースを教えられていたという先生もご存じないのですか?」
「彼女の夫は若い頃に図書館へ行ったこともあったようですが、彼女自身はそのような書庫の存在は知らないそうです。クラッセンブルクやダンケルフェルガーのアウブにも問い合わせたのですが、貴族院の図書館には足を踏み入れたこともないそうです」

 領主候補生が図書館に入らない理由は知っている。たくさんの側近をぞろぞろと連れて図書館へ行ってキャレルを占領するのは、本が買えない状況でも勉強し、写本でお金を稼ぐ必要がある下級貴族に疎ましがられるし、迷惑だからだ。

 わたしも側近達に言われたことはある。でも、わたしは図書館で本を読むのが好きなので、行くのを止めるつもりはない。今年は研究がたくさんあって忙しいし、シュバルツ達の管理者が代わることでごたごたしているため、なるべく近付かないようにしているだけだ。

「普通の領主候補生は側近の文官見習いに欲しい本や資料を取りに行かせるので、領主候補生自身が図書館へ足を運ぶ機会はほとんどないと聞いています。そのせいでしょうか」
「……エーレンフェストでは自分で足を運ぶように言われているのですか?」

 笑いを噛み殺すようなジギスヴァルトの声に、わたしは自分でエーレンフェストの領主候補生は変わっていると言ってしまったことを悟って、そっと目を逸らした。

「わたくしは、その、図書館や本が好きなので好んで足を運んでいますけれど、ヴィルフリート兄様やシャルロッテは側近に取りに行かせているので、エーレンフェスト全体が変わっているわけではないのですよ」
「そうです。ローゼマインはただ本が好きなだけです。それに、シュバルツ達へ魔力供給もしてくれていたので、足を運ぶ機会が多かっただけなのです」

 ヒルデブラントがフォローしてくれたようだが、ジギスヴァルトの中の変わった領主候補生という評価は変わらないように思える。気持ちだけはありがたいので、わたしは笑顔でヒルデブラントに頷いた。

「エーレンフェストには研究に没頭するのが趣味で、所属する研究室の先生の弟子使いが荒いために図書館へよく足を運んでいた領主候補生がいたのです。信用できる側近が少なくて、大事な本を預けるわけにはいかなかったという理由もあったそうですけれど……」

 簡単に状況を説明したら、三人の王子が非常に微妙な顔になった。これはちょっと必要のない情報だったかもしれない。

「その方が書庫の存在を知ったのもたまたまだったようですよ。図書館で欲しい資料について呟いていたらシュバルツ達が書庫へ案内してくれたそうです。その時は普通に上級司書が鍵を開けてくれたようですから、当時は特に秘密というわけでもなかったのではありませんか?」

 自分で足を運ぶ領主候補生が珍しく、当時の上級司書もいないので裏を取ることができないけれど、王族以外を通すのを禁じられている書庫であれば、上級司書が鍵を開けてくれるはずがないのだ。

「わたくしも貴族院の図書館へは何度も足を運んでいますし、シュバルツ達の管理者だったので接触は多かったはずですけれど、それでも書庫の存在を知りませんでした。ですから、よほど特殊な資料を探していたのだと思いますよ」

 わたしは「読んだことがない本を読みたい」とシュバルツ達にお願いするけれど、「こういう資料が欲しい」とお願いしたことがない。そのため、閲覧室にある本で事足りてしまうのだ。

「閲覧室の本を全て読み尽し、誰でも借りることができる閉架書庫の本を全て読み尽した後ならば、シュバルツ達もわたくしをその書庫に案内してくれたかもしれません。けれど、卒業までの期間を考えると、難しいと思います」

 敢えて誰からの情報なのかは言わない。けれど、ジギスヴァルトとアナスタージウスには伝わっているようだ。ジギスヴァルトが微笑んだままで深緑の目を光らせた。

「それほど重要な情報をその人は何故今まで黙っていたのでしょう?」
「王族がご存知ない情報だと思わなかったのではありませんか? 知らないならば教えた方が良い、とお言葉があったので、わたくしはオルドナンツを送ったのです。まるで誰かが情報を隠蔽しているのではないかと考えてしまうほど、不自然に王族には情報が不足していると感じていらっしゃるようです」

 わたしから伝えれば、フェルディナンドが疑われるのは当然フェルディナンド自身も承知しているだろう。それでも、伝えた方が良いと判断するほど重要な情報が詰まっているはずなのだ。こんなところでどうでもいい話をしているよりは図書館で資料の一つでも読んだ方がよほど建設的だ。

「わたくしからも王族にお伺いしたいことがあるのですけれど、よろしいですか?」

 アナスタージウスは「ちょっと待て」とわたしを止めたが、ジギスヴァルトは「どうぞ」と先を促した。わたしはジギスヴァルトにニコリと微笑みを返した。

「このように呼び出して詳しく聞きたいとおっしゃるほど王族にとって少しでも必要なのは、誰からもたらされた情報なのかということですか? それとも、王族が知っておいた方が良いと考えられている資料の内容ですか? わたくしは書庫に入ったことがありませんから、内容に関しては全くお役に立てません」

 周囲の側近達がざわりとして、ジギスヴァルトが目を丸くし、アナスタージウスは「口が過ぎる」と言った。

「わたくしがソランジュ先生にお借りした昔の司書の日誌には、成人した王族が領主会議の折に図書館を訪れ、上級司書が総出で出迎えているという記述がありました。そこから考えても、王族にとって図書館を訪れることが重要な行いだったことは想像できます。日誌は中央の騎士団長が持って行ったので、王族の方々もご覧になったでしょう? 書庫の重要性はすでにご存知だと思うのですけれど」

 書庫に行くのが大事なのはわかりきってることなんだから、どこからの情報なのか問い質す暇があるなら図書館に行こうよ、と言いたかったわたしの思いは通じたようだ。
 ジギスヴァルトとアナスタージウスが「そういうことか」と一度顔を見合わせた後、軽く頷いた。

「上級司書が総出で出迎えるということは、鍵が必要な書庫に向かった可能性も高いですね。中に入れば本当に重要な情報なのかどうかはわかります。アナスタージウス」
「わかりました。ダンケルフェルガーの領主候補生を図書館に呼び出します」

 アナスタージウスはオスヴィンを呼んでダンケルフェルガーにオルドナンツを飛ばすように命じる。わたしは慌てて声をかけた。

「オスヴィン、ハンネローレ様を呼び出すのでしたら回復薬を持ってくるように伝えてあげてくださいませ」
「回復薬でございますか?」

 わたしはコクリと頷いた。

「鍵の登録には魔力がかなり必要だと伺っています。準備はしておいた方が良いでしょう?」
「そういえば、オルタンシアがそのようなことを言っていたな。オスヴィン、ローゼマインの言う通りに」
「かしこまりました」

 オルドナンツを飛ばすと「かしこまりました。これから図書館へ向かいます」というハンネローレのお返事が来た。
 図書館にも王子が三人向かうことをオルドナンツで告げ、皆でぞろぞろと図書館へ向かう。これは非常に目立つので逃げ出したかったけれど、鍵の管理者であるわたしが逃げ出せるわけがない。

 ただ、ぞろぞろと固まっていたのはしばらくのことだった。わたしが歩くスピードを考えると、成人している王子達とはどうしても一緒に歩けないのだ。次第に離れていく王子二人にこっそり安堵の息を吐いていると、同じくらいのスピードで歩くヒルデブラントが声をかけてきた。

「ローゼマインはその書庫に何があるのか知っているのですか?」
「領主候補生の講義の資料や古い儀式について書かれた資料だと聞いています。どうやらエーレンフェストで調べていた古い儀式についての資料もその書庫にあるようです。領主会議の時にアウブ・エーレンフェストとフェルディナンド様が図書館を訪れたけれど、司書がいなくて鍵がないとシュバルツ達に言われたそうです」

 図書館の重要性を認識して、少しでも上級司書を増やしてもらいたいものである。わたしが下心たっぷりにそう訴えると、ヒルデブラントは良いことを思いついたように手を打って笑った。

「では、この機会にローゼマインも一緒に資料を探せば良いではありませんか」
「と、とても心惹かれるお言葉ですけれど、これ以上面倒事を起こさないため、保護者から書庫に入るのを禁じられているのです」

 エーレンフェストがこれ以上疑われるのを防ぐため、それから、初めての書庫に入ったわたしが祝福暴走を起こさないためには入らない方が良い。

 ……頭ではわかっていても入りたくて仕方がないけどね!

 本当はものすごく入りたいし、読みたいのだが、リヒャルダが許してくれそうにないし、フェルディナンドには絶対に怒られるだろう。



 図書館に到着すると、シュバルツとヴァイスが迎えてくれた。

「ローゼマイン、きた」
「ヒルデブラント、きた」

 シュバルツ達から「ローゼマイン」と名前で呼ばれるのは初めてで、何だかとても不思議な感じだ。これが当たり前なのだけれど、「ひめさま」ではなくなってしまったことがちょっとだけ寂しい。

「お待ちしていました。すでに人払いも済んでいます」

 王子が三人も向かうと連絡したのだ。当然だが、オルタンシアとソランジュも待っていた。勉強していた学生達は気の毒だが、王族とトラブルを起こすよりはさっさと退散した方が良いだろう。

 司書と挨拶を交わす間にわたし達の後ろからはハンネローレがやってくる。王子がずらりと揃っているのを見て、ハンネローレが赤い目を軽く見張った。

 ……アナスタージウス王子の名前で呼び出されただけでも心臓に悪いのに、王子が三人も揃っているんだもん。驚くよね? わかる、わかる。わたしも驚いたよ。

 勝手に親近感を抱いている間にハンネローレはジギスヴァルトと初対面の挨拶を交わしていた。

「突然の呼び出しで申し訳ないのだが、図書委員として手伝ってほしいのです」
「喜んでお手伝いさせていただきます」

 さすが大領地の領主候補生である。突然の王族からの要請にも狼狽えず、ハンネローレは微笑んで引き受ける。

 ……わたしも見習わなくちゃ。

「鍵はこちらの執務室にございます。……けれど、さすがにこれだけの人数が入ることはできませんから、執務室の中まで同行するのは護衛騎士を二人と文官を一人に限らせてくださいませ」

 オルタンシアに案内されて執務室へ入るにも、王子三人と領主候補生二人に付いている側近全員が入ることは難しい。わたしは上級騎士であるレオノーレと大柄でわたしの護衛騎士の中では最も接近戦に強いラウレンツ、それから、最も文官業務になれているフィリーネを選んで執務室に入った。

 執務机の上にコトリ、コトリと音を立ててオルタンシアが鍵を置いた。上級司書の部屋から探して出してきたものの、一人ずつしか登録できなかったらしい鍵である。

「こちらの鍵に管理者登録をしていただきます。ローゼマイン様とハンネローレ様は鍵を握って魔力を流し込んでくださいませ」

 わたしとハンネローレは言われるままに鍵を握って魔力を登録する。聖典の鍵に持ち主を登録するのと大して変わらない。あっという間に終わった。

「お早いですね」

 目を見張るオルタンシアに「恐れ入ります」と微笑みを返す。ハンネローレもそれほど時間がかからずに登録を終える。

「領主候補生と上級貴族ではやはり違うのですね」
「オルタンシア、お二人ともとても優秀な領主候補生ですもの。そのように自分と比べることではありませんよ」

 ソランジュが慰めるようにそう言いながら、鍵の保管箱から別の鍵を二つ取り出し、保管箱を閉めた。

「わたくしがこの鍵を使うことになるとは思いませんでした」

 ソランジュによると、こうして王族が図書館へやって来る時は上級司書が全ての対応をするので、ソランジュは表に出ることなく、側仕えがお茶を淹れたり、食事の準備をしたりするための場所を指示し、裏方に徹しているだけだったらしい。

 執務室を出て閲覧室へ向かえば、執務室に入れなかった側近達と合流である。人数が一気に膨れ上がりながら閲覧室の一階を横切った。

「本好きのお茶会でローゼマイン様にお貸しした本はこちらの書庫にあった物なのです」

 クスクスとソランジュが笑いながら、閲覧室の奥にある閉架書庫の鍵を開けた。初めて入る閉架書庫にわたしは心が浮き立つのを感じる。少し埃っぽい空気に羊皮紙の匂いが混じっているのが何とも心地良い。
 皆でそれほど広くない書庫に入ると、奥にある扉の鍵をソランジュが開ける。その途端に、扉の奥に明かりが点いて、地下へ進む階段があるのが見えた。周囲全体が白いせいで結構明るく感じられる。

「シュバルツ、ヴァイス。皆の案内をお願いしますね」
「あんないする」
「だいじなおしごと」

 ソランジュに言われたシュバルツとヴァイスがひょこひょこと階段を下り始めた。

「オルタンシア、シュバルツとヴァイスに続いてくださいませ。中級貴族であるわたくしはこれから先に進むことができません。ここから先のことはシュバルツとヴァイスにお尋ねください」

 上級司書であるオルタンシアは階段を下りていき、そこに王子が続く。先に進めないのはソランジュだけでなく側近達も同じだった。透明の膜に遮られるように、王子達の側近の数人が足を止める。

 三人の王子と側近達が階段へ向かうと、ハンネローレがそれに続いた。領地の順位から考えてもわたしが最後である。
 わたしの側近ではフィリーネやローデリヒ達が動きを止めた。わたしの側近で階段まで付いて来られるのはリヒャルダ、レオノーレ、ブリュンヒルデの三人だけである。
 他の王族やハンネローレはもっと多くの側近を連れていることを考えると、わたしの側近は非常に少ない。

「ローゼマイン様の側近は中級貴族が多いのですね」

 階段を下りながら、ハンネローレが振り返ってそう言った。

「エーレンフェストはヴィルフリート兄様とシャルロッテがいて、その後にはもう一人、弟のメルヒオールが控えているため、領主候補生で側近を奪い合う状態なのです」
「同時期に四人の領主候補生がいると、確かに貴族院での側近は不足がちになりますね」
「えぇ。これまでは全く問題なかったのですけれど、このように上級貴族しか同行できないという事態もあるのですね」

 わたしが「初めてです」と困って見せると、ハンネローレは「わたくしも初めてです」と微笑んだ。



 階段を下りると、まるでお茶会室のようにテーブルや椅子がいくつも準備されている場所に出た。側近が全員入れそうな広さに驚いて思わず周囲を見回してしまう。
 真っ白の階段に、真っ白の床、真っ白の壁のはずなのに、一方の壁だけは金属のような色合いで、壁には存在を主張するようにゴテゴテと装飾された部分が三つ、等間隔に並んでいた。

「さんにんならぶ」
「かぎあける」

 シュバルツとヴァイスがテシテシと金属の壁を叩きながら、装飾された部分を示す。どうやらこの金属の壁に見える物が書庫の扉のようで、この装飾的な部分が鍵穴らしい。近付いてよく見てみれば、鍵を差し込むのではなく、はめ込むようになっている。

 わたしはハンネローレとオルタンシアに視線を向けた後、そっと鍵をはめ込んだ。魔力登録をした魔石に魔力が吸い取られて魔石が光ったかと思うと、赤い線が壁全体に走り始める。
 全体に複雑な模様を描いた後、ギギッと音を立てて壁が三つの部分に分かれて回転し始めた。その動きに巻き込まれないように、わたしはバックする。壁に見えていたけれど、こうして三つに分かれて動き出すと、ちゃんと扉に見える。

 扉がゆっくりと動いていき、180度回転して、また全ての扉が繋がったかのように見えた瞬間、扉が消えた。

 奥には確かに書庫らしい場所があった。書見台や書き物をするための机、そして、本棚がたくさんあった。その本棚には木札のようだが、木札ではない白い板のような物がずらりと並んでいて、わたしが知っている本の形をした物は天板が傾いている机に並べられている二十冊ほどしかない。

 皆が驚きに目を見張る中、シュバルツが「あいた」と言いながらそちらへ向かう。オルタンシアがシュバルツに続こうとしたけれど、階段のところと同じように透明の膜で阻まれてしまった。

「……本当に入れませんね」

 オルタンシアは透明の壁を押すようにして立ち止まる。オルタンシアを見上げながらヴァイスが「ひめさまはしかくない」と言った。

「領主候補生が入れるかどうか確認したい。ローゼマイン、行ってみてくれ」
「非常に残念なことに、わたくし、書庫に入るのを保護者から禁じられているのです。読んでも良い資料があればこちらに出してくださいませ」

 泣きたい気持ちでアナスタージウスを見上げていると、ヴァイスがふるふると首を振った。

「しりょう、もちだしきんし」
「えぇ!? そ、そんな……」

 ……外でじっくり見ようと思っていたのにひどいよっ!

 ショックを受けたのはわたしだけではなかった。オルタンシアもヴァイスの言葉に小さく震えながら口元を押さえている。

 ……わたし、今オルタンシアと完全に同調してるよ。

 わたしとオルタンシアがガックリと肩を落とす様子を見ていたアナスタージウスが呆れたように溜息を吐いて、ハンネローレへ視線を向けた。

「仕方がない。ハンネローレ、行ってくれ」
「……かしこまりました」

 意を決したようにハンネローレは一度大きく息を吸って、恐る恐る手を伸ばしながらゆっくりと進んでいく。けれど、オルタンシアが止まったのと違い、すんなりと入って行った。先に入っていたシュバルツがハンネローレに何か言ったらしく、ハンネローレが首を傾げるのが見える。もしかしたら、声はこちらに聞こえないのかもしれない。

「領主候補生ならば本当に入れるようだな。……では、兄上。私が先に行きます」

 アナスタージウスが危険を確かめるように先に入り、振り返って頷くとジギスヴァルトが入っていく。王子二人は入れたけれど、王子に続こうとした側近達は入れなかった。

「では、私も行きます」

 明るい笑顔でヒルデブラントが二人の王子に続いて入ろうとしたけれど、入れなかった。透明の壁に阻まれている。
 ヒルデブラントが息を呑んで、透明の壁を叩く。

「何故ですか!? 何故、私は入れないのですか!? アーレンスバッハの姫君と婚約して王族ではなくなることが決定したからですか!?」

 まるで泣きそうなヒルデブラントの声にヴァイスが首を振った。

「ちがう。ヒルデブラント、まりょくたりない」
情報を提供して図書館へ。
ハンネローレも呼び出されて鍵に魔力の登録をしました。
初めて入る図書館の地下書庫です。
地下ってちょっとロマンを感じませんか?

次は、後編です。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ