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本好きの下剋上 ~司書になるためには手段を選んでいられません~ 作者:香月 美夜

第五部 女神の化身

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ダンケルフェルガーとのお茶会 前編

 エーレンフェストでは印刷ができるので皆に本を貸すことができたけれど、他の皆はさすがに何冊も領地から本を持ち出せるわけではない。どのように回すのか順番を決め、本を貸し借りしていくことになった。わたしの手元に来たのはソランジュが閉鎖書庫から持って来てくれた本である。

「ローゼマイン様は魔力が多くていらっしゃるでしょう? こちらは古くて保存のために閉架書庫へ移動させた本なのですけれど、珍しい魔法陣がいくつも載っています。ずっと昔にシュバルツ達の研究をしていた先生が書かれた本だそうですよ。お勉強になるのではございませんか?」
「恐れ入ります」

 これを写本してフェルディナンドやヒルシュールと研究すれば、わたしの図書館に置くためのシュバルツ達を作れるかもしれない。すぐにでも読み始めたいが、ここでいきなり本を開くことはできない。本は連れて来ている側近や文官見習いの間でやり取りされる物で、わたしの手元に来る物ではないからだ。

「あの、ローゼマイン」
「何でしょう、ヒルデブラント王子?」

 おずおずとした様子で声をかけてきたヒルデブラントがアルトゥールの手にある本へ視線を移した。

「ローゼマインは難しい本を読むのもお好きですよね?」
「えぇ。大好きです」
「私は貴族院へ入学前でこのように難しい本を読むのはとても時間がかかりますから、ローゼマインが先に読むと良いですよ」

 ヒルデブラントがそう言って、自分が借りる予定の本を貸してくれると言う。わたしは飛びつきたい気持ちを必死に抑えて、アルトゥールを見上げた。

「よろしいのですか? その……わたくしが王子の本をお借りして……」
「ヒルデブラント王子はエーレンフェストの本を気に入り、何度も読み返していらっしゃいますから、こちらは楽しんで読めるローゼマイン様にお譲りした方が良いでしょう」

 またエーレンフェストの新しい本ができたら貸してほしいと言われて、わたしは一も二もなく頷いた。

「ありがとう存じます、ヒルデブラント王子」
「ローゼマインが喜んでくださって嬉しいです」

 ……ヒルデブラント王子、なんてイイ子!

 こうしてわたしは鍵の管理者となるための報酬としてアナスタージウス王子から借りた王宮図書館の本と、ソランジュの本とヒルデブラントが借りるはずだったオルタンシアの本を借りることができた。素晴らしい成果である。
 王族が主催するということで身構えていた本好きのお茶会が予想以上に楽しく終わった。



「とても楽しかったですね、ではございませんよ。意識を失わずにお茶会を終えることができたことは大変素晴らしいですけれど、姫様はお借りした本を読む前にアウブ・エーレンフェストに報告することがたくさんあるでしょう?」
「……そうですね」

 寮に戻って早速本に手を伸ばそうとしたらリヒャルダに叱られた。どうせならば、楽しかったことだけ覚えていたいが、そういうわけにもいかないだろう。

「隠し部屋で書いてきます」

 わたしは溜息混じりに立ち上がると、隠し部屋へ向かった。報告書と一緒にフェルディナンドへの手紙も書くのだ。大事なのは、第一王子とアドルフィーネ様の星結びの儀式で神殿長をしてほしいと頼まれたことと、図書委員活動の内容が鍵の管理者に変更になったことだろう。

 フェルディナンド向けの手紙に消えるインクで自分が大事だと思う内容を書いた。最後に「鍵のかかっている書庫の中の本は読んでも良い本かどうか司書が確認した後で読ませてくれることになっているのですよ。うふふん」と書き足す。

 そして、インクを乾かす間に、エーレンフェストへの報告も書きあげた。内容は同じだ。「アウブの許可を得てくださいとお答えしているので、上手く王族に恩を売ってください」と最後に付け加えたくらいの差しかない。

 その頃には、先に書いた手紙のインクが乾いているので、上からお茶会に並んだお菓子や借りた本の話題など、とりとめのない内容を普通のインクで書く。しばらく考えた結果、貸した本の話題は避けた。

「……怒られるような要素はないよね? うん」

 手紙をもう一度見直して封をすると、わたしは手紙と報告書を持って隠し部屋を出た。



 本好きのお茶会が終わった次の日にはダンケルフェルガーからお茶会の予定が届いた。どうやらアウブから共同研究に関する許可が出たらしい。ブリュンヒルデが招待状を持って帰って来た。

「二日後の午前中に行いたいそうです。それから、レスティラウト様が参加されるので、ヴィルフリート様にも参加していただけるとありがたいということでした」

 髪飾りの納品や共同研究の話をするためにレスティラウトは同席が決定しているが、男一人では居心地が悪いそうだ。多目的ホールで一緒に話を聞いていたヴィルフリートに視線を向ける。

「ヴィルフリート兄様も講義はありませんよね? どうされますか?」
「女性ばかりのお茶会で男が一人だけという状態がいかに居心地悪いのかはよくわかる。それに、共同研究には私も協力しなければならないのだ。同行しよう」

 一年生の時はシャルロッテがいなくて、奉納式に帰還したわたしの代わりにヴィルフリートが一人で女性ばかりのお茶会に出席していたことがある。あの時の居心地の悪さを思えば、レスティラウトに同情的になるらしい。

「それから、ハンネローレ様が本好きのお茶会での様子をお話したところ、ダンケルフェルガーの騎士がディッター物語にとても興味を持ったようです。もしよろしければお貸しいただけませんか、とお願いされました」

 元々ダンケルフェルガーに最初に見せるつもりだったので何の問題もない。わたしは頷いて了承する。

 こうしてダンケルフェルガーとのお茶会まで、ブリュンヒルデとリーゼレータの二人はヴィルフリートの側仕えと持参するお菓子やお茶会での手順や細かい合図に関する話をして過ごし、わたしはドレヴァンヒェルと共同研究をすることになった文官見習い達をグンドルフの研究室へ連れて行って紹介したり、ヒルシュールの研究室でライムントに次の手紙を渡してお返事の催促をしたりして過ごした。



「お招きいただきましてありがとう存じます」

 わたしとヴィルフリートは自分の側近達を連れてダンケルフェルガーのお茶会室へ向かった。共同研究の話をするので、文官が少し多いのだ。まだ名捧げができていないミュリエラも一緒だ。

「ヴィルフリート様、ローゼマイン様。お待ちしていました。こちらへどうぞ」

 ハンネローレとレスティラウトが出迎えてくれて、わたし達は長い挨拶を交わし、勧められた席に座る。ちょうどわたしの席からクラリッサの姿が見えた。わたしがローデリヒに視線を向けて軽く頷くと、ローデリヒがハルトムートの手紙を渡す。

 ……貴族院でもこれだけの日数がかかるんだもん。フェルディナンド様の返事が返ってくるのはもっともっと先になるんだろうな。

「では、早速注文していた髪飾りを見せてもらおうか?」

 レスティラウトが軽く咳払いした。苛立っているように見えるのは何故だろうか。内心で首を傾げていると、ハンネローレが軽く息を吐く。

「お兄様、待ちきれないのはわかりますけれど、お茶会が始まってからでも良いではありませんか」

 ハンネローレの言葉に、レスティラウトの偉そうでイライラしているように見える態度が、ただそわそわしているだけだと知って、ちょっと笑いそうになった。笑うわけにはいかないので、お腹に力を入れてわたしはブリュンヒルデに声をかける。

「髪飾りをお持ちしてちょうだい」

 ブリュンヒルデがすぐに髪飾りの入った箱をレスティラウトの側仕えに渡せば、側仕えが箱や中身を確認した上でレスティラウトに渡す。どんなにまどろっこしくて面倒に思えてもその手順は必要だ。毒殺の危険があることをわたしはすでに知っている。

 確認が終わるまでは暇なので、そわそわしているらしいレスティラウトを眺めていた。苛立っていて不機嫌に見えるあの顔がそわそわしているだけだとは身内でなければわかるまい。レスティラウトも挨拶の時には貴族らしい作り笑いができる。だからこそ、そわそわがものすごく不機嫌そうに見えるのだ。

 やっと手元に届いた髪飾りをレスティラウトは眉間に皺を刻んだ厳しい顔で検分し始めた。
 秋の貴色に合わせた花の注文で、中心が赤く、端に向かえば向かうほど黄色になっていくダリアのような花を真ん中に、周囲には銀木犀のような小さな花や葉、そして、秋の実りと思われる色とりどりの丸い実が飾りとなっている。

 指示されたイラストの通りにできているとは思うけれど、それが芸術に造詣が深そうなレスティラウトのお眼鏡に適うだろうか。じっと観察していると、険しい顔で検分していたレスティラウトが、フッと一瞬だけ満足そうに赤い目を細めて笑った。

「フン。まあまあだな」
「お兄様のまあまあは文句の付けどころがないということなのです、ローゼマイン様」

 ハンネローレの言葉を聞かなくても、レスティラウトの顔を見れば満足してもらえたことはわかった。

「レスティラウト様が指示された花や実はエーレンフェストにはない物で、とても珍しく勉強になった、と職人から聞いています。レスティラウト様のセンスは素晴らしい、と」
「ほぉ、見たこともない花や実を再現できるとは予想以上に良い職人を持っているのだな」

 じっとこちらを見てくる赤い目から察するに、「職人が気に入ったので、こちらに寄越さないか」と言われているはずだ。わたしはニコリと笑った。

「恐れ入ります。自慢の専属職人なのです。わたくしの髪飾りは全てその者に任せているのですよ」

 ……どんなに欲しいと思ってもトゥーリはわたくしの専属ですからあげません。

 いつも通りの目でじろりと睨まれたので、「生意気な」と思われたのはわかったけれど、譲れないものは譲れない。笑顔のままでわたしは話題を流そうとした。

「髪飾りにはご満足いただけたようなので、ダンケルフェルガーの歴史の本を……」
「ちょっと待て、ローゼマイン。其方が本の話を始めると長くなる。先に大事な共同研究の話をした方が良い」

 本の話題に移ろうかと思ったところで、ストップがかかった。ヴィルフリートに視線を向けると、カップを置くところだった。どうやらわたしがレスティラウトとやり取りしている間にハンネローレから勧められたようだ。ヴィルフリートとハンネローレは二人ですでにお茶を楽しんでいる。

「ヴィルフリート兄様、ダンケルフェルガーの歴史の本のお話なのですから、こちらも大事なお話ですよ」
「それはわかっているが、本の話は脱線しやすい。後にした方がよかろう」

 これまでの経験を踏まえて言葉を発しているヴィルフリートに言い返せず、わたしは共同研究の話を始めることにする。その前にお茶とお菓子が欲しい。ハンネローレに勧められ、わたしはダンケルフェルガーのお菓子を口に入れた。お酒に浸けたロウレとクリームを包んだガレットだ。素朴な味わいがたまらない。

「以前にお茶会でローゼマイン様がおっしゃったでしょう? ロウレをこのようにして食べたい、と」

 ロウレがあったらこんなお菓子ができるのに、と零していた情報をハンネローレはしっかり活用していたらしい。

「そば粉を使わないガレットというのがすぐには準備できなかったので、ガレットそのままになったのですけれど、わたくしの今のお気に入りなのです」
「……其方がそのようなお菓子を好むというのは本当だったのか」

 貴族院のお茶会に出すようなお菓子ではないだろう、とレスティラウトは反対したらしい。それをハンネローレが「ローゼマイン様のお好みのお菓子を準備しているだけです」と押し切ったそうだ。

「わたくしはハンネローレ様のお心遣いに溢れたダンケルフェルガーのお茶会が好きですよ」
「うむ。私も砂糖で固められた中央のお菓子よりダンケルフェルガーのお菓子の方が好きだ」
「喜んでくださって嬉しいです、ローゼマイン様、ヴィルフリート様」

 ハンネローレが嬉しそうにニコリと笑うと、レスティラウトは「ダンケルフェルガーの物は素材が良いのだ」と言いながらフンと鼻を鳴らした。

「それで、共同研究はどのように進めるつもりだ? ダンケルフェルガーの騎士見習いは確かにアングリーフの加護を得られることが多いが、それでも全員が加護を得られたわけではないぞ」
「すでに仮説がたっているので、それを証明するためにダンケルフェルガーや騎士見習いの方々からお話を伺いたいのです。そうですね、たとえば座学が苦手なために実技で何度も神に祈った後で加護を得る儀式をした者と、座学が得意ですぐに加護を得る儀式をした者に違いはあるのか。儀式の時に魔法陣を全体的に満たすだけの魔力を注げる上級貴族と魔力が満たない下級貴族で違いはあるのか。ダンケルフェルガーではどのような儀式をどの程度の頻度で行っているのかなどを質問したいです」

 わたしの言葉にレスティラウトが自分の文官を呼び寄せ、何やら受け取った。

「ディッター前後の儀式を見せることに関しては父上から許可が出ている。ただし、条件が二つ付いている。一つは真面目にディッターをすることだそうだ」
「はい?」

 わたしは言われた言葉が理解できなくて目を瞬いた。

「ディッターもしないのに儀式は必要なかろう。ディッターの勝利を願って神に祈りを捧げる以上、ディッター勝負をしないという選択肢はない」
「ダンケルフェルガーの領主候補生が行う儀式は試合の後ですから、何もせずに魔力を奉納することはできないのです」

 こちらを気遣うように見ているけれど、ハンネローレも儀式のためにはディッターが必須だと考えているらしい。

 ……想定外だよ! 共同研究にディッターが必須だなんて!

 ダンケルフェルガーとの共同研究という時点で、予測できなかったわたしの方が甘いのかもしれないけれど、まさか研究にディッターが必須とは思っていなかった。

「……こちらから申し出た共同研究だ。受けるしかなかろう」

 ヴィルフリートの言葉にお茶会室にいるダンケルフェルガーの騎士見習い達の顔が明るくなったのがわかって、わたしはカクリと項垂れたくなった。

「騎士見習い達の講義はもちろん、共同研究に関わる文官見習いの講義がある程度終わらなければディッターの勝負ができぬ。しばらくは質問をして研究を進めると良いだろう」
「今回の共同研究はルーフェン先生がとても張り切っていらっしゃいます。オルドナンツで連絡をいただければ、騎士棟への立ち入りと質問に応じるそうです」

 二人の言葉にわたしはコクリと頷き、「もう一つの条件は何ですか?」と尋ねる。ディッター以上に面倒な条件があるとは思えない。もう何でも来い、という心境である。
 レスティラウトが一度咳払いをした後、「其方の儀式も見せるように、とのことだ」と言った。

「わたくしの儀式ですか?」
「あぁ。神殿にいて、儀式を行うことで加護が得られたのであれば、其方も儀式を行っているのであろう? たくさんの神々の御加護を得たエーレンフェストの聖女がどのような儀式を行っているのかを研究の中に入れ、実際に私とハンネローレの前で儀式を行って見せるように」

 ダンケルフェルガーの歴史のある儀式を公開する以上、エーレンフェストの儀式も見せろ、ということらしい。

「神殿で行う儀式と言ってもたくさんあります。洗礼式、成人式、星結びの儀式など。どのような儀式が良いのでしょうか? 節目の儀式となると相手が必要になりますし、それ以外は農村へ向かって豊作を祈る儀式になりますよ。貴族院で行うには向きません」
「……農村? いや、そこまで大袈裟でなくても構わぬ。其方がどのように神に祈っているのかがわかるものであれば良いのだ」

 ……貴族院で行える儀式か。よくやってて、パッと思いつくのが採集地の再生くらいしかないんだけど、さすがに見せるようなものじゃないよね。うーん、結構難しいな。

「どのような儀式をお見せするのか、考えておきます」
「あぁ。少しは聖女らしいところを見せてほしいものだ」
「お兄様」

 ハンネローレに睨まれて、レスティラウトは「余計なことは言うな」とそっぽ向く。

「ところで、今回の共同研究ではダンケルフェルガー側の文官見習いにもご協力いただきたいのですけれど、そのうちの一人にクラリッサを指名してもよろしいでしょうか?」

 クラリッサが頷いているのが見えるが、それをちらりと見たレスティラウトが「理由は?」と尋ねる。

「わたくしの側近であるハルトムートの婚約者で、エーレンフェストと繋がりが深いことが一番大きな理由です。そして、神殿の印象をよくするための研究に真面目に取り組んでくれると確信が持てるからです。……ハルトムートは今神官長となっていますから」
「なっ!? 神殿に入ったというのか? その男は何をやらかした!?」

 やはり神殿に入るというのは、貴族にとってとんでもない汚点になるようだ。まさか「何をやらかした!?」と一番に言われるとは思わなかった。

「ハルトムートがやらかしたわけではなく、フェルディナンド様がいなくなったことが理由なのです」

 わたしの言葉にレスティラウトは意味がわからないと言いたげに顔を歪める。わたしは軽く息を吐いた。

「これまでは後見人のフェルディナンド様が神官長として実務面で神殿長であるわたくしを支えてくださいました。けれど、ご存知の通りフェルディナンド様はアーレンスバッハへ婿入りすることになりました。神官長がいなくなったので、忠実な側近であるハルトムートが新しい神官長として神殿に入ることになったのです」

 わたしの説明にレスティラウトも周囲の学生達も「本当にエーレンフェストでは何の落ち度もないのに神官長として神殿に入れられるのか」と呟いた。

「ダンケルフェルガーのような大領地の神殿がどのようなところなのか存じませんが、お恥ずかしいことにエーレンフェストの神殿は青色神官の数が非常に少ないのです」

 ヴィルフリートがレスティラウトを見ながらそう言った。

「小聖杯を満たせるだけの人数がいないため、魔力の多いローゼマインや叔父上のような領主候補生が神殿長や神官長に就任し、儀式を行っています。直轄地を回る祈念式や収穫祭では私やシャルロッテも手伝っています」

 神殿は領主候補生が出入りする場所なのです、と告げると、レスティラウトは「そうか」と呟いた。

「真剣にお祈りをする頻度、内容、真剣度などによって神々からのご加護を得られやすくなるという研究が成功すれば、神殿に対する見方も少しは変わるのではないか、と期待しています。ですから、神殿に入ったハルトムートと婚約を解消しないのであれば、クラリッサにはぜひ手伝っていただきたいのです」
「どうする、クラリッサ? 他領の婚約者がありながら神殿に入るような男であると言えば、婚約の解消など容易いぞ」

 レスティラウトの言葉にクラリッサは即座に首を横に振った。背中の三つ編みが一緒に揺れる。

「わたくしは主のために迷うことなく神殿入りしたハルトムートを誇ることがあっても、蔑むことはありません。わたくしがエーレンフェストにあれば、同じことをしようとしてハルトムートと神官長の座を争うことになったでしょう」

 ニコリと笑ったクラリッサの笑顔がどことなくハルトムートと似ている気がして、わたしは何度か目を瞬いた。

「ローゼマイン様、共同研究はぜひわたくしにやらせてくださいませ」

 青い瞳を輝かせてクラリッサがきつく拳を握った。その手にはハルトムートからの手紙が握られていて、ぐしゃぐしゃになっている。

「このようなお詫びの言葉などいりません。親族に何を言われたとしても、わたくしは自分の道を突き進み、エーレンフェストに嫁ぎます。……そして、神事を行うエーレンフェストの聖女をこの目に収めるのです!」
「はい?」

 ……クラリッサがとてもハルトムートっぽいことを言っている気がするんだけど、聞き間違いかな?

 ポカンとクラリッサを見て、わたしはダンケルフェルガーの皆に視線を移す。これがクラリッサの普通の姿なのか、誰も驚いた様子を見せていない。レスティラウトは至極面倒臭い物を見る目でクラリッサを見ていた。

「エーレンフェストでしっかりクラリッサの手綱を握れ。こちらではアレの面倒は見きれぬからな」
「お待ちくださいませ。クラリッサはダンケルフェルガーの子ですよね!?」

 そんな見捨てるような発言はしないでくださいませ、とわたしが言うと、クラリッサは何故か照れたように恥ずかしそうに微笑んだ。

「まだわたくしの所属はダンケルフェルガーですけれど、心は完全にローゼマイン様の臣下です」

 両手で頬を包んだクラリッサの表情はまるで愛を告白した女の子のようだが、どう反応して良いのかわからない。
 わたしはブリュンヒルデとレオノーレに助けを求めて視線を向ける。「ハルトムートが二人になるようなものですか」とブリュンヒルデが作り笑いで呟いた。

本好きのお茶会が終わったかと思えば、すぐにダンケルフェルガーとのお茶会です。
今回は髪飾りと共同研究のお話だけで終了です。
本のやり取りはヴィルフリートによって後回しにされました。
ちょっとローゼマインの扱いに慣れてきたかもしれません。

次は、後編です。
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