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本好きの下剋上 ~司書になるためには手段を選んでいられません~ 作者:香月 美夜

第五部 女神の化身

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ヒルシュール研究室の専属司書

 文官コースの試験を終えたので、わたしは早速ダンケルフェルガーへブリュンヒルデを遣いに出した。「お茶会の予定を立てたいのですが、いかがでしょう?」と。
 レスティラウトとハンネローレの講義の進み具合はもちろん、同席させてほしいクラリッサの進度、共同研究に関するアウブ・ダンケルフェルガーからの返答など色々な要素があるので、返事はそれほど急ぎません、とブリュンヒルデには伝えてもらった。

「すぐにはお返事できないようです。まだアウブ・ダンケルフェルガーからの返答が届いていないようなので。お返事が届き次第、空いている日をお知らせくださるようです」

 その日の夕食の後、ブリュンヒルデはダンケルフェルガーからの返事を持って帰って来てくれた。わたしはすぐにはお茶会にならないことを悟って、リーゼレータに視線を向ける。

「リーゼレータ、明日からわたくしはヒルシュール先生の研究室へ通います。準備をお願いしてもいいかしら?」
「お任せくださいませ。特に掃除道具の準備は念入りにいたしましょう。ヒルシュール先生の研究室にローゼマイン様が入れるようにしなければなりませんから」

 腕が鳴ります、とリーゼレータは掃除道具の選別を始めた。すぐにレオノーレが護衛騎士の予定を聞くために部屋を出て行った。実に頼もしい側近達である。
 明日の準備を始める側近達の動きを感じながら、わたしはライムントから渡してもらえるようにフェルディナンドに向けてお手紙を書くことにする。

「お手紙を書くので隠し部屋に籠ります」

 消えるインクを使って書く内容が多すぎて、とても側仕え達がいるところでは書けない。わたしは自室の隠し部屋に入った後、フェルディナンドから預かったインクで数枚に分けてびっしりと書き込んだ。
 時系列順に自分がしたことと相談内容を書き込んだのだが、読み返してみればちょっと意味不明な感じがする。

「ご加護を得る儀式で最高神のいらっしゃる高みに上りました。ご加護が増えすぎてシュタープの許容範囲を越えてしまい、ちょっとしたことで祝福が溢れて祝福テロが大変です。解決方法として魔力圧縮を控えめにして、なるべく魔力を多めに使うように心がけていますが、他に何か良い方法はありませんか?……つ、伝わるかな? フェルディナンド様だったら、きっとわかってくれるはず!」

 大丈夫だよね、と自分に言い聞かせながら、わたしは机の上に手紙を広げて乾かし始める。
 そして、ライムント経由とフラウレルム経由の手紙で到着までにどれだけの差が出るのか、そもそもフェルディナンドまで届くのかなどを実験するために、わたしはフラウレルム経由の手紙にも消えるインクを少し使ってみた。「こちらはフラウレルム先生経由のお手紙です。きちんと届きましたか?」と。

 一晩乾かせばインクの文字が消えているはずだ。その上から当たり障りのない内容を書かなければならない。

 ……当たり障りのない内容か。当たり障りのない内容って、どんなのだろう? 難しいね。



「では、シャルロッテ。わたくしは研究室へ行ってまいります」

 次の日、ヴィルフリートはすでに講義に行ってしまっていないので、わたしは多目的ホールにいるシャルロッテに声をかけた。シャルロッテはまだ全ての実技が終わっているわけではないけれど、今日は講義がないようで、魔木の紙の研究についてマリアンネと話をしている。

「……とても研究室へ行く準備だとは思えませんね、お姉様」

 シャルロッテはリーゼレータの準備した荷物を見て、目を瞬いた。図書館で出張お茶会をする時のようにワゴンに色々な物が積まれている。研究室へ行くには多すぎる荷物にわたしは苦笑する。

「掃除道具とわたくしからの差し入れなのです」

 あそこの研究室にいる者は碌な生活をしていない。わたしがシャルロッテにヒルシュールの研究室の惨状を話していると、「読書に没頭すると生活を蔑ろにされる姫様がおっしゃることではございませんよ」とリヒャルダに溜息を吐かれた。

 笑って誤魔化し、わたしは寮を出る。すでに講義が始まっている時間なので廊下は人の気配も少なく、シンとしていた。今日の同行者は側仕えのリーゼレータとリヒャルダ、文官見習いのローデリヒ、護衛騎士はマティアスとテオドールの二人である。

「文官の専門棟に入るのは初めてです」

 護衛騎士の二人がそう言いながら文官の専門棟を見上げる。中に入ると、マティアスが「騎士の専門棟と違って個室が多いですね」と呟いた。文官の専門棟は素材が管理されている倉庫のような部屋も多く、研究室がそれぞれにあるので扉が多い。訓練施設の集まりである騎士の専門棟は全ての専門棟の中で一番大きくて広く、辺鄙なところにある。大きな施設がほとんどで、先生方の部屋以外の個室はあまりないようだ。

「……うぅ、何だか変な臭いがしませんか?」

 テオドールは周りを見回しながらそう言った。護衛騎士として鼻を摘まむのは控えているけれど、鼻を押さえたそうな顔をしている。

「まだ講義でも調合をしていない一年生のテオドールには馴染みがないのでしょうけれど、これは薬草や素材の香りなのです。複数が混ざっていてちょっと悪臭になっているけれど、そのうちに慣れますよ」

 わたしがクスクスと笑いながらそう言うと、テオドールは「本当に慣れますか?」と疑わしそうに周囲を見回した。

「大丈夫です。回復薬を自作するようになって、訓練中に回復薬を当たり前のように飲むようになれば慣れますし、必要があればもっと臭い薬も飲めるようになります。この辺りの臭いなど、フェルディナンド様のお薬に比べれば可愛いものですよ」

 テオドールの顔が引きつった。なんて物を飲んでいるのですか!? と表情が物語っている。優しさが入ってもシャルロッテには嫌がらせだと思われた薬である。原液はとんでもないのだ。

 ヒルシュールの研究室の前まで到着すると、リーゼレータが一足先に掃除用の魔術具の入ったワゴンを押して、中へ入って行く。

「ローゼマイン様は少し入室をお待ちくださいませ。入れる状態かどうかを確認してまいります」

 初めてわたしがヒルシュールの研究室に来た時、床にある物を強制的に吸い込む魔術具をリーゼレータが作動させようとして、ヒルシュールとライムントが右往左往していたことを思い出した。

「……必要な物がなくなるようなことがなければよいのですけれど」
「ヒルシュール先生にはオルドナンツで掃除をすると勧告していますから、大事な物は片付けてあるでしょう」

 リヒャルダがそう言っている背後の扉から「リーゼレータ、少々お待ちなさいませ!」というヒルシュールの慌てた声が聞こえてきた。勧告されてもヒルシュールは研究を優先していたらしい。リヒャルダが溜息を吐いて頭を振った。



「お待たせいたしました、ローゼマイン様」

 笑顔のリーゼレータが扉を開けてくれて、やっとわたしは研究室に入ることができた。調合用の机の上に大量の資料が積み上がっているのが見える。きっと大慌てでヒルシュールが床から救出した資料なのだろう。

「ヒルシュール先生、ライムントは不在ですか?」
「まだ講義が終わっていませんからね。共同研究の詳しいお話はライムントが来てからにしましょう」

 ライムントもちょこちょこと講義に合格しているので、少しずつ空き時間はできているようで、時折顔を出すようにはなっているらしい。

「ライムントが来るまでにこの辺りの資料に目を通しておけばいかがでしょう? 共同研究に関する資料です。ローゼマイン様が知っていれば、話を進めやすくなるでしょう」

 設計図や覚書だが、これから作る物に関する資料らしい。わたしは机の上にもさっと積み上がった資料と研究室の本棚に収められている整然とした資料を見比べて、クッと顔をヒルシュールに向けた。

「ヒルシュール先生、わたくし、資料に目を通す前に整理したいのですけれど、よろしいですか? あの本棚のように」
「あそこに収まっているのはすでに研究が終わった資料ばかりですし、フェルディナンド様が片付けていた物です。最初に目が向かうのが片付けとは、本当によく似ていらっしゃること。こちらの机にある資料はお好きに片付けてくださって結構ですよ」

「……え? フェルディナンド様がお片付けをしたということは十年ほど放置されているということですか!?」
「何をおっしゃるのです。フェルディナンド様は去年の今頃にいらっしゃったでしょう? ご自分が作った魔術具を引き取りに」

 あの時に魔術具だけではなく、置いておけないと判断した設計図や研究結果などの資料もごっそりと持って帰り、ついでに、ユストクスとエックハルト兄様を使って資料の片付けをして行ったらしい。

 ……こんな師匠の面倒を見ていたなんてフェルディナンド様も大変だね。

 わたしはフェルディナンドがしていた通りに分類して片付けられるように本棚から資料をいくつか出してきた。木札が研究毎にまとめられていて、内容は時系列順だ。ところどころに羊皮紙がまとまっているのはフェルディナンドの研究のようだ。文字が変わっていないのですぐにわかる。

 ……これ、二十不思議の研究だ。でも、後半が全くないよ?

 ユストクスが集めてきた不思議話が最初にずらりと並んでいて、その次に簡単な地図が付いていた。

 ……これって多分貴族院の地図だよね? へぇ、大体円形なんだ。

 寒い中を騎獣で飛び回る機会が少ないので、わたしは貴族院の敷地がどのようになっているのかも知らない。宝盗りディッターをしていた頃は皆が地形を把握していた、とリヒャルダやおじい様に聞いたことがある。

 ……これがきっと二十不思議のあった場所なんだろうな。

 二十どころではなく、もっとたくさんの点があって何を検証したのか、○や×が付けられていた。十年以上前の手書きの地図だからだろうか、古ぼけた感じが良い味を出していてまるで宝の地図のように見える。けれど、二十不思議の研究はあまりにも不自然にぶつっと途中で途切れていた。

「ヒルシュール先生、これはフェルディナンド様の研究ですよね? 結果がないのですけれど……」
「フェルディナンド様の研究はそういうのが多いですよ。発表するものでない限り、結果がわかって自分が納得すれば資料としては残さなかったり、残さない方が良いと判断して敢えて書かなかったりしていました」
「そうなのですか……」

 領地からお金をもらって研究した分は必ず報告が必要になるが、自分のお金で、趣味でしていた研究に関しては資料を残していないのも多いそうだ。

 ……この研究は面白そうだし、最後まで見たかったな。

 唇を尖らせながら、わたしは分類の方法や綴じ方を確認して、資料を閉じた。



「さて、フェルディナンド様の片付け方も把握したことですし、早速こちらの資料も片付けていきたいと存じます」

 同じように片付けるのが一番だろう。混乱がなくてヒルシュールやライムントも資料を探しやすいはずだ。わたしは腰に結ばれている飾り紐を一本解いて、ビシッと構えた。

「姫様、何をなさるおつもりですか?」
「……『たすき掛け』です。邪魔な袖からお片付けするのですよ」
「タスキガケ、でございますか?」

 リヒャルダが訝し気にする中、わたしは手早くたすき掛けをして邪魔な袖を片付けた。完璧だ、と悦に入ると、リヒャルダが「姫様、このように腕を露わにするのははしたないことですよ」と溜息を吐きながらすぐにたすきを解いてしまった。

「姫様はこちらで座って指示を出せばよいのです。わたくしとリーゼレータが指示通りに片付けますから」

 椅子が準備されて、わたしは調合机の上に積み上げられた紙や木札を分類することになった。目を通して、誰のどんな研究かで分けていく。それをリヒャルダとリーゼレータが手分けして箱に詰めたり、綴ったりして本棚に片付け始めた。

「この資料はヒルシュール先生の今の研究内容ではございませんか?」
「えぇ。しばらく見当たらなくて探していたのです」
「ライムントの資料はこの本棚に収めても良いのですか? アーレンスバッハの寮へ持ち帰りませんか?」
「卒業する時にどうするのか本人が判断するでしょう」

 時間がたてば必要なくなる資料も多い、とヒルシュールが言った。
 次々と片付けていけば、研究毎に整然と資料が並び始め、調合用の机の上が綺麗になっていく。

「ローゼマイン様、こちらにも資料が残っていました。これも合わせて片付けてくださいませ」
「お任せください」

 ヒルシュールから資料を受け取り、収めるべきところに片付ける。

 ……わたし、ヒルシュール研究室の専属司書って感じ?

 誰に認められなくても、気分だけは研究室所属の司書である。図書委員が魔力供給しかできなかったので、ある意味、貴族院に来てから最も司書らしい仕事をしている気がする。鼻歌を止められない。

 ……どうしよう。わたし、今、すごく楽しい!

 うきうきとした気分でわたしが資料の片付けに精を出していると、四の鐘が響いて来た。それから、少ししてライムントが「ヒルシュール先生、大変なことが……」と言いながらふらりとした様子で入って来る。
 その直後、目を丸くして「申し訳ございません。部屋を間違えました!」と急いで出て行ってしまった。

「……間違えていませんよね?」

 わたしとリーゼレータが顔を見合わせると、ヒルシュールはクスクスと笑った。

「部屋があまりにも綺麗になっているので、間違えたと思ったのでしょう。そのうちに戻って来ますから、食事の準備をいたしましょう。そちらには差し入れが入っているのでしょう?」

 ヒルシュールが嬉しそうに唇の端を上げて、ワゴンを指差した。ちょうどお腹が空く時間である。綺麗に片付いた調合用の机の上を清めて、リーゼレータとリヒャルダが食事の準備を始めた。

 きちんと準備ができた頃にライムントがノックをして、恐る恐る扉を開けて顔を覗かせた。相変わらず自分の身なりに構っていなくて黒髪はぼさぼさだ。直後にリーゼレータが持ち込んだ差し入れの匂いにお腹を鳴らして、きまり悪そうに視線を逸らす。

「ライムント、入って来る前にヴァッシェンで結構ですから身なりを整えてくださいませ。そのような姿でローゼマイン様の前に立たないでください」

 リーゼレータに笑顔で追い払われたライムントがまた扉を閉めた。部屋の外でヴァッシェンを使ってから戻って来る。

「大変失礼いたしました」

 ライムントがようやく入って来られたので昼食である。昼食を摂りながら、ヒルシュールが共同研究に関する話を始めた。ヒルシュールから下げ渡された食事を摂りながら、ライムントが肩を落とす。

「やはり間違いではなかったのですね」

 昨夜、ディートリンデに呼び出されて「アーレンスバッハの代表として恥ずかしくないようにフェルディナンド様とよく連絡を取って研究するのですよ」と言われたらしい。

「これまでの貴族院では全く接触がなかったので非常に驚いたのですが、自分の婚約者の弟子だから気になったのか、と思ったのです」

 ライムントは領地対抗戦の研究発表に関することだと思って、「誠心誠意頑張ります」と返事をした。そうしたら、今日、朝食を終えて講義に向かおうとしたら寮監であるフラウレルムに呼び止められて「共同研究の概要が決まったら報告するように」と言われて目を白黒させることになったそうだ。
 知りません、とも言えずにライムントは午前の講義が終わると同時にこの研究室にやって来たらしい。

「エーレンフェストがダンケルフェルガーとドレヴァンヒェルと共同研究をすることになったのです。どちらも注目度の高い研究で、フェルディナンド様を通して関係の深いアーレンスバッハも共同研究をしたいとフラウレルムが考えたのですよ。中央に対する功績が欲しいのでしょうね」

 ……ヒルシュール先生が焚きつけたんじゃなかったっけ?

 そう思ったけれど、文官コースの試験を終えるために手を回してくれたので余計なことは言わない。ライムントもこちらから押し付けられるよりは自分のところの寮監が言い出したと思っている方が受け入れやすいだろう。

「どちらもフェルディナンド様の弟子ですし、設計部分をライムントが、試作品を作る部分をローゼマイン様が担当すれば、今のままでも十分に共同研究になるでしょう」
「……試作するのをローゼマイン様が行うのですか?」

 ライムントが青い目を大きく見開いて、「領主候補生に試作させるなんて畏れ多すぎます」とヒルシュールを見た。ぶるぶると震えるライムントと違って、ヒルシュールは「適材適所ですよ」と平然と言う。

「ローゼマイン様は調合の実技も優秀な成績を収めていますし、フェルディナンド様に仕込まれているため実践的な調合に慣れていて時間短縮の魔法陣を使用する調合ができます。領主候補生で魔力が多いのでいくら調合しても問題ありません。研究にかかる時間を大幅に軽減ができるでしょう」

 設計の方はそれほどセンスがありません、と言われてしまった。講義でやる程度のことは十分にできても、応用がいまいちというか、ライムントやフェルディナンドのような設計センスがないらしい。

「この共同研究を成功させ、二人ともフェルディナンド様の弟子であることが周知されればフェルディナンド様のためにもなるでしょう」

 共同研究が成功したのはフェルディナンドの功績でもあるというふうに持って行けば、アーレンスバッハにおけるフェルディナンドの重要性が増すらしい。「フェルディナンド様の待遇改善のためですよ」と言われれば張り切るしかない。

「フェルディナンド様の立場を確立するためにもなりますし、中級貴族であるライムントがフェルディナンド様の側近として認められることにもなりますし、わたくしの図書館の魔術具を作るためでもあります。一緒に頑張りましょう」
「完全に周囲がやる気になっていて、今更断ることなどできませんからね……」

 断ればフラウレルムがとんでもないヒステリーを起こすだろう、とライムントはうんざりとした顔で言った後、共同研究を了承してくれた。

「では、昼食を終えたら早速試作品を作りますね。設計図と説明をお願いします」
「わかりました。よろしくお願いいたします」



 きっちりまとまっている資料に感動していたライムントから司書仕事を褒められて嬉しくなって、午後の講義に向かうライムントを見送った後、わたしはヒルシュールの研究室で調合三昧の時間を過ごした。ライムントが置いて行った設計図を見ながら、次々と魔術具を作成し、ヒルシュールに呼ばれれば魔術具に魔力を注いでいく。足りない腕力は身体強化で補い、足りない体力は体力だけを回復させる薬で補って。

 ……うん、この研究室はダメだ。普通に過ごしているつもりでも薬漬けになってるよ。

 そして、講義から戻って来たライムントにわたしは胸を張って試作品を見せた。

「どうですか? 注文通りにできていますか? 結構頑張ったのですよ」

 ちょっと褒めてほしくて張り切ったわたしはライムントの前に試作品を並べていく。わくわくしながらライムントの反応を見ていたのだが、ライムントが肩を落として項垂れた。

「……あの、そんなにガッカリするほど出来が悪いですか?」
「いいえ。よくできています。使用できる魔力の差を目の当たりにして、少し気が遠くなっただけです」

 魔力が少ないライムントは試作品を調合するにも回復薬が必要なことがあるらしい。それでも、一日に一個作製できるかどうか、というところらしい。四つ並んだ魔術具に世の中の不平等さを痛感したそうだ。

「これでフェルディナンド様に合否を判断してもらいます」
「では、送るのは明日にしてくださいませ。わたくしのお手紙も一緒に送ってほしいのです。フラウレルム先生経由でフェルディナンド様に届けてもらうお手紙もありますし……」

 この研究室の面々では報告が疎かになるので、わたしが報告義務を負っていることを告げると、ライムントはホッとしたように表情を緩めた。

「それはとても助かります。すでにフラウレルム先生から報告するように言われているので……」

 次の日、わたしは魔術具の提出と共にフェルディナンドへ届けてもらう手紙とフラウレルム経由で届けてもらうお手紙の両方をライムントに託した。

 ……どうかフェルディナンド様からのお返事が届きますように。

 飛信の女神 オルドシュネーリに祈りを捧げていると、ブリュンヒルデがお手紙を持って来た。

「ローゼマイン様、エグランティーヌ先生からの招待状でございます。王族主催で本好きのお茶会を開催するそうですよ」

 ……あれ? わたし、まだエグランティーヌ先生には文官コースが終わったって連絡を入れてないよね?
やっとヒルシュールの研究室へ行けました。
これで本編がユストクス視点のSSに追いつきましたね。
資料を使いやすいように片付けて、感動されて、テンションが上がっているローゼマイン。
フェルディナンドへようやくお手紙を出すことができました。

次は、王族が主催する本好きのお茶会です。
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