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本好きの下剋上 ~司書になるためには手段を選んでいられません~ 作者:香月 美夜

第五部 女神の化身

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お返事 後編

 魔術具の明かりを点けて、わたしは一度目元を押さえた。瞼の裏にまだ光る文字が焼き付いているような気がする。

 ……フェルディナンド様もこんなふうに目がチカチカするのを感じながら、わたしの手紙を読んだのかな?

 顔をしかめながら読んでいるフェルディナンドの姿が何となく思い浮かんで、わたしは小さく笑いながらお返事第二弾を手に取った。

「こっちも結構厚みがあるね。どれどれ?」

 まずは普通のインクで書かれている部分を読んでいく。ちょっと目が痛くなる方は後回しだ。
 わたしが書いたのは「ヒルシュール先生の研究室でライムントの設計を形にする試作品係をしています。詳しくはフラウレルム先生経由の報告書にも書いた通りです」というものだ。検閲の人にもフラウレルムからの手紙が届いていないことがわかるように表面に書いてみた。

 それに対するフェルディナンドの返事は「フラウレルム先生からの報告書が届いていないので、こちらでは詳細が全くわからないが、楽しく研究ができているのであれば良い。ただし、君は側近を何人も連れて行くのだから、あまり研究室に迷惑をかけぬように気を付けなさい」というお小言だった。これで次の報告書をフラウレルムへ渡す時に「フェルディナンド様に報告書が届いていないようですよ」と文句を言えるはずだ。

「迷惑をかけぬようにって書かれてるけど、二人にご飯を持って行くし、研究室もすごく綺麗になってるから役に立っていると思うんだけどね」

 汚れたところに主を向かわせるわけにはいかない、と側仕えが片付けているのでヒルシュールの研究室はとても綺麗になっている。領地対抗戦の時に一度見に行ってくれれば、これまでとの違いがよくわかるはずだ。

「そんな余裕があるかどうかはわからないけど」

 王族主催の本好きのお茶会については取り留めのない話として、お菓子と借りた本を話題にしておいた。お菓子に関しては「ダンケルフェルガーではカトルカールに特産のロウレを入れたお菓子が作られるようになったようです。各地の特産を取り入れたカトルカールができると嬉しいです。わたくしが貴族院在学中に増えてくれるとお茶会で楽しめるのですけれど」と書いた。

 それに対して「領主会議でレシピを買い取ったようなので、アーレンスバッハの特産の果実を入れられぬか、こちらの料理長に尋ねてみよう」と書かれていた。料理長が頑張ってくれたら、フェルディナンドもアーレンスバッハで少しは懐かしい味が食べられるようになるかもしれない。

 本の話題は読む前に書いたので「中央の本や王宮図書館の本をお借りすることができました。ソランジュ先生が貸してくださった閉架書庫の本にはシュバルツ達の研究に関する記述もあるそうです。新しい発見があったらまたお知らせしますね。分厚くて読み甲斐があります」と、本当に表面的なことしか書いていない。
 それでも、フェルディナンドにとっては多少関心を引く話題だったようだ。「図書館に行けずとも楽しみがあるようで何よりだ。新しい発見があれば知らせてほしい。その手紙を読むだけでも、少しは研究をしている気分に浸れるであろう」と書かれていた。

 ……一体どれだけ仕事漬けなんだろうね? ものすごく研究に飢えているっぽいんだけど。

 ちょっとくらいは趣味に充てられる時間があれば良いと思うのだが、ディートリンデが貴族院にいる間に少しでも地盤を固めようとすると本当に時間がないのかもしれない。
 表面的な本好きのお茶会に関する話題は「今回は倒れて意識を失うことなく、お茶会を終えることができました。とても成長したでしょう? フェルディナンド様がお薬を作ってくださったおかげですね」と締めた。フェルディナンドも「君が恙なく貴族院生活を楽しんでいるようで何よりだ。こちらの生活も順調だ」と当たり障りのない返事をくれた。

 それから先、フェルディナンドの返事にはレティーツィアの教育のことがずらずらと書かれていた。どのようなカリキュラムでどのように進めているのか、非常に詳細に書かれている。ヴィルフリートやシャルロッテに教えるくらいの要領で教えてくるらしいが、結構スパルタ教育ではなかろうか。
 ただ、「よくできている」とか「予想以上に進んでいる」という言葉があるので、レティーツィアはとても優秀なのだと思う。

「……なんかすごくレティーツィア様が褒められてる。いいなぁ。まぁ、わたしも大変結構もらったけど」

 レティーツィアにあげたご褒美のお菓子では何が一番喜んだなど、フェルディナンドとは思えない内容まで書かれていた。ずいぶんとレティーツィアと仲良くしているんだな、と思いながらわたしは明かりを消して、光る文字を見る。

 ……わぁお。ものすごく詳細だと思ったら、表に書ける取り留めのない話がレティーツィア様の話題しかなかったみたい。

 びっしりと細かい字で書き込まれていた光る文字を見て、わたしは表面を何とか埋めようとしたフェルディナンドの努力にちょっと笑いが漏れた。領地対抗戦で顔を合わせたら「余計な苦労をさせるな」と文句を言われそうだ。

 ……他の人には聞かせられないから、文句を言いたいのも抑えちゃうかな?

 光るインクでわたしは「王族の星結びで神殿長役をすることになりました。アナスタージウス王子とエグランティーヌ様に飛んで行った祝福を行ったのがわたくしであることがわかったようです。その祝福のせいで次期王を誰にするのか争いが生じ、それを抑えるためにもジギスヴァルト王子に祝福が欲しいと言われました。王とアウブの了承を得てくださいとお願いしましたが、多分、祝福することになるでしょう」と事情を説明した。

 フェルディナンドからは「正式に王から依頼されれば、断りようがないだろう」と書かれていた。前回のように前日に申し出て来たように唐突なものではなく、様々な思惑がある以上、断るのは難しいそうだ。フェルディナンドの判断でも受けておくべきだそうなので、特に返答に問題がなかったことに安堵した。

「護衛騎士は付けてくれるように、そして、中央神殿との関係に関しては王族の責任とするようにお願いしました。他にお願いしておくことはありませんか?」
 という質問には、
「慣れない場所で神事を行うのだから、補佐としてハルトムートを同行させるようにしなさい。それから、王族に神殿の根回し、護衛騎士の付き添いなどこちらの意見を通すのだから、肝心の君が体調を崩さないようにくれぐれも気を付けるように」
 と返されている。

 確かに、わたしの体調が一番心配である。当日にキャンセルなんてことにならないように気を付けなければならない。最悪の場合、薬漬けでも祝福は行わなければならないだろう。激マズ薬の準備は抜かりなくしておいた方が良さそうだ。

 最後にちょっと付け加えてあった「フェルディナンド様とディートリンデ様の星結びの儀式をこの目で見たいという思いがあったのも事実ですけれど」という言葉には「私の星結びの儀式は祝福しなくてよろしい。君は感情によって祝福に大きな差が出る。王子よりもこちらに祝福が偏るような事態だけは避けたい。何のためにエーレンフェストから離れたのかわからなくなるからな」とお叱りの言葉があった。

 アダルジーザの実として王位を狙っていると疑われて、王位に就けなくなる地位を受け入れたにもかかわらず、わたしの祝福が偏ったら大変だ。

 ……でも、フェルディナンド様を祝福しないのは難しいよ。

 むぅっと唇を尖らせつつ、わたしは続きを読んでいく。星結びの話題は終わり、図書館の話題へ変わっている。

「シュバルツ達の管理者が中央の上級司書に変更になりました。これから図書委員は書庫の鍵の管理者をすることになりました。三人いなければ鍵が開かない書庫の鍵で、司書が確認済みの本を読ませてくれるそうです」

 そう書いたことに対するフェルディナンドの返答が予想外のものだった。

「司書が確認してから、と書かれているが、あの書庫に入れるのは王族として登録されている者、礎の魔術の供給者として登録されている領主候補生、それから、図書館の魔術具だけのはずだ。書庫の整理は司書ではなく、魔術具が担っていて、司書はただ鍵を管理するだけだと記憶している」

 フェルディナンドはヒルシュールの研究資料を探すために図書館へ頻繁に出入りしていた時に、何気なく欲しい資料について呟いたらシュバルツ達が書庫の存在を教えてくれたそうだ。

「それにしても、王族から失われている情報が不自然なほど多すぎるように感じる。誰かが情報を制限したり、存在を秘されている資料があったりするのではないだろうか。三本の鍵が必要になる書庫は古い資料や情報を保存するための魔術がかかっている保存書庫で、王や次期王が知っておくべき情報がたくさんある。君ではなく、王族や領主が入るための書庫だ」

 とても古い領主候補生の講義の参考書や古い儀式の資料が保存されているようで、ハルデンツェルの儀式の資料もあるそうだ。できれば去年の領主会議の時に入りたかったが、司書がいないため入れないと養父様とフェルディナンドはシュバルツ達にお断りされたらしい。

「ふんふん。つまり、わたしは魔力供給してる領主候補生だし、管理者に任命されて三本の鍵も揃うから入れるってことだよね? やったぁ!」

 喜んだ次の瞬間、「この情報が失われているならば王族には教えた方が良いと思うが、君は書庫に近付かぬように。また面倒なことになりそうだ」と書かれているのを発見して、わたしは「のおおぉぉ!」と頭を抱えた。
 やっぱりと思うのと同時に、妬ましい気持ちも抑えられない。

 ……フェルディナンド様は学生時代に保存書庫の資料を読んだのに、わたしには禁止するなんてひどいよっ! わたしだって新しい本が読みたいのにっ!

 そして、わたしの手紙に対する返事以外にはアーレンスバッハの現状に関する話があった。
 ゲオルギーネの影響力が意外と大きいこと、前神殿長が奉納式に持ち込んでいた小聖杯がどうやら旧ベルケシュトックの物で、エーレンフェストからの支援がなくなったことを恨みに思っている民がたくさんいること、王命でレティーツィアが次期アウブだと決定していることがゲオルギーネやディートリンデの周辺ではあまり良く受け取られていないこと、ディートリンデは自分が中継ぎのアウブであることを知らない可能性があることなどがつらつらと書かれている。

 この辺りの情報は養父様に流しておけ、と簡単に書かれているけれど、これが事実ならばレティーツィアの教育係としてアーレンスバッハへ向かったフェルディナンドの立場はとても危ういものではないだろうか。

「それから、夏にランツェナーヴェから使者が来ていたらしく、姫君の献上について打診されていたようだ。次の領主会議でアウブ・アーレンスバッハから王に奏上しなければならない。承認されれば、アーレンスバッハからアダルジーザの離宮へ姫君を送りだすことになる」

 自分と同じ立場に置かれる者が生まれるのをわかっていながら、自分の手で姫君を送りださなければならないのだ。フェルディナンドにとっては相当気が重い仕事ではないだろうか。

「アーレンスバッハがランツェナーヴェとの連絡口だなんて……。フェルディナンド様が向かう先がアーレンスバッハ以外の場所だったら良かったのに」

 溜息を吐きながら返事を読み終わると、わたしはアーレンスバッハの現状の報告書を書いて隠し部屋を出た。

「ミュリエラ、これをアウブ・エーレンフェストに送ってください。それから、リヒャルダ。王族にこのようなお知らせをしたいのですけれど……」

 図書館の書庫の話をかいつまんで説明し、ヒルデブラントとエグランティーヌのどちらに連絡を取るべきか尋ねた。貴族院にいる王族の代表はヒルデブラントだが、エグランティーヌの方がアナスタージウスやジギスヴァルトに連絡が届くのが速そうなのだ。

「そうですね。急ぎのお知らせということで、図書館とヒルデブラント王子とエグランティーヌ先生の三方にオルドナンツを飛ばして、詳しい説明は一度にしたいと伝えれば場を準備してくださるでしょう」

 説明する場を整えるのを関係者に丸投げする方法を教えてもらったので、わたしは早速オルドナンツを飛ばして、「上級司書は鍵を開けるだけで、王族と領主候補生の一部とシュバルツ達しか中に入れないようです。中には王族の方が読んでおくべき資料があるそうですよ」と連絡した。

「詳しい話を聞きたい。三日後の三の鐘に私の離宮まで来るように」

 エグランティーヌに送ったはずのオルドナンツなのに、アナスタージウスから返事が来た。どうにも釈然としない。

「どうしてアナスタージウス王子からお返事が来たのでしょうね?」
「ローゼマイン様、王族からの呼び出しだなんて、わたくし、どうすればよろしいのでしょうか?」

 グレーティアが震えながら驚きの声を上げる中、「三日後ですか。まだ少し余裕がありますね」とブリュンヒルデはすぐさま準備に取り掛かり始めた。新人と手慣れた側近の差が激しい。

「ローゼマイン様、離宮に向かう際、書き留めるための紙とペン以外に必要な物はございますか?」
「今回は必要ありません。何だか忙しくなりそうなので、なるべく早く写本を進めましょう」

 写本に精を出していたフィリーネの質問にわたしが答えると、別の本を写本していたミュリエラが疲れた溜息を吐いた。

「ローゼマイン様の文官は予想以上に仕事量が多いのですね。少し驚きました」

 ミュリエラはどうやらもっと本を読む時間があると思っていたらしい。難しい本の写本が仕事で、お母様の恋物語を楽しめるような時間がほとんどないとは思わなかったそうだ。
 ミュリエラの言葉にフィリーネがきょとんとした顔で首を傾げる。

「貴族院が終わって、ローゼマイン様と一緒に神殿へ向かうようになるともっとお仕事は増えますよ」
「え?」
「貴族院で行っているお話や情報の収集と分類、写本、お茶会への同行だけではなく、神殿業務、印刷と製紙業のお手伝いが増えますから」

 やりがいがあります、と笑ったフィリーネにミュリエラが引きつった笑みを見せた。よく考えてみると、ヴィルフリートやシャルロッテの文官よりずいぶんと負担が大きそうだ。

「ミュリエラはお母様に名捧げをするのですから、貴族院のお仕事が満足にできればそれで構いませんよ」
「……大丈夫です。わたくしもローゼマイン様の側近ですもの」

 ミュリエラが首を振った後、気合を入れた顔でペン先をインク壺に入れた。



 わたしは王族に呼び出された日まで精力的に働いた。
 ルーフェンから騎士棟へのお誘いがあったので、それに返事をして、騎士見習い達への質問状を作成して自分の文官達に複製させる。そして、回答欄を書いた紙も用意して、アンケートの取り方を練習させた。

 そして、ヒルシュールの研究室ではフェルディナンドから合格をもらったという録音の魔術具の設計図を買い取った。これで録音の魔術具を作るのだ。

「ローゼマイン様、ある程度品質の良い魔石が録音したい言葉の数だけ必要になりますよ」
「それは大丈夫です」

 今は採集地の品質も良くて、寄って来る魔獣が少し強くなっているらしく、魔石も品質の良い物が取れるらしい。
 ダンケルフェルガーとの共同研究のためにディッターをすることが決まってしまったことで、連携を強めるために騎士見習い達が連日頑張って狩りをしている。必要な魔石は買い取れば良い。

「くっ、簡単に魔石が手に入る状況が羨ましいです」
「この設計図に描かれた魔術具を他の方も欲しがれば、情報料の一割はライムントに渡しますから」

 著作権と同じように設計図にも上乗せ分を順次払っていくという話をしたら、ライムントは意味がよくわからないというように目を瞬いた。

「え? ローゼマイン様が買い取られた設計図ですよ? 上乗せ分とは何ですか?」
「……広く使われる価値がある設計図でしたら、その分上乗せが必要でしょう? 設計図を買い叩いていては、やる気のある良い研究者は育たないと思うのですけれど」

 わたしの言葉にライムントとヒルシュールが「ローゼマイン様のお考えは素晴らしいと思います」と目を輝かせた。どうやらこれまでは買い叩かれていたらしい。

 ライムントの説明を受けながら、わたしは魔石をガンガン投入して録音の魔術具を完成させた。

「これをぬいぐるみの中に入れたいのです。こう、お腹や額を撫でると声が聞こえるように……できるかしら?」
「この魔石の部分に触れられるようにすれば大丈夫だと思いますが、ぬいぐるみに入れることに何か意味があるのですか?」

 ライムントが不可解そうに首を傾げる隣でリーゼレータが「ぬいぐるみを撫でたら声が聞こえるなんて、とても可愛らしいではありませんか」と緑の瞳を輝かせて賛成してくれた。

「そうですよね? ですから、わたくしらしくレッサー……」
「やはりシュミルでしょう。それが一番可愛らしいと思います」

 リーゼレータがうきうきとした様子で「ぬいぐるみを作るのでしたら、わたくしにお手伝いさせてくださいませ」とわたしを見てくる。どちらかというと針仕事が得意ではないわたしは「レッサーパンダも可愛いと思います!」という言葉を呑み込んで、シュミルを作ってもらうことにした。

 ……レッサーパンダは可愛いけど、立体にするのが難しいから仕方がないんだもん。



 そんな三日間を過ごし、王族からの呼び出しのために離宮へ向かう。今回はお茶会ではなく、呼び出しなので、手土産程度のお菓子を準備しただけである。荷物は軽いが、気は重い。

「こんなに短期間にまた離宮へ足を運ぶことになるとは思いませんでしたね」

 わたしの言葉にブリュンヒルデが苦笑した。

「黙秘することもできたでしょうに、お知らせするとお決めしたのはローゼマイン様ですよ」
「アウブ・エーレンフェストも頭を抱えている、と報告がありましたね。けれど、王族の方々にとって少しでも助けになる情報でしたら、出し惜しみをするべきではございません。姫様の判断は素晴らしいと思いますよ」

 本好きのお茶会の前にアナスタージウスから王族の苦労を聞かされたわたしの側近達は、王としての教育を受けていないのに、王という地位に就くことになり、身を削るようにして魔力供給をしている今の王にとても同情している。それは、神殿育ちで貴族としての教育を受けていないのに、領主の養女や神殿長になって身を削るように魔力供給をしているわたしの立場と被って見えるからだそうだ。

 ……わたしは王様達ほど苦労していないと思うんだけどね。

「王族からの呼び出しですけれど、アナスタージウス王子ですから多少は気が楽ですね」

 エグランティーヌとのあれこれで本音を語りすぎたり、目の前でぶっ倒れたり、すでに色々とまずいことをしてしまったが、アナスタージウスは鷹揚に許してくれている。重要な話をしても頭から謀反や簒奪を疑われるようなことはないだろう、と思える分、他の王族よりは気が楽だ。

「そのように気を抜くものではございませんよ、姫様」

 リヒャルダの叱責を受けた時には離宮に繋がる扉の前に立っていた。

「お待ちしていました、エーレンフェストのローゼマイン様」

 オスヴィンが出迎えてくれて、わたし達は中へ通される。部屋の中で待ち構えていたのは三人。ヒルデブラントが笑顔で迎えてくれ、アナスタージウスが「来たか」と小さく呟く。二人の間に見知らぬ人がいた。
 アナスタージウスと同じような色合いの金髪に深緑の目をしている穏やかそうな笑顔の男性で、その座っている位置と着ている衣装から誰なのかすぐにわかる。

 ……のおおぉぉ! 第一王子だよ! 先に知らせておいてください、アナスタージウス王子っ!

 まさかジギスヴァルトが来ていると思わなかった。内心で思い切り文句を言ってみたけれど、これは呼び出しであってお茶会ではないので、参加者が知らされるはずもない。
 頭を抱えて座り込みたくなる衝動に耐えてニコリと笑顔を浮かべると、アナスタージウスとヒルデブラントに挨拶をし、それから、ジギスヴァルトの前で跪いて首を垂れた。

「命の神 エーヴィリーベの厳しき選別を受けた類稀なる出会いに、祝福を祈ることをお許しください」
「許します」
「お初にお目にかかります、ジギスヴァルト王子。エーレンフェストの領主候補生、ローゼマインでございます。以後、お見知りおきを」

 やりすぎないように注意しながら祝福を贈り、初対面の挨拶を交わしたわたしは許しを得て立ち上がる。椅子に座ったジギスヴァルトの方がまだ少し視線が高いくらいだ。アナスタージウスとは違って、穏やかそうな人である。真面目そうなというか、苦労性な感じがするというか、育ちの良い長男という空気がにじみ出ている気がする。とてもエグランティーヌを挟んでアナスタージウスと王位を争うような人には見えない。もしかしたら側近同士が盛り上がっていただけなのだろうか。
 目が合ったジギスヴァルトがにこやかに微笑んでわたしを見た。

「其方がローゼマインですか。二年連続の最優秀でありながら、二年連続で表彰式を欠席するほど虚弱なエーレンフェストの聖女。噂話ばかりは耳にするので、一度お会いしたいと思っていました」
「……わたくしも表彰式に出たくて楽しみにしていたのですけれど、儘ならずに残念です。王より直々にお言葉を賜ることができる誉れの場だと伺っていますから」

 別に避けてたわけじゃないよ、楽しみにはしてたんだよ、という雰囲気が出るようにガッカリ顔のアンゲリカを参考にして頑張った。一年目は読書時間につられてフェルディナンドとうきうきと寮でお留守番していたなんて知られるわけにはいかないのだ。

「では、そちらに座って図書館の書庫の詳しいお話をお願いします。今、王族にはほんの少しの情報でも必要ですから」

 わたしはジギスヴァルトの隣に座るアナスタージウスとヒルデブラントに視線を向けた。
 二人も興味深そうにこちらを見ている。わたしは軽く息を吸って口を開いた。
お返事の第二弾。
フェルディナンドは表を埋めるのに苦労しました。
その苦労もあって、アーレンスバッハの情報がエーレンフェストに流れます。
そして、それから繋がる王族の呼び出しです。
やっと第一王子の登場ですね。

次は、王族と図書館です。
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