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本好きの下剋上 ~司書になるためには手段を選んでいられません~ 作者:香月 美夜

第四部 貴族院の自称図書委員

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引継ぎ

 わたしが泣き腫らした目を癒してもらい、神官長と工房から出る。神官長の部屋では皆が執務中で、ローデリヒがフィリーネやダームエルの様子を見ながら必死に計算をしていて、ハルトムートはユストクスと神官長の側仕え達と何やら話をしているのが見えた。
 そして、コルネリウス兄様とエックハルト兄様とアンゲリカとレオノーレがまとまって話をしていて、扉の前を守っているのがユーディットだ。

 ……アンゲリカが扉の前を譲るなんて何があったんだろう?

「おや、お話は終わりましたか?」

 一番にこちらに気付いたのはユストクスだ。神官長は「あぁ」と頷きながら、自分の執務机に向かう。

「皆、注目」

 神官長は軽く手を叩き、自分がエーレンフェストから去ること、代わりの神官長としてハルトムートが就任することを側仕え達に説明し始めた。

「ハルトムートは領主の命令により、文官業務と神官長を兼任することになる。側仕え達はそのつもりで引継ぎ業務を補佐するように」
「かしこまりました」

 側仕え達に動揺が少ないのは、すでにハルトムートが話をしていたからだろう。引継ぎしなければならない書類に優先順位をつけ始めていた。
 神官長の言葉が終わると、いつも通りの執務時間だ。アンゲリカとユーディットが護衛役を交代し、皆が黙々と仕事を始める。

「神官長、わたくしのお仕事も増やしていいですよ。ハルトムートの負担が大きすぎるでしょう?」
「いや、君の仕事をこれ以上増やす気はない」

 神官長は軽く首を振った。少しでも助けになろうと気合を入れたところで出鼻をくじかれる形になったわたしは唇を尖らせる。

「何故ですか?」
「君の任期も成人までだ。その後、アウブ・エーレンフェストはメルヒオールに神殿長の役職を任せるつもりらしい。神殿長の重要な仕事は魔力供給と青色神官や孤児院の監督とし、あまり書類仕事を増やさないようにしたいそうだ。むしろ、君とハルトムートには青色神官達への引継ぎを主な仕事にしたいと思っている」

 神官長が行っている業務は側仕え達が把握しているけれど、青色神官達に強制して仕事をさせるのは灰色神官達には難しい。そのため、割り振られた仕事を的確にこなしているか、問題はないか確認するのを主な仕事にするのだそうだ。

「もちろん、確認するためには全ての業務について知識がなければならぬ。忙しくはなるが、ローゼマインもメルヒオールに問題なく引き継げるように準備を始めなさい」
「かしこまりました」

 その後、神官長はハルトムートと神殿でどのように神官長業務をするつもりなのか、話し合いを始めた。神殿で寝泊まりするのか、貴族街の家から通いにするのか、新しい部屋が必要なのか、神官長の部屋をそのまま使うのか、などである。

「ここの家具をアーレンスバッハに運び込むことはできぬため、全て置いていくことになる。其方が嫌でなければそのまま使うと良い。書類などを運び出す手間も省けるだろう」
「恐れ入ります。では、ありがたくそのまま使わせていただきます。側仕えもそのまま使う形で問題ありませんか? 神官長の業務をよく知る者が一番安心ですから」
「あぁ、構わぬ。私の側仕えはほとんどの仕事をこなすことができる。灰色神官に任せられるかと仕事を取り上げようとする者は困るが、其方ならば特に問題ないだろう」

 ハルトムートは文官業務との兼任になるため、基本的にはこれまでと同じように貴族街からの通いになるらしい。神官長がいなくなったら、そのまま神官長の部屋を使い、奉納式の時期などは神殿に泊まり込むこともあり得るそうだ。

 細々とした話をしているうちに4の鐘が鳴った。鐘の音と共に皆が一斉に片付け始める。それに視線を巡らせながら、神官長がこの後の予定を告げた。

「では、午後から神殿長室でハルトムートの誓いの儀式を行う。準備を整えなさい」
「かしこまりました」



 部屋に戻ると、祭壇の準備がある程度整っていた。わたし達が神官長のところで執務をしている間に、ギルとフリッツとヴィルマが頑張ってくれたらしい。

「後は神具を運び込むだけです。こちらが儀式の準備で慌ただしくなるため、別室に昼食の準備を整えました」

 モニカがそう言って、普段は側近達が食事をしている部屋へ案内してくれた。食事は身分毎になるので、わたしと側近の中の上級貴族ハルトムート、コルネリウス兄様、レオノーレ、アンゲリカが先に食べて、中級と下級貴族であるユーディット、ローデリヒ、ダームエル、フィリーネは後で食べることになる。

「そういえば、神官長室でアンゲリカが扉から離れるのは珍しいですよね? ユーディットに扉を任せて一体何の話をしていたのですか?」

 昼食を摂りながら、わたしは神官長の工房から出た時の光景を思い出してアンゲリカへ視線を向けた。

「エックハルト様がフェルディナンド様と共にアーレンスバッハへ向かうので、それについてのお話です」

 神官長に名を捧げた二人はアーレンスバッハに同行するらしい。アウレーリアが連れてきた同行者を基準にしているらしい。上級貴族と領主候補生では立場が違うので、もう少し連れて行っても良いのかもしれないが、神官長が信用できる者が少ないのだと思う。

「ユストクス様は文官でしょう? 同行しても大丈夫なのですか?」
「優秀な文官は情報の流出を警戒して、同行を許可されることは少ないと伺っています」

 護衛任務に就いているユーディットや待機中のフィリーネがわたしの後ろで不安そうにそう言った。

「普段のユストクスは文官仕事しかしていないので忘れがちですけれど、ユストクスはれっきとした側仕えですよ。貴族院の公的な記録でも側仕えとして卒業しています。ユストクスにとって文官はただの趣味です」
「……趣味で二つのコースを取ったのですか?」
「わたくしも似たようなものです」

 司書になりたいから文官コースも同時に取る予定のわたしはユストクスや神官長のような先人がいることがとても心強いのだ。

「アンゲリカ、エックハルト兄様のお話はどうなったのですか?」
「婚約しているので結婚してついて行くのか、婚約解消をしてエーレンフェストに残るのか、選びなさいと言われました。わたくしの意見を尊重してくださるそうです」

 確かにアンゲリカとエックハルト兄様は婚約しているので、そういう話が出るのは自然だし、とても大事なことだ。けれど、全く婚約者らしい空気が漂っていなかったので、そのような会話があるのが何となく不思議な感じもする。

「それでアンゲリカの答えは決まったのですか?」
「婚約解消をしてエーレンフェストに残ります。わたくしはローゼマイン様の護衛騎士ですから」
「……でも、それではアンゲリカの経歴に傷がつくでしょう?」

 何ということはないという顔でアンゲリカはそう言っているけれど、婚約解消をして残れば、色々と噂になるし、次の縁談を探すのは非常に難しくなる。わたしがアンゲリカを心配していると、コルネリウス兄様が軽く肩を竦めた。

「アンゲリカの経歴に傷がつかないように、おじい様や母上が動くと思います。元々アンゲリカの婚約はおじい様が言い出したものですから」

 コルネリウス兄様がそう言うと、アンゲリカが悲しそうに目を伏せて、溜息を吐いた。

「わたくし、とても強くて訓練に付き合ってくださるエックハルト様をとてもお慕いしていましたから、今回の別れでとても……とても……」

 言葉が途切れ、恋を失った悲しげな様子が一転し、アンゲリカの視線が少し泳ぐ。そして、その手がするりと魔剣シュティンルークを撫でた。シュティンルークが神官長と同じ声を出す。

「傷心だ、主」
「そう、傷心なのです。ですから、次のお話などすぐには考えられません。できればそっとしておいてくださいませ……とエルヴィーラ様に言うつもりなのですが、どうでしょう?」

 アンゲリカが真剣な顔でそう言ってくるので、わたしも真剣に考える。

「そうですね。しばらくはエックハルト様をお慕いしていたいのです、と付け加えると、お母様は感激してそっとしておいてくださると思います。エックハルト兄様とアンゲリカの悲恋物語が本になるくらいまでは時間が稼げるでしょう」

 アンゲリカが間違えずに覚えることが大事ですけれど、と助言すると、アンゲリカはシュティンルークの魔石に触れながら、コクリと頷いた。

「頑張ります」



 そして、昼食を終えると、誓いの儀式である。わたしが神殿長になってから初めてである。間違えずに上手くできるだろうか。わたしは神官長がやってくるギリギリまでフランが書いてくれた誓いの流れや言葉を覚え直す。

 その間に、側仕え達によって神具が運び込まれてきた。あまり神具を間近で見ることがないせいだろう、側近達が興味深そうに見つめる。

「最上位にある黒いマントは夜空を意味する闇の神の象徴。金の冠は太陽を意味し、光の女神の象徴だというように、それぞれを知っていても実物をこうして見るのは初めてです」
「ローゼマイン様の盾が丸くなるのも理解できますね」
「ここにある神具全てをローゼマイン様はシュタープで変形させることができるのですか?」

 側近達の言葉にわたしは首を横に振った。

「呪文を知らなければ変形はさせられません。光の女神の冠にする方法がわからないのです」
「そうなのですか」

 神官長も食事を終えたのだろう。側仕え達を連れてやってきた。祭壇の準備が問題なく整っているのを確認し、わたしの隣に立って香炉の使い方を教えてくれる。
 教えられるままに鎖を握って香炉をゆっくりと振れば、儀式の度に焚かれるお香がゆっくりと部屋に広がっていく。

「では、誓いの言葉を」

 神官長に促され、わたしはカーペットの上に跪き、左の膝を立てる。そして、両手を胸の前で交差させて、首を垂れた。ハルトムートも神官長に促されて同じ体勢を取る。

「ハルトムートはローゼマインの言葉を復唱するように」
「はい」

 わたしはゆっくりと息を吸い込んだ。神様の存在を全く信じていなかった自分の誓いの儀式の時とは全然気持ちが違う。自分の変化に驚きながら、わたしは口を開いた。

「高く亭亭たる大空を司る、最高神は闇と光の夫婦神 広く浩浩たる大地を司る、五柱の大神は水の女神 フリュートレーネ、火の神 ライデンシャフト、風の女神 シュツェーリア、土の女神 ゲドゥルリーヒ、命の神 エーヴィリーベ」
「高く亭亭たる大空より広く浩浩たる大地にあまねく最高神の御力輝かせ 五柱の大神の御力を以て、広く浩浩たる大地に在る万物を生し給う その尊い神力の恩恵に報い奉らんことを」
「心を正し、心を整え、心を決し、幾代も限りなき正しき神であると崇め信じ 大自然の神々諸共に ただひたすら祈り、感謝し、奉納することを誓願いたします」

 誓いの言葉を終えると、神官長の側仕え達が静かに進み出て、ハルトムートに青の衣装を着せていく。成人しているハルトムートの帯は金色で、神官長と同じように回復薬などが下げられている革のベルトもつけられた。青の衣装を着ると一層朱色のようなハルトムートの髪が際立って見える。

「では、神に祈りを捧げましょう」

 わたしはそう言って、ハルトムートと一緒に神に祈りを捧げる。私と違って、ハルトムートは最初からきちんと祈りを捧げることができた。

「よろしい。以後、ハルトムートは神殿の中では青の衣をまとうように。フラン、ザーム。其方達は青色神官達に新しい神官長の就任式について触れを出すのを忘れぬように」
「かしこまりました」

 それから、神官長は神殿内での年間行事や神事の説明に移る。一番近い神事は春の成人式、それからすぐにある夏の洗礼式だ。

「この成人式や洗礼式には私が神官長として出るので、ハルトムートは青色神官の一人として同行するように。神官長の仕事がどのようなものか、よく見るためだ。そして、夏の成人式と秋の洗礼式ではハルトムートに神官長として仕事をしてもらう。その時は私が青色神官として、ハルトムートに神官長の務めがこなせるかを見るつもりだ」

 祈念式や収穫祭は側仕えを付けておけばヴィルフリートやシャルロッテにもこなせることなので問題はないだろう、と言った。大まかな神事に関する話が終わると、ハルトムートは嬉しそうに笑った。

「これで私も神事に参加し、ローゼマイン様にお伴することができますね。とても楽しみです」

 これまで礼拝室に入ることを拒否されていたハルトムートはうきうきしているようだけれど、大事なところを忘れていると思う。

「あの、ハルトムート。喜んでいるところ悪いのですけれど、祈念式や収穫祭ではハルトムートとわたくしが向かう先は別ですよ?」

 青色神官達が一斉に回るので、わたしとハルトムートの向かう先は別である。同じところに行っても仕方がない。わたしの指摘にハルトムートが軽く目を見張って固まった。

「何ということだ。それでは、ローゼマイン様の神事を拝見することができないではありませんか」

 ガクッと肩を落としてすっかりやる気をなくしたようなハルトムートの姿に、神官長が馬鹿馬鹿しい、と息を吐いて頭を振った。

「奉納式や洗礼式は一緒だ。そこまで嘆く必要があるか?」
「そうですね。儀式中のローゼマイン様の姿をこの目に焼き付けることができるので、それで良しとしましょう」

 引継ぎ業務の合間にギルド長やプランタン商会へ領主会議の結果報告のために呼び出しの手紙を出したり、青色神官だけではなく、孤児院にも就任の挨拶をしたいと言い出したハルトムートのためにヴィルマを呼び出して日程の調整をしたりしているうちに、就任式の日となった。

 就任式はわたしが神殿長に就任した時にも行った神殿内の内輪の式だ。礼拝室に青色神官とその側仕え、洗礼式が終わっている灰色神官や灰色巫女の全てが集められて行われるお披露目式である。

 進行役は神官長で、婚姻によりアーレンスバッハに向かうことになったと簡単に述べ、領主の指示により次の神官長が決まったことを述べる。

「新しい神官長は領主の意向により、青色神官ではなく上級貴族からハルトムートが選ばれた。実際に神官長が交代するのは、私が神殿を出る時だ。だが、一年ほど引継ぎ期間に神殿に出入りするため、お披露目を行う」

 神官長の言葉により、扉が開かれていく。わたしは神官長の目配せを受けて、「神に祈りを捧げ、皆で迎えましょう。神に祈りを!」と壇上で声をかけた。

「神に祈りを!」

 整然と並んでいる灰色神官や灰色巫女がざっと祈りを捧げる中、青色神官の衣装をまとったハルトムートがにこやかに入ってくる。そして、壇上に上がり、わたしの隣に並んだ。

「よくお集まりいただきました。水の女神 フリュートレーネの清らかなる流れに導かれし良き日に、アウブ・エーレンフェストより新しく神官長を任じられましたハルトムートです」

 ハルトムートがニコリと笑いながら、一列に並んでいる青色神官達を順番に見ていく。

「ローゼマイン様の側近である私の神官長の任期は、ローゼマイン様が神殿長を辞めるその日までです。それまでの短い期間に神官長の職務はもちろん、全ての神殿業務を青色神官に引き継ぎます。エーレンフェストの聖女であるローゼマイン様の手を煩わせる必要をなくすため、全ての神官及び巫女には全力で働いてもらい、ローゼマイン様のお役に立たない無駄は補佐する神官長としてどんどん削ぎ落とす所存です」

 とんでもない決意表明が来た。わたしは唖然としてしまったが、神官長は予想していたのか、全く動揺の欠片も見せずに「言葉を聞けばわかるように、新しい神官長は神殿長を最優先にする側近だ。神官長となる彼の言葉に従い、各自、全力で働くように」と追い打ちをかけている。わたしへの態度が良いとは言えなかった前神殿長派の青色神官達が真っ青になったのだけはよくわかった。

 ……わたしが言わせたわけじゃないんだよ!

 そう叫びたかったけれど、わたしの側近だとハルトムートが言った以上、言わせたようにしか見えないだろう。どうやってハルトムートの手綱を握って捌けば良いのかわからない。

「では、高く亭亭たる大空を司る、最高神 広く浩浩たる大地を司る、五柱の大神 水の女神 フリュートレーネ 火の神 ライデンシャフト 風の女神 シュツェーリア 土の女神 ゲドゥルリーヒ 命の神 エーヴィリーベに祈りと感謝を捧げましょう」

 ハルトムートは祈りと感謝で自分の言葉を締める。とんでもない神官長が誕生したことだけは嫌でもわかった。

 ちなみに、青色神官達を恐怖に突き落とす表明と似たような言葉をハルトムートは孤児院でのお披露目でも言った。「エーレンフェストの聖女であるローゼマイン様のために製紙業や印刷業に全力を尽くしましょう」と。
 こちらは当たり前の顔で受け入れられたようで、ハルトムートがとても満足した顔をしていた。



 そして、下町の商人達との話し合いの日になった。今日の話し合いは貴族区域の会議室で行われる。それと言うのも、神官長が同席するせいだ。
 ギルド長、フリーダ、側仕えのオトマール商会、ベンノ、マルクのプランタン商会、オットー、テオ、トゥーリのギルベルタ商会がやってきた。ルッツはライゼガングに行って、戻っていないのが残念だ。
 それぞれに長い挨拶を交わし、席に着く。そして、領主会議で決まったことを報告していく。

「グスタフ、領主会議で今年の取引は中央が8、クラッセンブルクが6、ダンケルフェルガーが6に決まりました。去年よりも商人の数は増えますから、大変でしょうけれどよろしくお願いしますね」
「ローゼマイン様の期待に応えられるように全力を尽くします」

 ギルド長が安堵したようにそっと息を吐いたのがわかった。自分達の要望通りの数に抑えられ、領主からの無茶ぶりがなかったことにホッとしているのだろう。

「領主会議ではオトマール商会から料理人が派遣されたことで大変助かりました。ありがとう、フリーダ」
「料理人達にとってもとても刺激のある環境だったようです。ローゼマイン様の料理人と新しいレシピを交換し、ずいぶんと腕を上げて戻ってまいりました。貴族の方々からレシピの購入に関する要望もあり、イタリアンレストランはとても活気づいています」

 フリーダがぜひイタリアンレストランにも足をお運びくださいませ、と微笑む。時間があれば、ちょっとした息抜きに神官長と一緒に食べに行くのもいいかもしれない。

 ギルベルタ商会からは夏のための髪飾りの納品があり、トゥーリが普段使いの髪飾りと儀式で使うような豪華な飾りの二つを見せてくれた。

「ローゼマイン様の髪飾りを作るのはトゥーリですが、他の職人もずいぶんと育っています」

 オットーによると、貴族向けの髪飾りを作れるようになった職人が数人はいるようだ。夏に商人たちがたくさん買い込んでいくため、今は平民向けも貴族向けも必死に作っている追い込み状態らしい。

「トゥーリの腕は王族からの依頼をこなせるほどですから、まだまだ他の職人は及びません」

 トゥーリが褒められて、わたしは嬉しくなりながら髪飾りを買い取った。そして、城に戻ったらまた衣装を誂えるために呼ぶことを告げる。

「プランタン商会は来年に向けての準備をお願いします。ベンノに任せておけば問題ないでしょうけれど」

 わたしがそう言うと、ベンノがフッと笑った。

「ローゼマイン様に任せておけば、来年の本の売り出しに関しては心配していません。期待に応えられるように準備しておきましょう」

 大量に準備するからしっかり売れよ、と言われているのがわかって、むしろ、こちらがプレッシャーを感じた。

 一通りの報告を終えると、神官長が「私からも報告がある」と口を開いた。商人達がピッと背筋を伸ばして神官長に注目する。

「領主の弟である私がアーレンスバッハに婿入りすることが決まった。今回の領主会議でアーレンスバッハは取引枠に入っていないが、それ以外の場面ではおそらくアーレンスバッハとの交流が増えることになる」

 その言葉だけでベンノの顔色が変わった。それを見て、神官長が少し唇の端を上げる。

「数年前にローゼマインを襲ったのはアーレンスバッハ系の貴族だった。それを念頭に置いて、商取引及び情報収集を行ってほしい」

神殿内の引継ぎが進みます。ハルトムート神官長は最初から暴走決定。
ローゼマインが手綱を握らなければならない状況です。
常に握られる側で、他人の手綱なんて握ったことがないのでどうしたらいいかわかりません。

次は、お話し合いの続きと回復薬です。
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