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本好きの下剋上 ~司書になるためには手段を選んでいられません~ 作者:香月 美夜

第四部 貴族院の自称図書委員

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救出

「フィリーネとローデリヒの二人は写本をしつつ、神殿長室で待機です。そろそろギルが戻って来るでしょうし、下町からの続報が届くと思います。その情報をまとめておいてください。フランは二人と共にここで待機ですが、ザームとモニカは青色神官の側仕え達から情報を得てくださいね。ハルトムートには話さなかった情報が得られるかもしれません」

 フィリーネとローデリヒを連れて行くつもりはないので、神殿の側仕え達と共に情報収集をしてもらえるように指示を出す。フィリーネとローデリヒが頷き、ザームとモニカが情報を得るために退室していった。

 それを見届けて、わたしは一列に並んでいる護衛騎士を見回す。一人は神殿長室に騎士を置いておきたい。切り込み隊長アンゲリカ、身食い兵の魔力を感じ取ることができるダームエル、護衛騎士の中で最大の魔力を持つコルネリウス兄様は同行が決定している。ユーディットとレオノーレのどちらを残すか。

「ユーディットはわたくしの騎獣に同乗し、護衛と射撃の準備をお願いします。レオノーレは下町、ハルトムート、わたくし達、全ての連絡を受けつつ、この神殿長室を守ってくださいませ。そして、状況が変わった時、重要な新しい情報が入った時にはすぐにオルドナンツを飛ばしてください」
「かしこまりました」
「ダームエルとアンゲリカとコルネリウスの三人は神官長の指示に従ってください」
「はっ!」

 護衛騎士達に指示を出し終わる頃には、神官長とエックハルト兄様とユストクスが出撃準備を整えて戻って来た。その人数を見て、レオノーレが不安そうに顔を曇らせる。

「騎士の人数が少なすぎませんか? アウブ・エーレンフェストに連絡して、騎士団を動かしてはいかがでしょう?」
「レオノーレ、騎士団を動かすための理由は?」
「エーレンフェストの聖典を奪い返すのですから、理由としては……」

 レオノーレの言葉を遮るように神官長は首を振った。

「我々は馬車で灰色神官達が連れ去られたという情報がたまたま下町から上がってきたため、灰色神官達を救出に行くだけだ。それから、南門を出た怪しい馬車に灰色神官達が乗っているだろうと見当をつけているだけで、本当に乗っているかどうかは行ってみなければわからぬ。何より、我々が救出したいと思っている対象が灰色神官達だ。騎士団に依頼できる内容ではない」

 騎士団を動かせるだけの理由がない、と神官長が言い切った。レオノーレは藍色の瞳を一度伏せた後、クッと顎を上げて神官長を見上げる。

「ですが、ローゼマイン様やフェルディナンド様の護衛は依頼できます。騎士団は領主一族のためにあるのですから」
「確かに、領主一族の護衛を増やしたいとアウブを通じて騎士団に依頼することは可能だ。だが、オルドナンツで緊急事態として連絡すれば、アウブの側近の中にいる旧ヴェローニカ派に事情が筒抜けになる可能性がある。状況が許すならば、遣いを立てたいところだがそのような余裕はない。そして、私はこちらの失点となる聖典の紛失を公表するつもりなどないのだ」

 聖典の紛失を周囲に知られ、失点を得ないようにするためにはここにいるだけの人数で全てを終わらせなければならない。

「これから探しに行く馬車の中に灰色神官達と共に聖典があれば良いが、ない可能性の方が高いと思っている。幾重にも利を得ようとする相手だ。灰色神官達と聖典は別々に運んだであろう。灰色神官達を見下している貴族女性が灰色神官達と同じ馬車に乗るとは思えぬ。移動には騎獣を使うと考えられる。それに、今の時点ではダールドルフ子爵夫人が関わっているというのは推測にすぎない。証拠はないのだ。それを忘れぬように」

 神官長の言葉に皆がコクリと頷いた。今回の第一目的は灰色神官達の発見と救出だ。そして、関係した貴族に繋がる証拠を手に入れたい。
 ふと思い出したようにコルネリウス兄様が顔を上げた。

「フェルディナンド様、身食い兵が爆発しないようにするための策はあるのですか?」

 青色巫女時代の祈念式の襲撃も、シャルロッテ誘拐の時も、襲撃者が指輪もろとも爆散したせいで証拠が全く残っていなかったと聞いている。今回も自爆されてしまうと証拠が残らないし、それに灰色神官達が巻き込まれる可能性もある。

 ……確かに自爆対策は大事だよね。

 何かあるのかな、とわたしは神官長を見上げた。同じように回答を欲した皆の視線が集中する。神官長はそこに並ぶ護衛騎士とわたしをちらりと見た後、ゆっくりと息を吐いた。

「爆発しないようにするには殺すのが一番確実だ。指輪に流れ込んでいる魔力がなければ爆発はできぬ。完全に殺してしまうと指輪は手に入るかもしれないが、記憶を探ることは難しくなる。両方を得たいならば、指輪をしている腕を切り落として癒しをかけ、死ねないように縛り上げておくか、時を止める魔術具にでも放り込むしかないな」

 あっさりと言われているが、想像するだけでもえぐいし、怖い。わたしはうぐっと思わず息を呑んだ。それが想像だけではなく、これから目の前で行われるのだ。思わず怖気づいたわたしを見て、神官長が少し眉根を寄せる。

「現場で怖気づいて悲鳴を上げたり、君が混乱することで騎士の行動が鈍ったりすると困る。ローゼマインは残っても良いぞ」

 陰惨な場面を見ずに済ませても良いと言ってくれているのはわかるけれど、わたしはコンラートと約束した。灰色神官達を助ける、と。それに、灰色神官達を預かる孤児院長として、神殿長として、ここは逃げてはいけないところだと思う。

「……いいえ、行きます」



 騎獣に乗って、南に向かう。馬車と騎獣のスピードは比べものにならない。鐘一つ分くらいならば、すぐに追いつけるはずだ。わたし達は外壁を越え、収穫を終えて土が剥き出しになっている畑の上空を、落葉した木々が見える森の上を、馬車が走れる道をたどって駆けていく。

「どこに向かうのかだけでもわかれば良いのですけれど……」

 後部座席のユーディットに尋ねられ、わたしは少し考える。

「南門を出たのは4の鐘が鳴ってしばらくたってから、と言っていましたよね? それでしたら、馬車で直轄地を抜けることはできません。必ず宿泊場所が必要になります」

 わたしのように大人数を載せられる騎獣ならば、灰色神官達を含めて全員を宿泊場所など考えずに自分の土地まで運ぶことができる。けれど、乗り込めるタイプの騎獣を持っているのは貴族院の低学年で、普通の貴族は灰色神官達を自分の騎獣に乗せたりしない。必然的に宿泊場所が必要になるのだ。

「ローゼマイン様は彼らがどこに向かうかわかるのですか?」
「縛られた灰色神官達を連れているのですから、冬の館がある大きな街には近付かないでしょう。今は収穫祭が終わって、農民達は冬の館で過ごしています。農村は空っぽの家がたくさんあるのです。そちらを使うと思います」

 冬が近いので夜の寒さは厳しい。夏と違ってゆっくりと目的地へ向かう余裕はないはずだ。必然的にできるだけ遠くの農村で空っぽの家を勝手に拝借して寝泊まりするつもりだろう。空の農村に馬車があれば目立つと思う。

「宿泊準備を始めるにはまだ少し早いですから、これまでに方向を変えたり、船を使ったりしていなければ、そろそろ見えてくるはずです。ただ、道が二つに分かれている分岐点があるのです。どちらからでも南に向かえるので、分岐点までには捕まえたいですね」

 そんな話をしていると、ユーディットが鋭い声を上げた。

「馬車です!」

 ユーディットの声にわたしは身体強化で目を凝らす。ちょうど話をしていた分岐点に差し掛かるところに荷馬車と馬車が見えた。馬車が農民の荷馬車を追い立てているようだ。荷馬車の手綱を握っている農民がちらちらと後ろを気にしながら馬車を避けるように左側へ行くと、馬車は「やっと視界が開けた」と言わんばかりに右側の道に入って少しスピードを上げて走り始めた。馬車が行ってしまったことにホッとしたように荷馬車はスピードを緩めてゴトゴトと動いている。

 ……何だろう? ちょっと変な感じがするんだけど。

 荷台が大きな布で覆われている荷馬車を見下ろしながら首を傾げていると、神官長の鋭い声がした。

「ダームエル!」

 名を呼ばれたダームエルは集中するようにじっと目を凝らして荷馬車と馬車を見つめる。微弱な魔力を感じ取るのは、魔力が上がった今でもダームエルが一番上手だ。自分の魔力の扱いから、相手の魔力量の見極めに対する感覚を磨いている、とおじい様が言っていた。

「馬車の方からいくつかの弱い魔力を感じます。おそらく身食い兵でしょう。あちらに向かった荷馬車は身食い兵には満たないくらいのごく微弱の魔力しか感じません。農民で間違いないと思います」
「わかった。では、打ち合わせ通りに動け」
「はっ!」

 ……今は救出作戦中だ。集中しなきゃ。

 短いやり取りで作戦の確認をしている皆の声に耳を澄ませた後、わたしは皆を見回す。

「灰色神官達の救出を最優先にしてくださいませ。証拠は後からでも取れますが、命だけは返りませんから」

 皆が頷いたのを見て、わたしはシュタープを出した。武勇の神アングリーフに祈るのが、わたしの大事な役目だ。

「炎の神 ライデンシャフトが眷属 武勇の神アングリーフの御加護が皆にありますように」

 シュタープから青い光が放たれる。皆に祝福が行き渡ったのを確認すると、わたしはレッサーバスで皆から少し離れていく。これからユーディットが攻撃しやすい位置に移動しなければならない。

「この辺りですか、ユーディット?」
「ローゼマイン様、もう少し高度を下げてください。……これくらいです。このまま待機してくださいませ」

 わたしはその場で止まり、後部座席に視線を向けた。ユーディットが武器を構えて御者に狙いをつけている。その横顔は緊張に強張っていて、唇が小さく震えていた。

「ユーディット、失敗しても次の作戦があります。頼れる仲間がいます。失敗を気にせず攻撃してくださいませ」
「ローゼマイン様、この射撃で失敗したらわたくしの存在意義がありませんし、魔術具を提供してくれたハルトムートに叱られます」

 せっかくの活躍の場ですよ、とユーディットが口元を緩める。それだけで少し緊張が解れたようだ。もう一度構え直し、菫色の瞳をキラリと自信たっぷりに輝かせた。

「大丈夫。外しません」

 準備が整った頼もしいユーディットの言葉に、わたしは緊張しながらシュタープを出した。ユーディットの攻撃の後、わたしがロートの光を上空に向けて放つことで他の皆の救出作戦がスタートするのだ。

「やぁっ!」

 ユーディットが鋭い声と共に魔石を打ち出した。ハルトムートが作った長距離を狙うための魔術具である。当たる瞬間がわたしには見えなかったけれど、ゆらりと御者が揺らめくのはわかった。

「ロート」

 わたしはすぐさま上空に向けて赤い光を放つ。その直後、シュンと音を立て、光の尾を引きながら魔力の固まりがレッサーバスを追い越し、前方に飛んでいった。馬車を止めるためのコルネリウス兄様の魔力攻撃だ。
 後ろから飛んできた光の塊が地面に激突してドンと大きな音を立て、周囲に土埃が舞い上がる。突然の爆音と土埃に馬が驚いて棹立ちになったのが見えた。ユーディットの攻撃がしっかり当たっていたのか、御者の体が御者台から振り落とされる。
 そこに一頭の騎獣が突っ込んでいくのが見えたけれど、途中で騎獣がふっと姿を消した。身体強化をしたアンゲリカが飛び降りて騎獣を消したのだ。

「たぁっ!」

 落下に合わせてアンゲリカは鋭い攻撃を繰り出す。見えるのはほのかに光る青い光だけだ。シュティンルークが青白く光って、アンゲリカの動きの軌跡を描く。燕のような速さでマントをたなびかせて突っ込んでいったアンゲリカは一瞬のうちに手綱と長柄を切った。ガクンと一度大きく動いて馬車が止まり、自由を得た馬は興奮したままどこかへ駆け出していく。

 アンゲリカはとても簡単に切っているように見えるが、簡単ではない。少なくとも、わたしには無理だ。長柄を切ろうと思ったら馬まで消えてなくなりそうなくらい魔力を込めなければできない。

「さすがアンゲリカ。これでいくら馬が暴れたり走り出したりしても馬車は動けませんね」

 自分の仕事をこなしたユーディットが明るい声でそう言った。わたしは動けなくなった馬車に向かってレッサーバスを降ろしていく。
 その間にも馬車に向かって次々と攻撃は繰り出されていた。コルネリウス兄様とエックハルト兄様が馬車の側面を切り捨て、身食い兵を引きずり出そうとする。だが、その手は届かなかった。

「近付いたら彼が死にますよ」

 馬車にいた身食い兵はたった一人。
 それ以外は紐で縛められた二人の灰色神官だった。一人は脇の辺りに武器を刺されて呻き声をあげていて、もう一人は身食い兵に抱えられ、首筋に刃物を当てられている。

「た、助けてください、神殿長!」

 首筋に当てられた刃物を見ながら、彼がひぃっと息を呑んだ。こちらが近付くよりも、彼が殺される方がよほど早い。エックハルト兄様とコルネリウス兄様が躊躇いの顔を見せ、動きを止めることで身食い兵の注意を引いている隙に、神官長が馬車の反対側へと回り込んでいく。

 ……あれ?

 首を傾げたわたしのレッサーバスが地に降り立つのと、「失礼します」とエックハルト兄様とコルネリウス兄様を押し退けてダームエルが馬車に近付くのはほぼ同時だった。

「そ、それ以上近付かないでください。この男が死んでも良いのですか? 慈悲深い聖女の目の前で灰色神官を見殺しにするのですか?」

 身食い兵の焦ったような声が響き、刃物が食い込んだのか、灰色神官から悲鳴が上がる。けれど、その声には何も答えず、ダームエルは静かに武器を構えた。そのまま躊躇いなく灰色神官の方を刺し、身食い兵の首元を引っつかんで馬車から投げ飛ばす。

「なっ!?」
「ダームエル!?」

 周辺の驚きの声が聞こえていないように、ダームエルは流れるような動きで馬車の中で武器が刺さって呻いていた灰色神官の武器を引き抜いて、その武器で止めを刺した。

「青色巫女時代からローゼマイン様の護衛騎士をしている私は孤児院にいる灰色神官の顔を全て覚えている。お前達は灰色神官ではない。本物の灰色神官達はどこだ?」

 ……わたしも見覚えがない顔だと思ったんだよね。

 身食い兵は灰色神官達から服を剥ぎ取って変装していたらしい。こちら側が灰色神官達の顔を全員分きっちりと覚えているとは予想していなかったのだろう。エックハルト兄様に押さえこまれている、たった一人だけ残った身食い兵は顔色を変えた。

「私を殺せば他の灰色神官の行方はわからなくなりますよ」

 自分の命を保証させようと交渉し始める身食い兵をレッサーバスの中から見ながら、わたしは軽く溜息を吐いた。

「わざわざ貴方に聞かなくてもわかります」
「え?」
「分岐点で左の道を行った荷馬車にね、少し違和感があったのです。収穫祭を終えた農民は冬の館にいます。大量に収穫した食料の加工、蝋燭作りと全員で冬を越すための準備をしなければなりません。大事な冬支度の時期に冬の館から離れた道を農民が荷馬車で走ることはよほどのことがない限りありません。そして、あの近くに空っぽになった農村はあるのですけれど、冬の館はないのです」

 貴族と契約し、貴族に生かされている身食いは農民の暮らしなど知らない。そして、なるべく人目につかないように、と人が集まる冬の館がある町を避けたせいで荷馬車を使う違和感が大きくなったのだ。

「灰色神官達を助けに行きましょう」
「待ってください、ローゼマイン様!」

 わたしがレッサーバスで駆け出すと、護衛騎士達が慌てた様子で追いかけて来る。

「私とエックハルトはこの者から話を聞き、ここの処理をする。ユストクス、行け! ローゼマインを野放しにするな」
「はっ!」

 後ろの方で神官長の声が聞こえた。野放しとはとても失敬な言い方である。



 分岐点まで戻ると荷馬車はすぐに発見できた。先程と変わらず、のんびりとした動きでゴトゴトと動いている。これが夏ならば、自分の家に戻っている農民の普通の光景だったと思う。御者も本当に普通の農民にしか見えない。

「ローゼマイン様、先程と同じように攻撃するのでよろしいですか?」

 コルネリウスの声にわたしはゆっくりと頷いた。

「先程の身食い兵は指輪をしていなかったでしょう? こちらに指輪があるかもしれません。門を通る時に指輪を使ったのは間違いないのです。証拠品を押さえたいですね」

 捕えてすぐに指輪のある手を切り落とそうとしたエックハルト兄様は、指輪が見当たらないことに困惑していた。ならば、こちらの荷馬車には指輪があるはずだ。

 わたしが手を振って合図すると、コルネリウス兄様が魔力攻撃を繰り出した。先程と同じように大きな爆発音と土埃が舞い上がり、馬がパニックを起こす。アンゲリカが飛び込んで行って、手綱と長柄を切るのも先程と同じだ。

「うわぁ! なんだ、なんだ!?」

 訓練された身食い兵とは思えないような情けない声がした。御者台に降り立ち、シュティンルークを構えるアンゲリカを見て、泡を吹きながら御者台に座る男が後ずさりする。

「聞いてねぇよ! なんだ、これ!? 俺はただこいつらを運ぶだけって頼まれただけだぞ。こんな危険な仕事だなんて、これっぽっちも……」

 身食い兵が演技をしているのか、本当にただの農民なのか、すぐには判別できない。

「誰に何を頼まれたのです?」

 アンゲリカがシュティンルークを突きつけ、警戒したまま尋ねる。切っ先を向けられた男はガクガクと震えながら「嫌だ、助けてくれ!」と叫んだ。

「誰に何を頼まれたのか、聞いているのです」
「俺が頼まれたのは……ぐぁっ!」

 何か言いかけた瞬間、男の体に光の茨のようなものが浮き出た。光の茨はギリギリと男の体に食い込んでいき、金色の炎へと姿を変えていく。同時に、男の胸元に紐で下げられていた指輪が光った。

「アンゲリカ!」

 爆発の兆しを感じてわたしが叫ぶと、アンゲリカは即座に守りの刺繍のあるマントをつかんで自分の身を庇いながらその場を飛び退く。

 胸元で爆発が起こり、男は叫び声の形に口を大きく開けた。

「うああぁぁっ!」

 その叫び声ごと金色の炎に包まれて消えていく。金色の炎が完全に消えてなくなった時、男の姿はもうどこにもなかった。

「今のは……?」
「ずいぶん強力な契約魔術に縛られていたようですね。依頼主や行先について喋ってはならないと契約を結んでいたのでしょう」

 ダームエルがそう言いながら、荷台に向かう。初めて見た契約魔術の違反者の末路にわたしが大きく目を見開いたが、他の皆は「なるほど」と納得しているだけで特に動揺を見せていない。

「あのようなことになるのですか?」
「私も初めて見ましたが、自滅した者について悩んでも仕方がありません。それよりも、灰色神官達がいるかどうかが重要です」

 ダームエルは武器を構えて警戒しながら荷台を覆う布を剥ぎ取った。

「……あ」

 しまった、と言いたげな表情でダームエルが布を被せ直す。その動きに皆が一斉に武器を構えた。一瞬で緊迫した雰囲気になった周囲を見たダームエルが、自分の武器を消して軽く手を振って困ったような笑みを浮かべた。

「大丈夫です。ここに乗せられているのは全員灰色神官だけで、四人とも揃っています。ただ、女性は近付かない方が良いです。その、服を剥ぎ取られているわけで、女性にお見せできる恰好ではありません」

 布を捲ると裸状態だったらしい。それは確かにまずい。この寒さでは風邪を引く。

「神官長、灰色神官達を救出しました。でも、服を剥ぎ取られているので、そちらの身食い兵が着ていた服は回収してください。例え血がついていてもわたくしがヴァッシェンで綺麗にしますから」

 オルドナンツを飛ばしてわたしは服を確保してくれるようにお願いする。多少切り裂かれている部分があったとしても、何もないよりはマシだろう。

 ユストクスは服の回収のために馬車の方へと向かい、コルネリウス兄様とダームエルが布に隠した状態で灰色神官達の縛めを切ったり、事情聴取をしたりしている。アンゲリカは周辺警戒をしていて、わたしとユーディットはレッサーバスで待機だ。

「ユーディットです。レオノーレ、無事に灰色神官達を救出しました」

 神殿に向けてユーディットにオルドナンツを飛ばしてもらった。これでフランから孤児院の皆にも灰色神官達の無事が伝わるだろう。

 ……契約魔術の違反みたいな怖いこともあったけど、とりあえず、灰色神官達が無事でよかった。

 わたしがホッと安堵の息を吐いていると、オルドナンツが飛んできた。

「レオノーレです。大変恐縮ですが、無事に救出できたのでしたら、なるべく早く戻って来てくださいませ。わたくしではハルトムートを止められません」

 ……え? ハルトムート!?
何とか灰色神官は救出しました。
久し振りにダームエルが大活躍です。

次は、証拠品です。
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