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本好きの下剋上 ~司書になるためには手段を選んでいられません~ 作者:香月 美夜

第五部 女神の化身

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グンドルフ先生の講義合格

「ローゼマイン様はずいぶんと早く領主候補生の講義を終えてしまうのですもの。わたくし、本当に驚きました」

 エグランティーヌはそう言っておっとりと微笑んだ後、「講義終えたのですから、お茶会にお誘いしても大丈夫かしら?」と尋ねて来た。

「とても残念なのですけれど、これからわたくしは文官コースを取らなければならないのです。すぐには難しいです」
「そうですか。では、文官コースが終わった頃にお茶会をいたしましょう」
「はい」

 笑顔で頷きながら、エグランティーヌとのお茶会よりもダンケルフェルガーとのお茶会が優先だ、と心の中で考える。ダンケルフェルガーとは共同研究の話もしなければならないし、クラリッサとの話し合いもある。シュバルツ達の主がハンネローレに変わったことに関する話し合いも必要だ。そこまで考えたところで気が付いた。

「あの、エグランティーヌ先生、図書館の魔術具の管理者変更は王族案件でしたよね? わたくしからオルタンシア先生に変更する時に立ち合いが必要だったようですし……」

 わたしの言葉に隣の席のハンネローレがビクッと肩を震わせた。「王族案件だなんて聞いていません」という顔になっている。王族案件である上に、オルタンシアが中央の騎士団長の第一夫人だ。図書館に話をする前に王族であるエグランティーヌへ一度話を通しておく方が良い。

「実は図書館のシュバルツ達の管理者なのですが……」

 わたしはハンネローレが閲覧室に入る前に魔力供給をしていたこと、ソランジュが協力者には協力してほしいと言っていたこと、図書館側からの説明がなかったことを述べ、ハンネローレは善意で協力してくれただけなのだが、管理者になってしまったことを報告する。

「ハンネローレ様が管理者に……?」
「申し訳ございません、エグランティーヌ先生。わたくし、このようなことになるとは知らずに……」

 青ざめているハンネローレの隣で、わたしはハンネローレを援護する。

「ハンネローレ様に悪気はなかったのです」
「えぇ、それはわかります。ローゼマイン様だけではなく、ハンネローレ様もずいぶんとご協力しいただいていたのですね。ソランジュ先生が協力者の存在をとても喜んでいらっしゃった理由がよくわかります」

 ハンネローレの謝罪にエグランティーヌは「魔力をたくさん供給してくださってありがとう存じます」と微笑んだ。王族からどんな叱責が来るのか、とビクビクしていたハンネローレの肩から力が抜けたのがわかった。

「エグランティーヌ先生、わたくし、ハンネローレ様のお話を伺って少し気になったのですけれど、オルタンシア先生の魔力では足りていないのではございませんか? 毎日シュバルツ達に魔力供給をしていればハンネローレ様がいくら優秀な領主候補生でも管理者になることはないと思うのです」
「図書館の中にはたくさんの魔術具がございますから、シュバルツ達よりも優先する魔術具があったのかもしれませんね」

 ハンネローレの言葉にわたしはうーん、と首を傾げた。シュバルツとヴァイスは図書館業務でかなり大事だ。後回しにするのはおかしいと思う。特に、王族からの言葉で管理者を変更しなければならない時期なのだから。

「ご心配をありがとう存じます、ローゼマイン様、ハンネローレ様。昔は上級司書が三人以上は必要だったと伺っています。一人では魔力にも限界があるでしょう。今がどのような状態なのか、図書館の司書にこちらからもお話を聞いてみましょう」
「よろしくお願いします、エグランティーヌ先生。……もしかしたら、これはヒルデブラント王子にお話をするべきだったのでしょうか?」

 ヒルデブラントは王族として貴族院に在学し、管理者を変更する時も「務めは果たせるのに」と言っていたはずだ。

「ヒルデブラント王子にはこちらから話を通しますから大丈夫ですよ」

 エグランティーヌにヒルデブラントの対応もお願いしておいた。これで保護者達の言いつけ通り、王族との接触は最小限に止めることができたはずだ。

「エグランティーヌ先生にお話してくださって助かりました、ローゼマイン様。王族案件だとは思わなかったものですから……」

 図書館に報告して王族から呼び出しが来たら、アウブまで含めて大騒ぎになったかもしれない、とハンネローレが呟き、わたしはとても申し訳ない気持ちになった。

「管理者を変更する時に王族の立ち合いがあったことを思い出したのです。講義で顔を合わせる回数が一番多いのですから、わたくしからもハンネローレ様に図書館での出来事をお話しするべきでしたね。申し訳ございませんでした」
「いいえ、そのようなことはございません。わたくしも閲覧室へ入って先生方にご挨拶をするべきだったのです」
「お二人ともそのくらいになさいませ。連絡を怠った図書館側に一番大きな過失がございます。それほど心配しなくても大丈夫ですよ」

 わたし達二人が謝り合っているのを見ていたエグランティーヌがクスクスと笑う。

「あの、エグランティーヌ先生。まだ先のお話になると思うのですけれど……」

 そう前置きをして、わたしはエグランティーヌに加護を得る儀式について研究することを告げる。そして、ハンネローレにはダンケルフェルガーの協力が欲しいことも伝えた。

「ダンケルフェルガーとの共同研究ですか?」

 二人が揃って目を丸くした。

「はい。ダンケルフェルガーには複数のご加護を得ている騎士見習いが多いと伺いました。エーレンフェスト以外の状況を知るためにぜひ協力いただきたいと思うのです。少しでも多くの神々からご加護を得るのは貴族にとって大事なことだと王族もお考えのようですし……」

 エグランティーヌに視線を向けつつ、アナスタージウスからの言葉があったことをほんのりと匂わせてハンネローレにニコリと微笑みかける。

「長年ダンケルフェルガーで行われてきたことについてお話を聞き、研究としてまとめるのですから、共同研究という形にさせていただいた方が良いと考えました。もちろん、アウブとの相談もあるでしょうから、返答はお茶会の時で結構です」
「わかりました。アウブに相談してみましょう」



 そんな感じで研究に関する根回しをしつつ、文官コースに突撃である。領主候補生コースを終えたわたしは、自室に戻ってから次々と文官コースの先生方に試験予約を出していった。
 領主候補生コースを優先しなければならなかったので、文官コースの初日には参加できず、初日の試験を受けられなかった。そのため、個別で試験予約を出すしかないのだ。

 ……早く終わらせないと、ダンケルフェルガーとのお茶会に間に合わないよ。

 図書館の魔術具を充実させることが目的だったけれど、予想外の研究をすることになってしまったので、貴族院生活はなかなか忙しいことになりそうだ。講義はなるべく早く終わらせた方が良い。

 文官コースは魔術具を作ったり、魔法陣を詳しく勉強したり、古い文献を読み込んだりする共通の講義と、情報収集や資料の整理に関する講義や薬草や薬品に関する講義、医学に近いことをしている講義など自分の好みに合わせて取る選択の講義がある。

 どれもこれもフェルディナンドと予習済みなので、よほどのことがない限り合格を勝ち取れると思う。

 ……どうか先生方の予定が空いていますように。

 先生に余裕がなければ個別試験をしてくれないので、こんな時は神頼みである。頼んだ甲斐があったようで、すぐにグンドルフからの返事が来た。グンドルフは文官コースの講義を三つほど受け持っているので、一気に終わらせてしまいたい。



「お時間を取ってくださってありがとう存じます、グンドルフ先生」
「あぁ、ローゼマイン様。こちらへどうぞ」

 わたしは調合服を着て実技に必要な調合用の材料をフィリーネとローデリヒに持ってもらい、文官の専門棟にあるグンドルフの研究室へ踏み込んだ。ヒルシュールの研究室もごちゃごちゃとしていたけれど、ここもかなり色々な物が散乱している。書き物をする机は大変なことになっているのに、調合するための台だけが綺麗なのはどこの研究室も同じなのだろうか。

「では、早速調合から始めるとしよう」

 共通の実技で魔力を分けるものがあったが、文官コースはもう少し高度になり、魔力を属性ごとに分けて、それを更に合わせて素材作りから始める実技もある。養父様にもらっていた魔石で魔力を減らしていたので、わたしのシュタープでも難なく調合ができる。

 ……養父様、ありがとう存じます!

 次々と調合鍋に素材を入れて行き、課題の薬を作る様子をグンドルフが髭を撫でながらじっと見つめる。調合には慣れているとはいえ、一対一の試験は結構緊張するものだ。

「ローゼマイン様は時間短縮の魔法陣までお使いになるのですか」
「わたくし、体が弱いので回復薬は必須なのです。たくさん作らなくてはならないのに、この体格では長時間の調合が大変ですから、フェルディナンド様が教えてくださったのです」

 今は少しでも多くの講義を終わらせたいので、尚更一つの調合に時間をかけていられない。時間短縮の魔法陣は大活躍だ。

「ローゼマイン様はご自身で薬を作っていらっしゃるのですか?」
「そうです。フェルディナンド様が自分の薬くらいは自分で作れるようになりなさい、と教えてくださったので……。おかげで、フェルディナンド様がアーレンスバッハへ向かっても、わたくしは困ることがございません」

 いつまでも保護者に任せきりにはできませんよね、と微笑むと、グンドルフは「そういう意味ではございません」と首を振った。

「薬の調合など、普通は側近の文官に任せる物です。領主候補生には薬の作成より先にしなければならないことがたくさんあるではありませんか」

 ……なんと!? お薬作りは文官の仕事なの!? 初耳だよ!

 お薬作りはずっとフェルディナンドがしていた。「自分の薬くらい自分で作れなくてどうする?」とずっと言われていたので、薬というのは自分で自作するのが基本だと思っていたが、普通の領主候補生は側近の文官に任せるのが本来の姿らしい。

 わたしはフィリーネやローデリヒに薬作りを任せることを考えて、即座に首を振った。ハルトムートならばまだしも、あの二人には無理だ。

「フェルディナンド様がわたくしのために調合してくれていたお薬は特別製ですから、魔力や貴重な素材が必要で、上級文官ならば何とか作れるかもしれないという物なのですよ」
「それはどのような薬ですか?」
「……レシピはもちろん秘密です。あ、できました。これで大丈夫ですか?」

 グンドルフの質問を軽く流して、わたしはできあがった薬を見せる。軽く見ただけでグンドルフは頷いた。

「慣れ切った動きでの調合、時間短縮の魔法陣を使っても全く途切れない安定した魔力、失敗する要素がありませんな。その調子で他も調合してください」
「はい!」

 調合をこなしながらグンドルフとおしゃべりをする。一番興味があるのは加護の儀式らしく、様々な質問をされた。

「その辺りの質問に関しては王族からのご指示もあり、領地対抗戦で発表することになっているので、そちらでご覧くださいませ。ダンケルフェルガーの許可が取れたら共同研究にして、発表することになっているのです」

 わたくしの一存ではお答えできません、と上位領地の権威を笠に着て、わたしはグンドルフの質問をシャットアウトした。

「研究ならばドレヴァンヒェルと行う方が効率的で……」
「魔術具や魔法陣の研究ならばドレヴァンヒェルの方が良いでしょうけれど、ご加護の研究はドレヴァンヒェルに複数のご加護を得た方がいらっしゃらないようですから……」
「むむ……。ならば、魔術具の研究をしましょう」

 諦めたのかと思えば全く諦めていないらしい。グンドルフにこの研究室に出入りするように、と勧誘され、わたしはぶるぶると首を振った。

「わたくしはヒルシュール先生の研究室に入ると決めているのです」

 ヒルシュールには色々と隠匿してもらう予定だし、何よりもエーレンフェストの寮監なので他領に研究内容を盗られる心配がない。何より、フェルディナンドの弟子であるライムントがいるので連絡が取りやすいし、加護の研究と図書館の魔術具の作成が同時進行できる。わたしはまだ録音の魔術具を作って、フェルディナンドにお小言を送る計画を諦めていないのだ。

「だが、ヒルシュールの研究室は……。いや、こちらの研究室の方が研究費は潤沢で、素材の品質も良い」
「そうなのですか。でも、わたくし、今のところは研究費に困っていませんから」

 グンドルフの言葉から察するに、ヒルシュールはエーレンフェストからの援助がないため研究費が非常に少ない状況なのだろう。フェルディナンドが援助しているとは言っていたが、ヒルシュールが完全に甘えることもないと思う。研究室に居つく代わりにわたしからも援助した方が良いだろうか。

 ……お金よりも食事と睡眠時間なんかの生活を改善した方が良いと思うんだけどね。

「ローゼマイン様の発想は奇想天外なものが多く、非常に探究心をくすぐられるのですが、残念ですな」

 溜息を吐きながらグンドルフが勧誘を諦める。フェルディナンドから聞いていたように、引き際を弁えている姿に少しだけ好感を持った。

「わたくし、魔術具の紙には興味があるのです。そちらの研究に手を伸ばす余裕ができた時はぜひドレヴァンヒェルと共に研究してみたいと存じます」
「ほほぅ、魔術具の紙ですか……。どのような魔獣の皮が向いているかというような?」
「いいえ、魔獣の皮以外の素材から魔術具の紙を作れないかという研究です」

 グンドルフがキラリと目を光らせる。「その研究は私も興味があります」と微笑んだ。

「なるほど。そちらの研究は確かにダンケルフェルガーよりもドレヴァンヒェルに向いていますな。ぜひ、一緒に研究しましょう」
「でも、わたくし、今年は忙しくて……」

 ちょっと今年は難しいかな、と考えていると、グンドルフは不思議そうな顔で首を傾げた。

「エーレンフェストにはローゼマイン様以外の文官もいるではありませんか。そちらに指示を出せば良いのでは? 領主候補生であるローゼマイン様が全ての研究を行うのは無理でしょう」

 王族からの指示があった加護の研究はともかく、と言われ、わたしは目から鱗が落ちる思いでグンドルフを見つめた。研究というのは自分でするものだと思っていたが、研究も丸投げして良いものなのか。

「領主候補生にとって大事なのはいかに領地を発展させるかということでございます。文官コースを取る以上、ご自身で研究する必要もございますが、自分でなければできない研究と他の者でもできる研究は分けて考えなければ、どの研究も進みません。ローゼマイン様の着眼点は興味深いものが多い。研究自体は多くの文官に振り分けて、届く経過に目を通しながら指示を出し、結果をどのように活かすのか考えるようにするのです」

 少なくともドレヴァンヒェルではそうしているそうだ。領主候補生が全部抱え込んでいては他の文官が育たないと指摘され、わたしは自分がフェルディナンドと同じことをしていることに気付かされた。

「紙の研究についてはドレヴァンヒェルと行いましょう。研究のための素材の豊富さには自信がございます」
「それは素敵ですね。そういう点ではエーレンフェストはまだまだですから」
「長年、貴族院で教師をしているので、調合の道具も数多くございます」

 少し昔の研究も問題なくできると言われ、わたしは相好を崩した。

「それは一度拝見したいですね。わたくし、昔の教育課程にも興味があるのです。シュタープを一年生で取得していなかった場合はどのような講義をしていたのか」
「ふむふむ。もうあの時代の教育を受けた学生は今の貴族院にはいませんからなぁ」
「どのように講義を行っていたのか、学生の参考書はあっても教師側の資料は図書館にもございません。どの学年でどのような学習をどのように教えていたのか。教師の視点で書かれた学習指導内容も欲しいですね」
「紙の研究の合間にお話しすることは可能です」
「本当ですか? まぁ、楽しみです」

 何となく流されて説得され、わたしはエーレンフェストとドレヴァンヒェルで魔術具の紙について研究することになった。
 こうして座学一つと調合二つの合格を得て、わたしはグンドルフの研究室を後にした。



「……そういうわけで、ドレヴァンヒェルとも共同研究をすることになりました」
「わけがわからぬ!」

 寮に帰って、多目的ホールで本日の試験結果の報告をしたらヴィルフリートに怒鳴られた。そんなふうに目を三角にして怒られても困る。わたしもどうしてこうなったのかよくわからないのだ。
 紙の研究がしたいな、教師がまとめた学習指導内容がほしいな、と世間話をしていたら、共同研究をすることになっていた。

「ヴィルフリート兄様とシャルロッテは印刷や製紙業のお手伝いもしているでしょう? その延長で紙の研究をしてほしいのです。エーレンフェストにある魔木からできた紙がどの程度魔術具として使えるのか、魔術具として使うためにはどうすれば良いのか……エーレンフェストらしい研究内容だと思うのですけれど」

 どうかしら? とわたしはヴィルフリートとシャルロッテの文官見習い達に視線を向けた。イグナーツとマリアンネが顔を見合わせる。

「……ローゼマイン、其方は私とシャルロッテの文官に研究させるつもりか?」
「えぇ。ローデリヒとフィリーネはお話集めや執筆に忙しいですし、複数のご加護を得た中級、下級貴族ということでご加護の研究にどうしても必要で外せません。それに、製紙業や印刷業にわたくしだけではなく、ヴィルフリート兄様やシャルロッテも深く関わっていることを周囲に知らしめる良い機会だと思うのです」

 わたしが独占していてはダメだ。異母弟や養女ばかりに仕事を押し付けるアウブという悪評を拭うには、実子がどれほど頑張っているのか、どのような仕事をしているのか、周囲に見える形で発表した方が良い。

「もちろん、他に研究していることがある文官に別の研究をしろと言っているわけではありません。ただ、製紙業と印刷業はエーレンフェストの基幹事業ですから領主候補生の側近を優先した方が良いと考えただけなのです」
「私やシャルロッテの文官見習いが断ったらどうするのだ?」

 ヴィルフリートの質問にわたしは未だに名を受けていない側近予定のミュリエラへ視線を向けた。うっとりとした表情でお母様の本を読んでいるミュリエラが見える。

「ミュリエラを紙の研究の中心に据え、そこから旧ヴェローニカ派の文官見習いに仕事を回します。彼等は名捧げをする必要がなくなったので、側近には入れなくなりました。けれど、基幹事業の研究に関わることでエーレンフェストにとって必須の人材になれれば、将来がずいぶんと変わると思うのです」

 処刑は免れても犯罪者の家族がいるのだ。貴族院の中はともかく、これまで連座が当たり前だったエーレンフェストでは周囲の視線が厳しいものになる可能性は高い。目に見える形で彼等が領地にどれだけの貢献をしているのかがわかれば、そのうち大人達の対応も多少は変わってくるだろう。

「ふむ……」
「ヴィルフリート兄様とシャルロッテの文官見習いが中心になるのでしたら、バルトルトとカサンドラの名を早いうちに受けた方が良いですね。領主一族の側近としての仕事を任せることで他の側近達との仲間意識を持たせつつ、二人の旧ヴェローニカ派の繋がりを上手く使って旧ヴェローニカ派の文官見習いにも研究を手伝わせることができれば理想的です」

 わたしの言葉にヴィルフリートが傍らに立つイグナーツへ視線を向ける。

「其方はどう思う? 研究している内容があるのか?」
「いえ、卒業研究に関しても悩んでいるだけで、まだ良い研究テーマが決まっていません。ヴィルフリート様のためにもなりますし、ぜひ紙の研究をさせていただきたいと思います」

 イグナーツの答えにヴィルフリートが頷いた。

「わかった。私の文官見習いイグナーツとバルトルトを中心に紙の研究をさせよう」
「お兄様、わたくしの文官見習いも忘れないでくださいませ。マリアンネ、お願いしても大丈夫かしら?」
「もちろんです、シャルロッテ様」

 マリアンネが微笑んで頷いた。これでドレヴァンヒェルとの共同研究も進めることができそうだ。

「研究を進めるためには、名捧げが必要になるな」
「わたくしは側近達と一緒に土の日にミュリエラの名捧げのための素材を狩りに行くのです。バルトルトとカサンドラのために二人の護衛騎士達も同行させてはいかがですか? 文官や側仕えの二人ではなかなか名捧げに相応しい素材を得ることができませんから」

 特に今は名捧げを逃れられた他の旧ヴェローニカ派の子供達とも距離ができているので、名を受ける予定の主からフォローが必要であることを助言しておく。

「お姉様は相変わらずよく見ていらっしゃいますね。……ナターリエ、カサンドラに土の日の予定を聞いてください。名捧げのための素材採集に行きましょうと誘ってほしいのです」

 シャルロッテの護衛騎士ナターリエがカサンドラのところへ向かうと、ヴィルフリートもアレクシスをバルトルトのところへ向かわせる。
 これでポツンと外れている学生ができるのは阻止できそうだ、と安堵しているとグレーティアがユーディットに声をかけてきた。ユーディットと二人で少し離れたところへ向かい、何やら話をしている。

「あの、ローゼマイン様」

 グレーティアを近付けず、伝言を受けたらしいユーディットが少し困惑した顔でわたしの前に立った。

「何かしら、ユーディット?」
「グレーティアも名捧げをしたいようで、土の日の採集に同行したいそうです」
「……え? けれど、グレーティアのご家族は……」

 処刑を免れ、名捧げの必要はなくなったはずだ。

「リヒャルダ、レオノーレ、ブリュンヒルデ。グレーティアと話をしたいのですけれど、良いかしら?」
「護衛騎士が複数いますからね。お話だけならば構いませんよ」
いくつかの根回しを終え、文官コースへ。
何故か紙の研究をドレヴァンヒェルとすることになりました。
その中心はヴィルフリートとシャルロッテ。
エーレンフェストのイメージ戦略です。

次は、名捧げと採集です。
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